「っあ……?」
風により木々が騒めく音を聞きながら楯無は目覚めた。
「あれ……此処は?」
木漏れ日が差し込む森の中。小さな祠の様な建物の前で無造作に打ち捨てられたが如く倒れていた。
「……う……頭が痛い」
——寝過ぎた時、特有のあの頭痛の類……。服装もIS学園の私の制服……専用機も、ちゃんとある……どうなっているの?
五稜学院へ潜入した……。最後は、その……言葉に表したくは無いのだが……。
「お嬢様‼︎ 此処に居たのですか⁉︎」
其処へ後方から聞き覚えのある声。布仏 虚が息を切らしながら走って来る姿が見えた。此処は電波は圏外だ。だから直接来たのだろう。幸いにも彼女の姿は良く見るIS学園の制服の姿であった。
「虚ちゃん⁉︎ 無事だったのね⁉︎」
「はい? いえ、それは兎も角、お嬢様。申し訳ありませんでした。以前、私が手に入れた五稜学院の位置情報は偽情報でした。まんまと偽の情報を掴まされ、お嬢様に無駄足を踏ませてしまったとは」
「え?偽情報……?」
「はい。この場所には何もありません。全く見当違いも甚だしい情報でした……」
「そ、そんな筈は無いわ‼︎」
楯無はあの光景が夢物語では無く歴とした現実だと信じて祠の中へと突入し、以前開けた床を剥がして見る。だが……。
「そ、そんな……⁉︎」
其処には梯子なんてモノは存在せず、床下の土が見えるだけであった。他の床も剥がしてみるが何も無かった。まるで、あの光景は幻の様に消えてしまっていた。
「う、嘘よ……⁉︎ 確か、此処に地下へと通じる梯子があった筈なのに……‼︎」
信じられなかった。あるべきモノが存在していないと言う事実に。
「……じゃあ、アレは夢……? リアルな夢、明晰夢をずっと見ていたって言うの……?」
意気揚々と潜入したは良いが、結果は夢だったと言うオチ。だが、余りにもリアル過ぎる夢の内容だった。今現在も楯無は五稜学院は存在其の物が怪しい組織だと認知している。
だが、遭遇した異形の存在はどう説明を付けてしまえば良いだろうか? 寧ろ夢であった方が気が楽になるんじゃないか。
「お嬢様、何か……あったのですか?」
「えっと、信じられないかも知れないけど……」
楯無は虚に話した。この地下に五稜学院が存在し遭遇した存在や生徒の一部が洗脳されて戦闘員にされていた事を。……自分が快楽責めや如何わしい服装にされた事は伏せた。恥ずかしいから。
「……お嬢様。それは誰が聞いても妄想や夢か幻覚の類だと受け止められても仕方ありませんよ?
夢で見たと言う内容でしか思われませんし、私も変な夢を見たと言う感想しか言えませんよ?」
虚に溜息を吐かれながら言われた言葉。今時、そんなコテコテな悪の組織があろうモノかと言う呆れ混じりの反応であった。
「う……でも、虚ちゃんも五稜学院は怪しいと思うでしょ?」
「はい。一切合切の情報が無いと言う事から不審に思うのはお嬢様と同意見です。
ですが、何かしらの事情があって秘匿されている場合もあるでしょう。もし、何かあれば本音から連絡が入るのでは?」
「……その本音から連絡は無いのだけど?」
「……あの子の場合、純粋に忘れているのかも知れませんね。……或いは隠し通信機の所在がバレたのかも知れません」
先に貴重品や携帯電話の類の持ち込みは禁止と言う旨が通達されていた事も考慮するとその線はあり得る。
「……結局、振り出しに戻っちゃったって訳ね」
——アレが夢……? そんな筈は、アレは紛れもなく現実であった筈……なのに……。
納得が行かないまま。此の儘、この場所にいても好転しないとの事で楯無は虚と一緒にIS学園へと帰るのであった……。
「…………」
茶番劇。
今回の襲撃事件はその一言に尽きた。
IS学園生徒会長を巻き込み、リデア達を焚き付け、学院長に進言し、和奏を軟禁状態にして、一夏を唆した。
その結果、レーキュは理想的な『結果』を得るに至った。万が一の為の代替案はあったが、そんな不測の事態は起こらず、概ね問題なく進行したのは実に僥倖と言えた。
「……皆、ご苦労。お陰で、充分な、データは、揃った」
レーキュのラボ。その研究室にてレーキュは集計されたデータを確認して、無表情のまま北叟笑んだ。今回の件では誰1人として損をしていないが故に文句や難癖を言われる事はない。
唯一、文句を言うであろう和奏は、学院長の不安と言う名の考査の件でそれどころでは無くなった。
——『感性』、の発露。『感覚』、の発現。……実に僥倖。
「……ラカーユ、満足した?」
「……コレはコレはガイア様。御足労頂いた所、申し訳ありません。研究室故に大した持て成しはできそうに無いのです」
レーキュの背後から、学院長ことガイアが金髪の髪を靡かせながら現れた。唐突、本当に唐突に現れた。気配も何も感じさせずに、かく言うレーキュは愚か和奏達もその点に関して指摘する事は無いだろう。
「……構わない。それより無理に口調を変えなくても良い」
「それは、重鎮。して、珍しい……。貴女が、出歩く、とは」
ガイアに指摘され、レーキュは口調を何時もの形式に戻す。
「……ダメ?」
「いえ、特に他意は、無い。それよりも、此度の、件は、満足、した。コレで、精査、及び、拡張、可能、でしょう」
「それは良かった。……行けそう?」
「……流石に、確約、は、出来ない。アレは、現代、医療でも、限界……シェニー、でも、難しい」
「……そう。でも、頑張って」
「……ん、分かっている」