一面、真っ暗闇の空間が広がっている。暫くすると目の前に青いフレームの空間ウィンドウが表示される。
『ユーザーデータ確認中……。新規データ構築確認中。承認完了。ようこそ、ドロシーさん』
電脳空間内でも『ストラトス・デザイア』で使用している名前が使われる様である。その表示が消えた直後、目に見える世界が一変した。青いフレームで構築されたワームホールの中を落ちて行く。正に落下して行く感覚が全身を伝って感じる。
『オンラインエントランスに接続中。暫くお待ちください』
落下中、目の前にその様な項目の空間ウィンドウが表示されている。暫くすると白い光が見え始め視界が真っ白になった。
「……此処は?」
青いネオンラインが目を引くサイバーな雰囲気が纏う空間が目の前に広がっていた。中央に高い柱があり、案内板の様なモノが見える。他にも壁伝いに様々な受付の様な物が並んでいるのが見えた。そして、多くの人間……プレイヤーとなる女性達が行き交っているのが見えた。
気になるのがその服装、簡易スーツでもログインする際に着替えた黒いボディースーツ姿では無く本当に色々なジャンルの服装をしている。巫女服やメイド服と言ったモノから、学生の制服らしき服装と言ったモノも見受けられる。
——こ、コレが電脳空間の仮想現実。本当にリアルだ……指や腕を動かすと本当に自分の体で動いているみたい。
服装は初期設定の服装なのか簡易スーツ姿だった。最もこの服装で既に施設内で歩き回っているのだから恥ずかしさも多少は和らいでいる。
試しに空間ウィンドウを開くとメニュー画面の様なモノとなって表示される。この辺もゲーム的な内容となっていた。
「新規登録ですから、少し時間が掛かった様ですわね」
と、その時後方から声が掛けられた。声の質感さえも同等と言う再現度。つまり、神楽であった。
「あ、か、カグヤ……そ、その格好は?」
振り向いた時、神楽の服装は肩出しのボディスーツに兎耳のヘアバンド、それに白い兎の丸い尾。つまりバニーガールの衣装を身に纏っていた。
「以前はこの格好でダンジョンフロアで敗北プレイをして居ましたので、変更せずに其の儘でしたわ。お気になさらず」
大和撫子な雰囲気の神楽に大人っぽい黒いバニーガール姿は何故か新鮮に映る。
「電脳空間内の衣装のレパートリーは大変豊富ですわ。リアルさと二次元を追求した結果、色々なモノが用意されていますわ。それに衣装には付加効果が備わっているモノもありますわね」
「例えば?」
「はい、このバニースーツであればダンジョンフロア内でエナミーに狙われて易くなり、拘束攻撃を誘引し易い言う付加効果がありますわ。元々、兎は万年発情期とも言われて居ますのでその再現でしょう。おかげさまであの時は手っ取り早く捕縛されて敗北プレイが堪能出来ましたわ」
つまり挑発効果があると言う事なのだろう。
「衣装の入手手段は?」
「ダンジョンフロアで見つける等の取得や、この仮想現実内での専用コインでの購入。他にも時々イベントでの景品……でしょうね」
「……本当にソーシャルゲームやオンラインゲーム見たいなんだね」
「元々娯楽の為のオンラインゲームをIS技術をフル活用して構築されたのがこの仮想現実ですわ」
簪もオンラインゲームの概念は理解出来る為に神楽の説明は理解出来た。その為、大体のルールはその系統に準じた内容なので分かりやすいと言える。
「それでは、取り敢えずエントランスフロアをぐるりと回ってからお楽しみのダンジョンフロアへ行きましょうか」
「う、うん」
仮想現実は初めてなので神楽に案内をして貰う事にした。まず最初に向かったのは複数の受付……と言うよりも大型ショッピングモール内にある飲食店が立ち並んでいる様な光景の場所であった。
「此処は仮想現実内での服装やアクセサリー等を仮想コインで購入する店舗が並んで居ますわ」
遠目からでも沢山の人で賑わっている。店員はNPCと言うAIのプログラムだろうか?
「NPCに相当する人も現実の『ストラトス・デザイア』の職員が専用のシステムを介して実際にログインしているそうですわ」
「そ、そうなんだ……」
——其処まで拘るとは……。あ、それよりも。
「仮想コインはこの仮想現実内通貨って分かるけど」
「入手方法は大体、その通りですわ」
どうやらそう言う事らしい。
次に向かったのは柱を挟んで反対側にある映画館の受付の様な構造をした場所であった。
「此処は?」
「此方がヒナタさんが言っていた例の『エクストリーム・ストラトス』の入場受付、ですわね。その隣がISを用いての仮想シミュミレーションシステムの受付ですわ。IS適性が低かろうが参加出来ますので人気がありますわね」
神楽の言う通り、その受付には多数の女性が列を作って並んでいる。女尊男卑でISが権威と化していると言えどISに搭乗と言うのは実はと言うと早々に乗れる機会は無い。
まず代表候補生クラスやその候補選抜では無いと乗る機会はほぼ無い。非常に高倍率なIS学園に入学したとしても専用機持ち(ほぼ代表候補生や企業代表)で無ければ予約して半月待って漸く乗れる有様。それ以外はほぼ皆無。故に仮想シミュレーションであっても乗れると言うのは非常に魅力的に映るのだ。
受付の上には現在、開催中の内容が表示されている。現在は表示される的を銃火器を用いての撃ち落とすシューティング系統の『射撃シミュレーション』、近接武装を用いて小型兵器をどれだけ倒せるか競う『近接格闘シミュレーション』と言う実践的な内容であった。代表候補生であっても有意義に使えそうな内容と言える。
「代表候補生と言った専用機を持つ方はデータを登録すれば実際に再現して参加する事が可能ですし、持って居ない方でも量産型である打鉄やラファール・リヴァイブで挑戦する事が可能ですわ」
アフターフォローは完璧だった。それならば気軽に参加出来ると言うモノだ。それから成績上位者はランキングで公開されるとの事。競争心を煽って向上心を掻き立てる……上手いやり方である。
——ランキングって上位は誰なんだろう。
『射撃シミュレーション』
1位:フィウ
8,200点
2位:リデア
6,050点
3位:シャル
1,200点
『近接格闘シミュレーション』
1位:リーリス
6,845体
2位:ルヴィア
5,042体
3位:ラン
1,645体
2位と3位との差が余りにも激し過ぎる。と言うかほぼ確実に上位は職員公式記録だろう。更に1位も2位と大差を付けて圧勝している。お前らTASか。もはや、やり過ぎレベルであった。
「……一応何方も記録が1,000を越えれば優秀ランクですけどね」
「…………」
そして、隣にあるのが例の『エクストリーム・ストラトス』の受付であった。此方は参加者は今は疎と言える。
「人が少ない」
「それもその筈ですわ。此方は高難度を銘打っているだけあって情け容赦がありませんわ」
代表候補生以上推奨の高難度バトルエンターテイメント。早い話が、仮想現実内で『専用機』とも呼べるISに搭乗して登場するAIとISで戦闘する内容との事。
「そんなに?」
「はい、今現在の内容は『災害級』ですわね。他にも更に高難度の『超災害級』がありますわね」
——難易度の基準が可笑しいと思うのは私だけ?初級とか上級とかの概念は此処の施設のスタッフには無いの?
受付近くの空間ウィンドウには現在開催中のイベント内容が表示されて居た。
『現在、開催中のバトルシミュレーション。
災害級【墟国に頽れし謝肉祭】
参加推奨人数:4人
※時間経過で全体に強力なデバフが展開。
※敵の波状攻撃が強烈です。注意。
災害級【劫魃へ至りし姫神楽】
参加推奨人数:4人
※『劫魃』の発動を阻止出来なければ戦場全体に強力なダメージ空間が展開されます。
超災害級【蒐断殺理】
参加推奨人数:3人
※特定の攻撃で即死します。
』
単騎で挑む様な内容とは思えない。と言うか明らかに殺意が高過ぎるサブタイトルばかりである。クリアさせる気あるのだろうか?
「……正直、私でも攻略出来る気はしませんわ。私の専用機は攻撃武装はありませんので」
それでも並のISを撃墜はして居た気がしたのだが……。
「と言うか参加する人居るの?」
「……居るのでしょうね。ですが余りにも難し過ぎて修正変更があり一応、撃破出来なくてもダメージコンテスト的な部分もありますのでどれだけダメージを与えられたかでポイント計算されて報酬が決まる内容も付随していますわ。最も獲得点数が低過ぎると無報酬ですが」
余程、難しい調整になっていたのだろう。
——けど推奨人数が4人以上……今の私はISが未完成だし参加は控えよう……。
そして、次はいよいよメインとなるダンジョンフロアの入り口へと向かう事となった。