1組クラス代表決定模擬戦の夜。神楽が簪の居る整備室を訪れる直前、IS学園某所。
「あ、織斑先生。お疲れ様です」
「……山田先生。すまんな。事務処理を押し付ける形になって」
「いえいえ……それで、其方の件は?」
「案の定、はぐらかしやがったよ。四十院の奴は」
真耶が近くのポッドの湯をカップに入れてインスタントのコーヒーを淹れて千冬に出した。
あの後、本来ならばお互い一勝同士のセシリアと神楽の試合が始まる筈だったのだが、神楽が棄権した。本来ならば却下する所なのだが、神楽が一夏の雪平弐型を奪取した挙句、アリーナ全体を覆うエネルギーバリアを破壊したのだ。ISのシールドバリアと違い大型の為、再展開に時間が掛かる。それどころか場外乱闘に持ち込む事も辞さない構えと捉えた為に、千冬は不本意ながらもその棄権を認め神楽を不戦敗と見做し、セシリアが全勝する形で幕を下ろした。
「それにしても四十院さん、凄い制御技術でしたね〜。瞬時加速を彼処まで自由自在に使い熟すなんて」
「……果たしてアレは瞬時加速と呼べるものなのか」
管制塔に居た2人もアリーナ内で神楽と一夏の試合を見ていた。構図と言えば一方的な展開だったと言わざるを得ない。終始一夏が押されて完封状態だったのだ。それは良い……だがそれであっても圧倒的な速度の前に為す術も無いと言うのが問題と言える。
「それに四十院のIS其の物に問題があるだろう。脚部装甲だけで完全展開と言うのだから正気かと思わざるを得んな。四十院グループの思考回路はどうなっている……?」
武装が強力と言う訳では無い。軍事用とも言えない。ただ、速い。その一言に尽きる。実際、開幕前に一夏を叩き落とした時、本当に見えなかった。本気でワープしたんじゃないのかと思いたくなる程の瞬時な移動。そんな方法、聞いた事が無い。
「……その点に関して四十院に聞いたが『鍛錬の賜物』としか言わんかった。鍛錬で出来るのならば皆、目指しているだろうに」
「あ、あははは……」
「だが」
其処で千冬は一拍置いた。
「奴の自由自在の飛行方法。正に魚が水を得た様な飛行は従来のISではあり得ない動き方だった。それに魅了されたのもまた事実だろう」
「あー、確かにそれは言えていますね。あんなアクロバティックな飛行……国家代表でも早々出来ませんよね」
「……ついでに言うなら彼奴がクラス代表と言う案は無しだ。あんな奴、1年のヒヨッコ共が敵う相手じゃない。ほぼほぼ四十院の動きに翻弄されて完封されるのがオチだ。ハイパーセンサーでも追い付けない速度に加えて奴の攻撃の速度も異常に速い。人間の反射速度を超えているだろう。そんな奴に高々、数回ISに乗った程度の小娘が勝てる筈がない」
「銃弾を見て避けちゃいそうですよね、其処まで行くと……」
其処まで行けば最早、バランスブレーカーだろう。IS学園にはトーナメント方式のイベントがある。そんな奴に出場されればワンサイドゲームに陥りかねない。競争心はお互い研鑽し成長を促すのだが此処まで常軌を逸した存在が相手だとそれも無意味と化す。
「その上に四十院其の物に謎が多い。関西方面全体を主体とする財閥グループなのだが……そのグループを仕切る四十院家がどんな連中か得体が知れん……IS企業を始め大型スーパーや製造業、物産やら色々手掛けている事は私でも知っているがな」
「……あー、確かにグループの総帥の名前すらも不明ですしね」
「兎も角、害意が無ければ放置で良いだろう。四十院自体、そんなに目立ちたい訳では無さそうだしな」
「あ、織斑先生。話は変わりますけど織斑君は?」
「……ああ、高山病になったが暫く安静にすれば問題は無い。要らぬ心配を掛けたな」
1組のクラス代表決定戦から数日後。神楽と共に予約した日の前日となる金曜日の放課後。予約日の前日であり、一応今日の出発しての二泊三日の予定となっていた。その理由は——
『夜の貌と言うのは夜に行動するからこそやる気が出ますの。所謂、深夜テンションと言う状態ですわ』
と神楽に返されると同時に神業の如き速さでスカートの中の下着を指で擦られるセクハラを受けた。あの人、やろうと思えば所作の1つ1つが視認出来ない程に速い。抵抗は無意味だった。
——神楽が言うには迎えが来るらしい。そのタイミングで移動する事になるけど、交通情報や向こうの状況次第で時間は前後するらしい。
段取りは全て整えられている。表向きと言うかIS学園に対して提出された外出理由は国家代表候補生として政府からの呼び出し及び土日間は政府都合による諸事情となっている。
IS学園は中立であり学園や在籍生徒は凡ゆる国家、組織、宗教から干渉を受けないとされているが有名無実化している。国家代表候補生や企業代表と言ったテストパイロットはそれ以前に政府や企業に帰属している。
その為、この理論が成立しているのだ。
——何時来ても良い様に待つ事になっているけど……ちょっと暇。
何時もならば整備室か、寮部屋でR-18アニメ鑑賞をしているのだが……今回ばかりはそれをする訳には行かない。此方の都合で待たせるのも具合が悪い。
「ねーねー、知ってる?今、食堂で1組の代表が織斑君に決まった事の打ち上げパーティーをやっているんだって⁉︎」
「本当⁉︎ コレなら近付けるチャンスじゃない⁉︎」
「合法的に接近出来るチャンス‼︎ 然も童貞と言う事は交際チャンスも⁉︎ 織斑先生の義妹チャンス⁉︎」
放課後となり何やら校舎全体が騒がしい。如何にも数日前に行われた1組のクラス代表が決まった際のサプライズ的な打ち上げ会が行われているらしい。諸事情で一夏がクラス代表に決まったらしい。試合内容は一夏はボロ負けの惨敗だが、何かしら圧力か要因が重なった結果か。
——…………如何でも、良いや。
専用機絡みで怨みはあるが、正直に言えば段々吹っ切れつつある。余り興味を持てなかったが……。
——あ、神楽は1組だった筈。巻き込まれているかも……。
少なくとも神楽は簪よりも社交的である。何かしらの理由で巻き添えを喰らっているかも知れない。と言うかどの道、校舎の構造の都合上、校門付近に行くには食堂を経由せねばならない。
「…………」
一夏ムーブの中で時間を潰すのも苦痛だ。ならさっさと神楽と合流して移動したい。そう考えた簪は食堂に向かい其処に居るであろうと神楽と合流する事にした。
——うわぁ……ナニコレ?
IS学園の食堂。国際的な学園だけあってか提供される料理も各国の料理が一通り揃えられている。他にも有名なデザイナーとかの力作のモニュメント(邪魔)が置かれている。
その食堂を丸々貸し切って1組生徒主導による『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と言うデカデカと書かれた段幕を掲げての打ち上げ会が行われていた。
高々、クラス代表なのに此処までやるのかと簪は呆れてしまう。そんなに男子が珍しいのか? 生まれてから女子だけの学校による義務教育の箱入りで育って来たのかと言う二重の意味でも呆れてしまった。
然も1年生だけじゃなくて2年生辺りもチラホラ見受けられる。流石に3年生は卒業先を見据えての追い込みに掛かっているのか女尊男卑病が蓄積しているのか見受けられない。
——神楽は、あ、居た。
簪本人は余り目立ちたくないが群衆に居ても目立たない雰囲気。その為、他の生徒からは見向きもされていない。周囲を見渡すと一角に神楽が居た。視線を向けた時、神楽も簪の姿を認めたのか談話をしていた生徒達に一言二言告げた後、簪の元にやって来た。
「すみません、流石に断り辛かったもので」
食堂を離れて廊下を歩きながら話す。コレからの話は第三者に聞かれる訳にはいかないからだ。
「ううん、気にしない。私としては……今のこの空気は気不味い」
「厳密には彼本人は悪くは無いのですが、感情的には難しいでしょう。と、その話は終わりにして……迎えの方が到着した様ですのでそろそろ連絡しようと思っていた所です」
——遂に来た……。私を、私達を辱める世界への招待状が。
その妄想が脳裏に過ぎる。まだ学園内なのでその妄想の密度は薄めである。流石に学園内でバレるのはマズい。
「では、待たせるのも悪いので早々に行きましょうか」
「う、うん……‼︎」
既に迎えの職員が到着している。故に時間が無い。基本的に必要なモノは特に無いので制服姿のまま、校門に向かう。IS学園の校門近く敷地内には来賓用の駐車スペースがありそのスペースの1つに黒塗りのリムジンが横付けされる形で停車していた。
その近くで1人のフォーマルな服装をした女性が軽くお辞儀をして待っていた。
「お待ちしていました、更識様と四十院様。現時刻を持ってお迎えに参りました」
「有り難う御座います。長居は無用、速やかに出発しましょう」
——IS学園は中立。故に何時でも、監視されている……。今年は、男性操縦者が居るから特に……。
神楽が挨拶を交わした後、後部座席の扉が開かれて神楽と簪の2人は乗り込み、女性が運転席に乗り込み静かに動き出し、校門を潜り抜けて日本本土とIS学園島を繋ぐ大橋へ向けて走り出した。
気になる服装と言えば?
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エプロンドレス
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レオタードに網タイツ
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白衣に緋袴