「…………」
——やっぱり、聞こえ来ます。小さいのですが……音が、やはり耳鳴り?
「セシリア、どうしたのよ? さっきから難しい顔をして……」
「いえ……やはり、聞こえて居まして」
刑務作業もとい蔡歌の依頼の遂行中の一環で、ウィキリピアを連れて商業棟へ向かう箒一行。その最中、セシリアだけがオルガンの音が聞こえて来ると言う。
「私には何も聞こえんが、医療棟で診てもらうか?」
「いえ、一時的なモノだと思いますのでお気になさらず」
——……突然、聞こえ始めた事が気になりますわね。この学院では囚徒達も異常……常識外の現象が起きていても不思議ではありませんわね。
オルガンの音色が耳鳴りの様に響く。音は小さいがそれでも気になって来る。
——あ、……消えました、わね。
そして唐突に聞こえなくなった。本当に一時的なモノだった様だ。その後も特に異変は無く校舎棟を抜けて商業棟へと到着する。
「あれ? 何時もは何処かしら賑やかしいのに、今日は随分も閑散としているわね」
日中であるこの時間帯ならば何処かしら喧騒は起こっている。だが、今日に限ってはシャッター商店街かと思う程に閑散としていた。
「平日と土日の感覚が違うのかも知れんな。……或いは何か別の理由やも知れん」
学院内では外での基準とは大幅に異なる場合が多々ある。平日でも休日と言うケースも起こり得るだろう。例えば創立記念日とか。
「……その場合だと、骨折り損じゃない。って、ちょっと⁉︎ 何処行くのよ?」
「うにーっ (・ω・)」テッテッテー
その最中、ウィキリピアは1人で商業棟の廊下を歩いて行く。此処で見失っては後で報酬が受け取れなくなる。面倒を見る以上は視界の中に留めなくてはならない。そう言う事で箒達はウィキリピアの後を追った。
「やっぱり、足が速いわねッ‼︎ 私もそれなりに鍛えている方だけど‼︎」
「此の儘では見失ってしまいますわッ‼︎」
「くっ……ある意味、野生児かッ‼︎」
代表候補生ならば生身でも身体能力向上の訓練は受けている……。しかし、その体力を持ってしてもウィキリピアの方が上と言う事実に愕然としたくなる。単純な徒競走ならば彼女に軍配が上がるだろう。見失わない様に追い掛けて行った先、其処で彼女は立ち止まっていた。
「……おや、君か。また擦り抜けて来たのか?まぁ、悪戯は程々にな」
「今日はしてないもーんッ‼︎ \(>−<)/」
其処は商業棟の一角。其処でウィキリピアはスーツ姿の人物と話をしていた。服装と言い囚徒にはとても見えない。
「はぁ……はぁ……。やっと追いついたわよ。急に走り出すなんて聞いて居ないわよ……‼︎」
「……素直に生身での体力作りが疎かだったと認めざるを得ませんわ」
「ほとほと、規格外だと言わざるを得んな……」
「ん? おや、君達は……IS学園の者達かね?」
その時、そのスーツ姿の人物が箒達に気付き、声を掛けて来た。
「……私達を知っているの?」
「知らぬ方が可笑しいだろう。片やイングランド、中国の代表候補生。片や、篠ノ之博士の妹……ある種の有名人だ」
「むにーっ(ーωー)」モキュモキュ
その傍ではウィキリピアが箒があげていた煎餅の残りを頬張っていた。……食べ方と言いリスかハムスターみたいである。
——……そう言われると否定出来ませんわね。しかし、この人……同年代に見えますが服装と言い、少女と言うよりキャリアウーマンみたいな印象が浮かびますわね。
「……自己紹介が遅れたな。私は錫波 七実。こう見えてもこの学院の囚徒の1人だ」
「とてもそうには見えないけど……」
セシリアが思って居た事を鈴音が代弁する。学院の囚徒ならば囚人服の筈だろうが、目の前の彼女はスーツ姿だ。
「私は商業棟の商人で、その中でも外回りの担当だ。私は仕入れを始めとした外回りの業務の中でも学院外での行動の比重が多く、学院内にいる事が少ないんだ。だから、学院長からもこの服装が認められている。
学院内ならば兎も角、外であの囚人服は悪目立ちするだろう? 服装と言うのはそれだけで印象が変わる」
確かに拘束衣染みた囚人服はかなり目立つ。そして囚徒が学院の運営の大部分を担っているのならば、外回りを担当する囚徒が居ても不思議ではない。
「外での活動をする奴は他には乙音が居るが……私は専門関連の分野担当だ。……簡単に言えば私は特に仕入れが難しいブツを取り扱っている」
「……成程、観音寺って奴と同類な訳ね」
その説明で鈴音は納得した。乙音は学院内に居る時の方が長いが彼女は短い。尚且つ扱っている商品も違う為に棲み分けが出来ている、と。
「彼女を知っているか。なら、話が早いな。今なら取引に応じてやれるが、どうする?」
「……と言っても何を扱っているかによるわね」
「それもそうか。早い話が私はIS関連のパーツや、特殊弾頭と言ったモノを扱っている。無論、それ以外にも精密性の高いモノを扱っている。ガンスミス気質の囚徒が多いからな、ベースを欲しがる者も多い」
乙音は情報や家財道具が中心であるのに対して七実は戦闘関連が中心らしい。銃撃戦や戦争過多の学院では需要が高く、飛び回らなければならない様だ。
「私達は専用機である種の実験機みたいなモノですので、本国から装備が送られて来るのならば兎も角、非正規ルートでの装備品の搭載は致しかねますわ」
そもそも専用機の機体データ収集と言う側面もある。特に専用機持ちの代表候補生はその傾向が強く、セシリアは最もたる例と言える。
機体調整ならば兎も角、武装装備の換装となると話が変わって来る。
「そうか。ならば無理には言わない。商売と言うのは信用が第一であり、信頼が無い取引は欺瞞でしか無い。では、彼女との取引に入らせて貰おう」
「え?」
七実はそう言い、ウィキリピアの方へと視線を向けて複数の空間投影ウィンドウを開いて、取引を始めた。
「先に謝罪しよう。昨今の女尊男卑主義により物価高は元より流通や生産業界其の物が滞ってしまっている……。君の需要には達しなかった」
「なら、仕入れる事が出来た分をちょうだい」
「感謝する……。今回、仕入れた品の合計金額は……3,265,000CPだ。足りない分は後日、必ず用意しよう」
「ん、分かった」
「100万越えの取引って……もはや業者並みじゃない……」
「……やはり見た目に依らんようだな」
高額な金額の取引が成立。自分達は万単位で四苦八苦しているのに、目の前の幼女は平然と6、7桁単位の金額のやり取りをしている。
「……ん。コレで、創れる」
「それは何よりだ。……しかし、君が創った『ISコア』を取引に使えば物の数分で巨万の富が得られる筈なのだが」
「え⁉︎」
「は?」
「何⁉︎」
——この人、今、何と……⁉︎
七実の何気ない一言に、箒達は思わず耳を疑った。それは、到底信じ難い言葉が含まれていたからだ。
「ヤダ……‼︎ あの子達を、
「……そうか。気が変わったら何時でも取引しよう」
拒否の意を示した為に七実は食い下がる事は無く引き下がった。
「ちょ、ちょっと待って⁉︎ 今、ISコアを造ったって……⁉︎ まさか……‼︎」
以前、乙音から五稜監獄学院にはIS関連の整備開発はある2人の囚徒が担っていると言う情報を買った。1人はレーキュである……。そして、そのもう1人が……。
「何だ。知らなかったのか、この子は篠ノ之博士以外で唯一、ISコアを開発出来る娘だ。実質、第二の篠ノ之 束と言っても過言ではない」
それは既存の常識をブチ破る様な衝撃的な内容であった。
『白式』の件ではISコアは無事であり機体を構成するパーツをデータを参照して新造したと聞いた。だが、ISコアに関しては正しくブラックボックス……開発者である篠ノ之 束以外、不可能である事が定説であったからだ。