不意を突かれた《狩人》。ISに搭乗しているにも関わらず横倒しに倒れる。
「うっ……⁉︎」
頭を動かした先に身体をぶつけて来たのは《うさぎ》であると今、気付いた。こうなれば後は勢いと共に事態は転がっていくだけだ。その顔は驚愕、そして押し倒した側である名刀も驚いてはいた。だが、今はそんな事に気を割いている暇は無い。
押し倒し、倒れた際の衝撃で《狩人》はライフルを手放してしまう。だが、ノコギリは辛うじて掴んだままだ。
「がっ……⁉︎」
《うさぎ》は衝動のままに鳩尾にヒールの足を蹴り込む。ヒールの細い足がISスーツ越しに、それこそ突き刺さん勢いで体重を掛かる。やっぱり、《狩人》《うさぎ》共々、違和感を感じた。
「こ、んの……退いてよッ‼︎」
押し倒れた状態で《狩人》はノコギリを大振りに振るう。白いモコモコが付着したままのノコギリは空を切った。同時に鳩尾への圧迫感が消えた。名刀が後方に跳び退くように躱したからだ。
「何で……⁉︎」
今の事態に理解出来ないと呻きながら立ち上がろうとする《狩人》。ISと言えどその機体の重量は1tを越える。パワーアシストがあるとは言え、直ぐには起き上がれない。いや、IS至上主義にはそんな問題は考慮されていないのだろう。兎も角、その事実は《うさぎ》に大きな隙を晒すと言う事に他ならない。
「ッ⁉︎」
起き上がり頭を上げたその刹那、目を見開いた。視界の前方、距離にして2、3m程の先に跳び退いた名刀がつい先程、自身が落としたライフルを構えていたからだ。
その『自信』はもう何となくではあるがこの短い戦いで失われていた。今まで気付く筈が無かった、『ソレ』があるからこそ自分達は有利だと思っていた。だが、実際は違った。
《うさぎ》の顔を見た。複雑な感情を見せた。殺人への嫌悪か、或いはどうしようも無い状況への忌避感か。そんな感情が無い混ぜとした顔だ。
手元のノコギリは現役だ。今直ぐに振るい目の前の《うさぎ》の何処でも良い、当たりさえすれば形勢逆転だ。その考えに至るまで然程、時間は掛からなかった。
《狩人》と《うさぎ》は同時に動いた。
《うさぎ》は逃げ、《狩人》は追った。
狭い直線の通路、IS本体の体当たりなぞ喰らえば生身の人間など耐え切れまい。自動車事故を始めとした質量凶器の比では無い。
《うさぎ》は身を退き曲がり角の奥へと消えた。《狩人》はその後を追い、曲がり角に差し掛かった直後、勢い良く前のめりに倒れ込んだ。
——は……?
理解出来なかった。何かに躓いたのか?
いや、そんな筈が無い。少なくとも近くの足元に何か転がっている筈などある筈が無い、だが何故、倒れた?
音が聞こえた。後頭部に何か当てられた感触がした。もう、察しはしていた。ライフルの銃口が当てられていたのだ。至近距離で放たれれば、頭蓋骨など貫通して絶命に至らしめるのは簡単だ。
「嘘、でしょ……?」
話が違うじゃないか。これは《狩人》が《うさぎ》を殺すゲームじゃないのか? 自分は《狩人》だ、世界最強の兵器である『IS』を纏っている。
相手が『IS』ならばまだしも……生身で丸腰の相手に負けるだなんて、話が違うし可笑しいじゃないか‼︎ 《狩人》が《うさぎ》に殺されるなんてそんなの聞いていない‼︎
『IS』には『IS』でなければ勝てない、それが常識であり事実だ。開発者もそう言っていた‼︎ なのに、どうして狩られる側の《うさぎ》に殺されそうになっているんだ⁉︎
何が違う?何が違う⁉︎ 何が違うんだ⁉︎
今の今まで常識であった光景が走馬灯の様に駆け巡る中、1発の銃声が響いた時、彼女の走馬灯はテレビの電源を切るかの様に一瞬で消え去った。
殺した。
名刀を支配している感情はその3文字であった。《狩人》の正体は『IS』であった。正面から掛かっても勝ち目は無い。だが逃げる訳には行かない、だから奇襲した。その後の事はただ何となくがむしゃらだった気がする。
——シールドバリアが
名刀も《狩人》が驚愕した理由。
それはISが最強の兵器たらしめている要因であるシールドバリアや絶対防御が機能していなかった事だ。
今となって冷静に考えれば《狩人》がISを纏う所まではまだ賛否両論あるがアリとしよう。
だが、シールドバリアや絶対防御の存在は如何し難く、普通ならばシールドバリアを盾に(《うさぎ》側は丸腰なのでほぼ無意味だが)ゴリ押し戦法が罷り通り、《狩人》の完勝に終わる。
このゲームを仕組んだ存在としてはそれでは面白く無いのか将又、何かしらの思惑があるのか分からないが兎に角、《うさぎ》が《狩人》へ付けいる隙があるのは確かであり、尚且つそれが証明された。この情報は大きく共有するべき内容だ。
——武器も手に入れた……。《狩人》はIS……シールドバリアが発生していない事は《狩人》の何人かは気付いている筈。
名刀とかち合った《狩人》が偶々、愚鈍だっただけの可能性もある。《狩人》側にも自分達と同じ様に積極的に動く者が居ても不思議ではない。……何はともあれ、武器は手に入れた。ノコギリとライフル。ライフルには弾はまだ入っている。
「…………代表、う、上手く行ったね」
最初、名刀が飛び出して曲がり角の奥へと隠れていた同じグループの生徒の1人がそう言う。ただ、声は震えていた。ある意味、殺人幇助とも言えたからだ。直接手を下したのは名刀であったが共犯である事に変わりは無いだろう。
彼女達は襟首に付いていたリボンを繋げて床付近に伸ばして置くと言うブービートラップを仕掛けていた。名刀が通り越えた後、引き上げて《狩人》の脚に引っ掛けて転ばせたと言う事である。
「う、うん。正当防衛とか何とかの常識も通じない……だろうね」
そもそもこの『ラビット・ハント』自体もエグい内容なので今更感が拭えないのだが……。
「一旦、戻ろう。この情報は共有しておいた方が良いよ」
他の場所でも《狩人》と遭遇して何人か死んでいる可能性もある。無事であると良いのだが、今回ばかりはそうも言っては居られないかも知れない。
名刀達は巨大迷路を抜けて《うさぎ》陣営の事実上の本拠地となる最初の大部屋に戻って来た。既に何人かの《うさぎ》が戻って来ている……しかし、その人数は出発した時よりも減っていた、理由は簡単だ。《狩人》に殺されたと言う疑いようの無い事実だった。
出発した3組のメンバーの内、6人が死んだ。代わりに《狩人》は3人殺せた。
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