森の中で一夏は目覚めた。
耳に届くは女子特有の姦しい喧騒だった。
「此処は、何処なんだ……?」
目線が高い。周囲を見渡してみると人工物の森の様な空間が広がっており、テーマパークやパビリオンで森林をテーマにした模造品で構成された一区画。其処に一夏は立って居た。目覚めたのに横になって居なかった理由、それは……。
「コレは、IS……⁉︎ 白式じゃねぇ……‼︎」
ゴツい装甲殻、それはIS学園で正式採用されている『打鉄』と呼ばれる量産型の機体であった。コンセプトとしては防御かつ近接寄りの装備構成であり一夏の戦闘スタイルと通ずる構成だった。
「あ、織斑君がやっと起きた‼︎」
「良かった。専用機じゃないのが少し不安だけど……」
他にも人が居た。自分と同じ量産型の機体を纏っている女子達だ。打鉄の娘も居れば同じくIS学園で正式採用されている量産型のラファール・リヴァイヴを纏っている娘も居る。
雰囲気的に全員、IS学園側の生徒達の様だ。一夏でもそれくらいの違いは分かる。
「えーと、状況が分かる人って居るのか?」
「えと、全然……。ただ、各クラス2、3人居るって所、かな?」
一夏は1番近くに居た打鉄を纏っている生徒にこの状況を分かる範囲で訊ねる。すると、この場に居るのは少なくとも全員がIS学園の生徒であり尚且つ、内訳としては1つの組から2、3人バラバラで居ると言う形らしい。1組は一夏ともう2人、2組も2人と言った各クラスから数人集められた形らしい。
「後、ISから降りられない。脚が深く食い込んでいるみたいなの……」
「後、地面からちょっと浮遊して低空飛行の移動は出来るけど、上空へは飛べないみたい……」
IS学園では専用機と違い量産型は量子変換で機体は拡張領域に格納されないようにされている。回し乗りする為の処置だが、此処でもその設定らしい。それから、降りる事は出来ず低空飛行は出来るが飛翔は出来ない様に細工されている様だ。
ISに乗れると言うのはIS学園の一般生徒から見れば喉から手が出る程に渇望するモノなのだが、降りられないと言う言葉が付随すると不安が込み上げてくる。
「そして、彼方には大きそうな扉。反対側には巨大な樹……多分、造り物の人面樹があります」
「そっか……」
生徒達の説明を聞き終えた直後、電子音が再生された。発生源は人面樹の方角、一夏を始めとしたIS学園の生徒達は一斉に其方の方向へと視線を向けた。
『皆さん、ようこそ。『ラビット・ハント』へ』
女性を思わせる人工音声が流れ始めた。
何事かと困惑を含んだ視線をお互い向け合う。だが、この場において状況を説明してくれるのはその人工音声だけだと薄々、察してはいた為に耳を傾ける。
『今からルール説明を始めます。基本的なルールは『鬼ごっこ』です』
「……鬼ごっこ?」
生徒の1人が疑問符を浮かべるが人工音声には応対する機能は無いらしく続ける。
『貴方達は鬼役、《狩人》です。規定時間内に《狩人》は逃げる役、《うさぎ》を《狩人》1人につき5名以上、
「「「⁉︎」」」
その言葉に動揺が走った。
《うさぎ》を殺せ。
つまり、うさぎ役の者達を殺せと言っているのだ。数多の既存兵器を遺物へと追いやった兵器であるISを使って、だ。
IS同士での試合は誰もが望んでいる事、しかし……ISを使って敵を殺す行為が将来就職する先での一般的な業務でもある。その事実を受け入れるにはまだ、早過ぎた。
『尚、規定時間内に殺害人数が5人未満であった《狩人》は体内に仕掛けられた機能により死亡します。詳しい内容は貴方方の精神衛生上、伏せますが致死率はほぼ100%とされています』
その言葉に青褪める者達。一夏もまた自身の決意が揺らぎそうな心境に陥る。
時間内に指定人数以上、殺さなければルールにより自分が殺される。どう足掻いても誰かが死ぬ、そう……コレはデスゲームと呼ぶべき展開だった。アニメやラノベにありがちな展開が、たった今……現実として起こっている。
『尚、注意点として《狩人》同士、複数人で協力するのは自由ですが、殺害対象である《うさぎ》を仕留めた《狩人》のみ、カウントされます』
つまり1人が10人の《うさぎ》を殺したとして、カウントを分配する事は出来ない。
自分で《うさぎ》を仕留めねばカウントされない。……コレまで専用機持ちをアテにして恩恵を甘受していた者達にとっては辛い内容と言える。
『尚、5名以上殺害しゲームクリアの条件を達成しても規定時間が経過しなければゲームは終了しません。また《うさぎ》の中には反撃し殺し返すような者も居るかも知れません。逆恨みには気をつけるようにしましょう。
最後に何人殺したか分からなくなった場合は、この人面樹に声を掛ければ現在のカウントをお教えします。活用してください』
「あ、ISがあるのに……《うさぎ》が私達に勝てる訳ないでしょ?」
「そ、そうよ……‼︎ 私達にはISがあるんだもの‼︎ 反撃される訳無いじゃない‼︎」
「た、たった5人殺せば良いんでしょ⁉︎ 逃げ惑ううさぎを殺せば終わりじゃない‼︎」
恰も此方側が一方的にうさぎを《狩る》かのようなルール。《狩人》にはISがありシールドバリアや『絶対防御』もある。
万が一、返り討ちに遭う事などあり得ない。その点においては安心だった。この状況において優位性がある為、元々の優越思考が復活し調子が出て来た。
人工音声の話が終わると同時に壁の一部が回転し、反対側の壁には武器が掛かっていた。
1つ目は、ノコギリ。2つ目は猟銃と思わしきライフル銃、3つ目は手榴弾か発煙弾かは素人では分からないが取り敢えず手榴弾と思わしきモノ。
「「「…………」」」
微塵も容赦の欠片が見受けられない殺意の権化であった。
1人、また1人調子が出て来た生徒達は嬉々としてそれらを手に掛けて取っていく、ISに乗れる……そして敵を倒す姿は素晴らしい。五稜監獄学院に来てから鬱屈していた気分が吹き飛んだのか笑みを浮かべている。多少の制限あれど、夢のISを纏い勝ち誇れるのだ。喜ばない筈がない。
ただ、一夏は如何にもそんな気にはなれなかった。
——あ、ISは皆を守る為にあるんだろ⁉︎ なのに、5人殺さなきゃいけないだなんてアンマリだろ⁉︎
だが、殺さなければ自分が死ぬ事になる。二つに一つ、他に選択肢は無いのだ。
その様子を少し離れた位置で見ている者達が居た。
「……話は分かりましたが、完全に退路を塞がれて居ますね」
「うん。まさかいきなりこんなデスゲーム沁みた展開に巻き込まれるとは思わなかった……」
打鉄を纏った槐と、リヴァイヴを纏った芹那の2人であった。3組で《狩人》なのはこの2人だけらしい。
「……此処は本当に何処なのでしょうか? 私達が調べた限りでは五稜監獄学院から外部へ繋がる通路は見つけられませんでした」
「それにIS学園の生徒達だけってのも引っ掛かるし……戦闘大好きな学院側の生徒達が気付かないなんてオチ、あるかなぁ……?」
槐と芹那は状況を整理して考察を続ける。唐突に発生した急展開、しかも現状此処にいるのはIS学園の生徒達のみ。学院側の生徒達は見受けられない。それに、ISを纏わせて武器も提供しゲームを強いる……。コレは明らかにバックに何かしら組織的な存在がある事を示している。だが、現時点では答えは出ない?
「……覚悟を決めるしかありません。現状、私達は最低でも5人殺さなければ、ルールに則り殺されます」
「……殺人は罪って言うけれど、今の状況じゃそんな事を言っては居られないかぁ。……名刀さん達の姿が見えないからそう言う点でも心配」
「はい……何かに巻き込まれていなければ良いのですが」
如何転んでも後味が悪くなる。しかし、やらなければ死ぬのは自分だ。……後ろめたいが覚悟を決めるしか無い。
槐はノコギリを、芹那はライフルを、後、手投げ弾を数個手に取った。
再び電子音が響いた。
壁に備わって外界との交流を遮断していた扉が鈍い音を立てながら開かれた。
ゲームスタートだ。
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