※この作品はR-18です。

ストラトス・デザイア   作:夢現図書館

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ラビット・ハント Ⅺ

 

 

 

「くっ……煙幕……⁉︎」

 

 煙幕自体、自分も使った事があるから分かる。この状況下で視界を更に封じられるのはかなりの痛手となる。

 

——シールドバリアは機能していないけれど、各種センサーの類は外部から確認する事は出来ない‼︎

 

 不味い、此の儘では不味い。

 物資のある部屋は大部屋よりも狭い。だから、1箇所には集まり切れず二手に分かれざるを得なかった。この環境下で煙幕がある状態ではISを相手取るのは極めて危険だ。何せ部屋である以上、逃げ場が真正面しか無い。しかも視界が悪い中で突っ込むのは危険を通り越して無謀だ。

 

「くっ、こうも煙たいと見えへ、っが⁉︎」

 

 泳の悲鳴が聞こえた。もう直ぐ近くに《狩人》が居ると言う証明だった。肉薄された以上、文句は言えない。完全に後手だった。

 

「くっ……‼︎」

 

 名刀はノコギリに手を伸ばすもその刹那、伸ばした右腕が消えた。否、煙に巻かれた鈍い色の金属の板が一瞬、見えた。遅れて腕を失った事による激痛が身体中に走った。全員に施されている『防腐処理』の効能で切断面から白いモコモコが溢れ出し速やかに止血された。それでも痛覚は伝わる。簡単に直せるとは言え、そう何度も体験したいとは思わない。

 

——ッッッ‼︎

 

 歯を食い縛り、声を堪えた。言わなくても理解する。本当の意味で隣に《狩人》が居る。

 煙幕の中、ライフルは役に立たない所か誤射をして《うさぎ》に当たりかねない。

 続けてドンッと、押された。前から押し倒される様な衝撃を受けた。片腕を斬り落とされ為か、受け身も取れずに其の儘、倒れた。

 

——マズい……‼︎

 

 煙幕の中、黒い機影が見えた。起き上がるよりも相手が武器を振るう方が早い。此処まで接近を許してしまえば、もう詰みに近かった。

 

 そのタイミングで銃声が響いた。

 

「…………?」

 

 身体中は痛い。しかし、撃たれた感覚は無かった。疑問に思っていると展開された煙幕が徐々に薄くなり、やがて晴れこの部屋の全貌が明らかとなった。

 

「……名刀さん。大丈夫……そうには見えないね」

 

「……芹那、?」

 

 煙幕が晴れた時、目の前に立っていたのは芹那であった。量産機のISをその身に纏っている事から《狩人》であると言う事が分かる。

 

「危うく殺される所だったね」

 

 芹那は視界をズラす。名刀の隣には頭を撃ち抜かれた《狩人》が倒れていた。先程の銃声は芹那が放ったモノだった様だ。

 

「……っつーッ‼︎ 不意打ちを喰らってもうたわ……脚がめっちゃ膨らんどる……。あんま、見た無いな……‼︎」

 

「動けますか?」

 

「……無理や、な。めっちゃ痛ぇて、歩けそうにあらへん。精々、這いずるくらいやろうな……。アレや、多分……ISに踏まれた所為やろか。ああ見えて機体の重量は重ぇからな」

 

 泳は無事だった。しかし、その片脚は大きく腫れ上がっていた。強い打撲により内出血等による腫れ上がりだ。それは歩く事すらもままならない、重傷と言える。生き残り逃げ回る事が重要な《うさぎ》とっては致命傷だった。その近くには槐が居る。彼女もまた、ISを纏っている事から《狩人》なのだろう。

 

「……誤解しないで。私と槐ちゃんは既に5人、殺したから」

 

 《うさぎ》を、である。《狩人》が生還するには《うさぎ》を殺さねばならない。他の《うさぎ》を殺して、ノルマを達成したようだ。芹那と槐はクリアのラインを突破すれば構わないとの事。

 

「……そっか」

 

 名刀は失った右腕を見やる。

 

「それに……一部の《狩人》と《うさぎ》が結託してはならないと言うルールは無い筈だよ。それから《狩人》同士が殺し合ってもルール違反にはならない。禁止ならば最初に告げるべきだから」

 

 成程、物は言いようだ。

 本来ならば《うさぎ》と《狩人》は対立する構図。だが敵同士が一時結託する展開は古今東西、数は多くはないが実在する。そう言う変数も起こり得る事だ。

 特に名刀は利き腕、泳は脚が使えなくなっている状況は極めて危険だが《狩人》が合流し行動を共にするとなれば生存と言う意味では理想的な状況だ。

 

「……何人か居ないけど、もしかして他の《狩人》に殺されちゃったの?」

 

「他にも物資がある部屋があるの。1箇所に全員は入り切れないから、二手に分かれた」

 

「無事だと良いね……。こう言う状況だから」

 

「うん」

 

 今、まさに殺されかけたのだ。そう言う言葉は真実味が宿っていた。

 

「せやけど、2人が其方におったってのは聞いとるわ。其方で何か分かった事、あるんかいな?」

 

 這いずり壁に寄りかかった泳が《狩人》側の情報を訊ねる。

 

「……多分、3日目で《狩人》は全滅すると思う」

 

「何故?」

 

「ISを纏っている《狩人》はパワーアシストにより食糧を掴む事が出来ません。

 シールドバリアの存在により、拡張領域に登録されている武装意外の外部からの接触物は遮断されます。

 故に、水も飲めない状態の為、脱水症状で死に至ります。ISに乗り精神的興奮している為、もっと早いかも知れません」

 

「なーるほどな。武器があって有利に見ぇけど、食糧や生命維持の観点から見れば不利って訳かいな」

 

「でも、シールドバリア自体は機能していない筈だよ」

 

「……盲点でした。武装自体に何らかの細工がされてシールドバリアが貫通する仕様かと思っていましたので」

 

 当初はそう考えると。何せシールドバリアを無効化する武装は既に既知であるが故に『他にもあっても可笑しくない』と言う発想に至る。

 

「……だとしても、掴めないから……犬食いするしか無いよね」

 

 花の女子高生から見ればその構図は非常に屈辱的な行動だろう。世界最強のISを纏っておきながら犬畜生の様な姿勢で食物を貪る構図。見るからに愚かだと忌避するだろう。

 

「ハッハッハ。女尊男卑を信奉する連中や女性権利団体の連中がやってる姿、見てぇわ‼︎ さぞ、痛快な事やろうな」

 

「泳、趣味悪いよ……。つまり、3日経てば……」

 

「うん。この事に気付いていない《狩人》は全滅する。それでこのゲームが終われば良いんだけど……」

 

「……想定ではノルマを達成した《狩人》と生存している《うさぎ》と言う対立構図。

 此処で、ノルマを達成した《狩人》が《うさぎ》を殺す行為を放棄したら、状況は平行線となります。誰も死ななくなりますので」

 

「そうなりゃ、このデスゲームは続ける意味は無ぇやろーな。早期終了を促すって奴やな?」

 

「うん。この『ラビット・ハント』を仕組んだ人が余程のゲスじゃなければ、多分……終了に持っていくと思う。時間の無駄だろうし」

 

「少なくとも自分達の手で《狩人》を全滅させるよりは安全策だと思う」

 

 耐え忍べば自ずと脱落する。それこそ捕食者に狩られる事を分かっているから隠れて生存を是とする《うさぎ》の生存戦略と言えた。

 

「確かに……。泳さんも代表も動けないし……」

 

「有利にも不利にもなる……そう言うデスゲームだったんだ」

 

「黎芽さん達も無事だと良いんだけど……」

 

「他の《狩人》が来たら、私達で何とかするわ。少なくとも姿を見せなければ誤魔化せるし、《狩人》も《狩人》同士で殺し合おうとは思わない筈」

 

「ごめん、頼っても良い?」

 

「問題ありません。今は生き残る事を優先しましょう……。その、代わりと言っては何ですが……不躾で、先も言った通り」

 

「皆まで言わんでもええわ。つーか、ウチも名刀も同じやしな」

 

 泳は自力で歩く事が困難だ。こんな所に松葉杖なぞある筈も無いし、名刀は利き腕を斬り落とされてしまっている。

 

「それくらいは任せてよ」

 

「ええ、代表も休んでて」

 

「腕は持っといた方が良いよ、代表」

 

——何とかなりそうだ。……でも、このデスゲームを仕掛けた黒幕は、何が目的なんだろうか?

 

 

 

 

 

 

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