※この作品はR-18です。

ストラトス・デザイア   作:夢現図書館

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五稜監獄学院 XⅦ

 

 

「あんれ〜? 他にもお客さんが居たんだって、なーんだ、神楽ちゃんじゃ〜ん。いらっしゃ〜い」

 

 代わりに店員と思わしき灰色の髪の囚徒が闊達な態度で簪達の方に視線を向けて声を掛けて来た。

 

「ご無沙汰ですわ。みやびさん」

 

 顔見知りなのか神楽はお辞儀をした。この人もまた長身であり灰色の髪に眼鏡を掛けた囚徒だ。幾許か歳上に思える。

 

「やぁやぁ、そんな硬くならなくやーよ。それで、そっちの水色ちゃんは更識 簪ちゃんだよね〜?」

 

「……知っているのですか?」

 

「知っているも何も仮にも日本代表候補生でしょー? まぁ、それもあるけれど、アホの子以外は皆、IS学園の生徒全員の顔と名前を把握しているよん♪」

 

 地味に凄い事を言われた。殆どの五稜監獄学院の囚徒達はIS学園の生徒の顔と名前を覚えているとの事。どんな記憶力だ。簪でさえ、クラスメイトの顔と名前を全員覚えている訳では無い(と言うか覚える気は無かったが)。

 

「……あー、それと簪ちゃん。後、1歩……と言うか本当にギリギリだったけどリデアちゃんに出会す所だったね。そうなったら、一瞬で八つ裂きにされていたよ?」

 

「え、えぇ⁉︎」

 

——や、八つ裂き⁉︎

 

 突然、物騒な事を言われた。リデアと言えばつい先程、会計を済ませた白銀の髪の少女の事を指しているのだろう。彼女と遭遇したら八つ裂きとは一体……。

 

「……あー、えっと多分、君達も見えたでしょ? 此処で買物をしてた娘。あの子はリデア・フライクーレィルって言うんだけど……如何にも彼女、今……凄く機嫌が悪いんだよねぇ」

 

「……あの、とてもそうには見えなかったんですけど」

 

「あの子、表情表現がとても苦手な娘だから側から見れば無表情に見えて誤解される事多いんだ。……話がそれちった、早い話が簪ちゃん。君、リデアちゃんの恨みを買っちゃっているんだよ」

 

「え……?」

 

——う、恨み……何か恨まれる様な事をしたかな……?

 

「……みやびさん。何故、簪さんが恨まれるのですか?」

 

「和奏少年と会話(・・)した事あるでしょ? それが理由」

 

「」

 

 この人は一体、何を言っているのだろうか? 簪は素直にそう思ってしまった。和奏と言えば、五稜監獄学院への編入案件で1度、会話をした事があるが……。

 

「リデアちゃんって、見た目とは裏腹に独占欲、や依存心の塊だから……和奏少年に身内以外の娘が接近すると、問答無用で排除しに掛かるんだよね」

 

 ケラケラと笑っている。五稜監獄学院では半殺しは割と良くある光景なので気にされていないのだろうが、普通にヤバい光景だ。

 

「実際に両手両足を彼女にバラされた元IS学園の生徒が居るよ。確かシャルロットちゃんだったかにゃ? 知ってる?」

 

「……フランス代表候補生とは聞いていましたが、急遽フランスに帰国……。と聞いていましたが」

 

 『防腐処理』があるとは言え、実際に人体切断をやられると、かなり恐怖心が湧き上がる。あの和奏も一夏に腕を斬り飛ばさせたが……普通に考えると余りそう言う体験はしたくはない。

 

「紆余曲折あって学院長様がその娘を学院に編入させたんだよ〜。例の人権放棄させて。まぁ、その話は別に如何でも良いや。……そう言う訳で今の彼女は炉心融解寸前みたいなモノだから、機嫌が治るまで離れた方が身の為だよ〜」

 

「……き、気を付けます」

 

「この話は終わり‼︎ それでぇ、何をお求めかにゃ〜? アームバインダー? それともボディーハーネス? アナルバイブとか、そう言うのもあるよん。おっとと、自己紹介が遅れたねん。私は勅使河原 みやびだよん。夜はこの場所で商売してるよ」

 

 リデアの機嫌が悪いと言う話はさておき、SM用品店としての話に切り替えた。

 

「……では、裏の出入口(・・・・・)を通らせて頂けませんか?」

 

 神楽は買物する訳でもなく、出入口を使わせて欲しいと言った。その言葉を聞いてみやびは笑みを浮かべた。

 

「へぇ、何処で聞いたのかにゃん? 乙音ちゃん辺りかな〜。この店が『娯楽棟』の入口の1つだって」

 

——娯楽棟……?

 

 五稜監獄学院に複数の棟が重なっている。収監棟や校舎棟、大食堂や大浴場の他に商業棟が判明しているがまだ他にも棟があるらしい。

 

「ええ。簪さんは言わずもがな、私もそうですので」

 

「いやいや、知ってるよん。良いよ、良いよ。レジの隣の奥への扉を抜けて真っ直ぐある扉を抜けた先が『娯楽棟』だから。じゃあ、楽しく教育されてねん♪」

 

 みやびは既に2人の本性を知っている為に特に何も言わずに通してくれる様である。

 

「……では、参りましょう。簪さん、ええ……言わずとも直に見れば自ずと理解出来ますので」

 

 大凡、予想は出来るが……此処は素直に神楽に着いて行くとしようと、簪は神楽の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

◯

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、商業棟。

 織斑 一夏は夜の商業棟に足を運んでいた。

 

「此処、なのか……?」

 

 セシリアや鈴音、箒と自身が貯めに貯めたCPを合算して乙音から『Dr.レーキュ』の情報を買った一夏はその情報を元に夜間の商業棟のある区画に訪れていた。鈴音が事前に手に入れた情報を合わせるとこうなる。

 

『レーキュは夜型人間で日中は囚徒達の目に映る場所には現れる事は稀。

 商業棟は昼間と夜間では開店している施設が異なり、レーキュは夜間にて商業棟の一角でラボトリーを開設し基本其処で何かしらの研究をしている。

 訪客は特に制限されていない』

 

 この情報を得る為だけに箒達はCPを殆ど吐き出してしまった。此処までして貰った事に関しては本当に感謝しかなかった。

 

「……取り敢えず行ってみるか」

 

 商業棟の一角、教えて貰ったその場所にそのラボトリーが存在していた。ただ、外からでは部屋の内部は見えない上に場所は大廊下から外れての横道の更に奥まった場所にある為、初見では『分かるか』と言いたくなる。

 

「え〜と、失礼しま〜す」

 

 扉をノックした後、一夏は自動扉を抜けてラボトリーへと入った。

 

「……IS学園の整備室みたいな場所だな」

 

 眼前に見えたラボトリーの内装は如何にも研究室と言った良く分からない薬品棚や如何にもヤバそうな培養槽(中身は考えない方が良いかも知れない)が置かれており、整備室の様な工具類やISの機体を架ける為のハンガー設備等が合わさった如何にもゴチャゴチャ感が否めず奇天烈な空間が広がっている。

 天井からは大型の機械が吊り下げられており、壁際には試作品なのか様々なパーツや武装等が立て掛けられているのが見えた。そのどれもどの様な用途で使われるのか一夏じゃ見当が付かない。

 

——……1人で開発とかしているのか……⁉︎ だとしたら束さんに迫る天才なんじゃないのか?

 

 その部屋の中央にて、多数の空間ウィンドウを展開して何かしらのデータを確認している影が見えた。褪せた卯の花色の長い髪を靡かせた後ろ姿の人物が居た。身長は自分より低く、中学生かその辺りだろう。一夏の知る中では布仏 本音に近い身長だろうか。

 甕覗色を基調とした修験者を彷彿させる装束の上に学院の制服の1つである灰色のローブを羽織り、室内だと言うのに頭に笠を被っていると言う時代劇とかじゃなければお目に掛かる事は無いであろう服装をしていた。

 

「……おや、珍しい、な。こんな、場所に訪客、とは」

 

 その時、その人物は一夏の来訪に気付いたのか途切れ途切れと言う珍妙な口調を晒しつつ空間投影型ウィンドウを全て掻き消して振り向いた。幼さ残る顔立ちではあるが何処か老成した様な雰囲気を保って一夏の姿を見やる。

 

「……あ、えーと」

 

「皆まで、言わなくて、良い、さ。織斑 一夏。IS学園1年1組、世界初の、男性操縦者。第三世代機、倉持、技研製作、専用機、白式。単一、仕様、能力は、零落白夜。

 此処に来たのは、宵咲 和奏、に破壊された、白式の修理……だろう?」

 

「……其処まで把握しているのかよ⁉︎」

 

 一夏が口を開く前に……その人物、レーキュはそう言い当てた。全て分かっているとでも言いたげだ。

 

「君の、個人情報は、ネット社会、何処にでも、転がっている。後半に、関しては、その様子を、見ていた、から」

 

——あの場には彼女も見に来ていたのか……だったら、予想は出来るか。

 

 他に機体製造が出来ると噂されている者が彼女以外では1人しかいない以上、予想は立てれるだろう。

 

「取り敢えず、見せたまえ。話は、それから、だ」

 

「あ、ああ……」

 

 一夏は和奏により完膚なきまでに破壊された『白式』を量子展開する。当然、纏える筈も無く残骸となってラボトリー内の床に落下する。

 

「ふむ……」

 

 ISの機体を構成するパーツは人間1人の腕力で持ち上げるには苦労する程の重さがあるのだが、凡ゆる部位が粉々であり元々何処のパーツであったのか面影すら感じない程の損壊具合だ。一層の事、スクラップとして再利用に回した方が良いんじゃないか?と言う程の損壊具合だ。唯一、原型を留めているのがその残骸の山に浮かぶ『白式』のコアだけ。それがあるべきモノを失い寂しく浮遊している。

 

「……ど、どうなんだ?」

 

「率直に言おう。……修理云々、以前に、新調した方が、良いだろう」

 

「……やっぱり、か」

 

 レーキュの言葉に一夏は肩を落とす。素人目線の一夏から見ても此処から修理なんて無謀が過ぎると言い切れてしまう。

 何せ、ほぼ機体の原型を留めておらずもはや大鋸屑の山だと言われても疑いようが無い有様だからだ。

 

「幸い、ISコアは、無事だ。和奏(あのバカ)め、器用な真似をする」

 

 ISコアはISの心臓であり脳だ。仮に機体が破壊されようがパーツを交換すれば元通りになる。だが、ISコア自体が破壊されればそれすらも叶わない。別のISコアを充てがっても『好み』の問題で同じ構造に出来ると限らないからだ。

 『白式』のISコアは正しくそれが顕著に現れている。射撃武器も装甲武装もノーサンキューと言う雪片弐型以外受け付けようとしない。

 

「……そ、それよりも『白式』は直るのか?」

 

「ふむ。ISコアは無傷、で、機体のスペックデータに、破損は、見られない。スペックデータを元に同型パーツを新造、すれば、再登録に、時間は、掛からないし、馴染み、やすい」

 

「……‼︎」

 

 その言葉に一夏は希望が見えた気がした。機体丸ごとのオーバーホールと言うよりも、機体の全てのパーツを総取替する形になるが、修理が出来る事に期待が膨らむ。

 

「……だが、問題がある」

 

「も、問題……?」

 

「普通、ならば、製造元で、新造、組立、を行うのが、最も、手っ取り早い。しかし、……『白式』の、製造元、である、倉持技研、は、倒産、した」

 

「と、倒産⁉︎」

 

 初耳であった。確か授業では倉持技研は第二世代機で未だ相応のシュア率を誇る『打鉄』の製造元。つまり、IS企業の中では最上位に君臨する一流企業とも言える。それが倒産だなんて信じられなかった。

 

「株価が、暴落した、らしい。詳細は、知らない。幸い、ISコア、に登録され、ている、スペックデータ、は無事……データを抽出、し、寸法、を、把握すれば、問題、は、無い……」

 

「……ほっ、な、なら良かった……」

 

 逆を言えばIS学園に戻った後、同様の大破をすれば修理は難航する事を意味している。一夏は気付いていないが、そんな真似が出来るのは世界広しと言えどISの開発者くらいなモノだろう。

 

「それは、偶然、聞いた話。此処から、が、問題、の本題」

 

 レーキュの言う『問題点』は別の事だった様だ。倉持技研が倒産したと言うのはそれはそれで問題ではあるのだが、レーキュにとってそれは問題点には入らない。

 そう、修理とかもタダでは無いと言う事だ。当然費用は掛かる。

 

「費用諸々、全て、を含めて……。そうだね、修理代は、『200万』、CP程、かな」

 

「に、にひゃくまん⁉︎」

 

 一夏は思わず裂ける程に目を見開いて、愕然とした表情を浮かべた。乙音から情報料として支払った時は精々、5万程だったが今回、請求された額は桁が違った。

 

「……コレでも、かなり、安く、見積もった、方だ、よ。普通、ISの、製造では、安くても、日本円で、1億円、専用機、クラスと、なれば、5、6億円が相場、だよ」

 

「そ、そんなに掛かるのか……‼︎」

 

 何気なく専用機を乗り回していたが、その実、莫大な金額が掛かっていたのだ。IS学園で行われる修理等は基本的に学園側持ちだったが、学院では個人負担の様だ。当然、保険なんかは無い。

 

「ローン返済は、しない。直払いのみ、だよ」

 

 そんな額のCPは一夏は持ち合わせていない。事前に修理代は必要とは聞いてはいたが、まさか此処までの巨額とは思ってもいなかった。既に箒達のCPはほぼ無いに等しい。

 かと言って支給されるCPが高額の刑務作業は『拡張領域』が前提であったり、専門知識が要求されるモノが多い。

 箒達が頑張って稼いでも直ぐには用意できる金額とは言い難いだろう。

 

「じゃあ、他の、代替案を、提示しよう」

 

「代替案?」

 

 五稜監獄学院での取引はCPで解決出来る。逆を言えばCPが無ければ、出来る事は限られる事を意味している。この点は現実社会のお金の概念と同じである。

 だが、レーキュは代替案を用意すると言う。CPが足りない今、其方で解決出来るならば其方に掛けたい。

 

「君の、右腕で、手を打とう」

 

「んなっ⁉︎」

 

 レーキュの物騒な提案に一夏は又しても驚愕した。コイツは一体、何を言い出しているんだ、と。

 

「『男性操縦者』、を、研究、したい、遺伝子、を解析、して、何故、適合、するのか、体を、解剖、して、原理、を究明、したい、と言う、研究者、は、数多い。かく言う、私も、研究者の、端くれ、無論、その、欲望、はある。何、腕だけ、で、構わない」

 

「……ッ‼︎」

 

 一夏は目の前の中学生程の体躯の修験者の服装をしたレーキュが何か恐ろしい存在に見えた。身長差故に頭に被った笠で顔色は窺い知れないが、どんな顔をしているのか……。

 ただ、『男性操縦者』として持て囃されてはいるが、その一方で何故、一夏が女性しか反応しないISを動かせるのか……そのメカニズムを解明したいと言う人間達の存在を実感した。

 

「そ、そんなの嫌に決まっているだろ……‼︎」

 

 右腕は利き腕だ。それを失えば仮に白式が修理されたとて、左腕で雪片弐型を振るうのは難しいだろう。

 

「そうか……、なら、仕方ない」

 

 レーキュは意外とアッサリと引き下がった。その事に一夏は意表を突かれた気分になる。ただ、直感で無理強いをしてくるんじゃ無いかと言う先入観が生まれたからだ。

 

「……いきなり腕を寄越せと言われて納得する奴居るのかよ……?」

 

「対価、無くして、何も、得られない。当然、じゃないか?」

 

「……」

 

 冷酷な返答が返って来た。確かにその通りではあるが……感情的には納得しかねる。

 

「じゃあ、CPを、稼いで、持ってくる? 正直に言うと、君達が、3ヶ月以内で、稼げる額、じゃない、よ」

 

「…………」

 

 それは確かに言えている。しかし、提示された代替案は承服しかねるのもまた事実。

 

「他に……他には」

 

「ならば、誰かを、犠牲にする?」

 

「……犠牲、?」

 

「そ。何もせず、只々、期待しては、勝手に失望、し、剰え、所有物だと、奢る、おんぶに、抱っこの、1組の、生徒諸君。片や、君の決意を、水泡に、追いやった、3組の、生徒諸君。

 其の何方も、君の努力を、嘲笑っている」

 

——この人……やっぱり、シャルロットの件も知ってる⁉︎

 

 悪魔の様な囁き。

 だが、確かに考えてみれば、彼の言葉は言われてみれば正にその通りだ。1組の箒達を除けば、大半が好き勝手言うし都合の良い面々ばかりだ。3組に至っては間接的にシャルロットをIS学園から追い出した原因でもある。考えれば、考える程に……苛立ちが募ってくるのは不思議と自然な気がした。

 

「如何、だろうか? 何、君は、何もしなくて、良いし、こんな学院、だ。皆々、思うまいよ」

 

「————」

 

「成程……では、全て、此方に任せたまえ」

 

 その後、一夏はレーキュのラボトリーを後にした。

 

「……さて、コレで、少しは、面白く、なる、かな?」

 

 レーキュは嗤う。

 ラボトリーの外で『うにーっ‼︎』と言う幼い狂声を聞き届けながら、コレから起こるであろう『騒動』に期待を膨らませながら。

 

「…………如何やら、また、うに娘、が、悪戯を、始めた、みたい、だね……。まぁ、変数が、あった方が、より、面白く、なるか」

 

 

 

何方を犠牲にする?(R-18的な意味で)

  • 1組
  • 3組
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