※この作品はR-18です。

ストラトス・デザイア   作:夢現図書館

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五稜監獄学院 Ⅷ

 

 

「お遊びは其処までだ。ガキンチョ共」

 

 

 その時、男性の声が頭上から降りて来た。

 

「……如何してこのタイミングで邪魔してくるのかな? 和奏」

 

 同時に対峙する自分達を分断する形で降って来た壁の残骸の向こう側からシャルロットの怨みがましい声が聞こえて来る。

 

「……セシリア、彼処よ‼︎」

 

「いつの間に……?」

 

 鈴音が先に見つけセシリアも一夏と箒もその声に釣られて視線を動かす。

 上階にあるガラス手摺の上、其処に腰掛けて此方を見下ろしている男性の姿を捉えた。

 灰色のローブを羽織り囚人服を身に纏っている。その両手首には枷が嵌っていると言う違いがあったが概ねデザイン性はこの学院の囚人服に通ずる。

 

「……アイツだ」

 

「……アイツが宵咲 和奏か」

 

 一夏はその顔に見覚えがあった。間違いなく臨島学校でシャルロットの件で一時言葉を交わした相手であると。最も、この五稜監獄学院で男性は彼、和奏以外居ないのだが。

 

「高々、半殺しにする程度で止めに入るの?大食堂でのメイド集団の内乱は止めない癖に」

 

 壁で隔てられ此方側ではシャルロットの姿は見えないが位置的に和奏からは双方の姿は見えるだろう。シャルロットが横槍を入れた事に文句を述べる。

 

「普通なら止めないが……まだ上で揉めてんだよ。現段階で男性操縦者を派手に傷物にされちゃあ困るって事だ」

 

 和奏は男性操縦者が傷物にされては困るとシャルロットに告げる。その理由は勿論、IS学園が一夏を売却する際の金額に響くからだろう。

 

 五稜監獄学院に滞在すると言う条件上、確実に内乱、銃撃戦、大乱闘に巻き込まれるのは必定……両手両足の何れかが吹っ飛ぶ事も容易に想像できる。

 なればこそ『防腐処理』と言いたいのだが身体の主要成分が変化する都合上、男性操縦者のゲノム構成が変容する可能性が否定出来ず、尚且つその状態のままで外に出すと後々別の問題へと派生しかねない。

 その問題を解決するべく和奏とユリエ、医療関係の囚徒達は今日に至るまで徹夜上等で問題解決に努め、IS学園の生徒達限定で3ヶ月程で『防腐処理』が抜け切る状態になる様に処理体制を整えた。その為、和奏はそろそろ寝たい。

 

「ふーん……。じゃあ、判断次第で一層の事、バラバラにして良いの? 内臓を抉り出しても良いの?」

 

 かなり物騒な質問だ。完全にシャルロットは一夏を半殺しにする気だった。

 

「死なない程度に好きにしろ」

 

 シャルロットは返事もせずに踵を返して反対側の方向へと歩いて去っていく。壁により割り落とされた腕は量子変換で光の粒へと化して消滅した。

 

「さてと……一先ずは男性操縦者以外は初めましてと言っておくかね」

 

 其処で、和奏は視線を一夏達の方へと向ける。状況は少し前から見ていた。具体的にはシャルロットが2発目の弾を撃つ時だ。暫し静観していたが、ヤバそうに思えたので止めた。

 

「……貴方が宵咲 和奏さんですの?」

 

 セシリアが視線を上げて見下ろす和奏に確認を取った。

 

「おや、知っていたか。ああ、その通りだ。男性操縦者とは2度と会う事は無いとは思ってはいたのだが……よもやこの様な形で再び顔を合わせるとは俺も予想外だったな」

 

 和奏としても今回の『学年留学』の件は後から聞かされたのだ。

 

「なぁ、1つ聞かせてくれ。なんで、シャルが此処に居るんだ?」

 

 撃たれた痛みからある程度、立ち直ったのか一夏が箒に支えられながら立ち上がり、和奏を見据えてそう質問を投げる。

 

「本人が言わなかったか? まぁ、単純に言えば俺が彼女に選択肢を提示して、彼女が選んだ結果だ」

 

 多少濁しつつ質問に答えた。何はともあれシャルロット自身が自分の意志で選択した。

 選択してこんなイカれた学院(セカイ)に身を委ねた。その決断に本人以外が横槍を入れる筋合いは無いだろう。

 

「だが、シャルはあんな性格じゃ無かった筈だ‼︎ あんないきなり銃とかノコギリを向けて来るような奴じゃなかった‼︎」

 

 一夏は変わり果てた(一夏視点)シャルロットの姿を見て和奏に問い正す。

 

「そりゃ、お前さんが彼女に恨まれるような真似をしたんじゃねぇの?」

 

 恨みの大小あれど、この学院だと引金が軽い傾向にある。特に女の恨み程、怖い物は無いしこんな環境に身を置いていたら1ヶ月程でバーサーカー化するだろう。

 

「そ、そんな事はしてねぇよ‼︎」

 

「……ホントーかしらねぇ。それよりも気になるんだけどさぁ、デュノアって男子だった筈だけど、何でアンタは『彼女』って呼んでるの?」

 

 一夏の態度を見て鈴音が白けた視線を向けつつ疑問に思った事を質問する。自分達の記憶では『シャルル・デュノア』は男性操縦者であった筈。しかし、和奏は彼女と呼んでいた。

 

「あん? ああ、そうか……。あんな不祥事、伏せられるわな。

 シャルル・デュノアってのは偽名でな本名はシャルロット・デュノア。言わば男装してIS学園に入学して男性操縦者の機体データを盗もうとしていたんだよ」

 

「……男装……。確かに男性としては身体が細かったですし声も高すぎでしたしね」

 

「アレを見て男と捲し立てる連中はどうかしていると思っていた気がするわ……」

 

 セシリアも鈴音も疑問には思っていたが口には出さない方針だったらしい。

 

「それで男性操縦者君は彼女を助けようと躍起になっていたんだよ。……IS学園は機密情報満載だろう? その最重要機密情報であろう専用ISの機体データを不正に持ち出そうとした奴をな」

 

「ッ‼︎」

 

 和奏は隠す必要が無いのでシャルロットの真実をバラした。既に存在を抹消され幽霊となった奴を殺す手段は無いからだ。

 

「お、お前ッ‼︎」

 

「と言ってもその情報はもはや意味は無い。

 彼女は全てを捨てる事を選んだ。デュノアと言う性も国家代表候補生、更には表のIS業界と言う彼女自身を蝕んでいた柵(しがらみ)を全て、自ら捨てた。

 本人としてもISに乗りたくないし男装もしたくなかったみたいだからな」

 

 可愛い服装は兎も角、静かな環境とは程遠い気がするのだが……まぁ、本人の心境をわざわざ突くのは野暮だろう。嫌なら既に銃なり鈍器なり片手に怒鳴り込んでくる筈だ。

 

「……話を紐解く限りアンタが間接的に助けたみたいな構図になっていない?」

 

「ISの機体データの不正採取。……スパイ行為としては重犯罪クラスですわ。そんな人を助ける理由は一体……?」

 

「俺はただ彼女、シャルロットに道を示しただけだ。後の必要な手続きは全部、学院長様がやってくれたからな。

 俺は学院長様の指示通りに動いただけに過ぎない。俺達、囚徒如きが学院長様のお考えを察する事は出来ねぇよ」

 

 此処でも多少、誤魔化しておく。と言っても内乱が起きている時点で……いや監獄と言う時点で訳アリだと思われているだろうが。

 

「……お前が……‼︎ お前がシャルをあんな風にしたのかッ⁉︎」

 

 その時、一夏が肩を震わせながら叫んだ。

 

「「「は?」」」

 

 その言葉に和奏のみならずセシリアと鈴音も間の抜けた声が出てしまった。何を根拠にそんな言葉が出てきたと言うのか?

 

「シャルはあんな事は言わない‼︎ 俺に対しても銃を向けて来たりもしない‼︎ お前がシャルをあんな冷酷な性格にしたのか⁉︎」

 

「そんな真似をする理由が無い」

 

 一夏の激情を和奏は柳の如く受け流す。

 

「嘘を吐くんじゃねぇ‼︎ お前が道を示したとか言ったな⁉︎ そもそも助けた風に言っているけど、結局は監獄送りじゃねぇか⁉︎ 巫山戯るなよ‼︎」

 

「…………」

 

「い、一夏さん。少し冷静になった方が……‼︎」

 

「話がややこしくなってきたわ……」

 

 止めるセシリア、嘆く鈴音。

 シャルロットの件は表向きには解決している。シャルロットの言動が可笑しく見えた件については一夏が憤りを感じている。

 

「男性操縦者。正直、君の言っている事が理解出来ない。何の根拠があってそんな荒唐無稽な言動が取れる? あんな風に? 俺から見れば彼女は自らああ言う性格に適応しただけだ」

 

 正直、和奏の個人的な意見で言えば一夏の言動は何も間違ってはいない。再会した人間がいきなり殺しに掛かってくるだなんて異常だと思える。学院側がナニカしたのでは?と言う考えが浮かぶのは自然な事だ。

 まぁ……『防腐処理』やら人権抹消やら表沙汰に出来ないような真似をしているのは肯定だが。

 

「お前こそ訳の分からねぇ事を言ってんじゃねぇよ‼︎」

 

「其処まで憤れる気力は凄いな。で、君は彼女の何なんだ?」

 

「仲間だ‼︎」

 

 即答だった。

 

「仲間だったら助けるのは当然だろ⁉︎ なのにお前は助けると見せかけて監獄送りにしやがった‼︎ 俺はお前を許さない‼︎」

 

「ほぅ?」

 

 その時、和奏の雰囲気が変わった気がした。

 

「お前なんか俺がぶっ倒してやるッ‼︎ そしてシャルを取り戻す‼︎ お前らなんかにシャルは任せておけねぇよ‼︎」

 

 もはや論点があらぬ方向にすっ飛んで行ってしまっている気がする。解決した事を掘り返した挙句に話が混雑化してしまって最終的に暴力で解決する流れになって来た。

 

「一夏。アンタ、状況分かってんの? 私達はこの首輪によってISの使用は制限されていると言うのに、その制限を緩和する為の交渉をしないと行けないの。その一手が彼なのよ⁉︎」

 

 一夏には『白式』と呼ばれる専用機を所持している。しかし、五稜監獄学院内では囚徒達全員が首輪により使用制限が掛けられている。

 その為、使用許可を得るには学院長か『議長』と呼ばれる者の許可を得なければならない。その『議長』や学院長に近く仲介役を担える人物が宵咲 和奏であると当たりを付けていた。その相手と対立関係を築いてしまえば後が大変な事になってしまう。

 

 一夏だけの問題ならば言い方は悪くなるが代表候補生の視点で言うと構わないのだが、現在の構図としては一夏+α(鈴音達、代表候補生)と言う形となって和奏には見えている筈。しかも一夏の言動は場合によっては学院側に喧嘩を売っている様にも映りかねない。

 此処で頓挫してしまえば詰む可能性が出て来る。

 

「どうやら話し合いも平行線のようだ。……良いぜ、その喧嘩を買ってやるよ。男性操縦者」

 

 一夏の宣言に和奏は応じた。応じてしまった。

 

 





 後、何回、インドゥルジェンスとインサニティを周回すりゃ良いんだ……。
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