外の世界で、織斑 一夏が自身の取り巻く現実に軽い陰りを帯びていたその頃……。
神楽と『エネルギールーム』前で合流する為に簪は、辛うじて機能しているマップ情報を確認しながら倒壊しつつある工場内を移動する。
「……ドロシーさん、此方ですわ」
「あ、かぐ……カグヤ。……その服装は?」
青い壁が続く中、一際目立つ黒い金庫扉と思わしき扉の前にて神楽が待って居た。何故か、IS学園指定のISスーツ姿の状態で。
「少し前に見つけたのです。……事前説明の通り、持ち帰る事は出来ませんけどね。後、個人的には名残惜しいのですが私の後手に拘束して居る枷を外してくれませんか?」
神楽はそう言い後ろに振り向いて背中を簪に見せる。神楽の両腕は重そうな機械式の枷で固定されて拘束されているのが分かる。
「えーと、どうすれば?」
「こう言うタイプはカードキーか、或いは単純にスイッチで開閉するタイプですわ。残念ながら私では今は見えませんので……」
「えっと、コレかな?」
スイッチ式の簡単な類だったらしく、そのボタンを押すと鈍い音を立てて枷が外れてゴトリと言う音を立てて床に落ち、神楽の両腕が自由になった。
「うーん、やはり後手拘束はアームバインダーが基本だと思いますわ、そうは思いません?」
「え、えーと……私は、まだ試した事が無いから……」
「……周りの目があって出来ない環境でしたものね、申し訳ありませんわ」
——ネットの画像では見た事あるけど……あの袋状の拘束。本当に動けなさそうで圧迫感が凄そう。
「さて、雑談は仮想空間から退室した時に致しましょう」
神楽は其処で話を打ち切り、意識を目の前に聳える金庫扉へと視線を向けた。この先は神楽が言うエネルギールームだと言うが……。
「所でエネルギールームってのは……」
「ふふ、私の口から説明するよりも実際にご覧になった方が早いですわ」
そう言いエネルギールームの扉近くの端末に手を伸ばす。複雑な操作は必要ないらしく、開閉のスイッチのみであった。その操作を行った直後に金庫扉は鈍い音を立て中央の錠が回転し左右にスライドして扉が開かれた。
「では、参りましょう」
「う、うん……‼︎」
重厚な扉を抜けた先に広がっていた光景を見て簪は息を呑んだ後に感嘆した。
「わ、わぁ……‼︎」
『ーーーッ‼︎ ーーッ‼︎ッ‼︎』
『ッッ‼︎ッッ‼︎』
『ーーッ‼︎ーーッ‼︎』
部屋一面に広がっているのは巨大な培養槽かカプセルと思わしき装置群。その大半のカプセルには溶液に浸かった少女達が四肢を圧縮装置に埋め込まれ拘束、胸には吸引機、口には呼吸器、アナルにも機械の管が突っ込まれ声にならない喘ぎを上げている光景だった。外部に音声が出ない構造なのか、絶叫は外に漏れていない。
「……以前、説明した通りエネルギールームとは監禁部屋ですわ。捕獲された方は此処に連行されてあのカプセルに囚われ救助されるか時間が経過するまで敵性エナミーにエネルギーを供給する為の搾乳タンクの生体ユニットとして稼働させられますの」
「つまり、今回の非常事態が無ければ私も此処で……」
「はい♡ カプセル内で拘束されて搾乳機で喘ぎ続ける事になる予定でしたね」
——うう、折角の機会が不意になっちゃった……。
「でも、此処で合流って言うのは?」
「こんな事態になってしまいましたし……今回の件で暫くはダンジョン系のアトラクションはメンテナンスに追いやられる可能性がありましたので滑り込みで見に来たかったと言う次第ですわ」
「な、成程……‼︎」
——確かに此処まで大きなトラブルになったら再開するのに時間が掛かってしまうのは予想出来る……なら、一層の事紹介したかった、と言う事かな……?
「可能であれば折角なので此処でドロシーさんをカプセルに入れて拘束してしまおうかと考えたのですが……どうやらプレイヤー側からは自滅行為が出来ないみたいですわね……」
自ら生体ユニットの機械に乗り込むと言う行為は残念ながら出来ない事に落胆する神楽。やはりアブダクターやエナミーに捕獲された状態と言うプロセスを通過する必要があった様だ。
『……じ、ジジ……『グローバル版ダンジョン』のご利用の皆様にお知らせします。現在、グローバル版ダンジョンにて大規模なエラーが複数件発生し、正常なプレイが出来ない状況が続いております。大変恐縮ではありますがプレイヤーの皆様の安全の為、運営及び管理者権限にて順番に強制ログアウトを実行します。
今回の件においての補填等の詳細は後日、改めてお知らせ致します。プレイヤーの皆々様に快適なプレイ環境をご提供出来ない事を、心よりお詫び申し上げます』
そのような放送が簪や神楽の脳内に響き渡る。恐らく他の参加プレイヤーにも伝わっている事であろう。
「如何やらお時間になった様ですわね。運営側からすればこの様な事態は完全に予想外だった事でしょう」
「う、うん……」
その時、2人の目の前に赤い色をした空間投影型のウィンドウが展開される。
『運営側の判断にて強制ログアウトを実行します』
基本的にフリーな状態だった為か比較的早く順番が回って来たらしい。
「あら、予想よりも早く来たみたいですわね……もう少しこの内装を見て回りたかったのですが、コレばかりは仕方ありませんわね」
「う、うん……トラブルが起こっちゃった以上、しょうがない、かな」
その数秒後、簪と神楽の視界はホワイトアウトし、束の間の白昼夢が訪れた……。