「……状況は?」
管制塔にて、千冬は冷静に状況を見ていた。
此処はIS学園、そして今日は学年別クラス代表対抗トーナメントがある日。来賓も数多く訪れるイベント。その日を狙って不測の事態……言うなれば襲撃者が現れる事は予想は出来ていた。
何せ、IS学園には狙われる理由なんて探せば幾らでも出て来るのだ。IS適性の高い人材の拉致、或いはIS其の物の強奪、或いはもっと露骨に世界初の男性操縦者の身柄の拿捕。他にも挙げればキリが無いので割愛される。
「第1アリーナの全てのシステムがダウン。試合中であった両者共に通信は不可。更に観客席とも連絡が付きません」
管制塔で将来管制官を目指す3年生の生徒の1人がそう返答する。その表情は状況は深刻だと物語っている。
公開通信の途中で通信が途切れてしまった。恐らくそのタイミングで全てのシステムがダウンしてしまったのだ。復旧の為に作業は進めているが回復させるには時間が足りない。
「システムにクラックしての奪取ならば、奪還する事が目標になるが、よもや電力其の物を断たれるとはッ‼︎ ……管制塔からはアリーナの大半が見えるが、声が届けられない以上はどうしようも無い……。管制塔のシステムが使えない為に、スマホで他の教員に突入するように指示を出したが、動く気配がない……‼︎ 他にも侵入者が居たと考えるのが妥当か……ッ‼︎」
扉は全てシステム化されている。各ピット、観客席や非常用通路扉に至るまで自動開閉式だった。勿論、管制塔も同様である。
こんな事になるのならばアナログな手動の扉も導入しておくべきだったと内心、苛立つ。そして、この状況は非常に不味いと言える。
——アリーナでは正体不明の機体と凰と衣笠が対峙……と言うか、どう言う状況だ⁉︎ 何故、凰が衣笠に攻撃をしている⁉︎
まず第一にアリーナへ侵入してきた大型の舞台装置の姿をしたIS。そのISを纏う幼女と鈴音と名刀がなし崩しの戦闘に突入してしまった。最初は兎も角、突然オーケストラのような荘厳な音楽が鳴り響いた直後。鈴音がいきなり衣笠へ攻撃し始めた。この光景には千冬も思わず目を疑った。鈴音とはIS学園以前から面識があり、その為人は知っている。
こんな緊急事態とも言える状況で仲間割れを起こすような奴では無い。
だが結果として侵入者+専用機持ちの代表候補生と量産機の一般生徒と言う余りにも分が悪い構図になってしまっている。
更に観客席では別の侵入者が現れ恐れていた事態に陥っている。無差別殺人とも言える凶行が繰り広げられ既に一区画の観客席室が血の海に沈んでいる。その観客席室に割り当てられていたのは1年8組。そのクラスの生徒は全滅している可能性が濃厚……更に別の相手を探してか移動している様子が見えた。彼方も如何にかしなければならないと言うのに、教員部隊からの連絡が途絶えている。
「VIP観客席の来賓達は避難させなければならんと言うのに……‼︎ 犠牲者が出れば、最悪だ……‼︎」
構造としては管制塔のすぐ根元に来賓用のVIP観客席室がある。その為、此処からでは様子を見る事が出来ない。侵入者の目的は不明だが、来賓達にも狙いが定められる恐れがある。
「ええい、誰でも良い。誰か応答に応じてくれ……‼︎」
システムが復旧しない限りは学園内通信網での連絡が取れない。スマホで連絡先を知っている学園関係者に電話を掛けるが、応答が無い。
——幸いと言うのは語弊があるのだが、アリーナ全体のバリアシールドは何故か機能している。ISの攻撃なぞ生身の人間が受け切れるモノでは無い……。
アリーナ内からの流れ弾と言った攻撃は観客席に及ぶ可能性は低いだろう……。だが、観客席には無差別殺人を繰り返す殺人鬼の侵入者がいるので、全く安心は出来ない。
——それに、事態が好転するまでアリーナ内で孤立して戦闘している衣笠が持ち堪え切れるかどうか……‼︎
流石に正体不明の機体に専用機持ちを同時に相手取るには理不尽だと思う程に戦力、練度、性能に大幅に差があるのは誰が見ても明らかだ。人数差故に不利である事を承知して回避を優先しているが、それでも長くは持ちそうに無いのは目に見えている。
何とか教員部隊を突入させねばならない。
「お、織斑先生ッ‼︎」
「どうし、んなッ⁉︎」
オペレーターをしている生徒の1人が叫ぶ。それに釣られて千冬はアリーナを見た。其処では恐れていた事態が発生していた。
アリーナ全体を覆うバリアシールドが
——不味い、コレでは観客席にIS同士の攻撃が届いてしまう‼︎
そして千冬にとって、信じたくない光景が更に視界に飛び込んで来たのだ。
「鈴ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィんッッッッッッッッッッ‼︎」
アリーナ内へと飛び込んでいく白い機影。見間違う筈が無い、それは世界初の男性操縦者である織斑 一夏が搭乗する白式であった。その姿を見て千冬は何故、バリアシールドが消滅したのか理解した。させられた。
——あんの馬鹿者がッ‼︎ 白式の雪片弐型の単一仕様能力である零落白夜でアリーナのバリアシールドを破壊したなッ⁉︎
アリーナを覆うバリアシールドを破壊して戦場へと殴り込みを敢行した一夏。ISを手にして有頂天になり『皆を守る』事を標榜にした彼から見て、何も出来ない自分が嫌になって首を突っ込んだのか……呆れると同時に事態が余計に悪化した事を悟る。
「なんて真似をしてくれたんだ……‼︎」
——今となっては二次被害が出ない事を祈るしか無い……‼︎
頼みの綱となる教員部隊。それはIS学園で突発的非常事態が発生した時、教員達がISに搭乗して事態の収束を図る部隊。今回の事態も当然、教員達が戦闘へ向かう為にISが保管されている保管庫へ向かっていたのだが……。
「……ぁ、が……ごぼ、ぼぉ……‼︎」
「……べ。びぶぅぐ。ほぁ」
「あ゛、なが、ぶぃぷぁ……、……。」
「あ〜あ、女尊男卑、女性権利団体、IS委員会の尖兵であるIS学園の教師達がこんな為体なんてね〜」
IS保管庫に通ずる廊下、其処では喜劇が巻き起こっていた。床、壁の至る所に血飛沫が付着しており、廊下の彼方此方に教員部隊の構成員である教師達が倒れ伏している。その何も夥しい傷に苛まれ、血塗れと言っても過言ではない有様であった。そして、特筆するのであれば……全員がまだ
胸部を大きく切り開かれて外から内臓の肺が見えている者、
身体を切開されて胃が引き摺り出されている者、
腕や足があり得ない方向に折り曲げられている者、
小腸を引き摺り出され肩掛けの如く首の後ろに回されてタオル掛けみたいな構図にされている者、
何も生きている。酷い構図の状態で生かされている。
「とってもとーーってもガッカリだなぁ」
その廊下の中央で倒れている教員に腰を下ろして彼女、サリアは凍えるような笑顔でそう言う。
「ひゅー、ひゅー……あ、はっは、…あ」
「え?何々?何か言いたいの?」
声を掛けた教員は、背中から一息に斬られて大腸の一部を引き摺り出されている、腸自体は繋がっている為にまだ生きている。が、出血が多い上に顔を上げる気力もなく虫の息の様に掠れた呼吸しか出来ない。
「うーん、お話できないんじゃ要らないかな〜」
そう言いトドメを刺さずに放置した。生きる事も出来ず死なせて楽になる事もしてくれない。コレが生き地獄と言うモノか。
「うーん、此処に来たのはつまんないかな〜。私も
サリアは笑みを浮かべて返り血を浴びて真っ赤に染まった自身の腕を舐めて血を舐め取る。
「おば、ッ…はっ、あん、ご、ろく……へひぃ……ッ‼︎」
「うーん、何を言っているのか分からない、かな?」
壁に凭れかかっていた教員がそんな言葉を発した後、サリアは徐に近付き、その口に血だらけになった手を突っ込んだ。
「言葉を喋れない人は〜、屠畜するべきだよね♪ 古事記にもそう書いているし」
そして、指をその教員の舌に添えてなぞり
「ブルロロロロロぁぁぁ‼︎⁉︎」
その直後、言葉にならない悲鳴をあげる。
「あっはは♪ 車のエンジンみたい〜、人間って頑張ればエンジンになれるかも♪ ……あ、死んだ」
その後、痙攣した後に絶命したのか動かなくなった。元々、身体がズタボロに等しいので体力が尽きたのかも知れない。
「……うーん、これ以上此処に居てもつまらないし、別の所に行こーっと」
ピチャピチャと血溜まりの上を歩きながら死に損ないと化している教員達を放置して、この場から立ち去って行った。
偶に自分は本当にR-18の作品を書いているのかと疑わしくなってくる……。