同時刻。
学院某所。
その大部屋には多数の囚徒達が詰め掛けており、彼方此方に大量に積まれた学院運営に関する書類相手に格闘していた。
「アイツ、何時もこんな馬鹿みたいな量を捌いていたの?」
「この文字読めない‼︎ 誰か読める人、居ない⁉︎」
「うわぁ、細かい‼︎ 頭が痛くなる‼︎」
「(思考停止)」
「……え、えーと……これはコレで、そのー、あー、……誰か代わって……‼︎」
事務机のみならず周囲の床にも遠慮なく積まれた書類の束、と言うか塔……と言うよりももはや書類の山脈を形成している。これはもう、どう考えても丸一日やっても終わる気配が無い仕事量と言えた。
コレもアレも学院内の彼方此方から寄せられる色々な内容の決済やら他諸々も混在している為、それを探して分別する所から始めねばならないと言う状況だった。その為、机が足りないので別の部屋から机や椅子を持ち込んで処理しなければならない始末となっていた。
「ん、スタック量が、尋常じゃない。これは厳しい……」
「指が足りないよ〜」
仕事量は紙媒体だけじゃない。無数の空間投影ウィンドウを表示させ其方の面でも並行して進めなければならないのだ。
「発注の件、外回りの時間調整。更には学園側の不測の事態の対応……と、詳細を含めるとかなり多いですね」
「例の『ラビットハント』や『ハロウィンジィエル』の調整、準備も進めなきゃいけないわ」
取り敢えず役割を分担して同時に進めている。メイドの面々は半数以上が脳筋の馬鹿揃いの為、ある意味全滅状態だ。
「ちょっと……***の案件もあるじゃない⁉︎ コレ、どうするのよ⁉︎」
「げっ、本当ね……こんなの雑っていたなんてね。早めに見つかって良かったわ」
「この案件だけは私達如きが関わって良い内容じゃないわ……。休ませているってのに、本末転倒も良い所ね」
「私がご主人様にお届けします。……お休みの所に持ち込む形になってしまいますが……」
「奴はその事で咎めたりはせんだろう」
「はい、其処〜。一段落着いたら他に手を付けてよ〜‼︎ 今日中に終わる気がしないんだから〜‼︎」
議長でもある姫舞の鶴の一声により止まっていた手が動き始める。……正直、コレだけ人数が集まっていても徹夜が約束されているような状態と言えた。
『どう ぞぉ』
然もロールケーキがどうやって喋っているのか理解が及ばない中、そのロールケーキは白いクリームの塊を放ち鈴音とセシリアへと向けて襲い掛かって来た。
「「ッ‼︎」」
飛来するクリーム塊をお互い反対側へと瞬時加速で躱す。
其処は代表候補生。機動力が売りのIS操縦者。学園の一般生徒や素人臭さが抜けない男性操縦者と違い、速度があっても視認出来る攻撃などそう簡単に当たらない。
「セシリア‼︎ 私が前衛をやるわッ‼︎」
「分かりましたわッ‼︎ 私が後方から援護します‼︎」
咄嗟の判断で役割を決める。お互いの機体のコンセプト、更には学園の時の模擬戦の結果から、その配置が理想だと分かっていたからだ。鈴音は燃費重視で遠近共に対応可能な装備、対するセシリアは遠距離主体の実験機。
収監棟とは言うが高さに関してはISの基準では足りないが大廊下故に前後には余裕が持てる。
「デザートだかロールケーキだか何だか知らないけど、ぶった斬れば終いよ‼︎」
鈴音は一気に間合いを詰め、双天牙月を振り被り、断面図へと狙いを定めて振り下ろす。
当然、黙って見ている筈も無く飴細工の腕を振り上げて阻止しようとするも、遠距離からセシリアが狙撃してその行動を阻止した。
「ナイス、セシリア‼︎ とりゃああぁぁあ‼︎」
『とろ とろぉ』
妨害を阻止し、鈴音は裂帛の気合いと共に刃を振り下ろす直前、黒いチョコクリームらしきモノが噴出し胴体を覆い始める。
「そんなモノごと、切り割いてやるわッ‼︎」
鈴音はそのクリームごと叩き割ろうと双天牙月の刃を突き立てた。しかし、1ミリから奥へ刃が通らなかった。
「はぁ⁉︎」
『だ、ダイラタンシー現象⁉︎ 鈴さん‼︎ 離れて下さいまし‼︎』
鈴音は眼前でクリームに刃が通らない事に絶句し、セシリアはハイパーセンサーでその状況を把握して的確に起こった現象を理解した。
その声が聞こえた直後、鈴音は後方に向けて瞬時加速して即時離脱。数秒後にロールケーキが押し潰そうと倒れ掛かっていた。遅れていたら、ロールケーキに潰されると言う情けない死に方をする所であった。
「セシリア⁉︎ そのだいら何とかって何よ⁉︎」
セシリアの近くにまで後退した鈴音はセシリアに先程、彼女が叫んだ言葉の意味を問う。
「衝撃を受けると固くなる現象の事ですわ。身近なモノですと片栗粉と水を混ぜると普段は液状なのに力を加えると固体になるのと一緒です。どう言う原理かまでは分かりませんが、あのチョコクリームと思われる物質は衝撃を受けると硬質化するようですわね」
「作ったデザートが意思を持って動き始める光景も可笑しいけれど、そんなモノまで用意されちゃあ堪ったもんじゃないわ。あのクリームが垂れている場所以外の箇所を狙えって事?」
「見た所、溢れ出て垂れている様子から完全に接着している訳では無さそうです。衝撃や爆発で剥がす、と言う手が通じそうですわ」
「成程、そりゃ良い手ね。作戦変更よ、衝撃砲であのクリームを吹っ飛ばすわ。垂らし始める前に叩っ斬ってやるわ‼︎」
「此方もミサイルで吹き飛ばしますわ。射線に入らないで下さいまし‼︎」
作戦を変更して即座に動きを開始。鈴音は回り込む様に飛行して、不可視の砲弾を放つ衝撃砲を放つ。
『ごちそぉ よぉ』
対するロールケーキはマフィンの様な砲弾を放出して迎撃。その何も飛来途中で爆発四散して行く。その光景に鈴音は別の意味で驚愕する。
「ウッソでしょ⁉︎ 不可視の砲弾を視認して撃ち落としているって言うの⁉︎」
あのデザートはどうやって知覚しているのか考える余地は無いのだが、初見で衝撃砲を知覚して迎撃して来ると言う事はかなり厄介と言えた。
「隙有りでしてよ‼︎」
『あ まぁ』
そのタイミングでロールケーキの下部にセシリアが放ったミサイルが命中し態勢を崩す事に成功した。爆発物を喰らっても形状が殆ど崩れない事からロールケーキ自体もかなりの強度を……と言うか爆発に耐えられるロールケーキなんてどうやって作ったのやら。
「今がチャンスね‼︎ 今度こそぶった斬ってやるわッ‼︎」
その隙を逃さず鈴音は瞬時加速で急降下。勢いと体重を乗せた一撃を頭上から叩き付ける。収監棟の床に亀裂が入る程の衝撃を与えるもロールケーキ自体、ダイラタンシー現象が発生しており、胴体が歪曲し円形と言う事もありボールが弾むような反動で上空へと跳ね飛んで行った。
「なによ、あの弾力ボールみたいな体ッ‼︎」
あの巨体が跳ね飛ばされて行く光景はかなりシュールだった。
『とろ とろぉ』
放物線を描く様に跳ね飛ぶ中でもチョコクリームを垂れ流して床にばら撒いて行く。天井スレスレの高度にまで昇った時、途中で強い衝撃を受けたのか吹き飛ぶ方向が全くの正反対の方向へ吹き飛んで行く。
「「ええッ‼︎⁉︎」」
そのままロールケーキはセシリア達の頭上を越え収監棟の天井スレスレを擦りながら飛んで行き上階の吹き抜けを跨ぐ高架を破壊し倒壊させながら下階へと墜落、多数の粉塵が舞った。
「……私達よりも先に受注していた奴?」
自分達よりも先にこの刑務作業を受注している者が居るとは聞いていた。このタイミングで合流したと考えるのが濃厚。その人物の姿を見ようと振り向いた。
「飛んだ、飛んだ〜(ーωー)ノシ」
「え?」
鈴音は思わず惚けた声を上げた。
目の前には幼女が居た。
インナーカラーは黒色で長い銀髪をツーサイドアップに纏めた幼い少女。
黒革の胸ベルトが胸元と胸下に巻かれ首輪と鎖で連結された囚人服を纏っている(幼い体躯の為に胸はちっぱいレベル)。
袖口付近には革ベルトの代わりに黒いリボンが付けられているが、余っている為に指は袖により隠れてしまっている。また、足首付近にも黒革ベルトが左右に1つずつ巻かれており、足枷にもなりそうな構造。
学院の囚徒の共通デザインの囚人服だが、幼さ故かその拘束はやや甘めと言えた。
「……こ、子供……って」
こんなガチめな幼い幼女も囚徒である事である事も驚きだが、袖越しに持っていたのは幼女が持つには不釣り合いな黒の本体に刃がピンク色と言う厚めのノコギリ。この時点でかなり猟奇的な代物だったが……そんな事はどうでも良かった。
「一夏……アンタ、何やってんの……?」
鈴音がドン引きした理由。それはそのノコギリに織斑 一夏が鎖で巻き付けられて拘束されていた事だ。ご丁寧に鋒の方が頭になる様に括り付けられていた。そして、殴られたのか頬は腫れていた。
「俺が聞きてぇよ‼︎ と言うか振るなぁぁ‼︎」
一夏は叫ぶがその幼女、ウィキリピアは気にしていない。ブンブンとそのノコギリを振っており、括り付けられている一夏も頭が揺れる事になる。
「うに〜(ーωー)ノシ」
今回のウィキリピアの武器(ノコギリ擬き)の名前は?
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奇剣オリムラ
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TEHサマー
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血鋸夏織丸
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零落夏夜