馬車を引かされ広場の中央へと行かされる。
其処で馬車から外された簪達は舞台の上へと連れて行かれた。
舞台の上からは広場全体を見渡す事が出来るし周りから舞台を見る事も出来る構図。
その舞台の上には遠くからでも見えた晒し台が横に並んで鎮座している。
「……んっ、んん」
「んー……んー」
「…………」
其々、別の晒し台へと連れて行かれて首を通され手首を通され固定される。足も股を開く姿勢にされ足首も固定された。丁度、大の字にされている様な形か。
「……んっ」
——完全に固定されて、動けない……。
遮るモノが無く胸元の『奴隷3号』の文字がよく見えるし、晒された乳首や秘所も丸見えだ。
左右に同じ態勢で拘束されたオニールやファニールが並べられる。首が固定されている為にこの状態ではまるで見えないが3人揃って奴隷の文字を大衆に晒している事になる。
一仕事を終えたメイド服達は、広場の晒し台に拘束した簪達を置き去りにして早々に広場から去って行った。残されたのは物見や一般大衆役の服達だけだ。
——今日は、街中で晒し者って事なのかな……?
『お、あの子達、中々可愛いじゃん』
『左側の子はいじめがいがありそうで、右側は気が強そうだな』
『幼くしてドMの変態だったのか、いやぁ膨らみかけの胸で拘束されててヌケるわー』
——え?
突然、耳に飛び込んで来る人工音声。内容からして男性達だと思われる。
『真ん中の娘も可愛い顔をしているなぁ』
『頑張っても勝てずに奴隷堕ちってシチュエーション、たまんねぇなぁ』
『奴隷1号、2号、3号……。この子達、売ってくれねぇかなぁ?』
『カタログには載ってなかったぞ? 彼方も彼方でレベル高かったけどな』
『ペット枠のヒトイヌにして飼いたい』
『メイド服を着せて『ご主人様』って言わせたいよな』
まるで品定めをするかの様なコメントが次々と寄せられる。如何にも内容からして仮想現実内でのNPCの台詞のアルゴリズムでは無さそうだ。
——もしかして、見られている……? 何処の誰に?
『もしかして、次の先行商品? の予告だったりする?』
『それならワンチャンあるかも……?』
『だとしたら左の青っぽい髪の娘が欲しいな。従順そうだし』
『マトモに彼女作れないからって奴隷にしか欲情出来ない陰キャは黙ってろよ』
『はい、ブーメランw 乙』
『やめたまたえ、此処でそんな争いをしていると追放されるぞ?』
『はー? 正義面すんなよw 此処に集っているのは全員、陰』
『あ、BANされた』
『当然の末路』
——何コレ……?
暫くすると音声は聞こえなくなった。何が何だか分からないのだが、その音声は唐突に途切れた。
「……」
左右から軋む音が聞こえた。自分も聞こえたと言う事は左右のオニールとファニールの2人も聞こえたと言う事。当然、困惑していたのだろうが今現在、説明される訳も無かった。
その状態のまま、何時間か経過した。気が付けば視界が真っ白になっていた。
頭を抱えたくなる様な鈍い痛みの中、簪は目覚めた。
「ッつ……‼︎」
寝過ぎで頭が痛いと言う現象は誰もが経験した事のある事だろう。脳血管が拡張し周辺にある神経を刺激する。その結果、頭が痛いという症状が現れる。今、現在の簪も同じ状況と呼べた。
——此処は……ああ、医療フロアの病室、か。
白い天井が見えるし、病院特有の匂いも鼻腔を擽る。思えば初日の内にも放り込まれた事があっただろうか。
その時との違いと言えば、拘束衣を着せられておらず病衣と呼ばれる服装をしていた。
「こうして会うのは久しぶりね。ドロシー、いいえ……更識さん?」
病室の壁際には1人の少女が壁に凭れて立っていた。ナースキャップを頭に乗せては居るが、その身に纏っているのはクラシカルな白と黒のエプロンドレス姿。こうして顔を合わせるのは本当に久し振りとなるシノカであった。
「今日が何日か、分かるかしら?」
その問いに簪は首を横に振った。仮想現実空間でどれほどの時間が経過したのか分からないからだ。予想だと1週間かそれくらいだろうか?
「8月30日よ」
「え……⁉︎」
シノカに今日が夏休み最終前夜の日であると告げられる。予想以上に時間が経過していた様である事に驚愕する。
もう今日中にIS学園に帰らないと行けないと言う意味だ。そして2日後には『学年留学』が待ち構えている。
「全く……レイカったら、デバック要員として使うにもやり過ぎよ。仮想現実空間の使用に関しては厳格なルールの再検討が必要ね。意識を電脳空間に飛ばすのは良いけど、肉体の方の問題をサラッと放置するのは頂けないわ……ヒナタが大丈夫とか言っていたけど、やっぱり問題が噴出して来たわね……。
寝っぱなしだと、体力も落ちるし尚且つ、血管膨張からの頭痛もして来るって言うのに、それ以外にも健康被害とか出て来るってのに。今後は最長時間を設けて強制シャットダウンの機能を搭載して、後それから健康診断の規則を設けないと……」
職員内で揉める案件の様だ。こと、医療スタッフと呼べるシノカは安全や健康案件上の問題の指摘になるらしい。
「っとと、貴方には関係ない身内話だったわ。取り敢えず、健康上の問題は一切無い。それから、件の人権放棄の事も全部、聞いているわ」
「あ、は、はい」
「そして、後はまぁ……。時期的には無いだろうけど輸血とか献血には今後、絶対に行っちゃダメよ」
「それは……。如何言う意味なんですか?」
「言葉で説明するよりも実際に見てもらった方が早いわね」
シノカはメスを一本、取り出して何の躊躇無く自身の腕へと突き刺した。
「ッ⁉︎」
そしてゴリッと言う音と共に抉って中身を切り裂く、ステーキの肉をナイフで切るかの様なやり方だ。そんな生々しい自傷を目の前で見せられる方の身にもなって欲しいのだが……。
「……え?」
だが、その過程において恐怖でも血の色に関する嫌悪も浮かばなかった。シノカが自分の腕を切り裂いて出て来たのは真っ赤な鮮血では無かった。傷口から出て来たのは白いもこもことした物質。それは、まるでぬいぐるみの布地から飛び出した綿みたいな様相だった。
「驚いたかしら? 『防腐処理』って言ってね。この白いもこもこは元々は血液よ。怪我をして血液が外に溢れると瘡蓋の代わりに凝固して止血される様になっているのよ」
「……ッ‼︎」
簪はマジマジとその様子を凝視する。血液が瞬時に固まると言う情景はそうそう無いだろう。
「後、体臭も無くなっているわ。全身、防腐剤を練り込んでいるからね。この『防腐処理』の処置は私達、職員……いえ、五稜監獄学院の連中、全員ね。そして、貴方も既に『防腐処理』されているわ」
「……肉体改造、されている。と言う事ですか?」
簪の質問にシノカは、『ええ』と、答える。
「貴方が人権放棄して眠らせた後にね。
こうする理由は色々あって第一の理由が、五稜監獄学院の連中はどいつもこいつも物騒な思考回路で、連日戦争は当たり前なの。まぁ、アレに関しては自分で見てもらった方が早いわ。
その過程で医療崩壊が起きそうになってね……その結果、導き出されたのが『防腐処理』。腕が捥げようが、脚が取れようが腹が捌かれようがほぼ元通りに出来る下地にしたのよ。
止める以前に煽る始末だから『やらせとけ』と言うノリになってね。だったら、後始末に意識を向ける方が安上がりって事になったのよ」
「…………」
色んな意味で理解出来ない環境と言えた。
IS学園もISがあるし銃火器やら近接武器を未成年の少女が振り回している為に物騒と言えるのだが、ISのシールドバリアや絶対防御の存在があってこそ初めて成立している。
腕が捥げたり脚が取れたりと言う時点でかなりの重傷を元通りに出来る……つまり、それが当たり前の環境だと言っているのと一緒と言えた。
「この説明はこれで以上よ」
その後、簪は隔離フロアの受付にてチェックアウトした。実際に使用した日数は数える程だが、必要な事だ。
送迎の車に乗ってIS学園に到着したのは午後5時頃。夏休みを満喫した生徒達がほぼ学園に戻って来ており新学期に向けての準備をしている。
と言ってもそれは2年生以上の生徒達の話であり、1年生には『学年留学』の件で用意する事は何も無いのだ。
ただ、時が来るまで待っていれば良い。
そして……まず、間違いなくひと騒動が起きる予感がする事を……誰もが考えていたのは言うまでも無かった。
五稜監獄学院。
学院長室。
「所定の予定通り、『ストラトス・デザイア』は移転の為に全ての業務を終了しました。
旧所在地の建物も引き払いました。コレで良いんすね。ガイア様」
「うん。お疲れ様、フォール」
和奏は学院長室でもある庭園のガゼボに足を運んでいた。其処で報告を口頭で行っていた。
「雑ざると面倒だから種類別に回収したから予想以上に時間が掛かっちゃったわ」
「拡張領域を使っているとは言え、機材の量が凄まじいの一言に尽きましたからね」
今回は和奏だけでは無く、ストラトス・デザイアの幹部階級の者達も会している。長いソファにはラバーメイド姿では無く、学院の制服である囚人服姿のユリエと廻空が座っていた。
「うん、カウスもレグルスもお疲れ様」
「圧縮データにするの疲れたよ〜。弟く〜ん」
「……データの解凍に何日掛かるか……膨大過ぎて、悲鳴をあげるかも」
和奏の座るソファの背後から抱き付く様に凭れて来た姫舞。その近くに寄せて来たソファに座る黎華。その2人も囚人服姿であり、黎華は自身の胸の上にコーヒー牛乳のパックを乗せてストローを差して飲んでいた。
「ベテルギウスもアルネブも、お疲れ様。でもゲームのし過ぎは目に毒だよ」
「ふぁい」
「機関棟と娯楽棟の増築をしないと行けませんね。そうは思いませんか?」
ユリエ達の向かい側に座るレーキュが意味ありげな視線を和奏へと送る。
「何故、其処で俺を見るんだ?
「……デザイアの備品を有効活用しない手は無いでしょう?」
その時点で何を言おうとしているのか丸分かりと言えた。
「さては、喧嘩の特売だな? 全身、細切れにしてやるから表出ろ‼︎」
「フォール、止めて。ラカーユも煽らない」
「「…………」」
学院長に諌められる。流石に学院長の静止とあっては矛を納めざるを得ない。
「2人って本当に中が悪いわねぇ。前世とかで殺し合っていたのかしら?」
「むにー(ーωー)」
レーキュの隣に座っている蔡歌。その膝の上にウィキリピアを乗せて2人のやり取りを面白そうに眺めている。2人も囚人服姿であり、胸元にウィキリピアの後頭部が当たる為か蔡歌の胸付近のベルトは外され左右に垂れていた。
「ドゥーべとミラも、IS学園の時はお疲れ様」
2人はIS学園の時、結構暴れていたのだ。元を辿れば学院長の差金に辿り着く。
「……私としては医療関係者が出払っている時に、学院内で医療逼迫していないかの方が心配ね」
「アンカア、大丈夫。アルビレオが先に見てくれるから」
蔡歌の隣には篠鴉が学院内でどんな乱闘が起きてその後に起こる光景を心配していた。囚人服ではあるが、医療関係者と言う事で色合いは白系統で拘束衣感が強い。
「すー……」
「この面々だと静かにお茶会も出来そうに無いんだね」
そして、和奏の隣にはフィウとリデアの2人が同じソファに座っていた。フィウは既に眠いのか和奏の膝を枕に寝ており、リデアが口々に騒ぐ様子を見て呆れている。
「私はこっちの方が楽しいよ、アルデバラン」
しかし、学院長は楽しいと評している。そう言われては引き退るしか無い。
「『ストラトス・デザイア』の事は私が預かるから、暫くは休んでて」
「……良いのですか?」
「ん。フォールはこうでもしないとワーカーホリックになるから」
「否定は出来ないわねぇ」
「否定出来ないわ」
「否定出来ないかも」
「出来ない……」
「否定は出来ませんね」
「否定出来ないわね〜」
「うにー(ーωー)」
「ごめん、反論出来ない」
「すー……」
「仕事させないから」
周りから満場一致の評価。これは酷い。
「君ら……俺を追い詰めて楽しいか……? 後、レーキュ、テメーは潰す」
「はいはい、ガイア様の前だよ。喧嘩しない」
「わ、分かったから胸で挟むなッ⁉︎ 姫姉ッ⁉︎」
和奏の後頭部の後ろから豊満な胸で挟んで止める姫舞。アレはアレで結構な質量兵器と言える。
「ガイア様。『学年留学』の件なんですが、ご要望通りに手配しました」
「うん。ありがとう」
和奏達が騒いでいる最中、レーキュがお茶会に託けて『学年留学』に関連する内容の話を進めていた。
「しかしながら、先方の要望に応えるとは言え……我が学院の囚徒達の性格上、死人が出るのは明白だと思われますが、その辺はどの様なお考えを?」
「必要に応じて『防腐処理』の検討を」
「するのは良いのですが後の事を考えると、中々面倒な事になりませんか? 学院内ならば兎も角、その外でソレが発覚するとちょっとしたパニックになるやも知れませんよ? 処置の都合上、暫くは効能が残りますし……」
「
「だ、そうですよ? 和奏さん、篠鴉さん」
「「そんな話の振り方してくんなッ‼︎」」