五稜監獄学院での生活に慣れてきた名刀を筆頭にする3組一同。この学院特有のシステムに困惑しつつも学業や生活基盤を整える為に刑務作業を何とか両立していた。と言っても学業絡みは兎も角、3組全員が一般生徒である為に参加出来る刑務作業は限られているのが実情と言えた。何せ大半のIS学園の生徒が一般生徒、故に取り合いが発生して溢れてしまう者もいるからだ。
「あーもう、こうなんかドカンと稼がれへんかなぁ。何かあらへんか?」
お昼頃の時間帯。名刀達は大食堂の一角に陣取って日替わり無料の定食を食べながら話していた。一時的に大食堂を仕切るメイド達が一斉に席を外していたのだが翌日になればその異変も解消されて何時もの光景が広がっていた。
「何かと言われてもな。確信ある情報を得たければCPが必要となる。……そもそも大半の刑務作業がISの機能がある事や専門知識がある事前提だ……そう安い話は無いだろう」
専用機持ち達が高難度の刑務作業に参加し見事、達成して高額のCPを獲得したと言う話は既に広まっている。一部では『狡い』だの『卑怯』だの『不平等』だのと言う声が上がっている。
やはり貧富の有無では摩擦が生じやすく、CPに余裕があれば心の余裕も持ち易い。この学院での通貨である以上、持ち合わせておくに越した事は無い。
「……うん。前提が満たせない以上、こればかりはどうしようもないよ」
名刀も黎芽と同じ意見であった。無理矢理参加しても『防腐処理』の存在を知ったとは言え、大怪我は免れない。
「あ、代表に皆も揃ってる‼︎」
「ああ、芹那かいな。何や? 耳寄りな情報でも入ったんか?」
「うん、ちょっと来る途中で学院側の人達の話している内容を又聞きしたんだけどね」
芹那が会話に加わり彼女が聞いた話に耳を傾ける。CPを得る為に刑務作業に従事するのだが、それとは別に個別依頼と言う形でCPを稼ぐ手段があるらしい。刑務作業として不特定多数に提示せずに個人が特定個人に依頼する形式も存在すると言う。CPは各人で譲渡も自由と言うルールに則った方式との事。
達成報酬に関してはピンキリらしくまた個人的な内容も多く場合によっては難しい可能性もあるらしい。
「……つまり、頼み事に報酬ありきって奴やな。タダ働きせぇへんってのがモットーなんやな」
「成程……。そう言う形式も認められているのか……だが、我々は学院側の囚徒に知り合いなどいな」
「……ううん、話はした事ある人が居るよ。ほら、小夜さん」
名刀は視線を向けた先には、料理を乗せたワゴンを押しているメイド服に身を包んだ小夜の姿が見えた。相変わらず豪奢で重たそうなメイド服だ。
「モノは試しって言うし、繁忙時間が過ぎたから声を掛けてみましょう。本人が依頼は無くても、もしかしたら別の人を紹介してくれるかも知れないし」
「私も賛成だ。この学院は色々と常識外れだ……彼方側に融通を効かしてくれそうな者と通じておくのは悪い判断では無いな」
「せやな。いざとなったら相談に乗ってくれるかもせぇへんしな」
そうと決まればその方針で動く為、少々不躾ではあるのだが囚徒達の人数が少なくなる午後1時ごろになるまで待ち小夜が一息を吐いた様子を見届けた名刀達は行動を移して声を掛けた。
「えーと、小夜ちゃん? お仕事終わりかな?」
名刀から見ても小夜は歳下そうに見える上に顔立ちも可愛らしい。同性から見ても可愛がりたい庇護欲を誘っていた。その為か自然と『ちゃん』付けになっていた。
「あ、名刀さん達。はいです。お昼を過ぎれば私達は暫くは暇になりますです」
名刀が小夜に声を掛けると、彼女はカーテシーで応じてくれた。
「それで、何か御用でしょうか?」
「そんな畏まらんでもええで。ちょっと話を聞いて欲しいんや」
小夜に件の『個人依頼』の件を話した。その話を聞き終えた小夜は納得したかの様に言葉を返した。
「成程、名刀さん達はCPが欲しいけれど、刑務作業には中々巡り合わせが無いと」
「まぁ、平たく言えばそうなるな」
「仕方ありませんです。日の刑務作業は数に限りと早い者勝ちなのです。その為、間に合わない方も出て来ます」
「せやから、個人依頼って形で誰かおらへんかな〜と思ってんやけど、ウチらは学院側に知り合いとか居らへんねんな……いきなり尋ねんのもアレやしな」
「あ、じゃあ少し手伝って欲しい事がありますっ‼︎」
「え、何かあるの?」
小夜本人にも頼みたい事があるようだ。
「はいです。ちょっと、
小夜は量子展開でメイド服の上に日本刀を佩刀しながらかなり物騒な言葉を吐き出した。一瞬、理解出来なかった。
「……聞き間違いか?要約すれば斬らせろって聞こえたが……?」
「あ、『防腐処理』の話は聞いて居ますでしょうか? 皆さんの身体も縫いぐるみやゾンビみたい身体になってまして防腐剤てんこ盛りなので、腕とか脚とか斬り落とされても簡単にくっつけれますので安心してくださいですっ」
納刀された日本刀を抱き締めながら満面の笑みで小夜はそう言い切る。
『防腐処理』の話は聞いていた。出血した血は瞬く間に白い綿状に変化し腕や脚、内臓が露出する程の怪我を負っても『修復』出来る身体の状態になっていると言う肉体改造を知らぬ間にされていた。
学院側の囚徒達との違いと言えばIS学園の生徒達は効果は3ヶ月間しか持続しないと言う点だろうか(新陳代謝により防腐処理の効果が抜け切るとの事)。
「いやいやいやいや⁉︎ そう言う話やないって⁉︎」
それでも尚、ぶった斬られろと言われて納得するかと言われると大半の人間はNOだ。
そうだ、彼女達は忘れて居たのだ。小動物みたいで幼い印象を受けるが彼女も五稜監獄学院の囚徒の1人だ。周りの戦争上等な連中とは違って温厚かと思って居たがその実、本性はヤバい思想であり何処かしら頭のネジがぶっ飛んで紛失していても不思議ではない。……無いのだがギャップが凄すぎる。
「刃と言うのはお飾りじゃないんです。畢竟、命を
——この娘の目、かなり極まっている気がする‼︎
抱き締めて居た日本刀を佩刀し直して静かに抜刀する。その様子は幼い顔立ちと裏腹に暗殺者か人斬りを思わせる程の冷酷な表情を浮かべて居た。
「えと、それは……あれ?」
一刻も早く断ろうとした時、名刀達は違和感を感じた。
「が、あ゛ぁあ゛ぁ゛ああッ‼︎⁉︎」
「がっあ゛ッ……ッ⁉︎ 」
「ぐ、っぐあ……‼︎」
「い゛っ……な゛ッ……。ッ」
絶叫、遅れて激痛。膝から先が無くなる感覚と視点が下がった時にぶつかった衝撃が何倍も増幅されて痛みが跳ね上がって全身に駆け巡って行く。
それは今まで、感じた事が無い。民間人が経験する事は極めて稀なレベルの激痛だった。
痛みを堪えながら下を見る。各人、綺麗に仲良く両足を切断されていた。切断面からは防腐処理の効能か白い綿の様なモコモコが溢れ出しているのが見える。コレが中身剥き出しで床に接触したら更なる激痛になっていたであろう事が予想されるが、それよりも大きな問題が発生している。
両脚を斬られた。つまり、逃げる事は叶わない。此の儘、彼女に斬られる事を意味している。
——そうだ……。この娘、追いつけないくらい抜刀が速いんだ‼︎ こんなの誰も反応し切れない‼︎
「じゃあ、付き合って貰いますね?」
彼女が抱く刀身には血糊の代わりに白いモコモコの綿が着いている。血糊じゃないだけホラー要素がかなり軽減されているが、そんな光景は気休め程度でしか無い。
「ちょ、ちょっと⁉︎ 幾らなんでも……い゛ぃ⁉︎」
芹那は説得を試みるが、その途中で右腕を根本から断ち斬られ、絶叫をあげた。その様子を泳は横目で見て居た。宛ら死刑執行人の手で処刑を待つ死刑囚の気分だ。
「うーん、もう少し、あぅ……」
小夜は次はどうするか考え込んだその時、急に襟首を掴まれて持ち上げられた。その構図は宛ら首根っこを掴まれた猫の様だった。
「小夜。大食堂で試し斬りするんじゃねぇよ」
「うにーっ(ノシ・ω・)ノシ」
「おにーちゃん、リィエル、おなかすいたー」
彼女の首元を掴み上げたのはこの様子を見て呆れた様子の和奏であった。その背中にしがみついているのは銀髪をツーサイドアップに束ねたウィキリピアとその隣には大人顔負けボディで精神幼女のリィエルがあどけない表情を浮かべて立って居た。
「ご、ご主人様……。ご、ごめんなさいです……‼︎」
持ち上げられてシュンと言った擬音が付きそうな程に落ち込んで謝った。
「……驚いただろう。小夜は人を斬りたがる人斬り依存症みたいな娘でな……」
人斬り依存症。実に怖い肩書だった。こんな小さな娘が……と言いたいがこの学院では油断したら痛い目を見る。その事実を改めて理解させられた。囚徒同士で銃撃戦はザラに起こっているがいざ、自分達が巻き込まれるとは思わなかった。
「……な、何にせよ。助かったわ……。此の儘、ザクザク斬り刻まれるかと肝が冷えたで……」
「……さ、流石に私もコレはマズいと考えた。……この環境を舐めて居た。何処かでこの様な目には遭うまいとタカを括って居た自分が憎い」
「……何を言っているんだ?」
泳と黎芽の反応に和奏はそう言う意味でも呆れた口調で告げる。
「IS操縦者ってのは、スポーツの皮を被った殺し合いだろう。アラスカ条約だのも形骸化しているし事実、各国では軍事配備されており、紛争にも投入されてもいる。
場合によっては腕や脚が吹っ飛ぶ事も決して有り得ない訳では無い。そう言う世界だろう? IS学園卒業生の向かう先の世界と言うのは」
「「「…………」」」
和奏の口から正論が放たれる。
本物の銃器や刃物、兵器を相手に突き付けて『お遊び』だなんて言う神経こそイカれている。それで尚もファッションだのと宣う奴は覚悟が足りないと言える。
「……私達はまだ楽観視していた、と言う事なんですね?」
——そうだ。この人、ISのシールドバリアを貫通して攻撃している。シールドバリアがアテにならない相手も、居るんだ……‼︎
「どう受け止めるから君ら自身が決める事だ。図らずとも小夜が君達の無意識の驕りを絶ち斬ったのやも知れないな」
「……無意識の驕り」
「ま、それは俺の主観に過ぎない。そろそろ騒ぎを聞きつけた医療棟の連中が担架を持ってくる。医療棟で腕と脚を繋げてもらえ」
和奏はそう言い残して小夜を摘みあげたまま、リィエルを連れてその場を去って行った。
「……何と言うか、絶妙なタイミングで助けてくれたよね。あの人……」
痛みが残るが喋れる程度に落ち着いた芹那が口を開く。
「そう、だな。宵咲は見かねたって形か……。しかし、小夜だったか……あんな胎を持って居たとは、見抜けなかったな」
臨島学校で見た姉妹もヤバいと言う雰囲気は表面化していた為に理解は出来た。だが、小夜の様に見た目では分からない者もいる。言動は真面でも、本性は残虐だと言う者も少なくないのかも知れない。いや、実際には其方の方がよっぽど危険なのかも知れない。
「あの、彼の背中にしがみついて居た娘も、隣の長身の人も本性がヤバかったりするのかも……」
銀髪の幼女と、見た目は大人顔負けなのに精神年齢が幼い子供と変わらない女性も、本性と言うか本質がかなり危険と言う可能性もある。
「寧ろ、幼い方がヤバいかも知れへんで。幼いからこそ分別が付かへんって言うやろ……?」
「止めろ……。教育の敗北に繋がりそうで怖い」
「……学院の囚徒達全員、接する時は気を付けないと行けないって事なのかも」
ユリエ「ご主人様。何で、ウィキ達と一緒に居るのよ?」
和奏「子守りだ。蔡歌は別件でな……暇になっちまったから面倒を見る事にした」
ユリエ「暇になったと言うよりも暇にさせられたの間違いよね。絶対」
和奏「……」