「『ラビット・ハント』……?」
嫌な予感がした。そう、コレは『臨島学校』で行われた『セスルーム』を彷彿させたからだ。寧ろ今回は更に過激な気配が漂っている。
「……兎狩り、か?」
隣で黎芽が呟く。『ラビット・ハント』、日本語に和訳すれば兎狩り……。兎を狩る……『兎』と言えば、この状況では兎を模した衣装であるバニーガール姿の自分達、となる。
何人かその事実に辿り着いたのか顔を青褪めた。分かりやすい拒否反応を示しているのが遠目からでも見えた。
『基本的なルールは『鬼ごっこ』です。貴方方は《うさぎ》は規定時間内生存すればゲームクリアとなります』
簡単な話が鬼ごっこだと言う。だが……。
『鬼役は《狩人》です。《狩人》は《うさぎ》を5名以上、
殺害。つまり、鬼——。狩人は自分達を殺しに来ると言う殺人鬼ごっこだ。
「ちょ、ちょっと待って⁉︎ いきなりそんな事を言われても意味が分からないわよ⁉︎」
「そ、そうよ⁉︎ こんな格好で鬼ごっこはまだしも、こ、殺すだなんて⁉︎」
「なんなのよ、何がなんだか分からないわよ⁉︎」
困惑と悲鳴が入り混じった声をあげる生徒達。いきなり生死を掛けたデスゲーム沁みた鬼ごっこをやらされると言う現実を受け入れられない様だ。
脱落者は死あるのみ、と言う事実はそれほどまでに彼女達にとっては受け入れがたい状況なのだろう。
「……名刀、私が今1番の違和感に感じている専用機持ち達が居ない事だ」
「た、確かに……‼︎」
この状況なら専用機持ちが場を仕切る流れになりがちだが、誰1人として現れない。……流石に織斑 一夏のバニースーツ姿は見るに堪えない格好と言えるが。
「それに《うさぎ》を殺すって事ぁ、《狩人》役には武器が与えられてるって可能性があるやもな……」
『セスルーム』の時も武器が支給されていた。あの時は自分達が追い掛ける側だったが、今度は自分達が逃げ回る側だ。あの時はただ腕輪を奪うだけだったが、今回は殺害と言う内容。明確な殺意を伴う内容だった。
『ゲームが開始されると大扉が開きます。この場所に籠城しても構いませんが逃げ場はありませんのでご理解ください』
《狩人》に攻め込まれれば広いとは言え、この中で時間いっぱい逃げ切るのは現実的では無い。
その規定時間の長さが明確では無いからだ。終わりが分からない中で逃げ惑うのは精神的にキツいだろう。それに目覚めた所に篭ろうとしてもその場所へ通ずる廊下へは扉は閉ざされて居た。
『因みに《うさぎ》は200名、《狩人》は24名です』
狩人達が最低でも5人殺した場合、《うさぎ》は200人中80人しか生き残れない割合となる。生存確率は半分にも満たない計算になる。
「は、半分も生き残れない計算じゃん……‼︎」
「どうして、何で……こうなるの? IS学園に入れば将来は安泰だと思って居たのに……私が何をしたって言うのよ……⁉︎」
「居ない人達も居るし……まさか、参加して居ない人も居たりして……?」
「専用機持ちが居ないし、不公平じゃない⁉︎」
電子音声が途絶えた後は囂々としていた。やれ嫌だだの、専用機持ちが居ない事に不満を漏らしていたりだの、主体性が無い面々の愚痴が響いている。
「さて、状況はトンデモないデスゲームに放り込まれた訳だが」
「ウチらは逃げ延びて生き残れば勝ち、っちゅー分かりやすい内容やけど、そう簡単な話で終わらんやろーな」
「うん……。まだ実感は湧かないけれど、既に私達の持つ常識は通用しないと思う」
文句や駄々を捏ねるのは幾らでも出来る。だが『現実』と言うのは『感情』を考慮する事は1度も無い。コレがルールと言うのならば切り抜けるしか無い。
名刀達が受け入れられたのは昨日に小夜の一件があったからだろう。話が通じない非常識な世界の一端に明確に触れたからだ。そう考えるとあの時は意味ある苦痛だったのだろう。
3組面々は非難囂々を続ける他の生徒達を尻目に固まって作戦会議をする。
「何処かに隠れられる場所とか無いのかな?」
「逃げ切り、なら……隠れた方が有利だよね?」
「基本的なルールが『鬼ごっこ』であるならば、隠れるに適した物体は無いと考えた方が良いだろうな」
「或いは……探知出来る装備を持たされているのかも知れないし」
「その線もあり得るんやけど……第1、逃げ回って生き延びるってのは現実的や無いやろ。ウチらは生身やし、体力ってのもあるし、この歩き難いヒールを履かされてんやしよ」
一層の事、脱いだ方が良いんじゃ無いかと思うが地面いっぱいに敷き詰められた模造物の葉、『防腐処理』があるとは言え素足で踏みまくると傷だらけになりそうだ。
「……では、誰かを生贄に出すと言いたい訳か?」
相手は5人殺せばクリアだ。ならば、それ以上殺す必要は無いだろう。120人犠牲にすれば残りの80人はクリア出来る。倫理感を無視すれば最も手っ取り早く簡単に攻略出来る方法と言える。
「ぜってぇ揉めるやろ、そんなん。……あの説明で抜けてる点あったやろ?」
「抜けている点?」
「《狩人》は殺す側、《うさぎ》は殺されない様に逃げ回る側。せやけど、《うさぎ》が《狩人》を殺したらあかんって言われてへんやろ?」
確かに人工音声による説明ではうさぎは生き残れば勝ちである。其処に《狩人》を殺してはならないと言うルールは無い。説明されなかった以上、ルール違反だと言われる筋合は無いだろう。
「《狩人》やから、何かしら武器を与えられてても可笑しく無いやろ。殺し返すとも言わずとも武器を奪っちまえば多少なりとも自衛は出来っで」
《狩人》側も武装した《うさぎ》よりも丸腰の《うさぎ》を狙うだろう。うさぎ陣営を全員生存させる……と言うのは中々難しいが、少なくとも生存確率は上がる。
「……でも問題は最初は必ず丸腰で挑まないと行けないと言う点、だね」
丸腰の逃げる側が武装した追いかける側の目の前に飛び込むなど自殺行為も良い所だ。流石にそんな勇気は中々持てないだろう。元々一般人ならば尚更だ。
「何かしらウチらにも使える道具がありゃあええんやけどな……」
柔道部や空手部と言った徒手空拳に経験のある者ならば何とかなるかも知れないが、IS学園には柔道部や空手部は無い。剣道部は存在しているが……。
「いずれにせよ、場合によっては私達も《狩人》を殺し返さねばならんな……」
昨日、和奏から言われた言葉が反芻される。ファッションだのスポーツだの持て囃されているがその実は兵器であり敵の……相手の命を奪うモノだと言う事は忘れてはならない。
その操縦者や関係者を目指すと言う事は、直接的、間接的問わず『人を殺す』と言う行為に加担する事を意味しているのだ。
「……兎に角、死んだら其処でお終いだ。皆、生き残ろう……‼︎ なるべく固まって行動。今回は本当にヤバいと思うから」
名刀は3組の面々に孤立しない様に固まって動く指示を示す。その内心で、《狩人》はどう言う面々で構成されているのだろうか?と言う疑問を浮かべて居た。
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