『料理大会』
10月初めにその催し物が企画されていた。囚徒、生徒問わず参加者を募り審査員の判定の下、優劣を決める……字面だけみれば平穏な内容の企画だろう。字面だけ見れば。
囚徒が交ざっている時点でロクな展開は望むべくも無い事を和奏は自覚していた。……そして思わぬ伏兵がいた事をまだ知る由も無かった。
囂囂とした喧騒に包まれる大食堂。何時も騒がしくあるのだが、今回は『料理大会』が開かれる事もあり殊更、喧騒は大きくなっていた。
大食堂の一角がこの時の為用にテーブルの配置が変えられており尚且つ、本来ならば客席の場所にキッチンセットが仮設の形で併設されてる(ちゃんと水道とガスも通っている)。
それだけならば良いのだが、開催時期は10月……と言う事で囚徒生徒問わずに囚人服では無く思い思いの仮装した姿で過ごす事となっていた。その為、参加者も審査員もはたまた大食堂に集まっている観客の囚徒達も皆、仮装していると言う事であった。
「さぁ、いよいよ毎年恒例の『料理大会』の始まりやで〜‼︎ 司会実況はこのウチ、乙音が進行するで〜‼︎」
午前10時頃となり、司会進行としてはもはや、お馴染みとなりつつあった観音寺 乙音がマイクを片手にノリノリな様子で進めている。
彼女は群青色の喪服を思わせるケープコートを羽織り翡翠色に煌めくマフラーを巻いていた。更には前髪から飛び出す様に角らしきモノが生えている。角らしきモノは実際に生えているのでは無くISの拡張領域の展開の応用で生えている様に見せているのだ。……こんな所でも技術の無駄遣いが見て取れる。
「ほな、早速今回の『料理大会』の審査員の紹介を始めんで〜‼︎」
乙音はそう言い、審査員席の方へと視線を向けて紹介を始めた。
「審査員1人目は、我らが大将の和奏はんやで‼︎」
「今すぐにでも帰って良いか?」
最初に紹介された和奏はやる気はゼロであった。彼もまた10月と言う事で普段とは違い黒を基調とした西洋の貴族を彷彿させる服装をその身に纏っていた。
「アカンに決まってんやろがッ‼︎ 女の子の手料理を食えるんやで⁉︎ 普通、喜ぶとこやろうがッ‼︎」
今すぐにでも帰りたい旨を伝えるも乙音に一蹴される。何故ならこの後に約束された惨劇が起こる事は容易に予想出来るからだ。因みに学院長から言われて即辞退したかったが封殺され今に至っている。
「ほな気を取り直して2人目は、IS学園の世界初の男性操縦者こと織斑 一夏やで‼︎」
「」
次に紹介されたのは織斑 一夏であった、が……その本人は何故か気絶していた。どうやら無理矢理にでも連行する際に昏倒させられた様である。
「起きんかい、バカタレがッ‼︎」
「ッッッ‼︎⁉︎ な、何だ何だ⁉︎ 何がって、此処どこだ⁉︎ 食堂⁉︎ 大食堂⁉︎」
乙音は持っていたマイクを投げ一夏の頭に直撃させる。ぶつけられたマイクは量子変換で拡張領域を経由して回収した。
「……って、和奏⁉︎ おいコレ、どう言う状況なんだよ⁉︎」
「……料理大会の審査員をやれって言われてんだよ。俺達」
隣の審査員席に座る和奏は草臥れた様子で一夏に対して簡潔に答えた。
「り、料理大会? と言うかお前、なんだその改まった格好は……?」
かく言う一夏は囚人服のままであった。つまり、10月の仮装案件に関して何も知らなかったと言う事だろう。普通、騒いでいたら気付くと思うのだがまぁ良いだろう。後の事は知った事では無いし。
「……何も知らないのか、まぁ良いか」
「以上、2人の審査員でお送りすんで‼︎」
「せめてもう1人
「えー、大将が何か言っとるけど放っておいて、次に今大会の参加者の紹介に移るで‼︎」
和奏のツッコミは華麗にスルーされた。一部、不穏な単語が交ざっていたが何時も澄まし顔なのに今回は振り回されている様な状況の和奏を見るのは新鮮な気分に浸る一夏であった。
「ほな、先ずは1人目‼︎ 人斬り小動物の沙夜ちゃんやで‼︎」
「が、頑張りますですっ‼︎」
1人目は沙夜だった。服装は重厚なメイド服なのは変わらないが頭部両側から捻れた角が生えて背中から小さいながらも蝙蝠の様な翼が生えていた。可愛らしい悪魔っ娘の仮装だろうか。
が、内面を知る和奏は冷や汗を流す他に無い。
「続いて2人目‼︎ 数多のメイド達を支配するメイド長‼︎ ユリエメイド長やで‼︎」
「……全く、いつにも増してテンションが高いわね、乙音」
2人目は大食堂の支配者であるユリエメイド長であった。メイド長と言う役職故にメイド服の意匠を残しつつも鉤爪の様な蝙蝠様な皮膜の羽が腰から生えていた。どうやらメイド達は悪魔的なイメージの装飾を追加している様だ。
「続いては3人目‼︎ つーか、大将⁉︎ コレは幾ら何でも過激やろ⁉︎ 姫舞議長や‼︎ ってか、メイド長、顔怖ッ‼︎ 」
「弟くーん、お姉ちゃん頑張るよ〜‼︎」
「ノーコメントだッ‼︎ 」
3人目は議長こと姫舞。メイド2人は役職故にメイド服の意匠が残り仮装としてはかなり控えめであったのだが、姫舞は凄かった。と言うか普段から過ごす格好と言う意味では凄まじかった。
服装からしてキョンシーを思わせる。前髪の下、おでこ付近からお札が貼られていたらそりゃキョンシーのイメージが全面に出てくる。
服と呼べる部分は二の腕からの袖の部分しか見当たらずほぼ全裸。
豊満な爆乳を曝け出し乳首を隠す為、ニプレスの代わりにお札を貼っつけているだけと言う大変けしからんレベルの露出度。それだけに飽き足らず下腹部にはハートを模した淫紋の様な紋様がピンク色に発光しており秘所もお札を貼り付けているだけと言う際どいを通り越した痴女と言うべき装いだった。動く度に胸が揺れお札も剥がれるかどうかの境目を常に彷徨っている。
流石に乙音もコレには驚愕し和奏にツッコむが和奏は間髪入れずに黙秘権を行使した。
「え、えーと……次は4人目‼︎ リデアはんやで‼︎」
「ん、頑張る…………‼︎」
4人目はリデアであった。彼女は白いワイシャツを前を留めずに羽織っているだけ。なのだが、その下は白色を基調とした首から下を覆い尽くすボディスーツ姿でありある意味、全裸よりも羞恥心が勝る。……最も彼女は割と結構、露出度が高い服装をしている事が多いので感覚が麻痺しているのだろうか。
「んでもって、5人目や‼︎ IS学園からの刺客‼︎ イングランド代表候補生のセシリア・オルコットや‼︎」
「この私が華麗に優勝して差し上げますわ‼︎ 一夏さん‼︎」
「頑張らなくても大丈夫だぞ、セシリア‼︎」
5人目はセシリアであった。青を基調とした簡素なイブニングドレス(普段着と言う理由から余り凝ったモノだと動き難いと言う判断だろう)姿であった。ドレスの裾も膝程の長さに抑えられており、背中が露出しているタイプであった。
「後は……以下省略‼︎」
「「「ヒドッ⁉︎」」」
他にも学院側と学園側かはの参加者は居るのだが乙音は飽きたのか此処で紹介を打ち切る暴挙に出た。しかし、普通にスルーされた。
「さてと、紹介も終わった所でルール説明や‼︎ ルールは簡単や、お題は特に決めてへんから各自、自由に作って貰うで‼︎ 食材は大食堂にある奴を使ってくれてもええし、持ち込みもアリや。
せやけど、審査員は2人やから2人分を作ってもらうから気ぃつけなぁ〜。んでもって、審査員に100点満点で採点して貰って点数が高い人が優勝や、簡単やろ?」
「あの、質問ですっ‼︎ 1位が同点だった場合はどうなるんですかっ?」
「まぁ、そうそう無いやろけどそん時は決戦としてウチが出すお題の料理を作って貰って採点して貰うわ」
同点の場合はお題アリでの料理対決になる模様だ。此処までは皆が仮装している事を除けば極々普通の料理大会に見える。
「あ、せやった。肝心な事を忘れとったわ。まだ紹介せなあかん事を忘れとった」
「え?」
「…………」
「万が一の為の医療棟の皆さんやで‼︎ 腹が爆発しようが食道が溶解しようが肝臓が壊死しようがその場で修復出来っから心配せんでええで‼︎」
「「出来るかッ‼︎」」
遅れながら紹介されたのは少し離れた場所に待機しているナース服の囚徒達であった。メイド達が悪魔っ娘ならば此方は天使娘と言った装飾が追加されている。白い翼にヘイローと来ればもう天使だろう。
そんな彼女達の周りにはAEDに加えて多数の医療器具、果ては大量の小型の培養槽が積み上げられており中には心臓と脳を除く臓器が納められており、この時点で絵面がヤバい。
「……色々とヤバい‼︎ コレはヤバい‼︎ 何が起こるか分からねぇけど、絶対にコレはヤバい‼︎」
『万が一』の件から明らかに不穏さが隠れていない事に命の危険を感じた一夏は逃亡を企てる。
「……男性操縦者、諦めろ。両脚を斬り落とされているからな。邪魔にならんように麻酔も打たれてんだろ」
「嘘だろ、オイ⁉︎」
途中離脱出来ないように審査員の両脚は事前に切り落とされていた。因みに一夏の場合は麻酔が打たれており気付くのが遅れた。
「……ついでに聞くが、あのイングランド代表候補生の料理の腕は?」
「…………………」
「そうか……」
沈黙が答えであった。逆に一夏も和奏の達観した態度から五稜監獄学院側の囚徒達の料理の腕も『個性的』だと察した。
「じゃあ、紹介も終わった事やし……それでは料理スタートやで‼︎」
沙夜とセシリアがいる時点でもはや、お察しレベル。