「ガッ、ごぼぼばぁ⁉︎」
——何だ⁉︎ 一体、何が起きたって言うんだ⁉︎
勢いよく水面に叩き付けられ浴槽に沈んだ一夏。突然の爆撃を背中に受け、浴槽へ頭から突っ込んだ事により口の中に浴槽の水が入り込み、思いっきり咽せた。
推進力の要である背中にある高出力ウィング・スラスターがバラバラに空中粉砕されその残骸が浴槽の中へと沈んで行く。
「ゲホッ、ゲホッ……‼︎ 高出力のスラスターが……‼︎」
直ぐに起き上がり、眼前に空間投影型のステータス・パネルを開くと其処には白式の展開構造の高出力ウィング・スラスターが原型を留めずに完全に大破した為、使用不可の文字が並んでいた。
——さっきの爆発はウィング・スラスターが破壊されたのか⁉︎ でも、如何やって⁉︎
理解出来なかった。
高出力スラスター・ユニットが完全に破壊された事により一夏は高速での飛行も瞬時加速も使えなくなった。パワーアシストの恩恵があるとは言え、高速機動が売りであり、尚且つ近接格闘しか出来ない『白式』にとって瞬時加速が封じられるのは大きな痛手であった。
「……て、テメェ‼︎ 何をした……‼︎」
機械装甲の脚部が半分程、浴槽に浸かっている状態で一夏は和奏を睨む。対する和奏には何の変化も見られない……。反撃開始と言いながらも、その姿に変化は見られない。武装も装甲もスラスターユニットも何も無い。
肘から先を失った右腕を下に垂らして先程の態度を崩さない。
「わざわざ自分から攻撃のタネを明かすと思っているのか? 自分で仕組みを解説するなど、ナンセンスだろう」
和奏は水面を歩きながら一夏の問いを一蹴した。どうやって攻撃したのかを何故、わざわざ敵に教えなければならない? 攻略のヒントを渡すなど、本来ならばあり得ない行為と言える。
そして、また1つ爆ぜる音と共に衝撃が一夏を襲った。
「ぐわあぁッ‼︎」
今度は左腕から衝撃が伝わった。その衝撃により身体が蹌踉めき足元の水飛沫を上げながらも倒れないように堪えた。
——こ、今度は何だ⁉︎
反射的に見れば本来ならば白と青のガントレット装甲で覆われていた筈の左腕。それが今となっては装甲は完全に粉々に砕かれ足元の水面の下に残骸となって沈んでおり、素肌の左腕が露出していた。
「……ッ⁉︎」
何時?何処で?どうやって?
様々な角度からの疑問は次々と浮かび上がるがそのどれもが明確な解答へと結び付かない。
可能性があるとすれば過去に鈴音との模擬戦で受けた『衝撃砲』なる兵装の攻撃。不可視の弾丸を射出すると言う兵装。その類かと思ったが、鈴音と違い和奏は何かをしたと言う所作が全く見えない。しかし、それでもシールドバリアの存在により殆どの場合は衝撃は軽減されるが、今回の場合はシールドバリアは全くと言って良い程に機能していない。
——シールドバリアの形成に異常がある訳じゃないのに、何故こうも簡単に破壊されるんだ⁉︎
次々と疑問や困惑が浮かんでくるが、解答は出て来ない。ただただ翻弄されるだけだ。
「如何した? 棒立ちしていると、攻撃してくれと言っているようなものだぞ? 敵はお前の都合を待ちやしないぞ」
「く、クソッ‼︎」
和奏の言う通り棒立ちしては立て続けに未知の攻撃を喰らい続ける事になる。相手の攻撃のカラクリを見抜けないと勝ち目は無い。
理屈は分からないが和奏の攻撃はシールドバリアを貫通して機体其の物にダメージを通り越して破壊して来る。
そして、場所は大浴場で足元は膝くらいの深さのある浴槽だ。スラスターが使用出来なくなった今、水に浸かった状態で戦う事を余儀なくされた。一夏とて水に浸かった状態で戦うのは初めての事だ。水辺に浸かればその分、動きが鈍くなり、高速して接近しての一撃離脱が理想の戦闘スタイルの一夏にとっては致命的な状況だ。故に長期戦になればなる程に相対的に不利になっていく。
—— 一気に攻め込んで勝負を決めるしかない‼︎ 此の儘だとジリ貧になる‼︎
故に速攻で決めるしか手段が無くなる。幸い脚部の底にある推進器は無傷の状態。この状態で飛ばす時の姿勢制御は難しい……と言うか1度もやった事が無い。更には膝くらいまで水に浸かっていると言う状態のオマケまである。
——思えば、さっきの一撃はワザと当てる様に仕向けたとしか思えない‼︎ 最初から最後まで奴の掌の上だなんてゴメンだ‼︎
一夏は脚部の推進器をフル稼働させ、前方へ飛び出した。その衝撃で後方に満たされた水が割れるが如く弾け飛んで波飛沫を上げた。
「うぉぉぉぉおお‼︎」
「フ」
「ッ⁉︎」
ほぼ前のめりの姿勢で突っ込む一夏。だが、その途中で三度、爆ぜる音が響き姿勢を崩した一夏は蹌踉めきながら和奏の前へと飛び込んで来る。
「燦ッ‼︎」
無防備な一夏に対して手刀で一閃して、一夏を弾き飛ばす。和奏の頭上を跳ね放物線を描いて、和奏の背後へ、遠くへと飛び浴槽へと落下した。弾かれた反動で真上へと飛んだ雪片弐型は和奏の上から落下し、それを手に取る。
「……ッ‼︎」
——こ、今度は右足の装甲がッ……‼︎
爆発箇所。それは右脚の脚部装甲。その場所は左腕と同じく粉々に砕かれ生身の脚が露出している。片足だけ装甲があぬ状態ではバランスが取れず立つ事も叶わない。
「雪片弐型、か……。刀身は兎も角……随分と安価で粗い造りだ……コレを打った奴は、随分と舐めているな。俺でも刀が泣いていると分かる」
和奏はその刀身に指をなぞらせてそう評価を下す。
「か、返せよ……‼︎ 俺の、雪片弐型を‼︎」
和奏は左手で、雪片弐型を構え直して白式の片足を失い立ち上がれない一夏に向き直る。
「剣術は余り得意では無くてな……。残念ながらコレしか出来んがな」
中腰に抜き身の刃を腰に佩く。それは正に居合の構えだった。
——そもそも何で、アイツは雪片弐型を持てるんだ⁉︎
専用機と呼ばれるISの武装は該当機に登録されて尚且つ、登録された人物しか使えない保護機能が搭載されている。雪片弐型は白式に登録され使用者な一夏。即ち、一夏以外が使おうとしても使えない様になっている……筈だ。
「……すまんな」
その刹那、大浴場の浴槽に満たされた水全てが瀑の塊となって観戦していた囚徒達に向けて襲い掛かり、立て続けに激突する音が2回、鳴り響く。
——何が起こったって言うの……⁉︎
名刀は眼前で起こった事が全く理解出来なかった。織斑 一夏と宵咲 和奏と決闘擬き。
和奏が自身のIS『フォーマルハウト』の展開以降も全く理解出来なかった。
ただただ立て続けに一夏の白式のパーツが破壊されて行く、最後は和奏が雪片弐型を構え直した後、眼前に大きな津波(浴槽の水が押し除けられ此方に迫った事だけは分かった)が迫って来たかと思えば、視界の先は様変わりとなっていた。
数秒前までは水で満たされた大浴場。しかし、今は完全に水がなくなり枯れ果てており、そのほぼ中央に白式の全てのパーツが粉微塵に粉砕され一夏が仰向けの状態で倒れている光景だった。その一夏に向けて篠ノ之 箒やセシリア・オルコット達が駆け寄って行くのが見えた。対する和奏の姿は影も形も無かった……。
「なんや⁉︎ なんや⁉︎ 何が起きたんや⁉︎ ついさっき、風呂場の水がこっちに飛んで来たやろ⁉︎ つーか、アイツは何で彼処で倒れとんねん⁉︎」
「……私に聞くな。私とて、何が起きたのか全く分からなかったのだぞ……‼︎ そもそも、浴槽の水が飛んで来た筈なのに一切、濡れていないのも可笑しな話だが」
我に返った泳と黎芽が口を開く。しかし、状況が理解出来ずに困惑するしか無かった。
「あ、はい。和奏さんの動きで浴槽の水が全て瀑となって此方に来ましたので、私が斬り払いましたです」
その時、第三者の声が聞こえた。声がする方向に視線を向ければ其処には小柄な体格の少女が居た。体格は小柄で、小学生後半から中学生前半と思う程の幼さが残る幼女。
銀色の髪を靡かせその身に纏うのは囚人服では無く豪奢な装飾が施され重そうなメイド服だ。白いベルトがエプロンドレスを這っているのが特徴的だった。メイド服と言う事から学院側の囚徒である事は分かる。
——斬り払った……?
彼女の両手には払うモノは見当たらない。素手で払ったとでも言うのだろうか?
対する反対側では思いっきり水を被ったのかあーだこーだ文句を言う囚徒達が見えた。
「……あ、初めましてです。私は嵐藤 小夜と申しますです」
そのメイド服を纏った幼女は礼儀正しくそう自己紹介してくれた。名刀達も倣って自分の名前を名乗った。
「斬り払ったとは言うが……如何やってやったんだ?」
「簡単な事です。刀を抜いて振るだけです。本来ならば佩くべきなのですが……メイド長に邪魔になると言われちゃいまして……。普段は拡張領域内に仕舞っているんです」
「い、いやいやいや。刀を抜いて振るって言うても、一瞬しか見えんかったけどアレ津波やろ⁉︎ 出来っかい⁉︎」
普通は不可能だ。斬り払うと言っても迫り来る津波を斬れと言われても出来るようなモノでは無い。
「……刃風で吹き飛ばしたと言うのか?」
「あ、はい。そうです」
小夜は衒いも無くそう認めた。刀を振るう際に発する刃風で迫ってきた津波を薙ぎ払った、と。
「……簡単に言ってくれんで……。物理法則無視ってへんか?」
「小夜〜‼︎ 大食堂に戻るわよ〜‼︎」
「あ、はいです‼︎ メイド長に呼ばれていますので、コレで失礼しますです‼︎」
小夜は小走りでメイド達の集団の下へと向かって行く。見やれば他の囚徒達も大食堂から撤収して行く光景が見えた。どうやら戦争は終わりを迎えた様である。
「……正直、織斑に関しては期待はしていなかったが……あの宵咲と言う男。……手の内が全く分からなかったな」
「せやな。何をしたのか全く分からんかった……側から見れば織斑の白式が勝手に壊れて行った……としか言えんわな」
「…………」
「名刀、如何した?」
「あの人……恐らく手を抜いていたと思う。そもそも織斑さんが喧嘩を吹っ掛けたから……」
「本気を出すまでも無い、か。そもそもアレは本当にISなのか、世間に認知されていない男性操縦者か……謎が深まるばかりだな」
「……学院自体が狂っとる上にバケモン揃いやと、気が休まらんなぁ」
「…………油断しない様にしよう。……何が起きても良いように」
サブタイトルの『Cosmology Decay』の元ネタ。
クラッシュフィーバーの災害類ユニットの『超ディザスター級』のボス戦闘曲。ディザスター級を上回る難易度。一部では一撃貰うだけで即ゲームオーバーになりかねない。