「と言う訳で、夏休みの期間中。貴方のコーチをする事になったわ、宜しくね?」
「はぁ……」
夏休みのある日。織斑 一夏はIS学園の生徒会室、正確には生徒会長である楯無に呼び出されてそう言われた。
「もう、何が何だか分からないって顔ね」
「そりゃあ、いきなり呼び出されてそう言われたらこんな顔にもなりますって」
「それもそうね。理由を1つ1つ解して行きましょうか。先ず第一に君が弱いから」
その言葉に一夏は真顔になった。弱い、と言う一言は男子として女子から言われると深く突き刺さる一言だ。
「……貴方は1学期が修了してもまだ素人と言う表現の域すら出ない状態なの。専用機持ちの中では最下位と言っても仕方がないわ。
それに、クラス代表対抗トーナメントの時みたいな襲撃も今後とも起こらないとは限らない」
クラス代表対抗トーナメント。
その時、未知のISを纏った少女達が現れIS学園に襲撃を掛けてきた。死傷者を出す大惨事を招いている……由々しき自体だと言わざるを得ないだろう。
一夏としても苦い経験とも言えた。何せ、後から聞いた話だと間接的に洗脳されて味方に攻撃したとまで言われたからだ。そんなISまで存在するとなると、脅威としか言いようがない。
「……そして、1番の理由は『学年留学』よ」
「えーと、五稜学院に学年単位で留学するって話でしたよね?」
「うん、そう。それだけの話ならば此処まで教員も私も憂いを抱く事は無かったわ」
「え、それはどう言う意味なんですか……?」
「織斑君。先ず先に説明するけど、貴方は世界唯一のIS男性操縦者。その事実に変わりは無い。そして、IS学園の生徒会長としても日本政府としても学園内外では護衛や警備の必要性があるのよ」
一夏が学園外に外出する際、本人が視認出来ない位置取りで護衛する事になっている。
「本来の想定では、その五稜学院の外か……出来れば学院内にお邪魔する形で護衛や警備をするって形を取ろうと思ったんだけど……そうも行かない状況である事が発覚したのよ」
「……そうも行かない?」
「五稜学院の場所が分からない。生徒会長である私も出来る限りの手段を駆使したのだけど、何処にも情報が出て来なかったわ……。つまり、誰1人として五稜学院の所在地を知る者は居ないって事なの」
「誰も知らない……?」
「ええ……。所在地は愚か、どう言う構造、生徒人数、その他諸々含めて何もかもが不明。唯一分かるのは、IS学園と同じIS関連の教育機関であると言う事だけ。
『学年留学』は向こうから迎えに来てくれるとは言うけれど……行けるのは1学年の生徒のみと言う制約があるのよ。それ以外の者達は誰1人、同行する事が出来ないの。勿論、護衛云々の話も却下されたわ」
君が同行すると言っちゃったからね。とも後で付け加えられた。
「事前情報で何も得る事が出来ない程、秘匿性が高い所なの。IS学園以上に機密性が高いと言えるわ。だから、何が起こるか全く予想出来ないの」
「……‼︎」
「IS学園みたいな校風とは限らないし、校則もどの様な形になっているのかも分からない。杞憂になれば良いのだけど、IS学園よりも殺伐と化しているかも知れない。
となれば、非常時において自分の身は自分で守れるくらいにはなって欲しいのよ」
ISがあれば問題無いと言う先入観は崩れつつある。自分よりも強い相手が来れば終わりだからだ。
「……これは織斑先生からの要請でもあるのよ。織斑先生としても不安みたいね。まだまだヒヨッコだから」
「千冬姉から⁉︎」
「ええ。此処から私の個人的な見解なのだけど、先のトーナメントの件と言い、臨島学校と言い……そして次回の学年留学の件、如何にもキナ臭い気がしてならないのよ」
「キナ臭い、ですか?」
「ええ……。私の勘だけど……この裏にすっごい悪意が潜んでいる気がするわ。
織斑先生を始めとした教師達が居ない状況で1年生の代表候補生の専用機持ち代表候補生達が手に負えるか、不安なのよ」
自分が同行すると言う意見は通らなかった。例外を認めてくれはしなかった。
そんな状況下で1年生を纏められるのは専用機持ち達やクラス代表となる。ただ、臨島学校からグダグダ振りが露呈してしまっている。
「留学で其処まで不安になるのですか……?」
「留学も1学年丸々の留学。IS学園は元より日本全体の教育観点から見ても前例の無い事態よ。コレを怪しむなと言う方が無理があるわ。
勿論、杞憂に終わるのならばそれに越した事は無いわ。ただ、覚悟はしておいて欲しいと言う事」
「…………」
「それで、受けてくれるかしら?」
「……納得は出来かねますよ。いきなり弱いだの何だの言われると」
受けて貰わないと楯無としても困るので楯無は実力で分からせる事にした。見事に一夏の惨敗に終わった為、コレを了承させた。
ただ、正直な所……夏休み中における特訓は付け焼き刃からの一夜漬け程度にしかならないと言うのが楯無の見解だ。
五稜学院其の物がキナ臭い……。それに加えて常軌を逸した襲撃者の存在……何処までモノに出来るか本人の気力次第とも言えるのだ。
——本音を言えば私が直接、同行出来ればそれに越した事は無いのだけれど……それも難しくなって来たしね。
隠れて同行すると言う手もあるが、正面から突っ撥ねられている以上、発覚時のリスクが大き過ぎる。
IS学園も許可無き訪問はお断りしている為に此方がそんな真似をしてしまえば、どう言う手段を講ずるか火を見るよりも明らかだ。
「かと言って本音に託すのも凄く心配だし、報告を見る限り1年生の専用機持ちは精神的にも問題アリそうな娘達ばかりなのもまた不安要素……」
やはり何らかの形で捩じ込むべきだろうかと考える楯無であった。