「……少し宜しいでしょうか?」
セシリアは浴槽の中を歩いて件の一団に接近を試みる。
「あれ〜? 君は確か、イングランドの代表候補生のセシリア・オルコットちゃんだったよね〜? それに其方の2人は中国の代表候補生の鈴音ちゃんと〜、Dr.篠ノ之の妹ちゃんだよね〜」
セシリアの声に応えたのはゆるほわな雰囲気を持つ長身かつ爆乳の囚徒だ。そして、此方が名乗っても居ないのに名前を言い当てられた事に面食らった。
「えっと、初対面な筈ですが……」
「君達、IS学園の生徒達の顔と名前は全部覚えているよ〜。ちょっと、頭が弱い娘以外、皆、君達の名前と顔を覚えているよ〜」
「ウッソでしょ……」
「いえ、本当です。遅くても2時間程度で覚え切っていますよ」
彼女のみならず殆どの学院側の囚徒達は学園側の囚徒の顔と名前を把握しているとも言われて鈴音が思わず呻いた。冗談みたいな言葉に対して長髪の白銀の髪でこれまた爆乳で鈴音が心中で『モゲロ』と嫉妬したくなる囚徒が真実だと語る。
「……自校ならばいざ知らず、他校の生徒達全員の顔と名前を把握するだなんて……‼︎」
セシリア達と言えどIS学園の生徒達全員の顔と名前なんて覚え切れない。学院側の授業はいい加減極まれりと言えるが、その実……下手に教導するよりも各自にやらせた方が効率的なのかも知れない。
「それで貴方達が接触して来た事も大凡、読めているわ。クラス代表対抗トーナメント、でしょう?」
続いて件の幼女を抱いている長髪爆乳の囚徒がセシリアの来訪目的を言い当てる。正しくその通りだ。
「……お見通しって訳?」
「お見通しも何も、さっきルヴィアに声を掛けていたしその時表情で分かるわ。まぁ、何時の日かは来るかと分かっていたわ」
小柄な体格だが鈴音と似た様な雰囲気を持つ水色髪の囚徒が分かった理由を語る。あの距離で聞こえていたし見られていた様である。
「ならば、単刀直入に聞かせて頂きます。
「お仕事だったから」
セシリアの質問に答えたのは姫舞であり、簡潔に答えた。
「仕事……って、仕事であんな真似をしたって言うの⁉︎ 死人も出ているのよ⁉︎」
その言葉に鈴音は吼えた。言いたい文句は山程出て来る。
「うーんと、アレで生き残れないのならば、その先でも生きられないと思うよ?」
鈴音の烈火の熱量を柳の如く受け流す。
「……目的は、目的は何だったのですか?」
セシリアは怒りを堪えて質問を続ける。謎であったその目的……それが分かれば、腑に落ちる点が出て来る筈だ。
「試験よ。貴方達IS学園の生徒達に対する抜き打ち試験」
その質問にはユリエが答えた。その言葉にセシリアは絶句。鈴音と箒も訳が分からないと言った顔になった。
「あ、あの惨事を試験だと言うのか……⁉︎」
「簡単に言ってしまえば、襲撃者が現れた時生徒個人個人がどの様に対応出来るのかの対応力を見る為に組まれていました」
「対応力って……何よソレ⁉︎」
「事の経緯は、最近のIS学園の新卒スカウト者の実際の出来が余りにも悪かったのが発端らしいの」
「出来が悪い、とは……?」
「IS学園の各種イベントで物色してスカウトしたは良いけれど、実際は経営者から見て『使えない』と判断されたって所よ」
IS操縦者の就職は基本的にスカウトされる形だ。IS学園でイベント事による来賓の目に留まらなければその道は断たれる。
「それで、各国のお偉いさんとかIS企業の上層部は採用基準項目を増やしたの」
「項目を増やした……?」
「実戦にテロや襲撃者が現れた際、対応出来るかどうか自分で考えて行動出来るか。ISが手元に無くても対応出来るかを実際に当時の各国政府やIS企業からの来賓が実際に審査していたのよ。その時、使えないと判断された生徒はIS業界への道は閉ざされたでしょうね」
ISの関係者になろう者が民間人宜しく逃げ惑ったりしては困るのだ。ただただ、ISに乗るだけが操縦者としての役目ではない。
実際に当時、醜態をさらしてしまった8組の生徒達は本人達には通知されていない不採用の烙印を押されており、その組の生徒達はIS企業への就職は完全に不可能となっている。
「実際に審査していた……⁉︎」
「……何よ、ソレ……じゃ、じゃあ……⁉︎」
「その襲撃者役を私達、五稜監獄学院の囚徒達が担う事になったって訳よ。ついでにIS学園の教師達もどの様に対応出来るのかも審査していたみたいね」
その言葉が決め手であった。五稜監獄学院の囚徒達は政府の指示で襲撃者役を担い、事を起こしたと言う事である。
「だ、だが死人が出たのだぞ……‼︎ 政府としてそんな事」
「殉職の可能性がある職種だよね? 銃で撃ち合って、刀で斬り合っているんでしょ? じゃあ、死ぬ可能性あるよね? 訓練じゃない試験だったからね。試験で命を落とす人が出ても構わないってお達しだったもん」
箒の言葉に姫舞はそう答えた。命を軽く扱っているんじゃないかと思う言動だ。
「…………それが、真相……なんですか?」
「うん。そう言う簡単な事情。でも、私達は貴方達に恨みとかは無いよ? ただ仕事をしただけ。其処に私達の私情を挟む余地は無かっただけ。襲撃者役は
蓋を開ければ五稜監獄学院は各国政府やIS企業の思惑の『駒』として使われただけだった。
其処に私情を挟む余地は無く、ただ職務を全うしただけである。
「……後ろめたい気持ちとか無い訳?」
「無いよ? でも仕事なら妥協しちゃダメ。それが委託ならば尚更、信用と信頼と言うのはそうやって生まれるモノだよ。其処に私情とかを挟む訳にはいかない」
「……仕事として割り切っている、のですね」
同年代とは思えない態度だ。
それは何処となく無機質さを思わせる。
そして、恐怖した。目の前の囚徒達に。
「仕事だからと言うのは、ちょっと違うかなぁ。まぁ、貴方達にとってはそれが1番分かりやすいかな?」
「「「…………」」」
その後、会話らしい会話は続かずセシリア達は引き退る様に離れ、大浴場を出た。結論を言えば明確な真相を答えてくれた。これ以上の会話は進まなかった。
ただ、その事実を受け止めるには時間を有するからだ。
「此処の囚徒達はただ、任務を全うしただけ、か……。しかも、元を正せば政府やIS企業の意向が含まれていただなんて」
その試験とやらは既に国家に所属している代表候補生では無く恐らく一般生徒達を対象とした内容だったのだろう。とは言え、かなり過激な内容であり、他人事だとは思えなかった。
「……この件、私達だけに留めておきましょう」
「ええ、一夏が知れば……確実に突撃かますわよ」
正義感が強い一夏の事だ。間違いなく暴力で解決しようとするだろう。
「それは避けねばなりません。きっと、良くない結果になる可能性が高いでしょう」
「……うむ。今の一夏は白式が壊れた状態だが、直ったとしても状況は変わらん」
「あーもう。嫌な真相ね、本当に……‼︎」