9月1日。
それは新しい学期の始まりである。
それは現実を直視するべき日である。
それは楽しい日々の終わりである。
とまぁ、仰々しく言ってしまった形ではあるのだが早い話が夏休みが終わったと言う事実を証明しただけに過ぎない。え? 8月中に夏休みは終わったと?それは、失礼。
それは、此処IS学園においても変わらない。
「皆、夏休みは満喫出来たかしら? まぁ、中には補修漬けで終わった人も居るかも知れないけれど」
1年3組の教室。始業式を終えた後、担任教師から3組生徒達に挨拶の話をしていた。3組は一般生徒のみであるが故に、夏休みの期間は実家に帰省していた者も多かった。
「さて、皆は分かっていると思うけれど1学年の2学期は夏休み前に説明した通り『学年留学』となっているわ。
今日から12月の中旬頃まで『五稜学院』への合同留学よ。先方から迎えに参りますって話となっているわ」
2学期始まって早々に『五稜学院』への学年留学が始まる。細かな詳細は現地で説明される事にはなっているのだが、色々と期待と不安が入り混じる事だろう。
「時刻は放課後の午後6時にIS学園の校門前へ集合する様に。事情があって『学年留学』に欠席する場合はそれまでに教師に通達する様にね。
その場合はIS学園内で別のカリキュラムを組む事になるから。
夏休み前に説明した通り、必要な物は基本的に無いそうよ。眼鏡や常備薬が必要な場合は申告する様に。
携帯電話とか貴重品の類は極力持ち込まない様にした方が良いわ。先方も貴重品の類は持ち込まないで欲しいと言われているわ」
IS学園と五稜学院の校則は違う。
所変われば常識も変わってくるのは古今東西良くある事だ。学校によっては携帯電話やスマホの持ち込みを禁止している所もあるだろう。
「後はそうねぇ……環境がガラリと変わるから体調管理はしっかりする様にしてちょうだい。留学してまで医務室とか保健室登校なんて真似は先方に迷惑だからね」
その言葉に微かな笑い声が教室に囁かれた。
「後、最後に……2学期末、『学年留学』終了日の翌日には期末試験があるわ。1学期の期末試験同様、成績最下位は落第となるから呉々も勉学は怠らない様に。まぁ、貴方達なら問題はないでしょうけども。
五稜学院とIS学園の5教科等の授業スピードは異なる問題に関してだけど……まず、IS学園のIS学科の授業はリモート形式で行われる態勢を整えてあるわ。場所に関しては先方の人達に聞く様に。5教科に関しては先方での授業スピードを考慮して試験範囲を調整する方針よ」
改めて必要な説明事項の説明を終えて、注意事項等や質問の解消を終えて朝のホームルームは終了。今日は留学前の準備と言う名目で解散状態となった。参加する者、諸事情により参加を見送る者など分かれる事になる。
そして、時刻は過ぎて行き放課後、午後6時頃……。
名刀はIS学園の校門前に居た。
午後6時ではあるのだが、まだまだ残暑の暑さを残して尚且つ日が長いので夕焼けの様な赤い空が頭上に広がっている。
水平線の先ではゆっくりと日が沈んでいく光景をバックにして多数のIS学園の生徒達がガヤガヤと喧騒に興じていた。
「……遂に来たなぁ〜、『学年留学』って奴が」
名刀の隣ではもはや『相方』みたいな立ち位置になりつつある七五三 泳が腕を伸ばしながらその時が来るのを待っていた。
「うん、そうだね……」
「『臨島学校』みたいな光景にならぬと良いがな……」
その次に声を掛けて来たのは二 黎芽だ。眼鏡を掛け直しつつ、夏休み前の行事を思い起こす。
「せやなぁ。中々、過激な内容やったーってのもあるな……聞けばアレも初の試みやったっつーし」
「今回の『学年留学』も初の試みみたいだしね……」
「IS学園のやり方とは全く違うだろう。何が起こるか予想は出来ん。無論、杞憂に終われば良いが」
「そん時はそん時に考えたらええやろ。初めから張り詰めても疲れるだけや」
「うん……。疑ってかかるのは良くない」
「……そうだな。厄介な催しがある時はまた考えれば良いだけだ。……その時は他のクラスに人身御供になってもらうとしよう」
黎芽は中々、物騒な意見を出す。場合によってはその線も視野に入れる必要があるだろう。
「……お、迎えって奴が来よったみたいやで。名刀、前に行ってみよか」
その時、夕陽に照らされて複数の大型のバスが走ってくる光景が見えて来る。バスは校門前の開けた場所に列を成す様に停車して行く。
その光景を見て生徒達は『学年留学』の迎えが来た事を理解してその近くへと集まって来る。
「デカいやないかい。2階建てのバスなんて初めて見たで、ウチ」
「騒ぐな、ガキか……」
各々のバスの乗車扉が開かれて、運転手であろう人が降りて来た。
まず第一にサングラス。そして白いカッターシャツの上に黒上着の黒いスーツ、そして白手袋と言う出で立ちの女性達。
髪色や身長はバラバラであるが一言で言えばボディガードとか秘密のエージェントみたいな感想が浮かんだ。
ただサングラスの先の目が見えた時『カタギじゃない』と言う雰囲気を皆、纏っていた。
——……ただの運転手に見えない。
隣を見て黎芽と泳も『普通には見えない』と言った感想を抱いている様だ。口には出さないが態度で分かる。出会ったのは今年だが今となってはそれくらいの仲になったものだ。
「あの人、カッコいい……」
「カッコいい女性だと何着ても似合うのね……‼︎」
「もしかして五稜学院ってカッコよくてオシャレな雰囲気……?」
ただ、他のクラスと言うか、大半の生徒達は頭の中がお花畑なのか、彼女達の纏う雰囲気に違和感を感じていないようだ。
「我々は『学年留学』の招待に参りました。準備はお済みですか? 一度、ご乗車致しますと期間満了日までこの場所に帰って来る事は出来ませんので、ご注意下さい。
では、参加を表明するのであれば、各車にご乗車くださいますよう」
白髪に比較的、長身の女性が一歩前に出て音頭を取る様にIS学園の生徒達に告げた。
その言葉を日切に『学年留学』へ参加を決めた生徒達が次々とバスへと乗り込んで行く。
席順は決まっていない、その為先に乗り込んだ者が奥の席へと座って行き席が埋まって行く。
「……残られた方はご参加をお見送り、と言う事で宜しいですね? では、人数確認の後に速やかに出発致します」
黒スーツ姿の運転手は乗車した生徒達の人数を確認した後、一台ずつ走り出して行く。
当人達はまだ知る由も無い、知られざる五稜監獄学院へと。其処で何が待っているのか……予想出来る筈も無かった。