「ボス。全員、無事に
五稜監獄学院、某所。
其処で和奏は目の前の少女からそう報告を受けていた。
銀髪の少女だ。洋服よりも和服で着流しにした侍みたいな雰囲気と張り詰めた剣呑な雰囲気が同居している。目付きも悪く不良少女を思わせた。見た目も相俟ってヤクザと言ったアングラな世界に居そうな娘さんだった。
名は、霧嶌 錯矢と言う。
IS学園の生徒達を迎えに行った黒服のエージェントに扮していた囚徒だ。既にその役目は終えて囚人服姿となっていた。
「そうかい」
和奏は目の前の彼女からボスと呼ばれる謂れは無いが、『ストラトス・デザイア』でも代表を
第一に日頃から学院長の無茶振りを投げつけられているから今更、文句を言うつもりは無くなった。
「
「脳筋思考で色仕掛けも出来ない三流未満暗部の更識が?」
錯矢が日本政府お抱えの暗部である更識家に対する評価はボロクソの一言であった。
今回の『学年留学』の件。学院長と学園長の密談で決まった事であり、それ以外の者達が関与する隙は無かった。
IS学園の生徒会長はこの事態を不審に思い独自に行動するのは分かり切っていた。仮に該当者以外の関与を遮断しても独断と言う形で何かと理由を付けて捩じ込んだり不法潜入しようとするのは予想出来る事だった。
「…………その様子だとしなかったみたいだな」
「屋根の上にしがみつくなり、後方から追ってくると思っていたんだがな……」
暗部であり何から何まで謎の存在である五稜監獄学院に探りを入れようとするのは当然の行動だ。それをしないと言う事は暗部として問題アリだろう。
「何かしら策謀を巡らしているのやも知れんな」
「……へぇ、三流の癖に生意気な小細工だ。何もしないのならばそれで良いだろう?」
「ああ……来るのであれば、五稜監獄学院風の歓迎をしてやれば良いさ」
「違いない。それで、アイツらは
「そんなの俺が知る訳無いだろ。女尊男卑でストレス耐性が低下しているんだ。音を上げる奴も出てくるかもな」
「くくくっ……。ボスも性格が悪いな。仕掛ける気マンマンだろ?」
「
その後の説明は少々、要約させて頂く。
と言うのもこの手の説明は大体、長いからだ。脱線や挑発、或いは軽蔑が混ざり理解を遠ざける。その為、掻い摘んで並べると次の様になる。
一言で言えば自由だった。
『監獄』であり『学院』でもあるが、その実……強制的な時間拘束は殆ど無いと言って良かった。日中の行動は囚徒達それぞれに全て任されている。
授業に関しても参加は自由。授業は完全選択制で好きな授業を選んで参加して構わない大学の講義の様な構図だ。
更にサボりたかったらサボっても良いとの事。何なら今の今まで授業を1回も受けた事の無い囚徒も居る程だし、平日だろうが丸一日遊び呆けても一切、咎められない。
そして、『監獄』である以上、刑務作業と呼ばれる『仕事』が存在している。
学院内に搬入される物資の仕分け作業やパソコンと言った電子機器による作業、更には大食堂での調理、他にも雑事と言った五稜監獄学院を運営する為の『仕事』は全て囚徒達に任せられているのだ。
当然、『仕事』である為に報酬が存在している。
五稜監獄学院では日本銀行券と言った外の通貨ではなく『クレジットポイント(CP)』と呼ばれるモノが学院内にて通用する電子マネー通貨と使われている。それらは囚徒達に嵌められているIS抑制の為の首輪にて管理されている。
CPは授業への出席や刑務作業への参加で貯める事が出来る。授業への出席よりも刑務作業の方がより多くのCPを得られる。
そのCPを使い大食堂での食事や独房の施設の向上等にも使える。主に商業棟での買物にCPが使われており、囚徒同士でのCPの譲渡も認められている。
IS学園のIS学科リモート授業に関しては五稜監獄学院は関与する余地は無い。
その理由はIS学園の授業に部外者が認知するのは大変宜しくないとの事で、校舎棟の上階のIS学科リモート授業に使われる教室周辺一帯は五稜監獄学院の囚徒及び職員は立ち入り禁止となるとの事。
そして、そのリモート授業は五稜監獄学院の本来の内訳ではない為にIS学科のリモート授業に参加してもCPの支給は無いとの事。
最後に各自の目の前に空間投影ウィンドウが展開され独房の番号が表示される。その場所が今日から各自が寝泊まりする独房だった。
以上が初日における五稜監獄学院での生活の流れの説明であった。シスターであるスクイは説明を終えた後、『後の細かい事は他の囚徒達に尋ねてください』と言い残してIS学園の生徒達の前から姿を消した。
「……」
スクイが姿を消した後、収監棟の大廊下に放置されたIS学園の生徒達は暫し惚けていた。説明はされたがまだ理解が追いついていない。理解出来た者達からバラバラに行動を始めて行く。
「何と言うか、かなり杜撰な管理体制だな……」
「本物の監獄みたいに何から何まで自由を制限されるよりか遥かにマシやろ……」
3組の生徒達は自然と1箇所に集まっていた。流石に大廊下のど真ん中に集まるのは気が引けた。周辺に見える独房は誰も収容されてはいない為に、気にする必要は無いのだが……何となく壁際と言うか誰も居ない独房前に移動していた。
「……コレはかなりの選択になるよね」
「名刀さん。気付いたの?」
「うん。自由に行動出来ると言う事は
日中の行動は全て囚徒各自に委ねられている。学院内では基本的に自由に行動出来る事を意味しているが、裏を返せば時間配分を考えなければならないと言う意味も含まれている。
基本的に大別すれば4つの行動に分かれる。
学力を高める為に授業の受講。
必須科目であるIS学科のリモート授業。
学院内通貨であるCPを得る為に刑務作業に従事。
後は休息的な意味での休む日。
特に自分達、IS学園の生徒達は『学年留学』が終了して直ぐに2学期の期末考査が待っている事の兼ね合いもあり、偏る訳には行かないのだ。
「長期的に見て、自分達の行動でダイレクトに未来が決まる。
そう考えるとこの監獄学院のやり方はかなりシビアだと思うよ。個人の行動が自由である分、
芹那が五稜監獄学院のやり方をそう評した。
他の学校でもIS学園でもそうだが、基本的に1日の流れは決まっている。
授業、休憩時間、訓練や食事の時間帯はカリキュラムとして定められているのだが、此処、五稜監獄学院はグループ分けとしての決まった流れが無い。全員バラバラに行動している。
「うん。学力を優先すれば、この学院内の生活水準は最低ライン……」
名刀は誰も居ない独房を見る。其処は独房らしくシーツが乗せられたベッドと机と椅子以外、何も無い。殺風景な光景が広がっている。
一般的に考えて女子高生としてはこんな殺風景+牢獄暮らしなんてモノは耐えられないだろう。だが、期末試験の事を考えると勉学を疎かにする訳には行かない。
「かと言ってCPやっけか?それで独房とか生活の質を高めようとしたら学力の遅れが生じる……」
IS学園の豪華な寮部屋と打って変わり3ヶ月は此処で暮らすのだ。その生活に慣れた以上、其処までの水準に合わせたいと考える者も一定数現れる。その為、この問題も疎かには出来ないだろう。
「IS学園のIS関連の業界を目指す者として参加するであろうIS学科のリモート授業にはCPは支給されません……。この環境で其方に全て注ぎ込める者が居るかどうか……」
IS学園のリモート授業は本来の学院の内訳に入っていない為にCP支給は無いと言う事。つまり、食事も無料の分であり独房の設備も初期のままと言う事を享受しなければならない。
そうなると他人に嫉妬したくなる心理が働いてくるのだ。
「……正に『自由』である分、常に選択を迫られる訳ですね。ある程度レールが敷かれている従来の学園生活とは打って変わって此方には示されたレールも道もありません」
「それに加えて自分の行動で『目に見える状態』がより見え易い状態になるよ。収監棟は反対側の独房は良く見える……。その中で充実した設備がある独房が見えると妬みたくなるかも知れないよ」
「……コレは『臨島学校』よりもエグいかも知れんな……‼︎ 然も先の大食堂での一件から戦争上等の環境だ。何が起こっても波乱しか予想出来んぞ……‼︎」
一言で『自由』と言ってもその実、かなり残酷な環境だ。何せ何も保証はされないからだ。
この事実に気付いた者は果たして何人居る事だろうか。
「時間配分を良く考えないと……。気の迷いや誘惑に負けるとズルズルと転がり落ちちゃう事になる」
「……せやな。今日は何かいいや、ってノリやと明日もそんなノリになりかねんわ。此処は1つ、皆同じスケジュールで決めちまう方がええんちゃう?」
「脳筋の癖に頭が回るな。自制が効くならば兎も角、今の心境状態では危うい。暫くはその方針で進めた方が良さそうだ」
1人だとズタズタになりかねない。3組は持ち前の団結力で一先ず、1週間のスケジュールを決めて実行に移すべく相談を始めた。
その頃、大食堂での戦争に闖入したラウラはと言うと……。
「…………」
それはもう良い打撃を与えまくられて派手に破壊された大食堂。天井やら壁やら床は銃痕やら斬撃の後やら凹んでいたりと戦争の生々しい傷跡が未だに残っている。
椅子やらソファやテーブルは原型を留めれない程に穴だらけだったり、その役目を本来の用途とは全く違う行末にひっそりと息を引き取っていたりともう廃棄するしか無い状態のモノばかりだった。
「木片は其方よ。ソファの綿とかの残骸は彼方に纏めておいて〜」
「皿とか割っちゃったから、後でメイド長に怒られちゃいますよ〜」
「フローリングの発注しておいて。何時もの奴で良いわ。え?やり過ぎて断られそう?じゃあ、Dr.レーキュに頼めば何とかなるって」
「あ、あの‼︎ 誰か逃げ出したデザートの方角とか知りませんか⁉︎」
「アレ? 私の肝臓知らない⁉︎」
そして暴れに暴れたメイド服姿の囚徒達は先程までの乱闘は何処へやら、自分達が破壊した大食堂の清掃を急ピッチで進めていた。この惨状をメイド長に見つかれば、『お仕置き』が待っているのは明白だからだ。
その光景をラウラは呆然と言った形で眺めていた。
「……ふむ。どうしてこうなったのだ?」
銀色の髪の上にはホワイトブリム。白と黒のコントラストが魅力的なエプロンドレスで裾は銀色の刺繍糸が優雅に靡いており、作業用と言うには重装備に思える。眼帯も相俟ってコレジャナイ感が凄い。いや、此処に居る連中は全員、頭のネジを落としているので今更か。
ラウラは俗に言うクラシカルスタイルのメイド服をその身に包んでいた。いや、何で?
銃弾が飛び交う中、壊れた椅子やら机の残骸を引っ掴んでは武器として使いメイド達の戦いに挑んだラウラ。
しかし、仮にも軍人でもあるラウラと雖もメイド服に身を包んだ囚徒達は並の兵士以上の強さだと断言せざるを得なかった。
あれほどアホみたいに銃弾をばら撒いておきながら、彼女達は中々被弾しなかったのだ。強いてあげれば近接武器の斬り合いによって身体を抉る傷を作った時くらいだった。
ラウラ自身、何人かのメイドに攻撃を仕掛けたが躱されてカウンターも入れられた挙句に手榴弾を眼前で起爆されたりとかなりの手練れでラウラは思わず虎の子を使わざるを得なかった程。
暫く、メイド達の内乱染みた戦闘が続いたが突如として彼女達は戦闘行為を止めて速やかに清掃を始めたのだ。余りにも鮮やかな切り替えの速さに思わずラウラは困惑した。
『貴方、IS学園の人なのに中々やるじゃない』
そして気が付けば何故かメイド達に気に入られてしまった。
大食堂の内乱で囚人服は汚れたり爆風やら斬撃やらを受けては彼方此方が破損してしまった為に換えの服としてメイド服を着せられ今に至っている。
「……うむ。郷に入っては郷に従えとクラリッサも言っていたしな」
ラウラは取り敢えず、変に考えるのは止めた。そして、自分も乱闘に参加したのだから後始末するのは当然だと考えて大食堂の清掃に加わるのだった。
相変わらずラウラはフリーダムに行動中。