「そりゃ、あの男性操縦者は『庇護欲求』が強いんやからやで、大将」
いつの間にか和奏とシャルロットの目の前に乙音が立っていた。何時もの様に商魂逞しそうな営業モードで突っ立っていた。
いつの間にと言いたいが五稜監獄学院では囚徒が当然目の前に現れる事など日常茶飯事だから、その事に疑問符を抱く囚徒は殆どいない。
「乙音か。つーか、庇護欲求が強い、とな?」
「……それはどう言う意味かな?」
乙音の言う言葉に和奏とシャルロットは揃って問いをぶつける。この五稜監獄学院にて情報をいち早く入手出来るのは乙音、Dr.レーキュ、姫舞の3人だ。
最新の情報を得るにはこの3人を最優先で求めた方が手取り早い。
「男性操縦者、織斑 一夏はな。『誰かを守りたい』と言う一種の承認欲求を抱えてるんや。まぁ、承認欲求自体は自然摂理やし、誰もが持ってる欲望やから不自然な事やない」
「……そうだな」
相槌を打つ。承認欲求自体は誰もが持ち合わせる感情だ。認められたい、褒められたい、そう言う感情自体はあって良いモノだ。
「でな、織斑 一夏はISを得た事により自分で誰かを守るっつー感情が肥大化したんや。……自分は守られる側やないって自己暗示でもしているんやろーな」
「「それは無理だろ」」
和奏とシャルロットは揃って否定した。
志を抱くのは悪い事では無い。目標がなくフラフラするよりは何倍も良い。
だが、彼の立場がそれを許してくれない。だからこそ、否定したのだ。
「腰を折らんといてや……話を戻すで。
細かい詳細は情報が散逸してもうてハッキリ分からんのやけど、簡単に言えば織斑 一夏は過去の事件で誘拐されてもうて、姉ちゃんに助けられた。
それがキッカケなんやろーな。自分も誰かを守れるようになりたいって感情が生まれたんやろ。で、結果……ISの適性が有るのが判明してISを得た事によりそれが顕著になった」
「……つまり彼はボクを守りたいの?」
当時の状況で言えば高々動かして半年も満たないズブの素人が仮にも代表候補生と言うエリートを守ると言う構図。普通に考えれば逆なんじゃないのかと思いたくなる自惚れた状況だ。
「そこら辺の細かい所は当事者しか分からんやろ。ウチは客観的にしか語れんわ。……まぁ、ぶっちゃけると、シャルロットはんは顔は可愛いしそりゃ男性諸君の受けが良さそうで守ってやりたいって言う庇護欲を唆るやないか。なぁ大将」
乙音はさらりと言い放った上で和奏に振った。
「ああ、シャルロットは可愛い部類に入ると断言する。事情を考慮しなければ男性諸君らは見栄を張りたくなるだろうよ」
「何の衒いも無く言ってのけられると反応に困るな……」
こう言う話題には動揺するかと思ったが和奏は素面のまま、受け流した。
「話が脱線したわ。織斑 一夏は自分に関わりが出来た相手を守ろうとしてんや。いや、ちゃうな『自分が』守ると言う状況に固執しとる。一種の『メサイアコンプレックス』やも知れんな。
まぁ、ウチは専門家やないから、的外れしとるかも知れへんけどな」
「「あー……」」
そう言われると何故か納得してしまう。特にシャルロットの場合はより強く納得した。
「凄い迷惑だ……。その取り戻すとか、ボクは彼の所有物じゃないんだけど」
「俺も訊ねたが『仲間だ』と答えたぞ、あの男性操縦者は」
「……和奏、笑わせないでくれる?」
シャルロットは半目になった。ああ、琴線に触れたのやも知れない。
「寝言は寝てから言って欲しいね。仲間だったら自分の都合で過度に干渉して良い訳じゃないのにね……。それとも男性操縦者だからかな、周りに持て囃されて調子付いているのかな?」
シャルロットはIS学園時代、一夏が周りの考えなしの女子生徒達にワーキャー言われて持て囃されている様な光景を何回も見ている。
「そこら辺は知らんな。……一応聞くが、男性操縦者はお前さんをIS学園に戻そうと考えているみたいだな」
「……和奏、そろそろ怒るよ?」
半目を維持したまま不機嫌そうに口を尖らせる。何で八つ当たりされなきゃいけないんだとも言いたいが、変な理由で乱闘が起こる以上、文句を言っても仕方ない。
「IS学園に戻ったらまた織斑が何かと干渉してくるじゃないか。それ以前に、ボクはもう死んでいる扱いな上に国籍とかどうするつもりなんだ? まぁ、織斑の事だから『何とかなる』とか言いそうで怖いな」
「ま、それ以前にIS学園はアラスカ条約加盟国の国籍持ちにしか在籍出来ない校則があるからどの道、規約上無理だな」
無条件で門徒を開くとは言うが逆を言えば非加盟国やそもそも国籍を持たない者は在籍を認めないと言う事に通ずる。天然記念物以上の価値がある男性操縦者ならば兎も角、女子の場合は相当な理由を用意出来なければ認められないだろう。
「さて、疑問は解消した。IS学園生徒の『防腐処理』の件で連日徹夜だったからな。……そろそろ寝てぇな」
そう言いつつ和奏はソファから立ち上がる。
一夏との案件に疑問点の一区切りが着いた。『学年留学』期間中はシャルロットは如何動くのかまでは話題は広げない。そんな問題は当事者であるシャルロットが如何にかするだろう。
「つー訳で、寝る前に医療棟に行けよ?」
シャルロットに忘れずに医療棟で腕を完治させるように言葉を残した後、和奏は校舎棟を歩いて移動する。
「大将。お上との協議はまだ決着しとらんで? その上でドンパチやる気なん?」
歩きすがら隣を歩いている乙音からそう言われる。乙音には事情は全て知られているだろうから余計な前置きは抜きにして核心を突いて来る。
「何、
モノは言いようだ。
協議内容に『ソレ』は含まれていない。
「そう考えると大将が
その言葉に乙音は納得した。それならば安全にとは言えないが、戦意を挫くのは充分だろう。……その後は知らないが。
「しっかし、どうやって姫姉さんを説得するんや?」
乙音は最大級の問題を和奏にぶつける。ぶっちゃけ1番それが難題と言える。
『議長』である御巫 姫舞は普段からちゃらんぽらんして居てほわほわしているイメージしか無いが、その実、自分の職務に関して一切妥協してくれない。和奏に次ぐワーカーホリックだ。
「……適当に1回だけ何でも言う事を聞くって事で手を打とう」
何はともあれ言い出した以上、背に腹は変えられぬ。多少の犠牲は甘んじて受けるしかない。
「……どんな無茶振りされるか分からんで?」
「ガイア様からの無茶振りの所為で俺にとっては日常だ」