五稜監獄学院の大食堂。
その大食堂は何時も色んな意味で喧騒やらゴタゴタで溢れ返っているのだが、今日ばかりは別の意味で盛況と化していた。
客席はほぼ満席。一同が見やるは天井から吊り下げられる形で展開された各種、空間投影ウィンドウ。其処に映し出されているのは『ラビット・ハント』の中継映像であった。ウィンドウ毎に別々の光景が映し出されており《狩人》側の視点や《うさぎ》側の視点。巨大迷路の各所も映し出されており、各陣営の行動が赤裸々と映し出されていた。
「さぁさぁ、CPによる賭けの時間やで〜‼︎ 誰が生き残るか、さぁ勝負やで‼︎」
大食堂の一角、其処では商魂逞しく胴元を仕切る乙音が、『ラビット・ハント』の勝者を予想するギャンブルを開催していた。
各クラス毎に1人1人、オッズが決められており不利である《狩人》側は高倍率となっており《うさぎ》側は低倍率となっていた。因みに一夏のオッズは『80.5』となっており、中には『704.0』と言う倍率の《狩人》もいた。
ギャンブルで盛況する大食堂、その一角にて今回の『ラビット・ハント』を仕組んだ和奏もその状況を見守っていた。
「双方共に動かずに硬直状態が維持……と言う事態にならずに何よりだな」
和奏が見やる空間投影ウィンドウには巨大迷路の様子が映し出されていた。ゲーム開始、直後、先に動いたのは《うさぎ》陣営。その顔は3組の面々であった。
クラス代表対抗トーナメントの時も、『セスルーム』の時も3組は積極的かつ自発的に行動出来る者達が奇跡的に集まっていた。故に各種企業や政府からも高く評価していた。
「マスター、此処にいらしたのですね」
「やっほ〜、弟くーん‼︎」
と、其処へフィウが書類の束を持って和奏の座る大テーブル席へとやって来た。……と、何故か姫舞も一緒であり、流れる様にフィウと姫舞は和奏の左右を陣取る形で長ソファに座る。
「マスター、10月の各人の要望内容が纏まりました。拝見の程をお願いします」
「あー、
10月と言えばハロウィンと言うイベントが一般的に普及している。元来、宗教的な意味合いの祭事であるのだが、説明すると諄い程に長いので全てカットさせて頂く。
ともあれ、五稜監獄学院の10月の期間中はハロウィンに因み囚人服では無く皆々、思い思いの仮装衣装をして過ごす(学院長がそう決めたから)。
その衣装は普通、9月中旬からその用意を始める事になっており、商業棟で買うか、或いは自作する事になっているが、中には和奏が自ら手縫いで作る場合もある。……と言うかリデアを始めとした面々の衣装はほぼ和奏が縫ってる。
空間投影ウィンドウの様子はまだ探索と言う形で大きな動きは無い為、衣装の造形案に軽く目を通す。
「……布地とか小道具絡みに発注掛けておかないとな」
——何つーか、中には過激なデザイン案もあるんだけど? と言うか姫姉や蔡歌が特にヤバいんですが? ……別に止めろとは言わないが、俺の目に毒なのですが?
「……ところで弟君、ゲームは始まってるの?」
「つい先程な。《うさぎ》側が先に動いたようだ」
書類に目を通しつつ姫舞の質問に答える。
「マスター、もし動きが無ければどうするのですか?」
「……その場合、適当にルヴィアとかを放り込んで巨大迷路の方に追い落とすつもりだったが、杞憂に終わって何よりだったよ」
そんな展開、肩透かしも良い所だ。故に彼女達が自発的に動いてくれて助かった。
「さて、当人達は知らないが『観客』の方もこの光景は見ている。どう対応するかで、今後の選考に響くだろう」
「……本人達はそれどころじゃ無さそうだけどね〜」
「余計な感情は排斥する。見ていないからこそ、本性が顕になるものだ」
この『ラビット・ハント』はデスゲーム仕様ではあるが、IS学園で言う来賓を招いてのトーナメント等のイベントに相当する内容だ。この『ラビット・ハント』ではオンライン形式で政府や、企業から第二次の選考として人材を物色されている。
今回の『ラビット・ハント』では企業が求めている素質が生徒達に本当にあるかどうかを確認する為の試験となっている。確かにIS操縦者としてISの操縦技術は必須の項目だ。だが、それだけでは内定、採用を決めるのは難しい。
これはIS学園ではまず、確認する事が出来ない内容であるからだ。
「さて……どう言う展開になるかね」
——《狩人》が蹂躙して終わるか、それとも《うさぎ》が食い尽くすか……。いずれにせよ、どう言う展開になるか、見物だな。
最悪だった。もう、笑うしかない程に最悪な気分だった。
——本当に絶望すると、内心では笑いたくなるって本当だったんだ……。
《狩人》は精々、自分達の様に《うさぎ》らしくバニーガール姿だったから《狩人》もそれらしいコスプレなのか?と言う淡い予想を抱いていた。だが、いざ本当に《狩人》を前にした時、そんな予想は消し飛んだ。
《狩人》は 『インフィニット・ストラトス』に搭乗していると言うオーバーキルも甚だしい事実。こんなの理不尽だと言い放ちたい自分は間違っていない。
IS学園の生徒だからこそ分かる事が幾つかある。『IS』にはハイパーセンサーやパワーアシストと言った各種機能が量産機、専用機問わずに標準搭載されている。その内、ハイパーセンサーは360度、視覚化可能なセンサーであり尚且つ熱源も感知すると言う機能である。つまり、仮に背後を取っても視認されていると同様と言う事である。
——まだ、気付いていないみたいだ。
《狩人》は背中を見せており、その足元には《うさぎ》が倒れていた。大量の白いもこもこに覆われていた。
『防腐処理』により出血した際に瞬く間に変質する。だが、あれ程の量となると大量出血したと思われる。
「……っ」
それは3組の誰かとなる。3組以外、動かなかったから消去法で3組の生徒の1人が犠牲になった事を意味する。《狩人》は白いモコモコがこびり着いたノコギリを振り上げ、《うさぎ》に振り下ろす。その際の衝撃で身体が僅かに跳ねた。
恐らく、彼女はもう死んでいる……死んでいるにも関わらず何度も攻撃する姿にしか見えなかった。
——多分、気付いていない。今なら……‼︎
ハイパーセンサーがあるとは言え所詮は人間の自覚意識が基本だ。元々、人間の視界は背中には向いていない。意識が前にしか向いていない今なら、不意を付ける。いいや、此処で付け込まなければ、正面から『IS』に丸腰で挑む羽目になり、そうなれば勝ち目は無い。
そう悟った、瞬間。名刀は一気に駆け出して『IS』へ体当たりする形で飛び込んだ。『IS』相手に体をぶつけるなんて真似、世の中の女性達からは馬鹿な真似だと笑うだろう。
しかし、コレしか手段が無いから仕方ない。
《狩人》が背後から迫ってくる《うさぎ》に気付いた。《狩人》が振り向く途中で名刀は自身をぶつけて振り向きざまで身体を捻った体勢のまま《狩人》を押し倒した。
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