『ラビット・ハント』が無事、終了した。
参加者200名余りに対してクリア出来た者は30人弱。この結果から今期生の卒業後の顛末は厳しいものになると推測される。
各企業、政府による採用状況も刻一刻と変化する為に断言は出来ないが……我々の知った事では無い為に割愛させて頂く。
集計の結果……8組のある一般生徒が総合成績が最下位となった為、IS学園の校則に則り無条件で放学処理となりその存在を抹消される。IS学園に在学価値も、国籍も、無かった事にされる。鬼籍すらも残されない。
そして、その放学処分となった当の本人はと言うと……。
結衣は見知らぬ天井の下で目覚めた。
「……あ、れ……? 此処、何処……? な、何コレェェェェえええ⁉︎」
部屋の中央で分娩台の様なベッドに寝かせられ開脚される形で拘束されていた。両腕も引き伸ばされる形で固定されている為に身動ぎは望めない。
「何コレ⁉︎ 何が起きているの⁉︎」
それが分かっていたとしても拘束から逃れようと暴れて腕や脚を動かすも、ガチャガチャと言った音しか鳴らない。
彼女は『ラビット・ハント』が開始して中盤頃に、他の《うさぎ》共々、《狩人》に殺された。IS学園では一般生徒と大差ない時間を過ごしていた。座学も平凡かそれより下。IS技術も一般生徒と言う事もあるが、基準値と比較した場合は懸念されると言った成績であった。早い話がIS学園にやっとの思いで入学出来たが劣等生と呼ばれる部類だ。
「簡単な事よ。アンタは人間じゃ無くなった」
「だ、誰……⁉︎」
その声と共に結衣は眼前に同い年かそれに近い少女が立っていた。白と黒が特徴的なエプロンドレス、細かい装飾はあれど全体的に見れば俗に言うメイド服と呼ばれる衣をその身に包んでいる。
身長は低いが、ツリ目も相俟って気が強そうな雰囲気がある。直近の環境でメイド服と言えば五稜監獄学院の大食堂を支配しているメイド群団が脳裏に思い浮かぶ。
「……私の顔を見ても分からないなんてね。まぁ、知っていようが知らなかろうが関係無いわ」
水色の髪の頭頂部にホワイトブリムを着けているのが分かる。だが、その目は凡そメイドのイメージとは掛け離れていた。……まるで養豚場の豚を見るかのような視線を向けてくる。
「結論から言うわ。IS学園じゃ、各月末で学年毎に総合成績が最下位だった生徒は問答無用で放学処分となる訳。
つまり1学年、1組から8組までの中でアンタが9月の総合成績が最も低かったのよ。まー、今回は『ラビット・ハント』の兼ね合いから評価確定が多少前倒しになったけどね」
「そ、そんなの……聞いていない……‼︎」
その事実に『聞いていない』と喚く結衣。そんな表情を見ても水色髪のメイド、いいやメイド長であるユリエは無視して進める。
「後、放学処分と同時にアンタには国籍も戸籍も人権も全部、抹消された。誰1人としてアンタは存在しないと認識になる。
つまり、アンタをどうこうしようが誰も文句は言わないわ。存在しない人間を守る憲法や法律は何処の国にも明記されていないのだから」
「……ッ‼︎」
存在して然るべき常識が砕かれる。
「……い、1学期も……放学になった人は……‼︎」
「今頃は肉便器か性奴隷として扱われているわ。或いはもう捨てられ力尽きているのかもね」
「……ッ‼︎」
数ある中で残酷な未来と結末であった。性欲の捌け口として扱われて最終的にヤリ捨てられて一生を終える。女尊男卑の世界では到底考えられない光景だった。
「で、今月の放学処分者を私が貰う事になったって訳」
ユリエは彼女のこの状況を簡潔に説明し切った。其処で結衣は自分は成績不振で落第にされ戸籍も国籍も人権も剥奪されて目の前の彼女に生殺与奪の権利を握られた事を理解する。
「わ、私をどうする……つもり、なの……?」
もはや逃れようのない現実。だからこそ、行末を訊ねた。対するユリエは暗い笑みを浮かべていた。
「……最近、物価高じゃない?」
「え?」
質問の意図とは違う話題を提示された。物価高、確かにその通りだと感じてはいる。……だが、それと何の関係があるのだろうか?
「流石に五稜監獄学院と雖も物価高騰の影響はあるわ。自給自足の体制を整えているとは言え、仕入れなきゃならないのも事実よ」
結衣の疑問も他所にユリエは続ける。
「野菜や穀物は何とかなるとしても畜産関係、特に肉や魚はどうしようも無い。女尊男卑の所為で規模が縮小傾向……遠くない未来には根絶の警鐘もある程にね」
其処で複数の足音が聞こえて来る。結衣を拘束する分娩台の周りにメイド服を身に纏った少女達が取り囲む形で現れた。この様な形でメイドに囲まれるのは好奇心よりも恐怖心が勝る。
何故なら、量子展開で貌を見せたのは斧や鉈、更にはノコギリと言った武器の中でも顕著で物騒な貌ぶれだ。
「……な、何をする気、なの⁉︎ や、止めッ‼︎」
1人のメイドが持つ斧が躊躇い無く振り下ろされた。結衣の右腕の根本に向かって。
「あ゛ッ⁉︎ あ゛あ゛あ゛あ゛ッ⁉︎ あ゛あ゛ッ‼︎ あ゛あ゛あ゛ッッ‼︎⁉︎」
骨が折れる音、肉が抉られる音の直後に激痛と共に悲鳴が部屋中に響き渡り、
「こら、いきなり強く当てるんじゃ無いわよ。中の肉が傷付いてしまうわ。IS操縦者としては無能でもその肉の品質は極力保つ事。雑多な切り方だと余計な血が混入して鮮度も味も落ちるわ」
「ご、ごめんなさいメイド長……‼︎」
結衣の悲鳴の側、ユリエは斧を振り下ろしたメイドにそう指摘している。
「ぎゃあぁああぁぁあああぁぁ‼︎ な、何で⁉︎ ぼ、う……処理、は……⁉︎」
噴出する血液。沸騰する激痛の最中、結衣は真っ赤な血が溢れ出している事に疑問を示す。『学年留学』で五稜監獄学院に留学中のIS学園の生徒達にも『防腐処理』の肉体改造が行われている。本来であれば白い綿状の物質により止血される筈であった。
「『防腐処理』の効能を全部抜く処置をしたからに決まっているでしょう? 防腐剤を食わせる訳には行かないじゃない。ほら、鮮度が落ちる前に動く‼︎」
「「「はいッ‼︎」」」
質問に答えた後、再び惨劇が行われた。結衣の悲鳴は彼女達には届かない。届く筈が無い。
「腕と脚の皮膚を切り離すわ」
「ちょ、ま、……待って……い゛あ゛ぁッ⁉︎ がっ。あ゛ばゃ、あ⁉︎い、痛ッ……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ‼︎ ぃぃいいぃぃぃ……っ‼︎」
皮膚だけ剥がされると言う拷問。メイド達は疑問に思う事なく進めていく。夥しい量の血が溢れ出す。
「$@゛♯%$&%*々々^☆・$#っ‼︎」
飛び散る鮮血。言葉にならない悲鳴が響き渡る。
「皮膚を剥がしたら直ぐに斬り落として骨と残っている血抜きの処理よ」
「ーーーーーーーーーッ‼︎」
ガコンと肉が抉れ骨が砕かれる音が響く。斬り落とされた四肢はメイド達が持って別の台座で其々の処理を進めていく。この時点で壁や床一面、返り血で血塗れ。メイド達の装いも返り血で真っ赤に染まっている。
「他の娘は心臓以外の内臓を掻き出す‼︎ まだ殺しては駄目よ、生きている内に下処理を済ませるわ。まず肋骨の骨を内臓を傷付けない様に切除しなさい」
「はいッ‼︎」
ゴリゴリと削る音が耳障りだ。折れる音、滑りの様な音。しかし、悲鳴によって掻き消される。
「ぎ……ぎぎ……! うごっ あ゛ぁ……ぼば…!」
「先に大腸を引き摺り出して‼︎ 傷付けちゃ駄目よ。糞便まみれになりたくないでしょう?」
「ぎィィッ‼︎」
「拘束台の予備台座を展開‼︎ 小腸も丁寧に取り出して、其方に広げる‼︎ 胃も傷付けちゃ駄目よ。胃酸が溢れて他の肉を傷付ける‼︎ 使える部分は余すなく使う」
「ぐ……ぐ……」
意識が朦朧する。しかし、度重なる激痛により意識は途絶えない。
「や……やっ……め………ぇ……あ」
「心臓は絶対に傷はつけちゃ駄目よ。ご主人様に出すんだから」
「たす
繋がったまま内臓を抉り出されるも、未だに存命であった。一層の事、殺してくれた方が有難いとも言える苦痛の時間が流れていく。
「げぽ!……ひゅッ………ごぼごぼごぼ……おご、………あ゛……」
「メイド長。処理が終わりました」
「取り除いた体毛と皮膚、骨は処分。シャワーを浴びて早く着替えて来なさい」
「……た…………ず………ゲッ!ぐぐぐぐぐ、あがあ……4°……€・……ち、……ふ……ざ……」
もう息も絶え絶えであり、聞き取るのが難しい程の声量となっていた。
「ぐ………く………グッ…………………………。…………」
そして悲鳴も途絶えた。
ユリエは心臓から伸びる管を全て切除し取り出し、慣れた手付きで処理を進めていき、冷凍保存の処置を施した。
「さて、死体処理もしなきゃいけないわね。必要とは言え、面倒なのよね」
返り血でメイド服や顔、腕の至る所が血塗れとなったユリエは何言わぬ骸と化した彼女を前にそう告げたのだった。