その構図は何処かIS学園新学期初日のセシリアと一夏のやり取りを彷彿させた。
ただ、違うと言えば此処はIS学園ではなく五稜監獄学院だと言う事だ。
——やれやれ、シャルロットが男性操縦者を襲っているって話を聞いて止めに来たは良いんだが、まさか状況が全くの想定外の事態へと発展するとは思わなかった。
シャルロットを巡る一件。
和奏としてはシャルロットの問題は解決した。少なくとも本人が納得し、此処の生活を受け入れている。故に、過去の事を掘り返す必要は無い……なのだが、どうやら織斑 一夏は未だにその一件を引き摺っているようだった。
——……と言うかあの状況で男性操縦者の肩書だけで何か出来るとは思えなかったんだがな。
何が彼を突き動かしているんだ? 初恋の相手だったりするのか? だとするのならば彼処まで執着するのもまぁ、分からんでもないが、シャルロットからそんな話、1回も聞いていないな。
企業や国が絡んでいた一件。
一介の高校生がどうこう出来る問題を超越していた。いいや、もう過ぎた事を今更、論じても仕方ない。
今は目の前で噴出した問題に着手するべきだ。
「さて、俺をぶっ倒すと言ったな。お前さんが仕掛けて来たんだ。舞台設定くらいは従ってもらうぞ」
「お前が仕切るんじゃねぇよ‼︎」
コレは何を言っても噛み付いて来そうだが無視する。逐一、反応しても面倒な気がして来たからだ。
「明日の昼。校舎棟の上の階に大浴場がある。其処でやる。
「大浴場で、だと?」
その言葉に箒が疑問符を浮かべる。何故、其処でやるのか?
「1番最初に説明された筈だが? 過去にISを持ち出しての大乱闘が起きて半壊同然になったが故にISの使用は制限されたと。
水面がありゃあ多少は衝撃が和らげる事が出来るだろうと言う理由とある程度の広さがある場所が五稜監獄学院だと大浴場くらいしか無いのだよ。……男性操縦者らしくISで掛かって来るが良い。その時だけはIS使用の制限を緩和するように取り計らってやるよ」
「ッ‼︎」
構造上の理由であった。
そして生身での殴り合いでは無くISでの戦闘だとも告げる。
「やっぱりテメェもISを動かせるんじゃねぇか‼︎ あの時の話は全部嘘だったのかよ⁉︎」
一夏は和奏から『IS操縦者ではない』と答えた。周りの少女達が拡張領域を使っているし、この五稜監獄学院がIS関連の学科を有する特異的な学院である事から彼の話は嘘が織り交ぜられている可能性が出てきた。
「全部公開する必要が無いだけだ。それに……いいや、止めておこう。過ぎた話だ」
——これ以上、ややこしい展開をする必要は無い。
「何処までが本当だって言うんだよ……‼︎」
「これ以上は話しても埒が明かん。明日、大浴場で待っている。やる気があるのなら来るが良い」
「……に、逃げるなッ‼︎」
一夏の静止の声を無視して和奏はガラス手摺から降りて、其の儘校舎棟の方へと行ってしまった。
「クソッ……何なんだアイツは‼︎」
姿が見えなくなってから一夏は悪態を吐いた。
「一夏さん……。貴方と……そのデュノアさんの関係は又聞き故に詳細は分かりかねますが、如何して其処まで拘っているのですか?」
セシリアは事の発端であるシャルロットとの関係について問い掛ける。
「……一夏。男性操縦者でもあるアンタの機体のデータを盗みに来たって話が本当なら、ソレ大問題よ? まさか、そんな裏事情があったなんてね」
「ええ……政府か或いはデュノアさんの帰属先のデュノア社が主導かは分かりませんが、国際問題……軍法会議ものですわよ」
鈴音もセシリアもシャルロットの事情は知らない。臨島学校では一緒に行動していたが、臨島学校が終わった直後に急遽帰国した程度の話しか聞いていない。
「ち、違う‼︎ シャルは被害者だ‼︎」
「まぁ、その辺の審議は情報が無さ過ぎて判断出来ません。ただ……彼女がこの学院に在籍している。……と言う事は何らかの司法取引をしたのかも知れませんわね」
「ま、その場合は本来の所属元……彼女の場合、フランスとかには帰れないし、IS学園にも再び来る事は出来ないでしょーね」
「り、鈴⁉︎ それはどう言う意味だよ⁉︎」
「名前も変えて誰も知らない所で生活するって事なんでしょ。……其処に過去の自分を知っている奴が来たらそりゃ気不味いわよ。特にアンタみたいにズケズケとデリケートな所に踏み込む奴だと、ねぇ?」
「その話も嘘かも知れねぇじゃねぇか⁉︎」
「一夏さん、敢えて言いますわ。これ以上、彼女と関わるのは止めましょう」
「セシリア、どうしてだよ⁉︎」
「デュノアさん……。彼女がどう言う経緯でこの監獄学院に在籍する事になったのかは存じません。そして、その問題は公になっていない……この意味、分かりますか?」
「……えっと……?」
「一個人で出来る範疇を超えていますわ。この五稜監獄学院は想像以上の規模と権限を有しているのかも知れません。現に私達は此処に来るまで『五稜監獄学院』の存在を存じませんでした。つまり完全に存在其の物が極秘かつ機密扱いとなっています。……そもそも」
セシリアは一夏の脚、銃弾が貫かれた箇所に向けて視線を向ける。その箇所から小さな白い綿の様なモノが溢れている。
「……『この現象』は全くの未知です。一夏さん自身が特異体質で怪我した場合、こうなるのであればそれで収まりますが……」
「怪我した時は普通に血とか流れるわよね〜」
「うむ……こんな白い綿、初めて見たぞ?」
「それから先ほど、デュノアさんの腕を普通に切断され、同様に白い綿みたいなモノが溢れ出ました。……この時点で異常な現象を目の当たりにしています。コレが何を意味しているのかは分かりません。
他にも銃火器を用いての内乱を容認するなど常軌を逸する光景もありました」
「……な、何が言いたいんだよ。セシリア」
「一夏さんの知るデュノアさんと、今のデュノアさんは違うと言う事です。私は僅かしか見ていませんが彼女は今や五稜監獄学院の生徒、いえ囚徒でしょう」
「環境が変われば性格も変わるもんじゃない?」
「…………」
「……さて、この話題はこれ以上は不毛。差し当たり私達にとって難問が残されてしまいました」
「難問……?」
シャルロットの話題はコレにて打ち切る。幾ら論じても話は進まない。ただ、セシリアと鈴音としては次回もシャルロットが一夏に対して襲撃を掛けてくるようであれば代表候補生の立場として迎撃しなければならない。一夏が何を言おうとしても退けなければ自分達の首が無くなる。
「一夏さん。貴方がどう言う理由であれ、宵咲 和奏さんに喧嘩を売ってしまった事ですわ。あの状況で私が彼の立場ならば、一夏さんと鈴さん達を同時に敵と見做しますわ」
「明日の勝敗がどうであれ、今回の件で交渉するのが難しくなったのは事実ね……。『コイツら破壊行動するんじゃね?』と思われても仕方ないわ」
当初の目的であった『ISの使用制限の緩和』の交渉の為に『議長』に取り継いで貰えそうな和奏との交渉が難しくなってしまったのだ。
公私を混同する人柄かは分からないが囚徒自身が管理運営しているしワーカーホリック気味と言う話も上がっている以上、彼も何かしらの要職に付いている可能性もある。そもそも、『臨島学校』でリーダー格だった事から確実視される……。
「何でだよ? それとコレとは関係無いだろ?」
「「…………」」
一夏の呑気な意見に鈴音とセシリアは呆れ気味な顔になった。いや、それよりもシャルロットに言われた言葉が唐突に脳裏に過ったからだ。
『代表候補生は大変だな。
時間切れ。
その言葉の意味が分からなかった。……今は。
ただ、何か命取りになりかねない事情が自分達の知らない間で出来ているのかも知れない。
そんな気がした……。
「……良いのかい? 学院内でISが使用制限された原因は君とレーキュって人との大喧嘩が原因らしいけど」
校舎棟。
大廊下の一定間隔毎に置かれている長ソファに腰掛けたシャルロットは缶コーヒーを片手に目の前を通り掛かった和奏にそう声を掛けた。
「何だ、聞いていたのか?シャルロット」
「まぁね。君はずっと中階を見ていたからね。上階から聞いていたよ。……聞くに堪えなくなったから途中で止めたけど」
シャルロットはぶった斬られ肘の断面図から白いモコモコで溢れた腕を振る。
「後で医療棟で腕、くっつけて貰え」
『防腐処理』の存在により対応可能な範囲はかなり広い。腕が飛ぼうが腹が裂けようが余程の事が無い限り大体、治療……と言うか修復出来る。手足の切断程度、当然の如く完治出来る。
「当然、そうするよ」
「……1つ気になった事がある」
「何?」
「あの男性操縦者と何かあったのか?」
男性操縦者と揉めた理由だ。
こんなイかれた学院でその『理由』を聞くのは馬鹿のする事だと言われている。それは単純な話、銃撃戦とか内乱とか起こる動機は大概がくだらなくてどうでも良い内容である事が大半だ。
『最凶のメイドは誰か?』とか『とっておいたお菓子を取られた』とかしょーもない理由から始まり『取り敢えず』と言う理解不能な理由で始まる乱戦もある。
「気に入らないから、かな」
「成程。癪に障ったんだな」
そんな曖昧な理由でも理解はされる。ハッキリと理由がある事の方が少ない。
「そもそも、ボクの人生はボクの物なのに、織斑って何勝手にボクの人生に介入しようとして来るんだろうな?」
シャルロットの人生はシャルロットの物だ。他の誰かに主導権を握られるのは……もうウンザリだ。
「さぁな。男性操縦者は俺を倒してお前さんを取り戻すとか吐かしていたぞ」
和奏はシャルロットの隣に腰を降ろして一夏が言っていた事を伝える。
「プッ……‼︎ 冗談でも止めてくれない? 思わず笑いかけたじゃないか」
口から缶コーヒーを離しつつシャルロットは一瞬、咽かけ半目で和奏を見た。
「それよりも男性操縦者は随分と君に御執心な様だな。何故だ?」
「そりゃ、あの男性操縦者は『庇護欲求』が強いんやからやで、大将」
いつの間にか和奏とシャルロットの目の前に乙音が立っていた。何時もの様に商魂逞しそうな営業モードで突っ立っていた。