「……五稜監獄学院の男性囚徒? 和奏君の事?」
方針が決まったので早速行動に移した一夏一行はまず、収監棟の隣に位置している校舎棟で情報を集める事にした。
何はともあれ、学院側の囚徒に接触しなければ何も始まらない。時間にして午後の授業に一区切りが付いたのか、教室の一角から出て来た囚人服の囚徒達の1人に声を掛けた。幸いにも此方の質問に快く答えてくれた。
「和奏?」
「うん。五稜監獄学院で男性と言えば宵咲 和奏君しか居ないから」
IS学園では一夏しか男子生徒が居ない様に、五稜監獄学院では彼、和奏しか男子生徒が居ないらしい。似た様な境遇故に一夏はやはりシンパシーを感じた。
「実はその方に訊ねたい事がありまして、その人は普段何処にいらっしゃるのですか?」
セシリアが単刀直入に要件を切り出した。しかし、彼女はうーんと言った悩んだ様な表情を見せる。
「あー……和奏君ってワーカーホリックでかなり多忙なの。学院内じゃ見かける事自体、稀なんだよね」
ワーカーホリックとの事。どうも時間配分は『仕事』に比重を置いている人物の様だ。
そう言えば『臨島学校』で風呂で思わず出会した時、『こう言う時じゃないと酒が飲めない』と言っていた気がした。未成年なのに酒はどうかと思っていたが……思えば、その時以外は休めないと言う意味があったのかも知れない。
彼女は更に続ける。
「……それから彼は夜型なんだよね」
「夜型? 夜型って言ったら日中は寝て夜になったら活動する昼夜が逆転している人?」
「うん。そんな感じ。五稜監獄学院には生活が昼夜逆転している人も多いよ。だから夜中でも授業や刑務作業の予定が掲示されているの」
午前の部と午後の部とは言うが、夜間にも同様の形式として成立しているらしい。
そして、和奏は所謂、生活リズムが昼夜逆転している夜型人間だと言う。この情報が無ければ、日中に探し回って時間だけが浪費していたかも知れない。
「成程……。流石に寝ている時に叩き起こされちゃ機嫌が悪くさせちゃうわね」
誰だって寝ている時に叩き起こされては機嫌を損ねる。それくらい自分達でも分かる。
「……後、普段何処に居るかって言われてもね。彼、何時も多忙なイメージだから何処にでも行くって感じだろうね」
1箇所に留まらないと言った所か。そうなってくると、探すのも大変と言える。名前は分かったは良いのだが、何処に居るのかまでは突き止められなかった。
「しかし、名前だけでも分かったのは収穫だろうな」
「けど、何処にでも行くって話になるとこの学院内を探すのだけでも骨が折れそうよ?」
五稜監獄学院は大食堂を中心に円状に広がる構図となっている。それに上の階層や下の階層もあるとなれば、歩き回って探すのは些か無謀な気がして来る。
「此処は二手に分かれて探した方が宜しいでしょう。幸い、名前が分かっていますし学院内で1人だけの男性となれば皆さんご存知の筈ですから」
「OK。固まって探すよりはマシよね。少なくとも知っていると言うよりも親しい間柄の奴が見つかればより楽よ。で? どう分かれるの?」
揉めそうな気がしたのでじゃんけんで決める事となり結果、一夏とセシリア、鈴音と箒と言う組み合わせとなった。
「くっ、あの時にグーを出していれば……」
箒は悔しがっていた。その理由を一夏は分からなかった。二手に分かれて、行動を再開した。箒達とは午後7時頃に収監棟で合流して得た情報を交換する運びとなった。
「では、一夏さん。行きましょう。今日中に見つかれば宜しいのですが……」
「でも、何処から探すべきなんだ?」
「私に聞かないでくださいまし。私達の中で、一夏さんだけがその人と会話した事があるのでしょう?」
「そりゃそうだけどさ……」
校舎棟を抜けて大食堂近くにまで来た。
最初は此処でメイド服を纏った囚徒達による紛争染みた内乱が勃発していたが、今となってはその喧騒は影も形も無く、綺麗に清掃されて本来の姿だと言わんばかりの光景が広がっていた。あの時は緊迫しており余裕が無かったが大食堂は円形をしており壁を挟んで回廊の形で大きな廊下がぐるりと囲んでいる様だ。
構造からして別の大廊下からまた別の校舎棟、そして収監棟へ続いているのだろう。
「……さ、先程までの荒れ具合とは一変してしまっていますわね」
「そ、そうだな……」
大食堂の入り口から中が見えたが、昼食の時間帯は過ぎている為に利用者は居ない様だ。かと言って先の一件から中に入る勇気は出てこない。首輪によりISの使用が制限されており、また唐突に大食堂で銃撃戦の類が発生すれば下手をすれば死にかねない。
「……その和奏って奴は夜型だから夜に出直した方が良いんじゃないのか?」
「一夏さん。夜更かしは肌の天敵ですのよ?」
そう言われては閉口するしか無い。やはり女性にとっては肌関係の話題は禁句なのかも知れない。
「……あんれ〜? こりゃ随分と
その時、2人の後ろから関西弁の様な口調の声が聞こえて来た。思わず後ろを振り向くと、其処には小柄な体格の囚徒が立っていた。
セシリアと同じ金色の髪だった。サラサラな髪を2箇所で束ね鈴音みたいにツインテールで纏めている。そして、服装は制服らしく囚人服をその身に包んでいた。
「えっと、貴方は……?」
「ウチか? ウチは観音寺 乙音やで。まぁ一言で言えばこの五稜監獄学院内で商売しとる商人って奴や。CPと引き換えにウチが仕入れたモンと取引しとるんや」
CP。その説明は既に聞いている。この五稜監獄学院内で通用する通貨だ。それを対価に色々なモノを彼女から買えるとの事だ。よもや囚徒自身が商売をしているとは思わなかった。
「仕入れるって……?」
「おっと其処は企業秘密や。聞けば答えてくれるなんて餓鬼の思想やで〜」
明らかに年下そうな彼女から餓鬼扱いされてしまった。
「具体的には何を売っているのでしょうか?」
一夏の馬鹿な質問を他所にセシリアは話を進める。
「商業棟には行ったか? 彼処にゃCPで色々と取引出来っけど、ウチは其方に無いモンを優先的に仕入れるんや。家具と言った調度品やら嗜好品もあんで?」
「いや、でも……手ぶらに見えるけど」
「お前さん、アホやなぁ? 『遊獄館』でウチら見たいな囚人服を着た嬢ちゃんらを見とるやろ? それに拡張領域がありゃあ、嵩張るモンも纏めて持ち運べるやろ。そんな事も分からへんの?」
乙音は簡単に言ってくれるが、本来拡張領域に取り込めるモノはISコアの好みで決まるモノなのだが……彼女達にはその常識が無いらしい。
「ぐ……っ」
「……でしたら情報も取り扱っていますの?」
「大将……和奏はんの滞在場所か?」
セシリアの言葉に乙音は言い当てた。何故、既に知っているのかは分からないが話が早いと言える。
「! そう、それだ‼︎ あの人、何処に居るんだ⁉︎」
「随分と食い付くやないか。せやけど、タダでは教えられへんなぁ〜」
「ええっ⁉︎」
乙音の返答に一夏は驚くがセシリアは納得の表情を浮かべた。乙音は商人だと名乗った、つまり『情報』もまた商品の一種であると言う事だ。
「『情報』もまた商品や。さてと、『情報』が欲しいんやろ?」
「……そうしたいのは山々なのですが、私達はまだ来たばかりですのでCPは持ち合わせていませんわ」
まだ初日。この時点ではまだ貯める事すら出来ていない。
「アッハハハ‼︎ そないな事分かっとるで、CP貯めて出直して
分かってて声を掛けて来たのか。何とも性格が悪い……。取り敢えず有力な情報を得るにはCPを貯めなければならない様だ。
「授業よりも刑務作業の方が稼げるってのは、もう知っとるやろ? 人気のある刑務作業は先着順の取り合いやから気ぃつけた方がええで。
何せ、五稜監獄学院の囚徒もCP目当てに参加するんやからな」
刑務作業によって支給されるCPにはバラつきがあると言う。簡単な内容だと安く、難しい内容だと高くなる傾向があるらしい。その辺は外の職業絡みの給料と同じ概念の様だ。
「げっ、やっぱそうなるよな……。話せば譲ってくれたりしないかな」
「止めとき。五稜監獄学院の半数以上が人の話を聞かへんよ。口より手が先に出るし……下手したら銃撃戦がその場で勃発すんで」
そう言われると大食堂での意味不明な内乱もその結果なのだろう。然も、学院側は銃撃戦が起ころうが仲裁に入る気は全くない。
今の自分達の状態で銃撃戦とか巻き込まれれば本当に死ねる可能性が出てくる。やはり、最低でもシールドバリアが維持出来る状態じゃないと心許ない。
「おっとと、向こう側の収監棟に商売しに行くんやった。CP貯めたらウチを探してな。ほなな〜」
乙音はそう言い残してそそくさと2人の前から立ち去って行った。
「取り敢えずは最有力な情報候補を見つけたのは大きな前進と言えますわね」
「あ、ああ。けど、その為にはCPを貯めなきゃ行けないのか……」
IS学園の時の時点でISの訓練に学業でも一杯一杯だと言うのに、其処にCPを貯める為に刑務作業も追加とあっては時間が幾らあっても足りないだろう。基本学科にはCPは支給されるが、IS学科のリモートには支給はされない。痒い所に手が届かない歯痒さ。
「仕方ありませんわ。一先ず問題を1つずつ解決していきましょう。1度に複数同時に解決するのは難しいんですもの」
「そうだよなぁ……。どっかでふらっと和奏が現れてくれたら1番楽なんだが……」
「それが1番ですけれど、本人の予定が分からない以上、文句を言っても仕方ありませんわ」
一夏とセシリアはこの場に留まっても仕方ないし、有力な情報を得られたので一足先に自分達に割り当てられた独房がある収監棟へと戻る事にした。
「ご主人様‼︎ 新作の日替りメニューを考えたけど、どう⁉︎」
「んまぁ、味は悪くないな」
同時刻、大食堂(一夏達から見て丁度、厨房区域を挟んで反対側)の席の一角にて和奏はメイド服を纏った囚徒の1人から無料で提供する日替りメニューの品評を頼まれて実食していた。
「それよりも、小夜ちゃんが騒いでいたが……」
「えーと、あの子が作っていたデザートが逃げちゃって……」
「毎度毎度思うが、アレはもはや料理じゃなくて錬金術じゃね? 何を間違えたらああなるんだろうか……」
「あ、あはは……」
「……まぁ、刑務作業で追加しておけば良いだろ。暴れ足りない馬鹿や身の程知らずの馬鹿が勝手にやるだろ」
「……大丈夫なの? 普通に考えたら死人が出ると思うけど……」
「既に手は打っている。仮にも『商品』候補なんだ。此方の都合で欠品にするのは全体的に見て損失に繋がるからな」
逃げたデザートは?(同票以下略)
-
インドゥルジェンス
-
インサニティ
-
クレイヴ