——なんなのよ、貴方は……?
インフラの破壊活動中の不審者(拘束衣を纏っていると言う贔屓目に見ても巫山戯た格好)と交戦中の楯無。楯無が見る限り相手は生身の人間……。
——見る限り、ISを展開している様には見えず……。武装は鈍器、モーニングスターだけ……。
ナノマシン制御で螺旋を渦巻く形で形成された水流のランスとモーニングスターが打ち合う。
——此方はISを展開してパワーアシスト込み、なのに、打ち合いに負けている……‼︎
楯無が見やる相手の持つモーニングスターは少なくとも重量級と受け取れる。元々、モーニングスターを始めとした鈍器は質量で破砕する武器。それを生身で軽々しく振り回している事から相当な腕力だと思われる。
ISにはパワーアシストや反動制御と言った各種アシスト機能が搭載されておりそれ故に銃火器や近接武装を軽々しく扱えるのだ。本来ならば10代女子の腕力では拳銃以外、軽量銃火器以外は持ち上げて支えるのがやっと……。それが大型の武装の類だと相当な体力が要求され、IS用武装は大半が相当な重量がある。
「如何したのかしら? 体調でも悪いの?」
——涼しい顔で言ってくれるわ……‼︎ 生身であんな鈍器を振り回すなんて、私でも遠慮したい。
「不審者に心配される謂れは無いわよ?」
ナノマシン込みで形成された水流のランスと質量の武器との鍔迫り合いと言うには些か奇妙ではあるが、少なくとも払い除けられる様に弾かれている。
——密着しての格闘では危険ね……‼︎ でも、此処は閉所……私の専用機にとっては独壇場。でも、油断は出来ない。彼女はまだ本気じゃない……油断している内に叩く‼︎
接近戦は避けた方が良いと判断した楯無は一旦、距離をとってランスの鋒を向けた。4連装のガトリングガンが内臓されており、実弾の弾丸が一斉に彼女、蔡歌に襲い掛かる。
「…………嘘でしょ……⁉︎」
本来、マシンガンから吐き出される弾丸の奔流を真正面から受けて立っていられる生身の人間は早々居ない。蜂の巣になって絶命するのが席の山だ。銃弾1発、身体の何処かに喰らっただけで運動性能が著しく低下するのだから。
「うーん、学生さんらしい素直な射撃ね。でも、少し……素直過ぎたかしら?」
目の前の光景が信じられずに楯無は愕然とした。目の前の彼女はモーニングスターを高速で振り回して自分に直撃する弾丸だけを打ち払って見せたのだ。モーニングスターと言う重量級の武装で、だ。
——そう言う刀を振るって弾丸を斬ったり打ち払ったりするシーンはアニメや漫画の中の世界だけでやって欲しいわね。現実でやられると軽く引くわ……‼︎
「さて、次は此方から行かせて貰おうかしら?」
「ッ⁉︎」
蔡歌はそう言うや否や瞬きする間も無く、楯無の眼前に立っていた。瞬間移動かと錯覚する程に一瞬で間合いを詰められた。楯無の識る瞬時加速よりも速い、正に刹那。
——速ッ⁉︎
「ホームランッ‼︎」
「ぁ゛ッ‼︎⁉︎」
楯無が反応するよりも遥かに早く、蔡歌の渾身の横殴りのフルスイングが楯無の鳩尾に深く強く抉り込む様に叩き込まれる。バギィと言う不快な音と轟音に等しい衝撃と共にホームランされるが如く砲撃か落雷かと思う程の凄まじい勢いで廊下の先へ先へと吹き飛ばされて行く。
——い、意識がッ……⁉︎
廊下の先、曲がり角の壁をも粉砕しても尚も、勢いは止まらず吹き飛び続けその過程にあった庭園の壁や柵及び街路樹や道路灯、自販機などを巻き込み薙ぎ倒して散乱させながらその先にあるIS学園のランドマークタワーの壁に激突しその一部を破壊して漸く止まった。
「ぐっ、がっば……ッ‼︎ げぼっ……」
タワーの壁面に減り込み凭れる形の楯無は、数秒振りの呼吸と共に勢い良く喀血した。そして眼前に表示される多数のエラーメッセージ。
シールドバリアを力技で粉砕して絶対防御さえも木っ端微塵に砕いた。たった一撃……しかも質量だけの武器がである、火力もエネルギー武装でも何でも無い……原初から存在する概念。今の女尊男卑やIS至上主義から見れば卒倒モノだが、現実だ。
——じょ、冗談も程々に、して欲しいわね。……な、何の変哲も、無い……質量武器で、シールドバリアが破壊、されるなんて……。
「ぐっほぁ……‼︎ こ、これは、まず、い、わね……」
ISにはシールドバリアに加えて最終防衛の為の『絶対防御』があり、更には搭乗者保護機能として生命維持機構も備えている。しかし、それでも楯無は身体に力が入らない。
——肋とか、折れたかも。肋骨も砕かれた……かも、知れない……。肉離れもしてるかも……。
全身に激痛が走っており意識も辛うじて保っているが視界が赤く見えるレッドアウトの症状が出ていた。更に機体自体も楯無の生命を優先する為にエネルギーを絶対防御に回した(その防衛機構も粉微塵にされたが)為に残存エネルギーも心許ない状態。
とても継戦出来る状態では無いのは誰が見ても明白。しかし、コレは何方かがエネルギー切れになった時点で勝敗が決まる試合では無い。
——でも……私が、倒れる訳には……行かない‼︎ ぐぅう……‼︎
朦朧する意識の中で身体を起こそうとする。
「やっほ〜? 生きているかしら?」
「ッ……‼︎」
——どんな動きを、すればこんな短、時間で此処まで……到達出来るのよ……‼︎
起き上がろうと躍起になっている矢先に、軽い足取りで自身を此処まで物理的にぶっ飛ばしてくれな蔡歌がモーニングスターを引き摺りながら現れた。
——予想、以上に危険な存在……。此処で、消さないと……学園が、危ない……‼︎ でも、この状態だと、もうアレをするしか無い。時間を、稼がないと……。
「……学園最強を、舐めて貰っちゃ、困る……え゛ほぉ゛……‼︎」
楯無は重体の身体をISのアシスト機能を使ってでも無理やり起こす。その過程で身体中が悲鳴を上げており、口から血が溢れる。やはりISのアシスト込みでも立っているのがやっとだ。
「強がりしちゃって〜、疲れたのなら寝た方が良いわよ〜?」
「……でも、まだ寝れないのよ。残念ながらね」
楯無は霞む視界で、霧が立ち込めている事を確認する。相手は近接武器だけ……余程の事が無ければ相手は近付いてきてトドメを刺しに来る筈……‼︎
——……この一撃に全てを賭ける……‼︎ ISのシールドバリア込みでも甚大なダメージを与える……。生身の人間なら、致命傷……‼︎
IS同士の戦いで使うのが普通で、生身の人間相手に使うべきでは無いが、そんな悠長な事は言ってはいられない。
「そう……じゃあ、お姉さんが寝んねしてあげるわね」
蔡歌がゆっくりと近付いて来ているのが分かる。此処までは予想通り……。
——まだよ、もう少し引きつけないと……霧の中心にまで……‼︎ その為にももう少し時間を稼がないと。
「ねぇ、この場所……少し
「……そうかしら?私としては少し
——え?
その言葉に楯無は驚く、寒い?この時期に?激痛故に痛覚が塗り潰されて分からない。視界は自分が仕掛けている霧……でも、とても、とても嫌な予感がする。だが、臆してはいられない。
「湿度が高い、つまり水気が多いと……。何かと便利じゃないかしら?」
——あと、もう少し……。今ッ‼︎
蔡歌が楯無が理想とする地点に到達する事を見計らって、秘策を発動しようとしたその刹那、
「貴方は、この瞬間に遍く
蔡歌のその言葉の直後、楯無の『時間』が停止した。