《狩人》の正体はIS操縦者だった。
その事実を《うさぎ》達の本拠地にて他の《うさぎ》達に通達した際、反応は様々であった。
『IS』に敵う筈が無いと諦める者、理不尽だとゲームそのものに異を唱える者、死んだら終わりだと嘆く者……殆どがどうしようも無い役立たずの様な有様だった。
「全く……本当に情っけない連中やな‼︎ 女尊男卑とかIS至上主義やら……『IS』が無けりゃこの有様かいな」
大部屋の隅にて泳が他の《うさぎ》達の様子を見ながらそう毒吐いた。腕や脚、他にも顔とかに白いモコモコが付いている。泳のグループも《狩人》と遭遇して戦闘に発展した。遭遇した《狩人》は無事に殺せたが、代わりに《うさぎ》にも負傷及び死者が出た。
「巨大迷路内に生活基盤の部屋、か。となればますますこの部屋に居座るのは得策とは言えんな」
黎芽のグループも件の食糧やシャワーがある部屋を発見した。やはり各所に点在して設置されている様だった。
「うん。《狩人》の乗るISは打鉄とラファール……量産機みたいだね。ただ、シールドバリアは発生していないから一方的に殺される……と言う事は無いと思う」
それは相手が素人であると言う条件も加わるが少なくとも、現段階では専用機持ちは《狩人》側には居ない様だ。……もし、専用機持ちが相手だと他の《狩人》から武器を奪って手元にあるとは言え、流石に力量差的に勝ち目は薄そうだ。
「……せやな。飛行も出来んようやしな。そら、巨大迷路の上空から一方的に弾ァばら撒きゃ勝ちやもんな。それにウチが遭遇した奴は素人やったしな……付け入る隙はあるやろ」
兎も角、武器を奪えたのは僥倖と言える。ノコギリ3本、ライフル2丁、そして恐らく発煙弾が2個。コレが今《うさぎ》が持っている武器の全てだ。
「それに用意されていた食糧の量から察するに……少なくとも数日は続くだろうな。夜通し、殺し合わせるとなると……かなり精神的に厄介な事になる」
『防腐処理』があるとは言え、痛みや疲労は軽減されない。更に空腹、排泄も必要だ。何時、《狩人》に出会すか分からない状況だと極限に近い状況と言える。
「と、なると……早めに決着を付けるには……」
「《うさぎ》か《狩人》。何方かを全滅させるしか無いって事ね」
其処に遅れて帰還した沙莉が会話に加わって来た。目立った外傷は無いようだ。
「沙莉やないか。……姿を見ぃひんから死んだかと思っとったで‼︎」
「勝手に殺すな‼︎ それよりも、代表……ちょっと厄介な事になったわ……。《狩人》の中に水流と靏蝮が居たのよ」
「何だと……⁉︎」
沙莉が言うには《狩人》の中に槐と芹那の2人が居たと言う。つまりは……。
「《狩人》側もIS学園の連中で構成されてるっちゅー事かいな⁉︎」
「……よもやこう言う手で来るとはな。何とも厄介な真似をしてくれる」
既に3組にも犠牲者が出ている以上、全員生存と言う線は断たれた。更には《狩人》側にも3組の面子である槐と芹那の2人が居る。彼女達の生存条件は最低でも5人の《うさぎ》を殺さねばならない。
「名刀……どうするんや?」
「…………」
自分も生き残る為に手を掛けた。泳も《狩人》を殺した事実は変わりは無い。一度、してしまえば後戻りは出来やしない。
誰かが死ななければこのゲームは終わらない。必ず、誰かは死ぬ。そう言うゲームだ。
「ね、ねぇ……貴方達」
名刀が考えを纏めている矢先、3組の集いの場所に声を掛けてくる《うさぎ》の姿があった。それは3組以外の《うさぎ》達であった。
「ぶ、武装を手に入れたんでしょ……? だ、だったらその《狩人》を全員倒しちゃってよ……‼︎」
「そ、そうよ。貴方達なら出来るでしょ?」
「そうすれば全員、生き残れるから」
何とも言えない他人頼りの連中であった。
よくよく見れば1組の顔ぶれだった。専用機持ちが集中していると言う事もあり常にマークしているクラスだ。故にその構成生徒の簡単な情報は把握している。
だからこそ分かる。『1組は専用機持ち(特にクラス代表である織斑 一夏)に頼り切りの生徒ばかり』だ。自分達から能動的に動こうとせず、誰かの成果に享受しなければ納得出来ない幼稚な者達の集まりだと言う事を。
どうやら、今回は頼みの綱の専用機持ちが居ない為、依存先が此方に向いて来た様だ。この点の連中は少なからず女尊男卑思考であり、尚且つ同調しない者も敵視する傾向がある。名刀の人生における生涯辞書の一節だ。
もう、形振り構っては居られない。
《うさぎ》を出来るだけ生かすだなんて無理だ。生き残る奴は少なくとも『生き残ろう』と言う意思が伴っている。目の前の1組+αの面々にそれはあるのか? 自分とて目の前の《うさぎ》達と同じ民間出身だ。とても、偉そうな事を言えた義理では無い……だが。
「果たしてそんな上手く行くかいな?」
どう答えたモノか悩んでいた時、其処に口を挟んだのは泳だった。
「少なくとも《狩人》連中はとっくに気付いとるやろ。せややったら、武器を持っている《うさぎ》を狙うより丸腰の《うさぎ》を殺る方が何倍も楽や」
彼女達は恐らく知る由も無いし先程までの会話を聞いていないが、泳は《狩人》側も《うさぎ》がIS学園の連中である事、《狩人》が纏うISにはシールドバリアが働いていない事を隠して告げている。それを踏まえて武装を持ち反撃される恐れのある《うさぎ》を狙うより丸腰の《うさぎ》を狙うべきだと言う。
更には『3組』の実行力は知らしめられていると自負もある。クラス代表対抗トーナメントの時や臨島学校でも3組の生徒達は各々が行動して活躍したと言える。名刀に至っては量産機で(相手が素人とは言え)専用機持ちを下した。
そんな連中を狙うよりも大した事をしていないクラスの面々を狙う方がまだ、生還率が高い。
「「「…………」」」
《狩人》は5人以上、《うさぎ》を殺さなければならない。《狩人》の人数の都合上、3組の《うさぎ》を丸々無視して他の《うさぎ》を殺して回っても余裕をもってクリアに漕ぎ着ける。
つまり、武器を手に入れた《うさぎ》は少なくとも狙われ難くなる。
「それに……調べた限りやと、解説役の言うとおりこの部屋でずっと留まるのは得策やない。せやろ? 名刀」
「うん。……少なくともこの『ラビット・ハント』の期間は3日間。或いはもっと続くかも知れない」
「それは、どう言う意味……? どうして分かるの?」
「巨大迷路の中にトイレやシャワー、他にも食糧や水と言った物品が備蓄されている部屋があった。……複数箇所、存在していると思われる。食糧や水の量的に数日間は持つ量だった……」
手に入れるには危険を冒して巨大迷路に繰り出さねばならない。持ち運び出来る食糧は兎も角、排泄や入浴はどうしようも無い。
「それに、こんなだだっ広い場所で逃げ回るよりも巨大迷路で撒いた方が生き残りやすいかもせぇへんな」
「……泳、名刀。御託はもう良いだろう。さっさと結論を出せば良い。もう、貴様の答えは決まっていたんだろう?」
聞くに堪えん説明だと言う体で黎芽がそう告げる。どうやら、彼女の中では結論が出ているらしい。
「うん。コレは《うさぎ》と《狩人》に分かれたデスゲーム、だけど
名刀も黎芽も泳も沙莉も槐も芹那も器用な生き方は出来ない。ヒーローでも無ければヒロインでも無い。ただ今を生きる一般人だ。
利他的であれ。と言う言説があるが、それは誰でもと言う訳にはいかない。
「……私達は、3組の面々を基準に行動する」
名刀はクラス代表として、現在、纏めている自分達の集団の代表としてそう宣言した。
つまり、他のクラスの面々を守る義理は無いと告げたのだ。余裕が無いと言う理由もあるが、確かに《狩人》を全滅させれば脅威は無くなり進行不可能としてその時点でクリアになるだろう。だが、彼女達の理論だと自分達が矢面に立つ事になる為、少なからず被害が出るだろう。
「は、はぁ?」
「せやな。わざわざ《狩人》にウチらが積極的に狙う理由は無くなったしな」
「……誰でも良いのならば弱い奴で点数稼ぎが堅実的よね」
狙われたのならば殺し返すしか無いが、そうで無ければ流した方が良い。必然的に誰かが死ぬルールであるのならば、赤の他人を犠牲にした方が精神的に余裕が出来る。
非道だの卑怯だの言われるだろうが、割り切りなければ自分が潰れてしまう。コレもある種の処世術だ。既に異常な環境であり、平和常識など崩れている。そもそも、『IS業界』に関わろうとした時点でその常識は捨てるべきだ。
結果、会話は決裂した。いいや、それは必然的と言えるかも知れない。
名刀を始めとした3組の《うさぎ》達は食糧と水がある部屋へ向けて大広間を出発した。大広間に置き去りにした《うさぎ》達がどう動くかはもう知った事では無い。《狩人》の誰かがうさぎ側の大広間に到達するのは時間の問題と言えた。
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