「姫姉ッ‼︎ 後で色々拗れるってのに、何バラしているんだよ⁉︎ バラすにしてもタイミングってモンがあるだろうがッ‼︎」
「いひゃいいひゃいよ、おほうほふ〜ん‼︎ ほへん〜‼︎ ほへんっへは〜」
学院長室のガゼボにて大浴場の一件を聞いた和奏は姫舞の頬を引っ張っると言う折檻をしていた。身長差がある為、ソファに足を掛けて高度を調節して行っている。何と言うかシュールな光景であった。
理由としては襲撃者役が自分達である事をバラしてしまった事だった。何れは発覚するのは分かっていたが、バラすにしても時期尚早だと見ていたからだ。学院長から又しても
「シェニー‼︎」
「既に記憶処理の手配は進めている。明日の朝には全て忘れているだろう」
ガゼボの柱に凭れながら銀髪に白衣を羽織った少女、医療棟の束ねる院長を務めるシェニー・シュネーヴァイスが紅茶の入ったカップを皿に乗せながらそう答えた。
記憶処理を簡単に言ってしまえば脳に蓄積されている記憶を一部消すと言う意味である。学院の囚徒達の中には思い出したくない記憶があった者達も居る。
シャルロットの時も『必要か?』と訊ねた事があるが本人は拒否した。本人の意思を尊重する為にその提案は下げられたが、気が変わったのであれば行う準備は整えるつもりである。
「フォール、そろそろ止めてあげて」
奥の1人用のソファに腰掛けている学院長ガイアが折檻している和奏に静止の声をあげる。その言葉が聞こえた直後、和奏は引っ張っていた頬を離した。
「やれやれ……ガイア様の無茶振りで急遽組んだ『ラビットハント』の草案がオジャンになる所だったんだぞ」
「ふぇぇ〜ん。本当にごめんだってば〜」
解放された後も姫舞は涙目だった。
「和奏。その『ラビットハント』と言うのは何だ?」
言葉の意味は分かるがその名前は何を示しているのか疑問に思ったシェニーがソファに座り直した和奏に質問する。
「ああ、それか。IS学園だと定期的にイベントやって来賓を学園に招いて直にその様子を見て将来的にスカウトする生徒を物色するって話は聞いているよな?」
「ああ、件のトーナメントもその一環で、ウィキリピアやサリア達が襲撃者役として殴り込んだったな。結果は酷い有様だと聞いたぞ?」
「2学期でも同様にイベントがある毎に企業や各国要人が篩に掛けに来るんだとよ。だが、1学年生は『学年留学』の件で予定が変わったからな」
「ふむ……。本来ならばIS学園内で同様のイベントでの選考機会となっていたが、此処だと話が変わるからな」
主に立ち入って直に見る的な意味の言葉だ。
「それらのイベントに変わる『ゲーム』をやる事になったんだよ。IS学園で言う学年別トーナメントとかそう言う類の奴をな」
合点が言ったのかシェニーは頭を押さえて溜め息を吐いた。また、ロクでもない事を企んでいるんだろうと言いたげな表情だ。
「はぁ……また悪趣味な事を企んでいるのか? 『ハロウィンジュイル』とやらの草案を聞いた時も思ったがな。取り敢えず医療棟は全面的に開けておいてやる」
「俺達、全員考える事はイカれているだろ」
「其処を突かれると何とも言えんな……。悪趣味な事に変わりは無いが」
「弟君、弟君。その『ラビットハント』のルールは? 私達も運営側として参加するの?」
ソファの近くに寄りかかって来た姫舞が詳しい内容を知りたがって詰め寄って来る。シェニーも悪趣味だと言いながらも興味本位で耳を傾ける姿勢だ。そして、学院長も無表情ながらも和奏に視線を向けている。
「……何、そろそろ……この世界を舐め腐った連中は
「地獄への道は善意で舗装されているとは言うが……貴様の場合は見せかけの善意の下に悪意を隠して舗装しているな」
「……何とでも言うが良い。狂人と踊るには狂人にならなきゃ格好つかんだろう?」
「言ってろ」
「……フォール、アルビレオ。喧嘩はダメだよ」
学院長から見れば2人の皮肉の応酬は喧嘩に見えたらしい。
「ガイア様。軽いやり取りですよ。喧嘩のつもりも無ければ、事を構えるつもりはありません」
「和奏の意見と同じく。私も彼と仲が悪い訳ではありません。……ワーカーホリックの件については彼に小1時間ほど文句を連ねたい所ですが、この場では控えましょう」
本心である。そもそも学院長相手に嘘も取り繕いも無用だし、通じないのを分かっている。
「も〜、話逸れたよ〜。それでそれで、どんなルールなの⁉︎」
姫舞が和奏の頭の上に豊満な胸を乗せて急かして来る。この人、職務外だと本当に子供っぽい。
「簡単に言えば『鬼ごっこ』ですかね」
「ラビットと言う事は……兎で、ハントは狩り、か。その意図は?」
「『観客』が居て、尚且つ『見栄え』が良い方が覚えが良いだろう? ……君達だって頻繁にコスプレして来るじゃないか」
「……すまん、藪蛇だったから其方へのコメントは控えよう」
シェニーは地雷を自ら踏んでしまったと言った様子で言葉を継ぐのを止めた。
「ふ〜ん? つまり、兎役が逃げる側で、狩人役が追う側なんだね」
「まぁ、そんな所だな。勿論、ただの鬼ごっこじゃつまらんからな。五稜監獄学院らしいルールを付けて行う」
「で? 私達が狩人役として乱入するのか?」
「いや、『ラビットハント』ではIS学園の生徒達だけで双方に別れてやってもらうつもりだ」
「う〜……私達はお呼びじゃないのか〜……」
姫舞は胸の上に顎を乗せてつまらないな〜と言う顔になった。割り込む気満々だったのだろうか。
「姫姉……いじけないでくれ。後、胸枕されると頭が重い……」
「フォール、続き」
「IS学園の学園長は『危機感が足りない』と言っていたからな。それに、当日に公表する気は無いが裏設定としちゃあ、企業や各国政府が求めるであろう『理由』にも重なる。……それらを踏まえてIS学園側から提供された夏休み終了時時点でのIS学園の生徒達の『成績』を元に『兎』と『狩人』に振り分ける。
最も『成績』が幾ら良くても先方から『有益』だと判断されなければ意味が無い」
「……否定はしないな」
「うん、確かにそれは言えているね〜」
その言葉の意味をシェニーと姫舞は理解した。
「フォール。……休むと言う事を早く覚えて。全部、1人で熟そうとする悪癖は治して」
「………………」
「図星を突かれたな。一種の職業病だろ、それは」
「俺以外、事務処理決済をマトモに進めれる奴が五稜監獄学院に居ないんだよ、馬鹿ァ‼︎‼︎」
結果、リデアとフィウが付きっきりで業務に当たる(必要ならそれ以上に)様に学院長から厳命された。……尚、その時の和奏は別の意味での心労が増大する事は考慮しないモノとされた。