ダンジョンフロアからログアウトしエントランスフロアへと戻って来た。
「おかえり。ギリギリまで気付かないかと思っていた」
受付ではヒナタの代わりにレイカが座っている。今は離席中らしい。
「問題なく機能しているみたい。……セーブポイント」
「あれ? それだと以前には無かったみたいな言い方じゃない」
ファニールがレイカの反応を見てその疑問をぶつける。
「……うん。今迄のダンジョンフロアには一時中断機能が無い上に挑戦時間も長い。平日とか利用時間が限られる利用者から中断機能の実装の要望が多かった。以前から……」
確かに長時間利用する事が予想される為に、セーブ機能は欲しい所だろう。その為、土日や長期休暇期間中に集中し易い。そうなれば負担も大きくなる。
「……普通のゲームソフトとは違って仮想現実かつ容量の膨大。更には装備している内容によって変動するプログラム……でも、まだ完全とは言い難い」
——ああ、成程。
「デバック要員として、私達にやらせた……と言う事?」
「……そう。貴方達、人権放棄した、だから……丁度良く、メンテナンスやデバック作業の時短に繋がる」
「で……そのメンテナンスってどれくらい掛かるの?」
「明日には終わっているから安心して。後、セーブ機能で保存可能なデータはユーザー1人につき1つまで。じゃないとサーバーの負担が大きくてクラッシュしかねないから……」
世知辛い事情も重なっているらしい。コレばかりはしょうがない。
「それに……。現実だともう午後8時前、だから」
仮想現実空間の営業は午後8時までとなっている。営業終了前には全員、ログアウトする事になっているからだ。そう言う意味もあった様だ。
「え? そうなの……仮想現実空間に居ると時間が経つの早いわね」
「あっという間に過ぎちゃった」
「……うん。そう言う訳だから、早めにログアウトして欲しい」
その為、簪達は仮想現実空間からログアウトした。その後は隔離フロア(簪とファニール達は別々の宿泊施設だった為、途中で別れた)へチェックインする為に向かうのだった。
「来たわね。ドロシー」
『隔離フロア』にある宿泊施設受付ではユリエが簪の顔を見るなりそう出迎えた。
「……ユリエ、さんが担当?」
「偶々、担当日だっただけよ」
相変わらずのラバー製のメイド服姿であったのだが、デザインが変わっている。何と言うかフリルが増えて居たり、全体的に布面積が増えて重装化している気がした。
「ドロシー。さてと、内容の確認をさせて貰うわ。今日から夏休み期間中8月丸々、利用……それで宿泊部屋は独房区画、と。此処までで間違いは無いわよね?」
「はい。囚人服は白と黒の囚人カラーのボディスーツ」
IS学園の懲罰房で使っている囚人服は元々、此方で使われているモノであった。神楽はそれを持ち出して簪に着せていた。
「……本人確認良し。体調とか問題は? 身体的怪我の有無は?」
「ありません」
「体調及び身体も不調無し、と。分かっていると思うけど、健康上と安全性の為に危険と判断された場合、普通の宿泊施設。場合によっては医療フロアに移送する規則になっているわ」
定型的な説明も同時に済ませる。安全性の為に此処は何回でも説明される。
「はい」
「……本来ならば以上、と言いたいのだけど……ご主人様から聞いているわ。人権放棄を決断したのね」
元を正せばユリエからその資料を受け取った。それ故に当然、その結果も彼女ら聞いていた。
「はい……」
「此処じゃ話せないから、場所を移させて貰うわ。ついて来てちょうだい」
ユリエに案内されて受付近くの小さい部屋に連れ込まれた。小さい机と椅子が2脚ある、面談室の様な部屋だ。
「さて……単刀直入に説明するわ。貴方は人権放棄をした。ご主人様から説明を受けたと思うけど、その大半は嘘の内容で五稜監獄学院への編入……と説明された」
「はい。間違いありません」
「……差し当たって人権放棄者には身体に刻印を刻む事になっているのよ。これは大半の嘘の範疇じゃない内容なのよ」
その言葉に思わず息を呑んだ。
確かに大半は嘘の内容……しかし、全部では無く大半だと説明された。つまり、大半の範疇から炙れた内容は本物の内容だと言う事。
「外見上から普段は視認出来ず専用の溶液を浴びないと分からないし、場所も子宮の位置付近だし、極力痛くない様に努めているからその点は安心してちょうだい。
仮にも状況的に『学年留学』が噛んでいるのだから、変な疑いを持たれるのも不都合でしょ?」
「う、うん……」
「さて、分かっていると思うけれど……拒否権は無いわ。良いわね?」
「…………はい」
簪にはもう人権は無い。自らの意志で放棄した。仮にそれが嘘だとしても被虐者として断る理由にはならない。
——身体に奴隷の証を刻む……。もう、私は逃げられない……うん、退路を塞がれなすがまま……こう言うのを望んでいた。
刻印を刻むと言う事は所有物にされると言う事。ヒトでは無くなる事を意味している。その内容に簪は胸の高鳴りを覚えた。
「……質問する必要は無かったわね。それじゃ早速、処置を施す為の場所へと向かうわよ」