刑務作業と言う名の依頼を受けた箒達は、フィーリリアに教えて貰った場所に向かう。
「……この辺り、みたいですわね」
「校舎棟ねぇ……。CP案件で走り回ってる様なモンだから余り来ないわね」
示された場所は校舎棟。どうやらその2人は校舎棟に居る様であった。
「収監棟に比べれば遥かにマシだろう」
「ま、それもそうね。えーと、あの教室かしら?」
今は授業が行われていない空き教室。其処が目的地であった。教室の扉を開けると、講義堂の様な教室でありその一角に相変わらず特徴的なあの2人組が居た。小さな銀髪の子が机にノートを広げているのが見えた。
見た所、蔡歌がウィキリピアの勉強を見ている様な構図だった。
「あら、もしかして貴方達が受けてくれたの?」
蔡歌が箒達の姿に気付いて此方に振り向いた。囚人服を身に纏っているが彼女は黒い眼鏡を掛けていた。お姉さんみたいな雰囲気も相俟って知的な印象を受けた。
「ええ、ちょっと懐具合が乏しくてね」
臆面も無く鈴音はそう答えた。蔡歌もその辺に関しては言及せず、視線を動かす。
「あら? 其方の人は初めて見るわね……お友達かしら?」
「えっと、篠ノ之 箒です」
箒は簡潔にそう名乗った。確かに見た目は優しそうなお姉さんみたいな雰囲気ではある。だが『見た目は』の、話である。セシリアや鈴音からは、トンデモない膂力の持ち主で勇猛な人だと聞いていた。色々と規格外の連中ばかりな五稜監獄学院の囚徒の1人だ。どんな本性を秘めているか分からない。
「……篠ノ之……。あー、もしかして…… 篠ノ之 束博士の妹さん?」
「……ッ」
やはり、其処に行き着くか。
箒は表情を変えない様に苦虫を噛み潰す。何処へ行っても『篠ノ之 束』の名前が追いて来る。自分は関係ないと言いたいのだが、誰も彼もが『篠ノ之 束』の妹としか見てこない。コレまでもそうだった。
「……あの人の事を知っているんですか?」
「ええ、知っているわ。……貴方とお姉さんの関係は非常にデリケートで部外者が口を挟む訳に行かないから、何も言わないわ」
「そう、ですか……」
どうやら篠ノ之家の姉妹同士のギクシャクした関係も把握しているらしい。そしてその話題は口に出すには憚れる事も。
「さて、その話はお終い。それじゃあ、本題に入りましょうか」
蔡歌は手を合わせて話題を切り替えた。
「と、言っても刑務作業所で提示されたであろう内容よ。……ちょっと、用事があるからその間、ウィキちゃんを見て居て欲しいの」
そう言い視線を椅子に座っているウィキリピアの方へと向ける。広げられたノートには何かしらの絵が描かれているのが分かる。……勉強、では無くお絵描きをしていたらしい。この辺は年相応の様だ(抽象的な絵と、数式がごっちゃ混ぜになっており、素人から見れば理解不能)。
「うにうに(っ・ω・)っ」カキカキ
「それで、どれくらいで戻って来れますでしょうか?」
「そうね……。2、3時間程かしら? それまで、お願いするわね」
蔡歌はそう言った後、用事を済ませる為に退室。残された箒達とウィキリピア。
「さてと、面倒を見ると言っても……歳下の相手はした事が無いのよね」
「鈴さん。そんな状態で良くもまぁこの依頼を受けましたわね……」
しかし、今更考えると歳下の相手などした事が無かった。
「うー……(・3・)」ウー
ウィキリピアは此方を見上げていた。小柄な体格なので、基本的に誰が相手でも見上げる形になっている。
「遊んでー (/・ω・)/」ウニー
純粋な好意で遊んで欲しいと言うウィキリピア。面倒を見ればCPは得られる……。
「遊ぶのは良いのですが……どうしましょうか?」
「商業棟にしない? 多少の費用が出ても報酬で釣りが来るでしょ」
何も無い教室で過ごさせるには何かと退屈だ。やはり商業棟で時間を過ごすのが良いだろう。
「ああ、此処で2、3時間待つってのも時間の無駄だろうしな」
「決まりですわね。さて、ウィキリピアさん。行きましょうか」
「うにっ(/・ω・)/」ピョーン
「えっ、ちょ、きゃあ⁉︎」
セシリアがそう言うや否や、ウィキリピアは椅子や机を踏み台にしてセシリアの胸へと向かって飛び込んで来た。
「……あー、うん。まぁ、分からんでも無いか」
箒はその様子を見て半ば呆れ気味な顔になる。小さい子供が胸の大きい女性に向かって抱き付いて来るのは至極自然な光景。こと、普段から面倒を見ている蔡歌も目を見張る程の巨乳であったからだ。
「箒さん⁉︎ 変な所で納得しないで下さいまし‼︎」
「セシリア、見せ付けてくれるじゃない……」
対する鈴音は俎板である。
「むにー (ーωー)」ムフー
「あの、ちょっ……⁉︎ 其処はッ‼︎」
セシリアの胸元にしがみつきながら、胸の間に挟まろうとしている。
突然、小さな子供に抱きつかれて胸に潜り込もうとされたのは初めて経験であった。
「……本当に見せ付けてくれるわね」
青筋を浮かべながら鈴音はその様子にイライラしながら怨嗟気味の言葉を漏らす。
「鈴さん⁉︎ この光景を見てそんな悠長な、ああん‼︎ ちょっと離れて下さいまし‼︎」
セシリアはウィキリピアを引き剥がそうとするも、以前見たから分かるがウィキリピアも幼いながらも膂力が凄い。ノコギリ+男子高校生の一夏を片手で振り回していた。その為、見た目とは裏腹に力が強いのである。
つまり、セシリアの華奢な腕では引き剥がすのは難しかった。
「……煎餅をやるから、セシリアから離れてくれないか?」
その様子に見かねた箒は以前、商業棟で購入した煎餅を見せる。フィーリリアから『お菓子をあげれば大人しくなる』と聞いて居た。
「うにーっ(/・ヮ・)/」ピョーン
「き、きゃあ⁉︎」
煎餅を見るや否や、ウィキリピアはセシリアの体から跳ねて箒の方へと跳ぶ。
「ほれ」
「うにー(・〜・)」モキュモキュ
煎餅を受け取ったウィキリピアは直ぐに口に含んで食べ始めた。
「箒さん。た、助かりましたわ……見た目とは裏腹にやっぱりこの子、腕力が凄まじいですわ……」
「……こんな小さな体で何処からそんな力が出て来るのか」
幼女に腕力で負けると言うのは中々、酷い構図だ。やはりこの学院の囚徒は見た目通りには行かない者が多い。
「……ま、今はセシリアだけで済んだから良いんじゃない? 放っておくと何されるか分からないなら、適当にお菓子を与えて時間を潰しましょ」
「……そうだな」
取り敢えず商業棟へ向かう為、箒達がウィキリピアを連れて教室を出た瞬間。
「……? 箒さん、鈴さん。今、一瞬だけパイプオルガンの音が聞こえませんでした?」
「パイプオルガン? いや……」
「私も聞いて居ないわよ。どうしたの、空耳?」
「……私だけ? 気の所為、でしょうか?」
頭を捻る。確かに聞こえたのだが……2人は聞こえて居ないと言う……だとすれば幻聴か空耳と判断するのが妥当か。
「こんな学院だ。何処かで音楽堂が有っても不思議では無かろう」
「色々、滅茶苦茶よ。有っても不思議には思わないわ……此処の連中にクラシックなんか鑑賞する趣味があるのか知らないけれど」
「そう、ですわね。そう言う事にしておきますわ」