『ユーザーデータ確認中。暫くお待ちください』
『ダンジョンフロアへようこそ。当ダンジョンは個別ダンジョンとなっています』
門に飛び込んだ後、頭の中にその様な人工音声が飛び込んで来る。β版の時と同じ様な人工音声だった。
——ワイヤーフレームの様な空間に落ちて行く感覚は変わらないみたい……。
『ロード中。暫くお待ちください。
当ダンジョンは『ラースキャッスル』となっています』
——キャッスル……つまり、城のロケーションなのかな?
城と言っても和風か洋風かで雰囲気がガラリと変わるし、構造も大きく異なるだろう。
——お城と言えば……やっぱり地下牢とか、かな。宿泊施設も監獄だけど、やっぱり雰囲気は違うと思うしね……。
ダンジョンと言う事でエナミーも登場する。それらはプログラムされた行動を取る。ロケーションも変われば種類も変わって来るだろう。
以前の共用β版の時は工場と言う事で機械やロボットと言った種類だった。
『当ダンジョンのクリア目標はゴール地点へと到達する事です』
——そう言えば個別ダンジョンだとクリア目標が設定されるんだった。
つまり、『ラースキャッスル』の内部を探索してゴールに到達する事がクリア条件の様だ。単純かつ分かりやすいルールと言える。
『また、現在。イベント期間中ですのでダンジョン内に『イベントコイン』が生成される可能性があります』
——それは初耳……収集系のイベントなのかな?
更に追加で仮想空間内ではイベント期間中らしい。その話は全く聞いていないので初耳であった。
ルールは理解した所でロードが完了したのか、視界が真っ白になった。
「……ん」
視界が広がった時、見えたのは巨大な西洋風の城塞が眼前に聳え立っていた。スタート地点は如何やら城門前の広場の様だ。吊り橋は下げられておりその奥に巨大な城門、その奥に城の入り口である大扉が見えた。
「……如何やら西洋風のお城の構造みたい」
周囲を見渡し、背後を振り向いた時、白い光が2つ収束し弾けた瞬間に、オニールとファニールの2人がその場に現れた。如何やら別の人間から見れば、その様な形でダイブしてくる様に見えるらしい。
「わぁ〜。あんな大きなお城初めて見たよ」
「……仮想現実でリアリティに凝ったって言うけど、あんな大きさのお城は私も初めて見たわ」
オニールとファニールも眼前に聳え立っている巨大な西洋風の城塞を見て、驚いている。現実で城塞を見る機会は早々無いだろう。
「2人とも、眺めるのは良いけど……もう、始まっている」
「え、そ、そうだったわ……。えーと、ゴール地点に到達すればクリア……だったわね」
声を掛けられたファニールが我に返って簪の方へと向き直る。
「うん。このダンジョンを見た感じあの城の何処かにあると思う……。時間制限とかは無いみたい」
「じゃあ、ゆっくり探索しながらゴールを探せば良い訳ね。逆に先に見つけても、堪能してから改めてゴール地点に到達するのもアリって事よね?」
「うん……。先に把握するのもアリだと思う」
「よーし、何が待っているのか本当に楽しみね。さ、行くわよ‼︎ オニール‼︎」
「あ、お姉ちゃん待ってよ〜‼︎」
子供だからか、2人は張り切って吊り橋を渡って城塞の大扉の方へと向かって走って行ってしまった。
「…………」
——お預けされていた反動、かも。
「……やっぱり広い」
「人の気配が無いと何か不気味な感じね……」
「お、お姉ちゃん怖い事言わないでよ〜」
城塞の大扉を潜り抜けた先はこの城のエントランスホールが広がっていた。床は磨かれた大理石で敷き詰められその上に赤い絨毯が敷かれて目の前には2階へ通じる階段があり、左右には両開きの扉があり階段の脇にも通路が見えると言う構造。つまり、進路方向は5箇所に分かれている様だ。
「…………」
天井にはシャンデリアが吊るされている。のだが、輪郭を帯びた鉄格子の様な構造であり燭台も檻に囲われていると言う形状をしている。
——当然、ただのお城と言う訳じゃ無さそう。期待が膨らむなぁ。
「何処から探索する? 戦闘シミュレーションの時は私が選んだから、次は貴方達の方針で進もう」
「え? 良いの? じゃあ、先ずは真っ直ぐ階段の方で2階に行ってみましょう‼︎」
「うん。お城だからアニメとかで見た大きな椅子の……玉座って言う部屋もあるかも‼︎」
「もしかしたら、其処がゴール地点かも知れないし。先に見つけておいて損は無いわ‼︎」
「その前にやる事がある……」
「「え?」」
此処は個別とは言えダンジョンフロア。当然、エナミーも存在している。簪は慣れた手付きで専用機の武装である薙刀を展開する。
「ユーザーデータに登録されたISに搭載された武装の部分展開だけ、出来る」
「あ、うっかり忘れて居たわ……」
「お城が見えたから興奮しちゃった」
ファニールは細い刀身のレイピア。オニールはハンドガンを2丁を其々、部分展開した。流石は元代表候補生、理解が早い。
「ダンジョンフロア内では私達を捕まえる為のエナミーが出現する……。種類によって捕まった時の内容は変わるからお目当て以外は倒した方が良い」
「捕まったら、何処かに監禁されて調教されるんだよね?」
「お城だから、地下牢に入れられるんじゃない? ふふん、オニールが捕まったら牢屋の外から眺めたいわね」
その後の流れは知っている様だ。そして、要らぬ妄想もしている。おませな年頃なのだろう。
「うん、そう。安全の為に時間経過で自動的にダンジョンフロアからログアウトされる仕様になっている……」
「へぇ、そうなの。まぁ其処はしょうがないわね。補足説明ありがと。じゃあ、此処で話して居てもしょうがないから早速、行きましょう‼︎」
気を取り直して階段を登り、2階へと足を踏み入れる。階段を登った先は広めの廊下があり奥にまた別の両開きの扉が見えた。取り敢えず、直進して扉に近付きドアノブに手を掛ける。
「開かないわ……鍵が掛かっているみたい」
「……鍵を見つけないとダメかも知れない」
破壊する。と言う手があるが、ダンジョンフロア内にある壁や天井、床は基本的にユーザーからは破壊不可能になっている。地形を破壊しまくられてはゲームにならないと言う理由がある。逆に破壊可能なオブジェクトも存在するが、殆どの場合扉は破壊不可能となっている。
「あ、お姉ちゃん。扉の近くに何か貼ってあるよ?」
「え?本当?」
オニールの指差した先、両扉の隣の壁に1枚の張り紙が貼られていた。
『この先、侍女のみ通過可能』
短く、簡潔にそんな文言が書かれていた。如何やらこのダンジョンには謎解き要素も含まれている様だ(流石に今回は小学生もいる為、其処まで複雑なモノは無いだろう)。
「侍女って何?」
「メイドって意味。……つまり、私達がメイド服に着替えれば通してくれるかも知れない」
「じゃあ先ずはそのメイド服を探さなきゃね。何処にあるのかしら?」
簪もオニール、ファニール共に、簡易スーツ姿であり仮想現実内では他にコスチュームは所持して居ない。ならばこのダンジョン内でメイド服を見つける必要がある。
「多分、そのメイド服は其の儘、取得物として貰えると思う……」
「やったぁ、じゃあ早く見つけに行こう。お姉ちゃん‼︎」
「取り敢えず、此処から2階の他の場所には行けそうに無いから一旦、1階へ降りましょ。順番に回って行けばクローゼットなり見つかると思うわ」
簪一行は一旦、1階へ降りて2階の扉を通過する為にメイド服を探す事にした。