「五稜……
シスターの言葉に2組の代表である鈴音が思わず聞き返した。きっと彼女が口を開かなければ他の誰かが口を開いていた事であろう。
何故ならば自分達は『五稜学院』としか聞いていないからである。
「おや? 情報が正しく伝わっていないようですね……。はい、『学年留学』の行先は正しくは『五稜監獄学院』です。貴方方には監獄の文字が抜けて伝えられていたようですね」
シスターはそう補足説明を加えた。
どうやら目的地には違いは無いらしい。
「「「……」」」
「ああ、名乗り遅れました。私、五稜監獄学院の看守のスクイと申します。職員、教員とでも思ってくださいね」
シスター服の彼女は自らをスクイと名乗った。この学院の教員は皆、特徴的なシスター服を身に纏っているのだろうか?
「3ヶ月程の短い期間ではありますが、宜しくお願いしますね?」
「ふ、巫山戯ているの⁉︎ 留学って言うのに監獄でこんな囚人服みたいな服を着せて‼︎」
「そうよ、そうよ‼︎ 此処は本当に何処だって言うの⁉︎」
「意味が分からない‼︎ こんな事になるのならIS学園に帰して‼︎」
その言葉を日切に生徒達。主に1組の生徒達の批難の声が上がる。そりゃそうだろう。こんなの騙されたと言っても仕方ないのも人情。
しかし、シスターはそんな声を丸っと無視した、宥める理由は無いからである。
「まず初めに、五稜監獄学院内では基本的にISの使用は制限されています。貴方方の首に着けられている首輪はISの完全展開、部分展開を阻害する機構が備わっています。基本的に拡張領域以外、使用は出来ません」
その言葉に1組の主に専用機持ち達が動揺の表情を浮かべた。
彼女達が威勢を張れるのも主に専用機があってこそである。それが使用不可となると常人よりも強い程度に収まる。
「……理由としては以前、学院内で囚人生徒達、通称囚徒達でISを持ち出しての大乱闘が勃発して学院が半壊した事がありました」
学院内を半壊に追い込む乱闘……。ISが1機あれば国家戦力が変わるとまで言われている中で『大乱闘』と称する程の戦闘行為……。想像したくない。
「以降、五稜監獄学院内では学院長や議長が許可しない限り常時制限されます」
——……IS学園でも主に1組辺りがISを持ち出して問題を起こしているしね。
その説明を聞いて名刀は半分程、聞き流した。ISを個人で所有しているのはごく僅か、それ以外の者達にとってはタダの首輪でしか無い。いや、首輪を着けられている事自体は不満要素ではあるのだが。
「それでは、此処から先は移動しながら当学院の簡単な説明を致しましょうか。遅れないように気をつけてくださいね?」
シスターは踵を返して大扉の先へと歩いて行く。此の儘、留まっても仕方ない為にその後に続く形で皆で歩き出す。幸い出遅れる者は居なかった。
大扉を抜けた先に広がっていたのは3階構造ので中央は吹き抜けとなっている大廊下。壁際には鉄格子や格子扉で仕切られた部屋……。無数の独房が理路整然と立ち並んでいた。
白い床や寒色系等の光に照らされており研究機関の実験室を思わせる雰囲気がある。
「此処は収監棟。他の学校で言う寮棟ですね。後で、各自割り当てられた番号と同じ独房を使ってください」
——使ってくださいって……正気とは思えないなぁ。
大廊下側は鉄格子だけで仕切られており独房の中は丸見えでありプライバシーも欠片も無い。着替えのスペースすらも見受けられない。本当に丸見えだ。
収監棟を抜けると今度は学校を思わせる講堂と言った部屋がある通路に出る。
「収監棟の隣には校舎棟があります。基本的に五稜監獄学院の授業は午前と午後の部に分かれています。
また、貴方達IS学園の生徒達向けにIS学科のリモート授業が行われる教室は校舎棟の3階にあります。参加する場合は案内看板を用意しておきますので時間と場所の確認をしてその指示に従って向かってください」
大廊下から講堂内が見える窓ガラスを見て中を見てみる。
其処では自分達と同じ囚人服姿の五稜監獄学院の囚徒達が勉強している様子が見えた。ただ、教鞭を執っているのは囚人服の者である事に違和感を覚えたのだが。
「五稜監獄学院のほぼ中央部には大食堂があります。12時頃では無料で食事を受け取れます」
学院の中央には大食堂が存在している。其処では1日2回、無料で食事が出来ると言う。
学院自体、円形の構造を持っている為に四方八方に入り口が存在しており、ほぼ同じタイミングで他のIS学園の生徒達も大食堂へ案内されている頃合だろう。
「あははははは‼︎ この際よ! 誰が最凶のメイドか今日という今日こそ決めてやろうじゃない‼︎」
「この前はメイド長の邪魔が入ったけれど、今はご主人様に掛かり切りよ‼︎ その勝負、望む所よ‼︎」
「あ、あー‼︎ デザートが逃げちゃいましたっ‼︎ だ、誰か捕まえるのを手伝って下さいっ‼︎」
「爆撃フルコースを喰らいなさい‼︎」
「今日も今日とて無礼講よ‼︎ 何人でも掛かって来なさい‼︎」
「誰か、地雷余っている人居ない⁉︎」
「弾切れたッ‼︎ 次、ちょうだい‼︎」
「勝ったらご主人様からご褒美貰えるってホント⁉︎ ねぇ、本当なのッ⁉︎」
「面白そうだな‼︎ 私も交ぜろッ‼︎」
大食堂は戦場だった。
ところで、大食堂や調理場と言うは調理師にとっては戦場とは良く言う見解の1つだが……間違っても目の前の様な物理的な意味での戦場と言う意味では無いだろう。無いよね?
——なにコレ……?
銃弾が飛び交う中、銃撃音が鳴り響き火災の様な爆炎も彼方此方で発生している。
テーブルやソファは薙ぎ倒され遮蔽物の代わりにされ、無数の弾痕が刻まれていた。
そんな中で多数の少女達がアサルトライフルやらサブマシンガン、更には近接用の日本刀は元より中にはロケランをと言った武装を持って戦争と言っても過言では無い勢いで争っていた。
そして1番の特徴が全員が、メイド服を身に纏っていたと言う事だ。
白と黒のコントラストが魅力的でワンピースの上にフリル地獄かと思う程にフリルが多いクラシカルタイプな豪奢な意匠が映えるメイド服。もう映画とかそう言う場所でしか見かけないクラシカルメイド服だ。
大食堂では見るからに重そうなメイド服が乱舞していた。まるで重さを感じさせない様な軽快な動きで銃弾が飛び交う中、争っている。
身に纏っているメイド服が裂かれはしたない格好の状態であったり、怪我した箇所から白い綿みたいなモノが溢れていたりと常軌を逸する光景が広がっていた。
何故か、約1名、銀髪に眼帯を付けた囚人服の少女がその戦場に殴り込んでいく光景が見えたのは余談。
「「「…………」」」
目の前で大食堂其の物を破壊しかねない光景を目の当たりにして案内されていたIS学園の生徒達は絶句していた。大食堂に来て見れば其処ではメイドさん達が本気の乱闘をしているのだから二の句が継げないのは当然だろう。
「……最も、大食堂では3日に1回はこの様なメイド服に身を包んだ囚徒達の内乱が発生しますのでマトモに食事が摂れるかと言われますと疑問符が出ますがね」
その言葉の直後、流れ弾の如く飛来した擲弾が入り口近くの壁を破砕しその余波の爆風と壁の残骸が降り注いで来る。
悲鳴が上がる、信じられないと言う声も上がる。今すぐに帰りたいと叫ぶ者も居る。
「と、止めないんですか⁉︎ 明らかに喧嘩の範疇じゃないですよ⁉︎」
生徒の1人がそう叫ぶ。シスター服と雖もこの学院の職員の1人だ。こんなバカみたいな騒ぎを見て止める筈だろうと。
「止めませんよ。学院としてはISを展開しての戦闘行為を禁じているのであって、そうではない乱闘を止める校則はありません。
学院内の何処で銃撃戦が起ころうが戦争が起ころうが知った事ではありません。当事者達が気が済むまでやらせます」
「狂っていやがる……‼︎」
スクイの言葉に黎芽は吐き捨てる様にボソリと呟いた。こんな死人が出ても可笑しくない光景を見て職員は何もしないと言い捨てたのだ。
つまり常に囚徒達の乱戦に怯えながら生活しなければならない事を意味していた。
ISのシールドバリアがあるならば兎も角、拡張領域以外機能しない状態で巻き込まれれば一溜りも無い。
「……彼女達は暫く暴れれば気が済むでしょう。収監棟へと戻りましょう」
此の儘、此処に居ては巻き込まれるだけ、スクイは踵を返して大食堂を後にする。IS学園の生徒達も此処に居ては身が危険だと本能的に察したのかその後に続く様に大食堂を後にするのだった。