「セシリア‼︎ 何かアイツは今、あの小っちゃい子に意識が向いているわ‼︎」
時折、一夏の悲鳴が轟く中、戦況に変化が訪れた。ホールケーキは自分達に目をくれず、ウィキリピアの方へと視線が向いている。自分達は脅威では無いと判断されたのだろう。
『幼い子供を囮にするのは気が引けますが……何とか持ち堪えてくれる事を祈って、私達は攻勢に出ましょう‼︎』
彼方に攻撃が向くのであれば此方側はガラ空きとなり絶好のチャンスと言える。あの絨毯爆撃もかくやと言う砲撃の雨霰の中では攻めあぐねていたからだ。この好機は逃せない。
『あまいはうつくしいです』
上階の方では破壊音が響いている。同時に一夏の悲鳴も聞こえて来るが、多分、大丈夫な筈……『防腐処理』もあるし。
「取り敢えず、あの胴体を破壊しないと‼︎」
——いや、2段目を破壊するべき? 1段目は凍り付いているけど、クリームが想像以上に硬い。ならまだ固まり切っていないであろう2段目を狙った方が良いかも。今なら攻撃は向こうに向いている‼︎ 狙えるチャンスはあるわ‼︎
鈴音は2段目に狙いを定めた。先程までは多数のポッキーが射出されていた場所であり立て続けに放たれる為に接近も叶わなかった場所だ。だが、今なら其処を狙える。
『あまいはとうといです』
上階の一部が崩れ去り、床だった物が残骸となって中階や吹き抜けを介して下階へと落下して来る。その最中、ウィキリピアは飴細工の細い腕に飛び乗ってその腕を伝う様に移動しているのが見えた。完全に意識は彼方に向いている‼︎
「あの子に良い所を持って行かれる訳には行かないわ‼︎」
鈴音は瞬時加速でホールケーキの2段目へと吶喊。砲撃に晒されない今、邪魔は入らない。
視界を広げればあの蔡歌と言う囚徒も鈴音と同じ結論に至ったのか重そうなモーニングスターを引っ提げて2段目へと向けて跳躍して大上段の構えで中空から飛び掛かる。熟、信じられない身体能力だ。
「至近距離での衝撃砲を喰らいなさい‼︎」
0距離砲撃は撃つ側にも被害が及ぶ諸刃の剣。だが、シールドバリアが健在ならば多少は緩和される。最悪、誤爆して腕が吹っ飛んだとしても『防腐処理』故に修復は容易。
防腐処理の気持ち悪さは別問題だがこの二段構えは中々、強力な精神安定の一助と言える。普通ならばこんな無茶な戦法は取れやしないだろう。
ゴォンと言う轟音が2回同時に鳴り響いた。鈴音が至近距離での砲撃のタイミングが蔡歌のモーニングスターの殴打と重なった。モーニングスターの殴打が砲撃と同等と言うのは本当に可笑しな光景ではあったのだが、相乗効果によりホールケーキの姿勢が大きく崩れた。
『あまあま?』
「うにっ‼︎」
そのタイミングでウィキリピアはホールケーキの飴細工腕を渡り切り3段目の更に上に乗っかっていた黒い毛玉の様な兎に奇剣オリムラを叩き込んだ。その時、ホールケーキの体勢が崩れた為、狙いが外れて3段目に叩き込まれ、その反動で黒い毛玉が衝撃で吹き飛び、宙を舞った。
「頂きましてよッ‼︎」
宙に浮いた存在。セシリアは瞬時にソレが『本体』だと察し、狙撃銃を構え発砲した。
狙撃銃を扱う者にとって1番に狙うべきは言うまでもなく『頭』だ。ISの試合では頭を直接狙うのは御法度だとされているが、相手が人間では無いのならば問題は無い。
撃鉄の音と同時に一筋のレーザーが放たれ、宙を舞った黒い毛玉を寸分の狂いなく貫いた。
『あ まぁ 』
レーザーに貫かれた毛玉はそんな声を遺し、粉々に砕けて消滅。同時にホールケーキ自体も身体を維持出来ずにボロボロとなって崩れ砕け散りその原型を残す事無く完全沈黙した。
「やりましたわッ‼︎ 無事に刑務作業完遂ですわ‼︎」
「美味しい所を持って行かれちゃったわね……」
「うにーっ……」
「遠距離専門の機体だしね。でも、成功したし結果オーライって奴ね」
ホールケーキは完全に崩壊して物言わぬ残骸と化した後、凍り付いた場所から少し離れた位置にて鈴音達は集まって談話を交す。
蔡歌とウィキリピアも自分達が撃破するつもりだったのだが、セシリアにラストヒットを決められてしまったが、その事実は認めざるを得ない。
「まぁ、何はともあれ……目標撃破。刑務作業は無事終了ね」
蔡歌は空間投影型ウィンドウを開いて刑務作業の報告をする。参加者及び結果のみの簡潔な内容の報告書を提出した。
「はい。報告を済ませたから、報酬のCPが振り込まれた筈よ。心配ならば確認したらどうかしら?」
蔡歌に言われて鈴音とセシリアは小型の空間投影ウィンドウを開き、首輪にて管理されているCPの残高を確認する。今回4人参加の為、CPは山分けされて1人当たり1万CPが振り込まれていた(一夏は参加を表明していない為)。
後、戦場となった収監棟は見るも派手な破壊の痕跡が彼方此方にみられるのだが、残骸の片付けなどの撤去や壊れた橋や鉄格子、床の修理等の作業も別の刑務作業として掲示されるとの事。本当に最後まで囚徒達の手で運営しなければならないようだ。
「えーと、それで……その一夏さんは?」
其処でセシリアは色々な意味で1番、損害を被っている奇剣オリムラの材料の一部となっている一夏へと見やる。
「もはや、ソレは誰?みたいな状態ね……」
「うに〜(ーωー)」
両脚は無理矢理引き千切られたかの様な断面図を残して完全に無くなっており、両腕は双方共にあり得ない方向に曲がっていたり折れており、今にも千切れそうだ。
頭部に至っては髪の毛はほぼ全滅し白いモコモコで覆われている。もし、誰かに正体を言われなければ織斑 一夏とは到底思えない『アンタ誰?』な状態と言えた。
「…………」
当の本人は激痛と叫び過ぎにより、気絶したのか何も言わない状態だった。
「大丈夫、大丈夫。後で修復出来るから」
此処まで酷い有様でも元通りにする事が出来るらしい。本当に『防腐処理』様様であった。
「うにーっ(/・ω・)ノシ」ポイッ
殆どのボロボロ同然の一夏をノコギリから外したウィキリピアは鈴音とセシリアに一夏を返却した。
「と、所で何故……一夏さんをそのノコギリに付けたのでしょうか?」
「んー、零落白夜出来ないかな〜って」
「「……」」
真面目かつ純粋な疑問をもって答えられてしまった。一夏=零落白夜と言う方程式が出来上がるのは何故なのだろうか? 幼さ故にまだ分からないのかも知れない。
「さてと、私達はそろそろ行くわね。議長やメイド長から応援を頼まれているのよ。だから其方に向かわないと」
蔡歌はウィキリピアを持ち上げてそう告げた後、足早に鈴音達の前から立ち去って行った。其処まで長く談話する時間は無かったらしい。
「……取り敢えず、一夏を医療棟へ連れて行きましょ」
「え、ええ……そうですわね。流石にこの状態を放置する訳には行きませんし」
両腕骨折、両脚欠損、髪の毛全焼と言う痛々しい姿の一夏を連れて鈴音達は其の儘、医療棟へ彼を放り込む為に向かうのであった。