『織斑さん。貴方……まだ
「は、はぁ⁉︎ ぐわぁ⁉︎」
神楽からの突然のセクハラ発言を投げ付けられ一夏は思わず吹き出した瞬間に、強烈な衝撃が襲いかかった。受けた本人も理解が追い付かずその光景を見ている者達にも何が起きたのか理解できなかった。理解出来るのは神楽本人だけ。
何故なら、客観的に見て一夏が見えないナニカに吹き飛ばされたかの様に視界に映るからである。簪自身も、この試合直前に似た様な体験をした。
——男の人相手にソレ、言っちゃう⁉︎
アリーナの外周上をぐるりと囲む形で観客席が並んでいる。その一角にて簪は1人、神楽と一夏の試合を見守って居たのだが、唐突にそんなセクハラ発言が公開通信による音声が観客席中に流されたのだ。いきなりあり得ない言葉に唖然としたり思いもよらぬ情報を得たとして歓喜する生徒達が散見されていた。
「織斑君って童貞なんだ‼︎」
「と言う事は初めてっ事?」
「面白い情報ゲット‼︎」
IS学園の生徒達は男を見た事が無いのか意外と脳内はピンク色らしい。
『……い、いきなり何だよ⁉︎』
開幕早々に先手を取られ再び地面に墜落した一夏。いきなりのセクハラ発言を受けて非難するが神楽は悠然と浮いて柔らかい微笑みを浮かべるだけだった。
『……誰も彼もが正々堂々としている訳ではありませんわ。凡ゆる手札を駆使して勝ちに行く方も居られます。人はそれを戦術、戦略と呼びますわ』
相手の隙を突くと言うのは戦闘においても試合においても当然の帰路。そして、隙を作る事もまた常套手段の1つでもあった。
『……そして、この通り』
『な、それは⁉︎』
——いつの間に……全く見えなかった。
神楽はその右手には一夏が振るっていた刀剣、雪平弐型が握られていた。全く見えない一瞬の出来事の間に神楽は一夏から唯一の武装を奪い取ったのだ。
『お、俺の雪平弐型を⁉︎』
『後出しならば先行試合の両者の動きを見る事が出来ます。動き、武装、癖……その全てに攻略のヒントがあるのです』
神楽はそう告げると構え直す様に雪平弐型を振るい青白く煌めく光の刃を成す『零落白夜』を一瞬だけ展開し収束させた。一瞬なのは『零落白夜』は自身のシールドエネルギーを著しく消耗させる諸刃の剣であると知っているから。
——あの一瞬で吹き飛ばすと同時に武装も奪うなんて……‼︎ でも……どうして、神楽は
本当に一瞬の出来事。でも解せない事が1つある。ISに搭載される武装、元より専用機は登録された当人しか使えない様に紐付けされている。
所謂、鹵獲防止(ISの心臓たるISコア其の物を奪取されれば無意味だが)のプログラムが組まれている。
詰まる所、白式に搭載されている雪平弐型は搭乗者である一夏以外が使おうとすると弾かれて使用出来ないと言う意味である。だが、眼前ではそれを嘲笑う様に神楽が雪平弐型を手に取り剰え単一仕様能力に分類される『零落白夜』を一瞬だけ使って見せた。自身でISを組み立てようとしている簪だからこそ、その異様な光景を理解出来た。恐らくこの試合を見に来ている専用機持ちや一部の整備課の生徒も気付いているだろう。
『くっ……返せ‼︎ 俺の雪平弐型を‼︎』
一夏の纏う白式。武装はなんと雪平弐型のみ。その武器を失えば何も出来ない事を意味している。理由は白式の拡張領域の許容容量を雪平弐型が全て占有するほどに重いコストを有しているからだった。
『なら、追いついて見せて下さいまし』
一夏はスラスターを蒸し地表から飛び立ち神楽へと接近するも神楽は凄まじい勢いで急加速し一夏の脇を一瞬で通り過ぎて行く。慣性、重力、音圧を置き去りにして。残されたのは踵付近からの光の粒子の筋道のみ。それすらも少しの間しか残されず霧散して消える。
「は、速いよ⁉︎ 目で追いつけない⁉︎」
「参考書にあった瞬時加速⁉︎ やっぱり代表候補生なら誰でも出来るモノなのかな……」
「で、でもアレって……一直線しか出来ない筈じゃ?」
武装を奪い返さないと話にならない一夏。故にその後を必死の思いで追う。しかし、乗り始めたばかりでまだ操縦もままならない状態で自由気ままに凄まじい速度で飛び回る神楽に対して追い付くは愚か、360度、鮮明に見えるハイパーセンサーでもってしても所詮は人間の脳の認知が前提である以上、認知度を超過する光景は捉え切る事が出来ない。
『く、くそ⁉︎』
2次元では無く、空中と言う事もあり3次元の不規則かつ乱れた動き。旋回、更には空中を蹴りキックターン方向転換、急降下から地面スレスレに飛行してから急上昇してから宙返り……それらを超高速で動きながら一夏を翻弄し、すれ違い様に一夏から奪った雪平弐型で斬撃を見舞い、着実にシールドバリアを消耗させて行く。
神楽の気紛れな突風の様なその動きにより風圧が乱れ舞い、地表の砂塵が巻き上がり宛ら視界をはばむ砂嵐の如き様相を見せ始める。
——……そうか、神楽のISは……
人間が空を飛ぶ……きっとこう言う光景を指すんだろうな、と簪は思っていた。でも、人間は陸上で生活する生物、空を飛ぶ為の器官は持っていない……外部の機械や技術に頼るしか無い。その為にも色々なモノを搭載しなければ飛べない。それらを極限にまで削ったのが目の前の神楽なのだろう。
「四十院さん、凄い……‼︎」
「まるで、舞い踊ってるみたい」
「……風が、アリーナの砂利を巻き上げている……‼︎」
「コレが、本当にISなの……⁉︎」
その光景、正しく風に舞う塵を侍らす神楽の如く。巻き上げられた砂塵の粒が光の粒子に当てられて煌めき蒼穹の下で宇宙の星々の如き様相を魅せている。
その光景に観客席の今年の新入生達は魅入られるかの様に歓声を上げていた。専用機持ち同士の試合……。蓋を開ければとんでもない光景が眼前を支配している。それは本当に見た事も無い光景だった。
——少々燥ぎ過ぎましたわね。まぁ、素人相手でも本気でやると決めたので許容範囲内ですわ。無論、それが当然です。
四方八方、縦横無尽の如き動きで一夏の動きを完全に掌握した神楽。こうなれば完全なるワンサイドゲームに至っていた。速度、制御において神楽の方が圧倒的に上回っている。
砂塵が舞う中、神楽は一旦停止し先程から一方的に斬撃を打ち込まれていた一夏が疲弊した様子で対峙する。
今がチャンスで突っ込むべきなのだが、それに引っ掛かってあっさり躱された挙句、アリーナと観客席の間に展開されているエネルギーバリアに激突する事を繰り返していた。流石に10回も繰り返せば学習くらいはする。
「……ふふ、織斑さん。少し気になりませんか?」
「な、何にだよ?」
一夏は警戒している。完全にこの試合の動きの主導権は神楽が握っている。言葉1つ、動き1つで先手を打たれてしまう。今度はどんなセクハラ発言が飛び出して来る事か分かったモノでは無い。
「……
神楽はそう告げると同時に手に持っていた雪平弐型の『零落白夜』が展開されその状態で凄まじい勢いで急上昇。其の儘、アリーナ全体を覆う形でドーム状に展開されているエネルギーバリアを一閃し、消滅させた。
『零落白夜』はエネルギー無効化能力。その力はシールドバリアを有するIS相手には絶対的なアンチエネルギー能力、故に一撃で絶対防御すらも貫通する必殺能力。エネルギーであるのならばアリーナ全体を覆うバリアも破壊出来る。
「『『⁉︎』』」
「
神楽はそう宣言するや否や、更に急上昇し蒼穹の大空空高くに飛翔して行く。それこそ成層圏へと向かって。
そして、雪平弐型を持った状態で。
「ま、待てッ‼︎」
一夏も武装を奪われっぱなしの為に神楽に負けじと急上昇しその後を追う。
『待て‼︎ 貴様ら待たんかッ‼︎ バリアを破壊して外に行くなァァァァァァァ‼︎』
管制塔の千冬の声も届かず、2人は成層圏まで飛翔して行くのだった。
R-18版でやるべき事じゃ無いけど、『無限の成層圏』だと言うなら成層圏を舞台に戦闘しても良いんじゃね?