※この作品はR-18です。

ストラトス・デザイア   作:夢現図書館

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流れ落ちた星

 

 

「…………」

 

 エントランスとなるフロアは然程、変化は無かった。強いて言えばログインしている人数が以前よりも多いと言った所だ。簪はログインして直ぐに空間投影型のメニューの画面を眼前に開く、其処にはメールのマークに『!』と表示されていた。

 

——仮想コイン……1,000枚。

 

 メールの中身は障害に関してのお詫びの文章とアイテムのアイコンが添えられていた。読み終わると受け取ったと言う処理が実行されて、アカウントの仮想コインの数値が1,000に増えた。仮想コインは主にダンジョンフロアやシミュレーションで獲得出来る。簪にとっては初の獲得と言えた。

 

——……今日はどうしよう? シミュレーションの方を見てみようかな。何でもリニューアルしたって言うし……。

 

 前回は専用機が未完成だった為に挑戦は見送ったが、専用機が完成しそのデータも無事、反映されている。『エクストリーム・ストラトス』は『ストラトス・チャレンジ』にリニューアルされたと聞いた。内容はまだ分からないので一度は覗いてみるべきだろう。

 そうと決まれば早速、受付のある場所へと足を運んだ。

 

「……やっぱり何処も夏休みとかなのかな。物凄く混んでいる」

 

 『ストラトス・チャレンジ』や『仮想戦闘シミュレーション』の参加受付前は多数の女性達で賑わっていた。

 夏休み突入直後とだけあって普段の土日よりも遥かに混雑していた。既に長蛇の列となっており最後尾付近に展開されている空間投影ウィンドウには『只今の待ち時間、約3時間』とまで表示されていた。オーバーフローにも程ってものがあるだろう。

 

「…………」

 

 受付の上には現在の混雑具合の内容が表示されていた。

 射撃武装を用いて迫り来るエナミーを撃退する『射撃シミュレーション』。

 近接武装を用いての格闘戦である『近接シミュレーション』。

 機動力を持って指定したポイントを回る『機動シミュレーション』。

 射撃、近接、そして機動の総合力を問う『総合シミュレーション』の4種類であった。難易度別に分かれており、EASY、NORMAL、HARDと言った基本的な難易度に加えて

 

 NIGHTMARE、FEAR、DISASTERと言う物騒過ぎる名称が並んでいる。最後に至ってはもはや悪意しか感じられない。一体、どんなシミュレーション光景が広がっているのだろうか?

 

「…………」

 

 そして、『ストラトス・チャレンジ』の方の受付は相変わらず閑古鳥が鳴いて居そうな程、空いている。受付担当の人も暇そうな顔で頬杖を突いていた。

 

「ん〜? 『ストラトス・チャレンジ』の受付は此処で合っているっスよ〜? 挑戦するっスか〜?」

 

 受付の人物は気怠げな態度(受付としてはぞんざいな態度だ)で、受付前に来た簪に声を掛けた。仮想現実空間であるにも関わらずエグい付き方の隈があり寝不足であると思われる。

 

「ヒナタさんはリニューアルしたって言ったは良いんすけどね〜。独りで挑戦はオススメしないっスよ〜」

 

「そ、そんなに……?」

 

「最低でも3人のマルチ挑戦じゃねぇと、話にならないっス。そんな訳で、万年閑古鳥って奴っス。丁度、其処で姉妹で参加して1分持たずにボコボコにされたおチビ方が居るんで声を掛けたらどうっスか〜?」

 

「え?」

 

 受付の人が示した先には休憩スペースがあり、其処には2人の少女がソファに座ってなんやかんや話しているのが聞こえた。

 

「うぅ〜……一向に突破出来ないわ……‼︎」

 

「流石に私達だけじゃ無理だよ〜」

 

 姉妹なのか2人とも良く似た顔立ちだ。橙色の髪と藍色の髪の少女達。身長は簪よりも僅かに低く中学生低学年程度か小学生かと思われる。髪型も同じサイドテールだが左右対称になっている。

 そして服装はお揃いでロンググローブとハイレグスーツ姿であった。

 

——何処かで見た事あるような……?

 

 その姿に簪は既視感を覚える。何処かで見た事あるかの様な2人組……何処でだっただろうか?

 

「うー……あ……お姉ちゃん」

 

「何? オニール……あ」

 

 その時、2人の少女の内、橙色の髪の少女が此方に視線を向けていた。釣られて藍色の少女も此方に気付いた。

 

「どうやらご指名みたいっスよ〜?」

 

 どうやら、そうらしい。そして、2人の顔を見て確信が持てた。そう、彼女達は……。

 

「……こうして顔を見るのは初めまして、だね。カナダ代表候補生のコメット姉妹」

 

「元(・)よ。日本代表候補生の更識 簪さん。此処ではその名前は伏せた方が良かったわよね……」

 

 コメット姉妹。弱冠10歳で代表候補生になった異例の双子の姉妹。2人で1つのISを駆ると言う掟破りのIS操縦者……だった。

 

 

 休憩スペースの一角。サイバー空間に相応しい蒼と黒の配色の丸テーブルを挟んで姉妹と簪は相対する形で座る。

 

「まさか此処で日本の代表候補生に会うなんてね……」

 

「ちょっと吃驚……」

 

 橙色の髪の少女が妹のオニール・コメット。藍色の髪の少女が姉のファニール・コメット。

 2人は簪の事を知っていたし簪もまた2人のこ事は知っていた。

 

「……さっき、元って言っていたけど?」

 

「ああ……それね。…………」

 

 ファニールは言い淀む。話して大丈夫なのかと思う所があるのだろう。オニールも口を閉じている。

 

「大丈夫、誰にも言うつもりは無い。……言える相手も居なくなる」

 

——代表候補生の地位も無くなる。だから言う相手は居ない。

 

「それは……人権破棄の意味?」

 

 簪の返答にファニールは確信染みた言葉を投げ掛ける。

 

「……知っているの?」

 

「ええ、知っているわ。私達は人権破棄して既に死んだ事になっている。だから元代表候補生」

 

「うん……色々、あったんだ……」

 

 オニールの顔色も宜しく無い。その理由は決して前向きな内容とは言えないのかも知れない。

 

「……話したくないなら聞かないよ」

 

 誰だって言いたくない内容はある。

 

「いえ、愚痴らせて頂戴。和奏って言う人も『嫌なら捨ててしまえ』って言っていたし……悪いけど付き合ってくれない?」

 

 だが、吐き出してしまえば気が楽になる事もある。ファニールは溜め込むよりも吐いて捨てる事を選択した。

 

 

 

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