『夏休み』。
それは学生達にとって1年を通して一大イベントに匹敵する内容と言える。期間は大凡7月下旬後半から8月全てである事が多い。私立の場合や最終学年だと期間にズレがあるが日本では概ね8月は長期休暇と言うイメージがあった。
こと、IS学園も基本的に日本の学校と概ね同じ日程となっている。つまり7月下旬から8月いっぱいまで夏休みの夏季休暇である。
7月頭にあった期末試験を終えて一喜一憂、そして落第の末に退学が決まった者や赤点を取り夏休みは補習で埋まり悲嘆に暮れる者、様々な感情が織り混ざる中、7月下旬IS学園1学期最後の日を迎えた。
この日は終業式を終えて簡易的なホームルームを終えれば夏休みに突入する事になる。
「はいはい。夏休みを前に燥ぐ気持ちは分かるけど……ホームルームはちゃんとやるわよ。ホームルームが終われば後は祝日みたいなモノだから最後まで気を抜かない‼︎」
終業式を終えて各生徒は自分のクラスに戻り1学期最後のホームルーム中の時間帯だった。
——……夏休み期間中は『代表候補生夏季講習』と言う表向きの理由で夏休み中は『ストラトス・デザイア』に滞在する。こう言う時、代表候補生の肩書は使える。
4組にて簪はホームルームの担任教師の言葉を聞き流しながらそう妄想に耽る。夏休みとなれば帰省する生徒も多いが、実家以外の場所に長期滞在するのであればそれなりの理由が必要になる。
特に簪の場合は更識家と言う別の意味で面倒な理由があった。最もな理由は自身の姉の存在だ。生徒会長兼暗部当主兼ロシア代表と言う役満みたいな肩書。簪が家にいるのが嫌になる理由でもあるのだが……『ストラトス・デザイア』に通い更には神楽との交流、そして誘惑により最早、如何でも良くなって来たのだ。
——神楽も誘ったけれど『お誘いは嬉しいのですが四十院グループで下半期の経済戦略における会議に出席しなければなりませんので、申し訳ありませんが辞退します』……だった。
神楽は四十院家の令嬢。簪の様に家関係や家族関係でギクシャクしていない。四十院財閥ともなれば会議は1日では終わらないのだろう、その先は彼女のプライバシーに関わる。その為、夏休み期間中は1人で赴く事になった。
「7月の期末試験前にも言ったけど赤点取った人は夏休みに補習があるわ。個別に配布した案内用紙に良く目を通しておく事」
赤点を取ったであろう生徒からブーイング染みた声があがる。同時に他のクラス……と言うか1組辺りから似た様なブーイングの嵐が巻き起こっているのが聞こえて来た。1組の音響被害はもはや、当たり前になって来た為に4組の教師も逐一気にする事は無くなった。
「……そして9月1日。始業式を終えた後、IS学園1学年は2学期の間は『学年留学』と言う形で『五稜学院』へ留学する事になっている。諸々の説明は7月中に話たわよね。後は現地で聞くなり調べるなりしなさい」
そして2学期はIS学園1学年は丸ごと『五稜学院』と呼ばれる学院へ留学すると言う無茶苦茶な展開となっていた。
——……五稜……。まさかとは思うけれど……。
臨島学校で赴いた島の名前は『
「それじゃ、ホームルーム終了‼︎」
担任の号令によりIS学園はたった今、夏休みへと突入するのであった。
ホームルームを終えた後、生徒達は思い思いに夏休みの予定を話し合いながら教室を移動していく。帰省する為、荷物等を取りに寮へ行く者。国へ帰り近況報告する為にチケットの手配を進める者、帰省せずISの訓練に費やす者、赤点を取ってしまい補習する事になった者。
思いも思いの感情が渦巻く中、簪は教室を出て校舎を抜けて校門の方へと向かう。ストラトス・デザイアへ行く際には手荷物なんて殆ど必要が無いに等しい。
「暑い……」
7月後半ともなれば夏真っ盛り。蒼穹の空は雲が無い晴天。照り付ける夏の日差しも強い、気温も30度を優に越えている。
元々インドア派の簪にとってこの暑さはキツいが暑さに耐えながら校門へと歩いていく。校門を抜けてバスやタクシー降り場のスペースに1台のリムジンが停車しており、後部座席の扉が開かれた状態でスタンバイしていた。『ストラトス・デザイア』からの送迎のリムジンだ。既に見慣れた構図であり簪は流れる様にリムジンの中へと乗車して、扉を自分で閉めた。要件人間が乗車したのを確認された後に、リムジンは静かに走り出した。
「ごきげんよう。Ms.カンザシ・サラシキ」
「え、えぇ⁉︎」
後部座席には先客が居た。その人物を見て簪は思わず声が漏れて驚いた。向かいの座席に座っていたのは『ストラトス・デザイア』の代表であるリーリス・セレスティエリアその人であった。白衣に黒袴と言う和装のスタイルで長い茶髪を靡かせている。
簪でさえ、既に何回も『ストラトス・デザイア』に赴いているが実際に顔を見たのは電脳空間騒動の時とクラス代表対抗トーナメントの襲撃事件の2回だけだ。
「其処まで畏まらなくて構わないわ。車のガソリン代も最近、高いからね」
リーリス本人は気にするなと言う体で気さくに振るまっている。本人曰く、外回りの仕事を終えたが距離的に近かったので其の儘、拾いに来たそうである。一利用者からすれば送迎のバスに企業社長と同席する羽目になるなんて予想外にも程があっただろう。
「え、あ、は、はい……」
「それと、更についでに『例の件』について聞かせて貰おうかしら」
「え?」
——例の件……?
「そ。臨島学校の時、ユリエから書類資料を貰ったでしょう? アレの承認は私が直前本人と対面して行う決まりになっているのよ。仮にも人生の岐路を決める内容だからね。
もう1ヶ月くらい経っているから、可否について決まったかどうか聞きたくてね……まだ悩んでいるのならば此処で答えを出さなくて良いわ」
相席した理由は件の『人権放棄』に関する内容の対談も含まれていた様である。代表ともなれば多忙にもなる……時間は有効に使わなければならないのだろう。
——もう、答えは決まっている。
簪は自身の専用機の拡張領域から件の資料を量子変換で取り出し、本人を前にして宣言する。
「人権放棄、します」
ハッキリと告げた。その言葉を受けてリーリスは一拍置いてから口を開く。
「1から説明はしないけど、その意味、理解はしているわよね? 一度失われた人権は2度と返っては来ない。更識 簪と言う存在は死亡する」
「……」
冷徹な視線でリーリスは『最後の警告』を行う。
「死んだ人間は生き返る事は無い。貴方の場合は代表候補生と言う地位、家族と言う繋がりは完全に断ち切られる」
「……」
「その先にあるのは2度目の人生と言う名の……。その上で改めて聞くわ」
「こうかいしないわね?」