扉の左右に置かれた磔刑台。
其処に架けられる事になったのはファニールだった。別に押し付けあった訳では無く、ファニールが自ら進み出たのだ。
「やっとだよ⁉︎ やっと、夢にまで来た機会なんだよ⁉︎」
そうだった。
ファニールとオニールはまだ小学生レベルの年齢。運営側であるヒナタやユリエも流石にどうかと言う思いがあり、彼女達には控えめにされていた。
今回のダンジョンの件も半ば押し通って来た様なモノだ。そりゃ、やっと?認められたのだから張り切る事だろう。
オニールも双子の妹に先を譲る事にした。後でも罠は控えている。焦る必要は無い、と。
そう言う訳で簪とオニールはファニールを目の前に聳える十字架に架けた。両腕と両足を添える部分に枷がある構造だ。首の付近は絞まる為か、撤廃されている。
届かない時は近くにある椅子を持って来て高さを上げて行った。
数分後には磔に処されたメイドさんが出来上がった。
「ファニール、どう?」
「うん。本当に動けない……。捕まって晒されているみたい……」
双子の姉と簪の手で磔にされたファニールは腕や脚を動かすも小学生程度の体格であるファニールの力では枷はビクともしない。その無力感に少し興奮している様である。
相方の十字架が本来の機能を再開したのを確認したのか、十字架に挟まれていた扉は自動で開かれた。
「ドロシーさん、私。ずっと、このまま?」
「いや、エナミーは罠に掛かったプレイヤーを捕獲する。多分、さっきの浮遊するメイド服に見つかったら、捕まって監禁部屋とかに連れて行かれて其処で本格的に調教されると、思う」
或いは時間経過で自動的にログアウトで解放される仕様になっている。動きが無いなら仕切り直すのが妥当な判断と言える。
「じゃあ、此の儘待っていれば良いんだね?」
「本人が良ければ、それで良いけど……」
いずれにせよ、誰かが身代わりにならなければこの先には進めない。簪とオニールはファニールをこの部屋に残して扉の先に進む。
「……パーティで挑戦中の時、誰かが捕まると他のメンバーに通知が入る仕様になってる」
「へぇ……つまり、今の場合。ファニールが捕まったら私達に通知のメッセージが届くって事?」
「そう言う事……」
廊下の更に先へと進んで行く。突き当たりに扉があった。その扉を開いて奥の部屋に入る。
「まーた、分かれ道って奴ね」
また別の大広間に出た。天井からシャンデリアが吊るされており、上階へと続く階段が見える吹き抜けの大広間。広間の中央には円形の模様があった。此処から更に別の部屋へと通じている様である。
「……此処まで探索して居たらそりゃ遭遇するよね」
そして、この大広間には複数体のメイド服が滞在していた。もう、思いっきり目の前にいる。
「やるしか無い訳ね‼︎」
オニールは細剣を量子展開して構える。メイド服が浮遊していると言う事から、服を切り裂けば倒した事になるのかは分からないが、試せるだけ試してみようと考えた。
「「「…………」」」
勇むオニールだったが、メイド服達は全く反応しなかった。目の前で武装を展開していると言うのに、まるで気にする素振りすら見せなかった。予想外の光景にオニールは肩透かしを食らった気分になった。
「あ、あれ……?」
「……私達がメイド服を着ているから、敵だと思われて居ないんじゃ……?」
確かに張り紙の指示に従いメイド服を見つけて着替えた。あのメイド服達は自分達を同類だと認識する様にプログラムされているのかも知れない。
「そ、そうなの……?」
「多分」
逆に何らかの形でメイド服だと認識されなくなった時は襲ってくる可能性があると言う事だ。
目の前を横切ったメイド服。襲ってくる様子は見られず、其の儘通り過ぎて行ってしまった。
「肩透かしも良い所ね……」
オニールは小細工染みたつまらない展開にやや呆れながら一歩を踏み出す。その足は大広間の中央、円形の模様に足を付けた瞬間。
がこん、と言う音が鳴った。
「え……⁉︎」
オニールが足を付けた場所が下方向に開いた。オニールの目には下は光の届かない暗黒が広がって見えた。
落とし穴であった。
メイド服は浮遊している為に地に足を付ける必要は無い。だから、関係は無かったが自分達は足を地に付けている。
重力に従ってその体が落とし穴の中へと吸い込まれる様に落ちて行った。娘1人分、飲み込んだ落とし穴は静かに閉じて何食わぬ模様へと戻って行った。
——あっという間に2人が一時離脱してしまった。
下階がどうなっているのかは分からないが落とし穴だと言うのだ、予想では地下牢のある区域に落とされたのだろう。
現実ならば地面に叩き付けられた衝撃で死ぬが、仮想現実空間なのでその心配はほぼ無いだろう。
「…………」
簪は徐にメニューのウィンドウを開いてメッセージの内容を確認した。この時既にファニールは連行された様である。恐らく監禁部屋に連れて行かれ責苦を受けていると思われる。
——3人中2人が捕まったら、後の1人は助けない限り時間が来るまで解放されない。
コレで自分が捕まれば時間になるまで監禁生活だ。かと言って、早々に助けてしまうのもまた味気ない。ならば……。
——だったら、私も自ら捕まった方が良い。その方が早く楽しめる。城の中を歩き回るだけじゃつまらないし。
丁度、目の前にメイド服が忙しないかどうかは判断が分かれるしその辺の設定はどうでも良い。往来しているのだ、今から別の罠を探して回るよりも手っ取り早い。
メイド服はメイドの格好をしていると敵対しない……なら、話は簡単だ。簪は何の躊躇いもなく、自ら纏っていたメイド服を脱ぎ捨てる。生まれた姿のままをメイド服達に晒した。
「「「…………」」」
先程まで往来していたメイド服達の様子が一変した。予想通り、雰囲気が変わったのだ。
周囲に居るメイド服は6体、いや、上階にも見えた事から更に増えて行く事だろう。
無論、簪がした事は武装を展開する事では無く……両手をあげて抵抗しないと言う意思を見せた。
「……ッ‼︎」
その時、簪の背後から迫って来たメイド服の一体が袖で簪の手首を掴む。布の衣擦れの様な感触、普通ならば振り解くのは簡単な筈だが、布越しの人間に掴まれた様な感触と強い力で引っ張られ後ろ後手に留められたかと思うと縄の感触が肌に伝わった。後手で縄で縛られている。
「……あむッ⁉︎」
流れる様な動作で何処から取り出したか分からないがリングギャグを口に嵌められ栓をされた。口と腕を封じられた次に首に黒い首輪を嵌められる。
「ん、んむぅ……」
簡易的な拘束ではあるが、簪の自由を奪う点においては充分だった。其の儘、鎖を引かれて歩かされ何処かへと連行されるのだった。