——それは突然起こった。
「な、何⁉︎」
突然の振動、そして悲鳴が選手控室にまで聞こえてくる。一体、何が起こったと言うのかまるで分からなかった。
第1回戦を突破したクラス代表は其の儘、次の試合まで控え室で待機する事になっていた。今は準決勝で2組と3組の試合だった、筈。
『緊急事態発生‼︎ 緊急事態発生‼︎ 一般生徒は速やかに避難しろ‼︎』
アリーナ内に響き渡る物々しい雰囲気を隠そうともしない千冬の放送。どうやらトラブルが発生したらしい。
『簪さん、聞こえますか?』
『あ、神楽』
そのタイミングで専用機持ちが使える『秘匿通信』で神楽からの通信が来た。
『どうやら私の不安が的中してしまいましたわ』
そう言えば以前、神楽から神楽の兄がクラス代表対抗トーナメントにて何かしら企んでいると言う警告が寄せられた。如何やらその不安が的中してしまったらしい。
『具体的には、何が?』
『現在、第1アリーナにISを展開した襲撃者……と言うか、以前にストラトス・デザイアの電脳空間フロアで電脳ダイブ中にトラブルが起こったでしょう?そのトラブルを引き起こした張本人であるウィキリピアちゃんが襲撃して来たんです』
——意味が分からない……。
そのウィキリピアと言えば電脳空間フロアで一目見た事がある。特徴的なインナーカラーの小学生もかくやと言う幼女であった。
『意味不明なんだけど……?』
『お兄様が噛んでいる以上、コレは来賓や各国政府も噛んでいる……言わばお膳立てされた襲撃事件ですわ』
「何それ……?」
更に意味が分からない事を言われた。何が如何なればそうなるのだろうか?
更に遠くから爆発音が響き渡って来るのが聞こえた、何処かの建物が爆発したのだろうか?或いは倒壊?
『……お膳立てされた襲撃事件って』
『お兄様の考えそうな事です。ストラトス・デザイアは四十院財閥の傘下の企業ですから……其処の社員を悪役に使ってIS学園の各生徒の行動能力を品評する舞台に捏ち上げたのでしょう。……前回の卒業生でIS企業に就職した方の解雇率は例年よりも高かったそうですから』
『…………』
本当に意味が分からない。国家包みの襲撃お膳立てなんて聞いた事が無い。
『先に言っておきますわ。ご存知の通りストラトス・デザイアの方はIS技術は他の企業を遥かに凌ぐ存在。……死傷者なんてお構い無しの思考回路の方も居られます。くれぐれも注意してください。遭遇したらいの一番に逃げる事をお勧め致しますわ』
——社員全員がISを持っている様な人達だからね。ストラトス・デザイアって。
レーキュのIS操縦と言うか使い方も異次元レベルであった。他の職員もそうだとしたら、現状の簪では勝ち目なんてまず見えないだろう。
『……あ、困りましたわね。よりにもよって観客席にルヴィアさんが現れたみたいです……‼︎』
同時に悲鳴が一際強く激しく、響き渡って来るのが分かる。誰か死んだのだろうか?
『誰なの……?』
『ストラトス・デザイアで専ら汚れ仕事をしている方、だそうですわ。調教係なんて任せたら、軒並み文字通り現実的な意味で一山幾らの肉団子にされてしまいますわ……。コレはウィキリピアさん以外にも襲撃者役が居るみたいですわね』
『……如何するの?』
茶番とは言え襲撃事件。かく言う自分達は専用機持ち、立場上何もしないと言う訳にはいかないだろう。かと言って襲撃者役と言う人物の相手は神楽曰く無謀な相手。勝つ以前に生き延びられるかどうかも怪しいレベルらしい。
『襲撃者役の相手は教員部隊に任せましょう。1分持てば閻魔様に自慢出来るでしょう。……来賓の方々が居られるVIP観戦席へ向かい、護衛と言う形でアリーナやIS学園から脱出しましょう。そうすれば証人も居ますし言い訳出来る事でしょう』
『……うん、分かった』
専用機持ちと言えども今の自分はまだ付け焼き刃程度の状態。その状態で襲撃者役の相手が務まる保証は無い。
「アッハハハッッッ‼︎‼︎ 皆さん、ボクと遊んで下さいッ‼︎」
「い、嫌ァァァァァァァァァァァァ‼︎ がっばぁあ……‼︎」
「な、何アレ⁉︎ あ、ISッ⁉︎ 嘘っ⁉︎ こ、こっちにも⁉︎」
「キャァァァァァァァァァァァァァァ‼︎⁉︎」
所変わって一般観客席。其処ではIS学園の生徒達が詰め掛けていたが、其処に突如として真紅の爪の様な装甲のISを纏った殺戮者、ルヴィアが現れて見境なく生徒達に兇刃を振るっていた。
試合中のアリーナの上空で舞台装置の様なISを纏った幼女が襲撃して来て時間差で現れたのだ。パニックに次ぐパニックとなり、この場は騒然と化している。
「誰か、助けてッ⁉︎ 助け、ごはっあ、あ⁉︎」
「嫌ッ‼︎ 殺されたくないッ‼︎」
「嫌だ。嫌だ……死にたくない、死にたく、あ゛っは……あ……」
如何にIS学園の生徒であれど、ISが無ければただ逃げ惑うしか能力が無い。逃げ惑い足が縺れで転べば後続の者に踏まれて怪我もする事だろう。
「遊んで遊んで‼︎ ISがあるんだから、ボクと遊んで下さいッ‼︎」
殺戮の限りを尽くさん勢いで逃げ惑う生徒達を狩るルヴィア。その返り血で全身が真っ赤に染まっており、外套のマントは大量の血で塗りたくられて赤よりも紅く染まっている。正に赤いマントを羽織った『赤ずきん』。
「如何して‼︎ 如何して開かないのよ⁉︎」
観客席と廊下を繋ぐ扉の前で生徒の1人が叫ぶ、扉は自動ドアであり動力が無ければ開く事は無い。その結果、動力源が絶たれて扉が開かなくなっていた。逃げ場が無い観客席で殺戮者が居る……つまり。
「……ひッ⁉︎」
「さぁ、ボクと遊びましょう?」
ルヴィアは先程、殺した生徒の捻り切られた頭部を持って目が合った生徒に投げ渡す。思わず受け取った生徒の頭部は苦悶の表情が浮かび穴と言う穴から汁が垂れていた。
その瞬間、自身の視界が真っ赤に染まり意識が消された。
「……如何して皆、逃げるんですか? あ、分かりました‼︎ 鬼ごっこですね⁉︎ じゃあ、ボクが鬼ですッ‼︎ 捕まえた人は、殺しちゃいますから、皆、頑張って逃げて下さい‼︎」
逃げ惑う姿を見てルヴィアは『鬼ごっこ』で遊んでくれると思ったのかそんな宣言をしてしまう。いや、もう既に殺戮的な鬼ごっこの様な状況だったが、今迄は鬼ごっこと言う認識すらしていなかった様である。
「い、嫌ッ……だ、誰か⁉︎」
悲鳴が聞こえる。
「……な、何で、こんな事に」
嗚咽が聞こえる。
「わ、私に、ISがあればッ‼︎」
咆哮が聞こえる。
「……私の人生、コレで……?」
絶望が聞こえる。
「楽しい楽しいッ‼︎ 皆さん、楽しいですよね⁉︎ もっともっと遊びましょう⁉︎ 次は何して遊びます? 的当て?それとも、ううん、今は沢山遊びましょう⁉︎」
逃げ疲れ追いつかれた者からルヴィアに捕まりそして殺される。如何しようも無い殺戮の権化を前に如何に傲慢で高慢な女尊男卑主義者はなす術も無く、血の海に沈んで行く。観客席は今や死体と死骸、ぶちまけられた吐瀉物や贓物、そして血の海だけが広がっている。
「さぁ、皆さん‼︎ もっと沢山、遊びましょう‼︎」