織斑 一夏と宵咲 和奏が戦争として使われた大浴場。その戦争の余波で天井の一部が破壊されたが、しょっちゅう器物破損が発生する為か、速やかに修理が完了したので大浴場は普通に解放された。
「……手際の良さは見事の一言に尽きますわね」
大浴場は先の戦争は何処へやら、既に何十人もの囚徒達が湯船に浸かっている。一般的な銭湯よりも遥かに広い為に仮に100人単位でもまだまだ余裕が持てる広さを誇っている。
IS学園の大浴場なんて目じゃないだろう。
「それよりもやっぱり首輪が外せないのは難儀しよねぇ」
「……コレばかりは仕方なかろう。そんな事、初日で理解しているだろうに」
「首元とか胸を洗う時に邪魔になるのよ。如何して胸ベルトじゃなくて首輪に鎖が付いているのよ‼︎」
鈴音が浴槽に浸かりながら首元に嵌められている首輪を触る。そして、その首輪には胸ベルトに連結する為の鎖が垂れていた。
囚徒達の首に嵌められている首輪は風呂の時でも付けたままだ。自力で外す方法が無いので当たり前であった。首輪自体、完全防水仕様で影響は無いのだが、やはりずっと付けたままと言うのは居心地が悪いと言うのが本音だ。
「……鈴さんはまだ良いじゃありませんか。私と箒さんの場合、胸の間を擦ってしまうんですよ?」
「セシリア……私に対する当てつけかしら?」
胸が大きい囚徒の場合、胸の間に鎖が挟まる形となっていた。場合によっては邪魔と思うかも知れない。
「……喧嘩しても何も変わらんぞ。それより1番、不憫なのは一夏だろう。何せ時間割されて居ないのだからな」
五稜監獄学院は和奏を除いて女性の囚徒ばかりだ。故に時間を分ける理由が無いとの事で何時でも混浴状態なのだ。わざわざ一夏の為に入浴時間を割く理由は無い。
「……IS学園も大概だったけど、此処も相当よねぇ〜」
鈴音は話題を変える様に別の方角に視線を向ける。其処には学院側の囚徒達の一団が浴槽に浸かっていた。
「全く……。ご主人様も暴れる時は最小限にしなさいっての」
「……アレでもかなり手加減したかと思われます。でなければ、タダでは済まなかった筈です」
「分かっているわよ。ただ文句を言いたかっただけ」
「ウィキちゃん。しっかり浸かるのよ。こーら、暴れないの」
「うに〜(>ヮ<)」バシャバシャ
「……ふぃ〜。久しぶりのお風呂だよ〜」
「議長は働き過ぎやで。偶には休んだ方がええで」
「だから弟君に手伝って貰ってるの‼︎」
「……訂正や。効率良く進めた方がええで。やないと大将、倒れる」
IS学園も大概だったが、五稜監獄学院の囚徒達も可愛い、美少女と言う形容詞が付く者達が多い。そして、胸の発育が良い者もまた多いと言う凄い光景が広がっている。
「……小さい子供も居るのか?」
年上の長身の上級生っぽい囚徒に可愛がられている幼女も見えた。その幼女は銀色の髪であり色白な肌をしているのが遠目から見えた。
初等部も存在しているのかと思う反面、飛び級かも知れないと考えてしまう。そんな彼女にも首輪は嵌められているのが理由だ。
「…………」
「あの、鈴さん? どうしました?」
その中で鈴音はその集団を見て固まっていた。何故なら、其処には
「アイツ……‼︎ クラス対抗代表トーナメントの時に乱入して来た奴が居る……‼︎」
「え……?」
鈴音はそう言葉を溢した。クラス対抗代表トーナメント』と言えば謎のIS操縦者達がIS学園を強襲し甚大な被害を齎した事件だ。
その際、鈴音は舞台装置の様なISを纏った幼女と3組代表と対峙した……のだが、途中から記憶が無く後で聞けば途中から乱入して来た一夏共々、洗脳されたかの様に暴れたと言われた。
「乱入して来たと言えば……あの楽器みたいな構造のISを纏った……?」
その言葉にセシリアも目を細める。自分もその時、豪雷を纏ったIS操縦者に瞬殺された悔しい思い出があった。
「ええ、彼処……。長身の上級生っぽい人に可愛いがられている幼女よ」
箒とセシリアは示された方向を見ると、爆乳もかくやと言う長身の女性の胸を枕にしている銀髪の幼さ残る顔立ちの幼女が水飛沫を上げていた。その様子を周囲の囚徒達は微笑ましそうに眺めていた。
「……あの時の襲撃者が……学院の囚徒だと……? それはどう言う意味なんだ?」
聞けば他にも侵入者が居たらしい。複数人かつ組織的で計画的な襲撃だったと聞いている。
「……此処の学院の囚徒達がIS学園を襲撃した……?」
「お風呂の時間ですっ‼︎」
その時、元気娘を彷彿させる声音と共に箒達に影が刺した。湯船に浸かる自分達の頭上を誰かが跳躍して飛び越えたのだ。そして、そのまま眼前に飛び込み、浴槽のお湯の水飛沫が飛び散った。
「ちょ⁉︎ 流石にもう少しお行儀があっ、て……⁉︎」
セシリアが急に浴槽に飛び込んで来た人に注意しようと口を開いたが途中で言葉が止まった。
「およ……? 誰か居たんです?」
セシリアと同じく長く金色の髪、少し低い身長のその囚徒は声に従って振り向いた。囚徒である為に、首には首輪があり鎖が垂れている。
「…………な、な、……⁉︎」
セシリアはその顔に見覚えがあって戦慄した。あの時、クラス対抗代表トーナメントで対峙し1組の生徒を数人、焼き殺したあの殺人鬼……。ルヴィア・メルーヒェンと図らずとも再び遭遇したのだ。
「あれ? 何処かで…………? やっぱ、分かんないです‼︎」
どうやら彼女は自分の顔を覚えて居ないらしく、興味を無くしたのかそそくさと浴槽の中を歩いて別の方へと行ってしまった。
「……ちょっとセシリア。……アンタもアンタで如何したのよ……?」
「……鈴さんと同じですわ。クラス代表対抗トーナメントの時、観客席で暴れ回って居たのが彼女ですわ」
「え、……聞いた話だと数人が死んだって聞いているけど」
「はい。他のクラスもそうですが、私は目の前でクラスメイトが殺される姿を見ました、彼女によって……黒焦げの灰になりましたわ」
「「…………」」
死者が出た襲撃事件。
実行犯が目の前で堂々と風呂に浸かっている。学院自体可笑しい所が多かったのだが、此処に来て一気に恐ろしく見えて来た。
「一体、どう言う事だと言うんだ……?」
もし、この学院が相当極悪な場所であるならばISの使用が出来ない今頃、自分達は皆殺しにされても可笑しくない。戦争やら内乱やらが乱立している以上、被害が生じても可笑しくない。だが、今のところIS学園の生徒達がそんな被害を受けたと言う話は聞いた事がない(仮に怪我をしても余程の事がない限り医療棟で完治まで持って居てくれるのだが)。
そう考えると返ってこの対応は不気味に思えてしまう。
「一体全体、どう言う事だって言うのよ……?」
あの時の襲撃者が学院側の囚徒である事は間違いない。だが、男性操縦者(洗脳こそしたが五体満足)、学園所有のISコアには一切手を出さなかった。
「……学園側の見解も意図が分からないの一言でしたわね。此処は1つ、問い正すのが1番かと」
「……セシリア、正気?」
「……ISの使用が制限されているのは向こうも同じですわ。となれば鈴さんが言う幼女を世話している以上、事情を知っていると考えるのが自然です」
「……危険ではあるが、疑問を抱いては気を病む。やってみるとしよう」
「そうね……。何を考えているのか分からないけど、分からないままよりはマシ、か」
セシリアを筆頭に鈴音と箒は浴槽の中を移動して、鈴音が言う幼女と戯れている囚徒達の一団へ接近を試みるのだった。