名刀が最初に感じたのは冷たい感触だった。
「……ッ」
頭ががんがんする。昼寝をし過ぎたり、夜に寝過ぎて寝坊した時の様な、あの頭痛がする。
痛みを紛らわす為に頭を振るった。ほんのり涼しい空気が肌に伝わって来る。
——夕方に出発したから、バスが走っている途中で寝たのかな……。
記憶は途中で途切れていた。『学年留学』で相手校の迎えのバスに乗っていた所までは覚えている。途中、夕飯と称して簡単なパンやおにぎり等が差し入れされたのも覚えている。それから、数時間くらい後の記憶が無い。寝落ちしたのか。
だとするのであれば、こんな場所で寝ていると言う事は可笑しいとしか思えなかった。
何時、バスを降りたのか?
それから、何時こんな場所で寝転がっていたのか?
疑問は次々と浮かんで来るのだが、明確な答えは出ない。ただ、現実として此処に居るのだけは確かだと言えた。
教室くらいの部屋だった。くらいと言うのは大きさだ。
ただ、白い壁や床であり何の用途か分からない、倉庫だと言うには何も存在しないので、空き部屋みたいなそんな部屋だ。出入り口は前方の壁にある大扉のみだ。
その部屋には自分を含めて数十人規模の少女達、IS学園の生徒達が寝ていた。寝ていたと言うよりも大雑把に転がされていたか、寝転がっていたと言う表現の方が適切か。
それよりも……。
未だに寝ている生徒達の姿を見てから立ち上がり自分の姿をマジマジと見つめ——。
「いやいや、コレは無いでしょ……」
思わずそんな声があがった。
灰色のローブ。
その下の服の上には胸を上下で挟むように黒い革ベルトが胸元と胸下を走っており、胸が強調される様に縛られている。
両方の手首には黒革のベルトが1つずつ巻かれている。然も結構、キツめに締め付けられている。スカートはサスペンダーで固定されており胸の下を這う黒革のベルトと連結されている。
服の下肌に這う様な感触もした……何と言うかボディハーネスと言うのだろうか、身体の箇所を交差する様な感触もする。そんなSM染みたモノも着けられていた。
そして、首に違和感があり指を摩って見るとその首には重厚な首輪が嵌められており、その首輪は胸下の黒革のベルトと鎖で連結されていると言う構図となっていた。
その服装は正しく、何時ぞやの『臨島学校』で『遊獄館』にて見た少女達がその身を包んでいた拘束衣か囚人服を彷彿させる服を着せられていたのだ。
——然も、見た目よりも重厚な気がする……それに黒革のベルトで一杯だ……。
袖にも黒革のベルトの余りが垂れている。
腕を振るえばパタパタと振るわれて結構、邪魔に思えるが、拘束衣の意匠である以上、連結すれば腕が使えなくなるのは嫌でも分かる。
と言うかこんな所でこんな人前で歩くには抵抗が凄い服を着る羽目になるとは思わなかった。ある意味、全裸よりも恥ずかしい格好な気がする?
「ぐっ……何だ?寝ていたのか?」
「あー、頭痛ったいやないか……って、何やコレぇ⁉︎」
「コレは……囚人服、でしょうか? でも、この意匠は何処かで見た事ある気がします……」
そのタイミングで他の生徒達も目が覚めたのか、次々と声を上げながら起き上がりそして自分達の服装を見て口々に声を上げて行く。
そりゃそうだ。起きたら囚人服か拘束衣みたいな格好をしていたら誰とて驚いたり困惑したりする。
「皆。起きた?」
「……これまでの経緯が理解不能だ。一体何が起きたと言うんだ?それに、この格好は何なんだ……?」
黎芽は忌々しげな口調で状況がまるで理解出来ないと言わんばかりに名刀に質問を投げる。
「分かれば苦労しないよ……」
「……それもそうだな。恐らくこの場に居る連中、1人とて把握している者は居まい」
黎芽は眼鏡を一旦、外して損傷が無いか確認する。そして自分達の服装を見比べる。少なくとも全員が殆ど同じデザインの囚人服である事は分かった。
「……見た限り同じバスに乗っていた人達がこの部屋に集められているみたいですね」
「他のバスの人達は居ないかな……」
其処で槐と芹那の2人も会話に参加する。2人も名刀や黎芽達と同じ囚人服を着せられている。ただやはり胸ベルトの存在故に胸が強調されている為にその差が浮き彫りになってしまうのは目に毒な気がする。
「しっかし、どう言う事や? バスを降りた記憶はあらへんしなぁ。寝ている間に拉致って奴か?」
異常な事態。IS学園の生徒を誘拐と言う線が浮かんで来る。そもIS適性が高い場合、狙われる可能性が〜と言う経緯で保身の為、IS学園への入学を勧められるケースがあると言う。
「……いや、その線は薄い。と言うのもこの服装は『臨島学校』の遊獄館の者達とほぼ同じ服と言う事だ。単純に身代金目的の拉致ならば着替えさせる必要が無いだろう?」
「それは私も思っていた。この服装は囚人服とか拘束衣を思わせるけど、何か学園とかの制服みたいな感じもするし……」
「……あの灯火って人も囚人服を『制服みたいなモノ』って言っていたもんね」
「「「…………」」」
しかし、考えても明確な答えは出て来ない。その間、遅れて目覚めた同じクラスの生徒達に状況を説明する。
分かった事と言えば3組以外には1組や2組の生徒もいたと言う事だった。つまり、あの問題だらけな専用機持ちと同じ部屋に居ると言う始末であった。
そして、概ねこの部屋に居る者達が全員目覚めてある程度、自分達が置かれている状況を理解した時、状況が動いた。
眼前に聳える大扉が開かれたからだ。その奥からは白と青色を基調としたシスターを思わせる服装に身を包んだ女性がこの部屋に入って来た。
「皆様方。ようこそ、五稜監獄学院へ。お待ちしていましたよ」
そのシスターは開口一番、そう口を開いて名刀達の来訪を歓迎した。