「それもそうね。えーと『ドロシーって名乗ってる』、ドロシーさん。貴方が選んでくれない?」
どれに挑戦するか選択権を投げられた。どれを選ぶべきか……。
——オニールが言うには、どれを選んでも大して差は無いとの事。じゃあ……。
「呑星にしよう」
簪が直感で選んだのは呑星であった。
「……呑星っスね。初心者がいきなり挑戦する内容にしてはハード過ぎやしないっスかね?」
「え……? そ、そうなの?」
受付担当の少女は半ば呆れた様子で簪の選択をそう評した。これは詳細を知らないからこそ発生する光景でもある。
「ま、ゲーマーってのはいきなり最高難易度に挑むのが常識って奴っスからねぇ」
が、受付担当の少女は1人で勝手に納得して話を進める。
「取り敢えず、オニールさんとファニールさん、でドロシーさんの3人編成での挑戦っスね?」
「はい」
「一応、『ストラトス・チャレンジ』のルールの説明を聞くっスか?」
初挑戦の為に仕様やルールの説明は聞いておいた方が良いだろう。話を聞かずに飛び込んでボコボコにされると言うのは誰もが通る通過儀礼と言うモノだ。そして『話を聞け』と言われるまでがセットでもある。
「あ、はい。お願い、します……」
「了解っス。まず、『ストラトス・チャレンジ』はダメージコンテスト形式の戦闘シミュレーションっス。対象エナミーにどれだけダメージを与えられるかを競う内容っス。与えたダメージ総量がスコアとなり、一定基準のラインに達したかどうかで挑戦報酬が決まるっス。
勿論、実戦形式なので対象エナミーも猛攻体勢っスので、舐めて掛かると瞬殺もあり得るっスよ?」
仮想空間なので搭乗する機体は専用機を所有している者はその専用機を反映。持っていない者は打鉄やラファール+追加武装の設定を反映させて挑戦となる。
「シールドエネルギーが全損した者はその時点でリタイア。チームメンバー全員がリタイアした時点で挑戦終了となるっス。基本で共通の仕様はこのぐらいっスね」
「……挑戦内容によってまた別のルールがあるって事?」
「お、良い所を突いて来るっスね〜。そうっス。『実戦』を想定、或いは『解釈』が加わっている為に個別に『戦闘環境』と言う条件が発生するっス。因みにその内容は毎回ランダムになっているんス」
「戦闘環境……?」
ISでの試合や模擬戦ではアリーナで行われるのが一般的。基本的にバリアシールドで覆われた安定した環境で戦闘が発生している。それ以外ならば非常事態による戦闘だろう。
「私達の時は濃霧が発生したり、落雷が降り注いだりして来たもん‼︎」
「酷い時は『狂暴化』だとか言って、擦り傷でシールドエネルギーが全損したんだから……‼︎」
オニールとファニールはウンザリ気味に仕様の1例を挙げた。如何やら一筋縄では行かないらしい。
「誰だって
あ、因みにこの仕様の導入を決定したのはリーリスさんっス。そのお陰でタダでさえ高い難易度がインフレしたっスね〜。まぁ、その分報酬も上乗せされたんスけど」
——つまり毎回、安定しないと言う事かな。同じパターンは通じないと言う事……。
「そんで、挑戦開始時に内容は確定するんで事前に把握……と言う事は出来ないっス。何が来ても対応出来る対応力も同時に問われるんス」
「ゲームにしては本気だと思う……」
「そう思うっスよね? それが
「うん、後は実際にやってみる……」
「それじゃあ、好スコア目指して頑張って下さいっス。説明している間にシステムの構築完了、彼方のゲートを潜ればステージに入場出来るっス」
受付担当の少女は説明すると同時にシミュレーションシステムの構築を同時に完了させていた。レーキュもそうだったが並列思考が得意な者達が多いのかも知れない。
受付近くの入場ゲートが開かれた。其処はダンジョンフロアのゲートと同じくその先には星空を思わせる風景が広がっている。
「オニール、ドロシーさん。準備は良い?」
「うん、お姉ちゃん」
「私も大丈夫……」
特に準備する事は無い。既に専用機のデータは反映済み。特に不具合が無ければ問題なく機能する筈だ。
「それじゃあ、行ってらっしゃいっス〜」
その言葉を背に簪達は入場ゲートの中へと飛び込んで行った。
『ユーザーデータ確認中。暫くお待ち下さい』
『戦闘シミュレーション、ストラトス・チャレンジへようこそ。ユーザーデータの同期準備中です。もう暫くお待ち下さい』
視界が真っ暗な中、脳内に人工音声が響き渡る。ダンジョンフロアと同じくロード中の様である。暫く待っていると視界が真っ白になり世界が徐々に全く違う光景へと塗り潰された。
「此処は……?」
辺り一面、見渡す限り薄紫色の空間が広がっている……。空中なのか、眼下にもマーブル状に蠢く海みたいなモノが広がっている。
——幻想的で綺麗……。そして、既に専用機が展開されている。
入場した時点でISは既に完全展開された状態を維持している。感触や得物の持つ手の感触も完全に再現されている。これなら現実と遜色ない動きが出来るだろう。
——気兼ねなくやれそう……。
自分の周囲には半透明の壁や天井で包囲されている。システム準備中や同期準備中の為にその間は移動は制限されているのだ。
「へー、それがドロシーさんの専用機なんだ……」
「えへへ、頑張ろう」
後ろから声が聞こえる。ハイパーセンサーでは無く直に振り向いて見れば、其処にはラファール・リヴァイヴを纏ったファニールとオニールの2人が浮遊していた。
「専用機じゃない?と思ったでしょ。私達は元代表候補生で使っていた専用機のIS籍はカナダ籍よ」
誰もが専用機を欲しがるが、その実、例え代表候補生や国家代表、企業代表やテストパイロットと雖もその本人の所有物では無く国家や企業が保有するISコアを搭載した専用にチェーンされた機体が貸与されているに過ぎない。
状況に応じて使用権が移動する事もあるし代表候補生ならば資格が喪われれば専用機も同時に剥奪される。
本当の意味でその本人が唯一所有と言えるのはごく一部で、簪がその1人と言える。
「だから私達は量産型で比較的扱いやすいラファールで挑戦しているんだよ」
「……成程」
『現在、戦闘シミュレーションシステム準備中』
その時、再び人工音声が響き渡り3人の前に小型の空間投影のウィンドウが表示される。
『
【呑星】は召喚されたエナミーの数に応じて攻撃、防御の比率が変化する。
召喚されたエナミーが一定数以上の時、バリアを展開。バリアは召喚されたエナミーが全滅すると解除される。
【呑星】の移動速度20%増加。
空間投影ウィンドウには今回の戦闘シミュレーションのルールや攻略のヒントが表示されていた。一応、ある程度の事前説明はしてくれるようである。
「つまり、【呑星】は敵を召喚する……。数が増え過ぎると一掃しない限り攻撃が通らないって事かな?」
軍団戦。大半のIS操縦者は楽勝だと宣うかも知れない。何故なら世界最強の兵器であるISなのだから、と。
『まもなく戦闘シミュレーションが開始されます……』
人工音声のアナウンスと共にカウントが始まった……。