騒ぎを聞き付けた医療棟の囚徒達が名刀達を医療棟に搬送して数時間後、小夜の言う通り腕や脚は元通り無傷と言うべき状態へと『修復』されていた。縫合の痕すらも残されて居ない綺麗な状態だった。『修復』出来るからと言ってそう何度も腕やら脚が吹っ飛ばされる程の怪我を躊躇わない……と言う心境には至らないが。
結局、今日はCPを得る事が出来ずに過ごした事となり、時間が流れて独房の中で就寝するのだった。
名刀は目が覚めた。
少し肌寒いと感じた時に目覚めた。
「ん……?」
木漏れ日の光が見開いた目に差して来る。数週間ぶりに感じる日光を浴びれば嫌でも目が冴える。
——此処は……何処……?
上体を起こす。緑が生い茂る森の中だろうか?少なくとも名刀の記憶の限り知らない場所だった。ただ、自然物とは言えなかった。
「人工の森……?いや、違う……遊園地とかにあるアトラクション的な模造物の森、かな?」
人工物の森。
喫茶店や遊園地と言ったテーマパークとかそう言うパビリオンに設置される森林をイメージした模造物で構成された森林の中に名刀が居た。
名刀が目覚めた場所は四方を樹木を模した壁に覆われた小部屋の中だ。床は葉っぱの模造品だった。少なくとも肌触りから本物とは言えない。葉っぱを散らしながら起き上がって自分の体を見てみる。肌寒い理由が其処に存在していた。
「うわぁ……嘘、だよね?」
自分の服装は拘束衣を模した囚人服では無かった。
ストレートに言い切ってしまえばバニーガールの格好をさせられていた。兎を模した衣装、カジノやナイトクラブのコンパニオンがその身に纏うスタイルが良く無ければ着こなせないアレである。兎は万年発情期だのなんだので扇状的な衣裳を施されるのがお約束のアレだ。
限界まで見せんとする黒いハイレグスーツに袖や襟、リボンしか存在しない服飾。歩き易さを無視したヒール。そしてウサギの耳を模したヘアバンド。両脚に至っては網タイツなんてモノは無く、剥き出しと言う有様。
「……うわ、此処もある」
お尻の所には兎の尻尾を思わせる白いポンポンが付いていた。それを触るとしっかりくっついている事が分かる。もう、誰がどう見ようがバニーガールとしか言いようが無い格好だった。
——ま、まさか……バニーガールの服を着せられる羽目になるなんて……それよりも此処は本当に何処なんだろう?
見知らぬ部屋、知らぬ間に着せられたバニースーツ。疑問は尽きないが行動を移さねば何も始まらない。目の前に扉があった、鍵は掛かっておらず普通に開いてくれた。
「……廊下だ。テーマパークとかに良くある巨大迷路とかそう言う類のイメージがある」
ガサリと床に散らばる葉の模造品を踏み鳴らしながら廊下の続く先へと歩いていく。一瞬、迷路かと思ったが複雑では無かった。それよりも話し声らしき音が聞こえてきた。
こう言う見知らぬ場所で目覚めた時、自然と音がある方向へと誘われる。名刀も兎に角、事態を把握したいが為に声が聞こえる方向へと歩いていく。
徐々に聞こえて来る声が鮮明になってきた。騒めきと言うか喧騒と言うべきか、人間が大多数集まった時の特有の情景が脳裏に浮かぶ。
巨大迷路と言うにはお粗末な迷路を抜けた先。其処には大部屋と言うべき空間が広がっていた。数百人と言うべき大多数の兎も一緒に。
「……」
コレだけ広いと大部屋と言うよりも大広間か広場、或いはグラウンドと言うべき光景か。サッカーコート位の広さだと部屋や広間の表現は適切とは言えないか。兎も角、そんな広間にて多数の兎が集まっていた。
兎と言うのは言うまでもなくバニーガールの格好をした少女達の事だ。デザインは1人1人違うがバニーガールだと一目で分かる格好である事は言うまでも無い。
意外と皆、遠目から見れば結構着こなしている様に見える。バニーガールは胸が無いと変に見えるとか言われるのだが、IS学園ではISスーツを着用して訓練に臨んでいる事から割と其処まで変には思えない。感覚が麻痺していたか。
ただ、その殆どが困惑、動揺、恐慌と言った誰1人としてこの状況を理解出来ていない者達ばかりと言えた。
「……名刀、貴様もか」
大広間に入って数秒後、聞き覚えのある声が耳に届いた視線を向ければ其処にはやっぱりバニーガールの格好をした黎芽が立っていた。その近くには見覚えのある者達、3組の生徒達の面々だった。
彼女は白を基調としたバニーガールになっていた。白兎だった。
「……似合ってないね」
「貴様に言われたくないな、名刀」
「それで、どう言う状況?」
「泳の奴が来るまで待て、さっき状況の確認に行かせた。まだ、合流していない奴がいる」
暫く待つと泳が他の合流していなかった3組のメンバーを連れて合流した。やはり、全員がバニーガールの格好をしていた。此処までくれば本当に全員、兎の格好をしているようだ。
「名刀も、居ったか‼︎」
「泳、どうだ?」
「槐が見つからん。芹那もおらんねん。……探し回ったけど、見つからへんかった」
「そろそろ教えて欲しいんだけど……」
「……分かっている事はそう多くは無い。此処に居る面々がほぼ全員、IS学園の連中だと言う事だ。五稜監獄学院側の連中は1人とて居ない」
「……此処で何をするつもりなんだろう?」
「分かれば苦労しない。……一応、向こうに城門のような扉があるのは確認したが、女の手で開けれる程の重量では無かった」
「それから、デカい切り株があるのを見たわ。顔が彫られとったから人面樹?って奴やろうな。遊園地とかテーマパークとかにありそうなキャラクターか何かやろけどな」
揃えられた情報は多くは無いし、考察のしようが無い。そんな時、ビィ〜と言う音が大広間中に鳴り響いた。何事かと思えば音の発生源は泳の言う人面切り株から聞こえて来る様だった。何事かと、思った者達は遠巻きながらその切り株の周りに集まる。
「……まさか、爆発とかはせぇへんやろーな?」
「爆殺する気ならば私達が寝ている間にトドメを刺せば良いだろう」
「フラグを立てないで……」
『皆さん、『ラビットハント』へようこそ』
切り株から人工音声の様な声が再生された。