『マスター、適性エナミーのプログラムも少々可笑しい状態になっています』
「ああ、緊急事態だからそれは此方で片っ端からシステムを落としている」
ウィキリピアの悪戯によりダンジョンフロアが掌握されてから30分。現在、和奏達はエントランスフロアから移動して各ユーザーが仮想現実空間内での個室が設けられている居住区フロアの一室に移動していた。其処でダンジョンフロアのクラッキングを試みているのである。
「だから、基本的に無視して構わない。邪魔になるなら排除して進んでくれ」
『了解しました。して、避難状況は?』
「うーん……運営から発する全体通信機能のシステムがまだ奪還出来ない……。ウィキリピアちゃん、此方にリソース割いているのかな……?」
「……そもそも悪戯にしては動機が不明だと思う。あの子の悪戯は度が過ぎている事が多々あったけど……和奏君?」
「……まぁ、ウィキリピアを見つけて問い質せば分かる事だ(大方、予想は出来るがな)。って、リデア……今度は、何の格好のつもりなんだ?」
「ん。和奏君、バニーガールはお気に召さないからやっぱり王道のメイド服に着替えたの。従育科の人達に良く迫られているから、メイドさんが好きなのかなって」
リデアの方を見れば彼女はバニーガール姿からミソラ達の様にメイド服に着替えていた。ノースリーブタイプな上に胸部分の横側から切り取られての横乳が見える(但し少し貧)形状。そして服の上からでは見えないがインナーはボディハーネスで、秘所にはこの辺もヒナタにより仮想現実に反映されている。
そして、首元には当然の如く首輪が着けられており長いリードが伸びている。勿論、その持ち手は和奏の方へと渡された。更にその首輪の上には外されたボールギャグが下げられておりその気になれば直ぐに嵌める事が出来る様になっている。
もうこの辺の被虐趣味に関しては和奏本人は諦め気味になっている。
「……いや、アレは迫られていると言うよりも襲われている表現の方が強いんですがね。或いは喰われ掛けているんだけど」
「アンタが良い加減に据え膳を取らないだけでしょ? メイドには調教する鬼畜なご主人様が付き物だって言っているじゃない」
メイド服を身に纏った彼女達の迫り方は最早、襲撃に等しく一際激しい攻防戦を演じる羽目になっていた。『メイドは主人に奉仕する者』と言って聞かない連中しか居ないからである。
『マスター。マスターのペットは私だけです。ですので、成功したら頭を撫でてください。……或いはちゃんと躾けてください』
その様子を無線で聴いていたフィウは不満気味な声音でそう催促してくる。
「そうだよっ‼︎ お姉ちゃんの前で、イチャイチャしないでよっ‼︎ お姉ちゃんも弟君とイチャイチャしたいッ‼︎」
更にヒナタまで割り込まれては収拾が付かなくなる。
「ええい、そんな事は今はどうでも良いからさっさとやるべき事に当たってくれ‼︎」
和奏が出来る事、それは時間稼ぎ或いは先延ばし、もしくは現実逃避の何れかであった。どの道、後で散々な目に遭うのは分かっては居るのだが今だけは現実逃避したいのだ。
「えー……じゃあ、終わったら構ってくれるの?」
「内容によるッ‼︎」
「えーと、じゃあ……」
『マスターは猫か兎、何方が好きですか?』
「麻縄か革枷、どっちが好き?」
「組み合わせが不穏でしか無いんだけど⁉︎」
「あ、姉妹丼とかどう? やはり早い方が良いよね? 沙夜ちゃん達とか」
「その発想自体、間違いなんだよ⁉︎」
「や、やっと外出許可が取れた……」
——土日とかの休みの日にIS学園から外出するのに許可が居るってのは聞いていたけど、彼処まで時間が掛かるか普通⁉︎
その頃、IS学園。クラス代表決定模擬戦にて神楽に成層圏から撃墜された織斑 一夏。高山病でダウンしていたが無事に快復。
そして、休みの日たる土曜日の今日。IS学園から外出……するのであったが。
——朝から申請して……色々な書類やらに記入してそれから『安全の為に発信機や通信機』を渡され然も20個以上‼︎ 申請が通るまで昼まで掛かるってどれだけ時間が掛かるんだよ⁉︎
IS学園は機密性かつ秘匿性が高い学園。エリート校と言う側面がある上に学園外への外出するのに申請をして許可を取らなければならない。勿論、アルバイトの類は禁止(それ故に社会を知らないまま卒業してドロップアウトの階段を登る事になる)。
ISの機体其の物が機密事項の塊に加えてその操縦者候補たるIS学園生徒も重要な
それが世界初の男性操縦者ならば尚更とも言える。何故なら世界で唯一と言うのが最大級の問題点。後にも先にも代わりが効かない存在。そして治外法権(ガワだけ)のIS学園ならばまだしも現在の織斑 一夏にとって日本は外国に該当する。例え日本人であっても各国政府のイザコザを回避する為に本人の承諾無しに無国籍扱いだ。
諸々の状況故に一夏は狙われる要素が山程あるのだ。それこそ、どんな組織からも狙われている。街行く人々の中に何人スパイが居る事か想像だにもしない。
生殖細胞たる精子は愚か、遺伝子情報となる毛髪一本までも狙われる。本来ならば完全隔離の上に検査、研究で自由なぞ無いに等しいのにIS学園に在籍と言う形になるのにどれだけ千冬が奔走したか……本人は全く知らない、いいや知らぬが仏とも言うだろう。
「……取り敢えず弾の所に行こう。はぁ、試験の日にIS動かして以来、会って居ないからな。連絡も何故か付かないし……一先ず直に会いに行けば分かるだろ」
外出理由は中学校以来の友人に会いに行く事だった。IS学園に入学してからまだ顔も合わせて居ないからだ。
「……昼過ぎだし、五反田食堂で飯食って夕方まで一緒にゲームでもするか」
だが、一夏は知らない。自分が『男性操縦者』と言う現実が齎す影響の意味を……。
「男性操縦者がIS学園外に移動を開始。これより護衛を開始する」
IS学園が見える高層ビルの屋上、その場所にて複数人の人間が眼下に見える光景を見下ろしていた。何れも物々しい雰囲気を纏っている事だけは確かである。
「A〜E斑は本人に知覚されない距離を保ちつつ尾行護衛。F〜M斑は散開し不審物の即時処理。N斑以降はバックアップに当たれ」
指示を出しているのは赤髪の女。身体的特徴的に中学生程だろうか。その周りは全員が成人である。
「日本国領土内にて男性操縦者に接触した人間の個人情報を即時全て洗うように。そして如何なる不審点があれば殺処分の許可が降りている」
そして冷徹に冷酷にそう告げる。男性操縦者である織斑 一夏1人の安全が確保されるのならば例え日本人1000人犠牲にしてもお釣りが出る。
「男性操縦者に接触する部外者は全て外部組織のスパイだと思え。無関係を装い、あらゆる情報を採取しようとしている。『レース』に参加する意思さえ持てない愚か者のする事だ」
『レース』とは即ち一夏の競売会の事である。ビタ一文を払わずに利益だけ欲する犯罪者共を生かす価値は無い。
「「「了解、行動を開始する」」」
各班毎に行動を開始する人間達。
「…………全く余計な真似をするモノだ、男性操縦者。IS学園で競売に掛けられ売り出される時まで大人しく過ごせば、こんな余計な犠牲を出さずに済んだものを」
『俺は皆を守る』。それは織斑 一夏がISを動かせてそう宣言した言葉。だが、その言葉は余りにも実現不可能に近い概念であると、彼女はそう断言する。
何故なら日本国内で一夏が
「……さて、私も動くとしよう。こんな任務でも任務は任務。熟せなければ……ご主人様にご褒美を貰えないのだから♡」