「ふーん……そんな事があったんだ」
「私としては其方の状況がその様な事がと、言いたいですわね」
『ラビット・ハント』から2日後。
大食堂にて簪と神楽は遅めの昼食を摂っていた。今日の無料定食はハンバーグ付きだった。
「ユリエメイド長が貴方と接触していたとは聞いてはいましたが……よもやそんな楽しそうな事をしていたとは、お誘い頂ければ喜んで参加致しましたのに」
簪は『ラビット・ハント』開始以前から五稜監獄学院に侵入を試みていた更識 楯無への当て付けとして機械姦調教を受けていた。そして『ラビット・ハント』の日から翌日、つまり昨日までは調教疲れにより倒れていたのだ。流石に連日何時間も調教と言った身体を酷使するのは危険と見做されており、休息のインターバルが設けられていた。この点は『ストラトス・デザイア』の時から変わらない。
「それに私が寝ている間に『ラビット・ハント』ってのが行われていたなんて……」
『ラビット・ハント』のルールも聞いた。仮想現実とは言え殺し合いをさせる中々、スリリングな内容だ。
「と、言いましても専用機持ちは参加は出来ませんでしたけどね」
「え?どうして?」
「……『バランスが悪い』と言う理由です。各人の力量の差が余りにも歴然であるとワンサイドゲームになりかねない。それは避けたかったのでしょう」
「……確かに、そうかも」
『IS』を使用したデスゲーム。専用機が与えられる程の人材と高々素人が相対すれば大抵の場合は専用機持ちに軍配が上がる。
「裏話としては一般生徒を篩に掛けているそうですわね。将来的な行末としては」
「…………」
IS学園を卒業出来たとしても必ずしも希望通りの未来が紡げるとは限らない。それは一般的な学生が卒業し就職の過程と何ら変わらず、いいや、IS学園卒の者の方が困難な道であるのは否めない。
「……まぁ、私達にとってはその辺りの話は然程、関係はありませんわ。それよりも……」
大食堂は何時も騒がしい。何時、銃撃戦が起こるか分からないからだ。それが起こらないと言う事は何かしら理由がある時である。
「うん、別の意味で騒がしい……」
「はい。もう直ぐ10月となりますが、五稜監獄学院では10月中はハロウィンと言う事で皆さん、期間中は仮装する様ですの」
「仮装? コスプレみたいな?」
——囚人服や拘束衣も似た様なものだと思うのだけど……。
「はい。逆を言えば10月は囚人服や拘束衣では無く各々が用意した仮装を身に付けると言う校則の様ですわ。9月の後半はその用意の為に追われている、と」
「……だから別の意味で騒がしい事になっているんだ。それじゃあ、私達も用意しなきゃ行けない訳だ」
「そう言う事ですわ。……商業棟で調達するか自分で作るか、となりますわね」
「……流石に自分で裁縫してまで用意しようと言う人は少ないかも知れないけど」
中には居るかも知れないが正直、IS学園の面々がそれに秀でているとは想像し辛い。女尊男卑の世の中となり、そう言う概念は崩れつつあるからだ。
「……取り敢えず分かった。他に何かあったりする?」
「…………まだ噂程度ではありますが、IS学園の一般生徒達を中心に『ISコア』が手に入る、と言う話題が広まりつつありますわね」
「ISコアが手に入る……? つまりISを手にすると言う意味?」
『IS』の数には限りがある。それが通説、しかし五稜監獄学院の囚徒達は皆、ISを所有している。『ストラトス・デザイア』でも中々、贅沢な使い方をしていた。何らかの形で『ISコア』を製造する術をこの学院は有しているのだ。
——例えば、レーキュとか? でも、あの人が素直に応じるとは思えないかなぁ。
簪が知る限りではDr.レーキュの顔が浮かぶ。しかし、IS学園の生徒達の態度を見て素直に応じるとは考え難い。……逆に思惑を持って接触を図るかも知れない。
「……経験談から言わせて貰いますと中途半端な状態で『力』を手にすると早死にしかねませんわ」
本来であればどうでも良い内容だ。しかし、何処か胸騒ぎがするのは何故だろうか?
「うん、半端な人が単純に扱っても使い熟せないと思う。……機体性能によるけれど」
その事実はIS学園でも分かっている筈だ。しかし、それでも焦がれる程に欲する者は後を断たない。
「そろそろ、かの者達の本性が顕れるかも知れませんわね」
「本性……?」
「いえ、何でもありませんわ。ただ、何事も無く過ごせれば宜しいかと……して、簪さん。この後のご予定は? 無ければ商業棟で件の仮装を見繕いに行きましょう」
『ISコアを作れる人が居る』
出所は分からないが、その様な噂がIS学園の生徒達を中心に出回っている。ISは本来は500にも満たないと言われていた。
しかしながら、五稜監獄学院では囚徒達全員が誰もが欲するISを所有している。その光景を見てIS学園の一般生徒達は羨望と嫉妬が混ざり合った感情を常々向けていた。そんな折にこの様な噂を信じて探し回る者達が現れた。
「……フン。根の葉もない噂だな」
「嘘か本当かは分からないけど、皆……藁にも縋る思いなんだと思うわ」
「……『持ってない』人にとって『持つ者』に対して嫉妬しがちだよね。分からなくも無いけれど……」
大食堂の一角にて、名刀達は昼食を摂りながらそんな話題を交わしていた。『ラビット・ハント』から日が浅い。アレがたった1回で終わるとは到底、思えない。それも要因の1つで力を求めているのだろう。『IS』と言う分かり易い力を。
「しっかしなぁ、その噂が本当やとしてもそう簡単に手に入るとは思えへんで」
「だな。ソイツは間違いなく学院側の囚徒だ。……嵐藤と言う前例がある、どんな無理難題を吹っ掛けられるか分かったモンじゃないぞ」
黎芽は横目で配膳をしている小夜の姿を見てそう続ける。小夜は幼い体躯で可愛らしいが人斬りだ。予兆無く笑顔で斬り刻もうとして来る。囚徒側の人間と接する時は注意や警戒をしなければ本当に命が危ない。
「あ、あはは……確かに、ね」
「それにISコアを作れるってんやったら、ソイツは絶対ェ、マッドサイエンティストの外道やろ。見返りに人体実験とかさせろとか言い放って来るで。白衣羽織ってて、ヤバそうな実験とかしてさ」
「……泳。流石にB級映画の見過ぎじゃない?」
「コテコテにも程があるだろ。私てしては寧ろ、見た目はマトモだが内面はヤバいって印象だな」
「それ、学院の連中、全員やろ。んで、名刀。アンタはどうすんや?仮にその噂が本当やとして……得られるんやったらよ。……正当な手続きで得るのが1番やのはウチでも分かるわ。せやけど……『ラビット・ハント』の件からそうも言ってられへんやも知れへんで」
「……」
「……気に食わんが、其処の馬鹿と同意見だ。そもそもこの学院自体、外の常識とは乖離している。あのデスゲームは仮想現実だったが、アレが1回だけとは限らん。そもそも銃撃戦が多発している上に『防腐処理』なんぞも施している……。後悔してからでは遅いぞ」
泳の言葉に黎芽も同調する。『防腐処理』の存在があると言う事はソレが前提であると言う事にも通ずる。つまり、常人の状態では危険極まりないと言う意味にもなる。
「多少なりともダーティな方法も視野に入れんとあかんやろうな」
「そう、だね。後盾が無い中で専用機を得るってのは社会的にも危険かも知れないけれど、今は物理的な意味で危険だと思うしね」
「最悪、学年留学の期間中だけで帰る時にコア自体を学院に返せば良かろう。実物は無くとも経験は残る」
その方針が1番安全かも知れない。ISコアを入手する手段自体が1番、不安ではあるのだが……無いよりは遥かにマシだ。
「……しっかし、騒がしいのは騒がしいんやけど、今日の騒がしさはまた違ぇへんか?」
『ISコア』絡みの話題は一旦、終いとなり話題を変えた。大食堂は何時も騒がしくちょっと離れた所では銃撃戦が良く起こっている(流石に巻き込まれたら堪ったモノではないので、近くで起こったら逃げている)。
「アレだな。10月の仮装案件で盛り上がっているのだろうよ」
「あー、アレね」
学院では10月にハロウィンに因んで丸々1ヶ月、仮装して過ごす……。言わば10月丸々がハロウィンナイトみたいな状況に様変わりする様だ。その関連での喧騒が大きい様だ。
「……単純に黒猫とかミイラとか? それとも魔女のコスプレとかかな?」
芹那が楽しそうに顔を綻ばせる。物騒なりともお祭りである事に変わりは無く1ヶ月も続くとなると別の意味で楽しみと言える。
「……そんな呑気に終わるとは思えへんけどなぁ」
「ハロウィンと言えばトリックオアトリートだけど……お菓子も用意しておくべきなのかな?」
「悪戯を通り越したナニカされては敵わん。……それも用意しておくべきだな」
学院各所が慌ただしくなっていた。それは他の学校関連でいう学園祭に近い概念。
五稜監獄学院では10月に渡り『ハロウィン』の期間に入る。囚徒達は思い思いの仮装で過ごし期間中では様々な催し物が企画されている。
「え?『料理大会』? 聞いてねぇけど、野郎は審査員として参加?……あのー、ガイア様……その日は、ああ‼︎ はい、分かりました、分かりましたよ‼︎ やれば良いんでしょう⁉︎ やれば‼︎」
「え?10月初めに『料理大会』があるんですの⁉︎ ぜ、是非とも参加致しますわッ‼︎ この私、セシリア・オルコットが華麗に優勝してみせますわ‼︎」
「待ちなさい、セシリア‼︎ 国際問題になりかねないわ‼︎」
「鈴さん⁉︎ それはどう言う意味ですの⁉︎」