「先日、申し上げた通り此方で幾つかのプリセットを用意しました。気になる内容を選びまたは必要な箇所の交換して貴方の求める機体を組み上げます」
機体構造のプリセットが用意された。その中で1番、理想に近い機体を選びそれらを実際に組み上げるとの事。
「うん……コレが良い」
その中で簪は1枚の空間投影ウィンドウを選んだ。それは『打鉄弐式』のシルエットをある程度残しつつも多数のビット型ユニットが備わった機体構想。元より弐式は機動型であったが見た限り此方も高機動力を備えた機体の様にも思える。ただ、一部妙な箇所がある。金属製の輪があり鎖が伸びている箇所が……。
「おや、それをいの一番に選択するとは……中々、良い目をお持ちの様ですね」
「コレ、枷ですよね?」
「はい、勿論その通りです」
簪は表示されたウィンドウに描かれている金属製の輪を指示してそう尋ねる。その質問にレーキュは否定はしない。
「ですが、普段は顕現させません。IS学園の最中でそんな被虐光景を中継させる訳には行かないでしょう?」
「……それは確かに言えている。けど、何故?」
「それは貴方の御心に聞くのが早いのでは?」
——意地悪な人……。ISすらも私を縛る拘束具、そんなイメージを持たせたかった。拡張領域と言うのは本当に便利。企業や国の思惑とは関係の無い完全に私だけのIS。
でも、ISコアには『好み』がある。
ISには様々な武装がある。例えばイングランドの国家代表候補生が搭乗する第三世代機である『ブルーティアーズ』はビット兵器と対物ライフルと言う武装を搭載している完全な遠距離攻撃型の戦闘スタイル。……その為か近接武装兵装は小型ナイフのみと言う潔さである。
他にも簪にとっては忌むべき存在である日本の倉持技研製作にして織斑 一夏の専用機である『白式』は雪平弐型一振りのみと言うもはや清々しいまでの潔さ。
この様に元は同じISコアでもコア自身の好みで拡張領域に受け入れる武装に違いが出て来る。ブルーティアーズのISコアは射撃系の武装を好み、白式のISコアはそもそも雪平弐型以外、一切受け入れない。
「……貴方のISコア。中々、理解が早かった為に色々なオモチャを拡張領域に入れる事が出来ますね」
「……本当?」
「嘘か真かは貴方が試して見るのが宜しいかと。強いて言えば貴方のISは……貴方を捕らえて縛り付ける拘束具と言えますね」
「そのイメージで大体合ってる……。だから名前を付けるのならば『打鉄隷式』。……私と言うドMな奴隷を拘束する牢獄」
いつの日か宇宙への翼は地面に縫い付けられた。成層圏すらも届かずに対流圏にしか飛べない翼……。簪はもはや全く別の意味でISを運用するつもりなのだろう。
「成程……。それが貴方の答えなのですね、良いでしょう……では、その様に組み立て行きましょうか」
レーキュは簪の答えを聞いて頷くと同時に右手で頭に被っていた笠を外す。室内であっても笠を被っていたのは不思議に思っていたその刹那。
「来なさい、『ラカーユ』」
「えっ……⁉︎」
部屋内に配置された大型機材、壁に立て掛けられていたパーツ類、棚に置かれた工具類、部屋の奥の壁が開閉しその奥に保管されていた多種多様のその他のパーツやスラスター、装甲類が独りで浮上、行動し始めて部屋にあるISを掛ける為のハンガーに集結し独りでに組み立られて行く。
「……人とは非効率な事を是とします。何故でしょうか? 拡張領域、シールドバリアがあれば
その最中、レーキュは簪にそう愚痴を溢す。まるで人間が人の手でISを組み立てる行動が愚かだと言いたげである。
「……全く、愚かにも程がありますね。ISと言う技術を専門としながら
所詮、知者の皮を被った野蛮人に叡智を求めるのがそもそもの間違いだったのでしょう? そうは思いませんか?」
「え、えっと……」
多数の器具や工具類が乱舞し勝手にISが組み立られて行く光景を尻目にレーキュは続ける。
「人手が全て取られた? 唯のリソースの無駄遣いでしょう。何の為に人間は右手と左手があるのか……。それすらも理解出来ないとは……研究者としてはクビ同然の醜態ですね」
「な、何の、話なんですか……?」
——それよりも、これ……どうやって……?
「おっと済みません。ついつい、愚痴が出てしまいました。……何分、デートのお誘いを受けましたが実につまらなく気に入らない相手だった為にお断りしたのですが、余りにもしつこくて……。
ああ、失礼。貴方には何の関係も無い話でした。して、完成しましたよ、貴方の専用機……『打鉄隷式』が」
「え……⁉︎」
時間にして僅か15分。その短い時間で簪の専用機は見事、完成していた。基本的にはフォルムは打鉄弐式に通じ、追加されたモノとして代表的な物は後背には複数の長方体のスラスターユニット。アーマースカートにも小型の推進器が備わっており、機動力を高めた高速戦闘型。
「た、たった15分程で、機体が完成したって言うの……⁉︎」
普通、ISの製造は早くても多数の技術者研究者が携わって1ヶ月や2ヶ月、長くて半年は掛かると言うのにたったの15分で完成させてしまった。
コレはもはや、かのISの開発者である篠ノ之 束に匹敵か或いは超越しているのでは無いかと思わず考えてしまった程である。
「何を驚く必要があるのです? ISを造るのにISを使えば多少の時間の誤差はあれど誰でも出来るでしょう?」
——あ、この人。自分が出来るなら他人でも出来ると考える思考回路の人だ。
ヒナタから『レーキュは性格に難がある』とも言われていた。確かにこう言うタイプの人は付き合い難いし、本人も人を選り好みするだろう事が容易に想像出来る。
と言うかISを使えばとは言うが簪から見ればレーキュは
「さて……機体ソノモノは完成しましたが、後はソフトウェアとハードウェアの部分。出来ますね?」
「……大部分は出来ます、けど」
「ふむ……時間が足りない、と。そう言えば貴方方は2泊3日の予定で明日の午前にチェックアウトでしたね」
『ストラトス・デザイア』とて年中無休でやっている訳では無い。完全週休2日制であり、日曜日は利用客が午前中に一斉にチェックアウトする形となっている。
「……良いでしょう、此処で放り出すつもりはありません。完成する最後まで面倒を見ますので今から始めましょう。早速ですが貴方のISに装着、搭乗し全てのシステムの調整を始めまする」
「は、はい‼︎」
簪は機体は完成された『打鉄隷式』を待機携帯に戻した後、再び展開。装甲、スラスターユニット、アーマースカートを纏い浮遊する。
「至急必要なモノは?」
「マルチ・ロックオン・システムによる高性能誘導ミサイル。他にも荷電粒子砲……」
「長い、3秒で纏めなさい」
レーキュからすれば長過ぎたらしい。
「まぁ、全部至急と言う事にしましょうか」
レーキュはそう言うや否や、部屋全体に覆い尽くす形で無数の空間投影ディスプレイと空間投影キーボードを展開する。
「一先ず私は推進システムと出力調整、スラスターユニットの制動関連、シールドバリア出力調整等を纏めてやりましょう。それが終われば次に移ります。最終確認は貴方に委ねます、良いですね?」
「は、はい‼︎」
「機体は一通り完成はしていますがバランスの兼ね合いもありますので一からデータチェックし、必要に応じて換装或いはこの場で造ります。時間が足りないのですぐに試験稼働させ定着させます。……覚悟は宜しいですね?」
つまり終わるまでぶっ続けでやると言う意味であった。最悪、完徹も辞さないと言う宣言でもある。
「……寧ろ、望む所‼︎」
「良い返事です。では……始めましょう」
その日の残りの時間は全て機体製作の作業に費やされる事となった。