『五稜監獄学院』は監獄と学院を足して2で割って更に余計なモノを次々とぶち込んだ様な場所だ。
監獄と言うには余りにも自由過ぎるし、学院と言うにはもはや混沌の極みだ。
生徒=囚人の部屋はプライバシーの欠片も無いが、逆を言えば隠す必要が無いくらい如何でも良いモノしか無いと言える。
挙げ句の果てに鍵なんてモノは無く常に開けっ放しで施錠とは無縁。独房と言う見た目のガワだけであり何の為の独房だと設計者に訊ねたいくらいだ。
五稜監獄学院は五芒星の形状をしており独房がある収監棟は頂点付近の外側に位置しており、上階、中階、下階と分かれている。
大廊下たる通路は吹き抜け構造となっておりやろうと思えば上階から中階をすっ飛ばして下階へと飛び降りる事も出来る。
外観自体もかなり綺麗かつ清潔に保たれており、大理石を磨いた様な床に吹き抜けの付近の落下防止柵は強化ガラスとなっており、天井の照明は涼しげな寒色系統。
壁際に鉄格子で仕切られた独房が理路整然と並んで居なければ監獄とは思えず、大型のショッピングモールの一風景だと錯覚してしまいかねない光景だ。
シャルロットの独房は収監5番棟の上階に位置している。
吹き抜けから見下ろした先には中階や下階で屯していたり、自分と同じ様に歩いて何処かへ向かおうとしている囚人達の姿が見える中を横目に見つつ歩きながら眼前に空間投影ウィンドウを開いて今の時刻と本日の実施予定スケジュールを確認する。
「時刻は……うわ、寝坊したなぁ。午前の半分の授業には間に合わないや」
時刻は『9:09』を示していた。
五稜監獄学院の授業は基本的に2回に分けて行われる。前半は午前8時から、後半は10時からだ。中途参加しても良いが……その場合、かなり損である。
「仕方ない、午前はサボろ」
——午前中は商業棟に行こ。昼から如何するかはまた考えよう。
シャルロットはサボる事を選択した。
常人ならばあり得ないと言える光景だが此処、五稜監獄学院では監獄としても学院としても滅茶苦茶甘っちょろいと言い切って良い程に囚人達に優しい部分が多い。
監獄と言った収監施設や学院と言った教育機関も時間に五月蝿いと言う共通点があるのだが、五稜監獄学院は時間の使い方に関して囚人個人に全て委ねられている。
『寝起きでやる気が出ないのでサボります』と言う他の監獄や教育機関では巫山戯るなと言われても仕方ない理由であろうとも平然と認められる。何なら1日中サボって遊び呆けても構わないくらい時間配分には自由な裁量を与えられているのだ。
そう言う訳で午前中は商業棟に足を運ぶ事にした。
「……やっぱり朝から賑わっているね、此処は」
商業棟も大概であったが、商業棟も監獄とは思えない煌びやかな光景が広がっており、訪れている囚人達も皆楽しそうな顔で歩いている。中にはコスプレの様な格好で出歩いている者も居る程だ。
——時間が逆転している人も多いみたいだからかな? さて、何か良いモノは無いかな……。
五稜監獄学院は基本的な構造は中央に商業棟がありその周辺に校舎棟があり更にその外に収監棟がある構造となっている。
そして商業棟の上に大食堂がある構図となっている。中央に商業棟や大食堂があるのは構造上、物品の搬入関連で都合が良いからだ。
シャルロットはその足で雑貨を取り扱っている店が並ぶエリアに足を運んだ。
「お、アンタはシャルロットさんやないか‼︎ 奇遇やん‼︎」
「あ、か、観音寺さん」
商業棟をフラフラと散策していると横合いから声を掛けられた。金髪の髪をツインテールにした関西弁口調の乙音であった。
彼女とはシャルロットが初めてこの学院に編入された時、初めて出来た知人である。
と言うのも、編入早々に敵に回しちゃいけない類の囚人に一瞬でバラバラにされた時、助けてくれたのだ。その時、訳が分からなかったが……理由を聞いた時『ええ……』となったのも今となっては良い思い出だ。
なんだそれは。リアルでそんな理由が存在するのか。いや、この監獄自体イカれていたから文句を言っても無駄だったか。
「乙音でええって‼︎ なんや〜? 朝からサボりか?」
「う、うん。ちょっと寝坊しちゃってね……」
「まぁ、寝坊助もぎょーさんおるし、どう生きようが本人の勝手やしな〜。ほな、今回はええモン仕入れて来たで〜」
乙音はそう言いながらシャルロット相手に商談を始めるべく目の前に空間投影ウィンドウを展開して現在の品のリストを見せた。
商業棟も大食堂も囚人達が切り盛りしている。大食堂では料理が得意な囚人がメイド服を纏って料理を提供しており、商業棟では外に出れる権利を得た者達が出所は秘密として様々な物品を仕入れて他の囚人達に提供している。
監獄や学院とは言うがこの場所は囚人達で維持、運営しているのだ。
そして、乙音は売り歩き……所謂、行商人スタイルだ。特定の場所に構えず彼方此方、移動している。商業棟以外でも必要とあれば収監棟でも売り捌くと言う別の意味で商魂逞しい囚人であった。他と比べると彼女の場合は、変わった品を扱っている事が多い為、そう言う意味では有名なのだ。
逆を言えばこの広い監獄で彼女を見つけ出さねば彼女から買物が出来ない事も意味している。
「……うーん、どれにしよう」
リストには家財も取り扱われていた。持ち運びに関しては心配する必要は無い。
何故なら、五稜監獄学院の囚人は皆、拡張領域を有しているからだ。大きい質量であろうと拡張領域に放り込めば何の問題も無いのだから。
——どうせなら服はクローゼットに入れたいよね。拡張領域に放り込みっ放しって言うのは流石にちょっと……。
「良し、これにしよう」
——15,000……。まぁ、この値段なら問題ないかな。最近は使っていなかったし。
「それにするんか? ほな、まいどありやで〜」
買物を済ませた後、大食堂へ行き日替わりの無料の昼食を摂った後、午後へと差し掛かる。その後は如何するか考えていると不意に視線がある方向へ向いていた。
「珍しいね。学院に帰って来ているだなんて」
本当に珍しかった。いつの日か見た、白衣に黒袴姿であり、その上に灰色のローブを羽織った和奏だ。側のテーブルの上にはサンドイッチの入ったパックが置かれており、その1つを手に持って軽食を摂っている所の様だ。
普段は五稜監獄学院のフロント企業(『裏』の業界なのにフロントとは如何に)である『ストラトス・デザイア』に滞在していると聞いている。一部の囚人も職員として行動しているとの事。
生憎、シャルロットは其方には関わっていない……その、そう言う趣味は持ち合わせて居ないと言うのが本心だ。流石に被虐趣味は持ち合わせては居ない。
「まぁ、色々野暮用が重なってくるんだよ。寝る暇も無ぇ」
五稜監獄学院は彼以外全員が女性だ。
シャルロットから見て、IS学園も見た目が選考に関わっているんじゃないかと思う程に見栄えは良いのだが……この学院も負けず劣らず顔が可愛いと言った見目麗しい娘さんばかりだ。……中身が大問題である事を除けばの話にはなるが。
さぞ、彼はハーレム見たいな環境だと邪推したくはなるが、彼も彼で苦労している。何せ、セオリーが通じない相手ばかりなのだから。
そして、その矛先が自分に降り掛かるのは勘弁して欲しい所だ。
「
「初日でいきなり両手両足をぶった斬られた事を除けばね。最初、本気で死ぬかと思ったんだから」
「……何だ、根に持っているのか。こう言う世界だ、制御が難しいのなら
かなり物騒なやり取りだ。
初見さんは見た目とは裏腹に自由な光景だと思うのだが、学院長の方針で集められたのは『ズレた』連中ばかり……殺人鬼やら元死刑囚やら、テロリストとか、ヤバい人種が一同に会しているんだ。当然、刃傷沙汰が日常茶飯事となる。
腕や脚を切断されるのは序の口。骨を引き摺り出されたり内臓を取り出されてその辺に捨てるとかもある。
殺人鬼相手に『暴力禁止』なんて言葉は通じない。一応、色々な対策は講じたがその一線だけは如何しても制御不可能だ。
ならば
そんな結論に至るまで然程、時間は掛からなかった。流石に校舎棟やら収監棟やらを巻き込んで破壊する様な超展開バトルをされては予算関連で非常に困る為に、IS絡みの使用は初手から禁じられている。囚人達の首に嵌められている首輪がソレだ。アレは拡張領域以外のISの機能を完全に阻害する。
だが、殺人鬼共にとっては『それが如何した?』みたいな連中なので問題は無かった。
「……放任と放置は別問題じゃないの?」
「知った事かよ」
そう言う和奏の視線はシャルロットの後方に向けられて居た。大食堂では散々たる光景が広がっている。シャルロットとしても今となっては良くもまぁ飽きずにやっているなと言う印象だ。因みに大食堂は3日に1回は立入禁止になる……理由は察してくれ。そして、ユリエがキレるまでがセットだ。
「メイド長がデザイアの方に居るといっつもこうだな」
「……いい加減、慣れて来たよ。学院長は正気とはとても思えないね」
「だろうな」
最後のサンドイッチに手を伸ばし、食べる和奏。否定はしなかった。
「……『学年留学』の件。お前さん、如何する?」
「別に気にする必要は無いよ。全員が全員、遭遇する訳じゃないでしょ?」
「まぁな。が、一悶着が起きるのは確実だからよ。その場合、如何するかって事だ」
「別に。もう終わった事だし、今のボクはただの『シャルロット』だし、興味が無いかな」
「そうか……」
最後のサンドイッチを食べ終え、ゴミ等を片付ける。これ以上、特に話す事は無かったので其の儘、別れた。その後はシャルロットは午後は如何しようかと考えながら大食堂を後にした。