——流石にコレは状況上、厳しいかも。
形勢が圧倒的不利な状況。侵入者である幼女本人に加えて事実上、洗脳された様な状態で攻撃してくる代表候補生。
「ほらほら、鰯みたいに変な動きしてんじゃ無いわよ、ホラッ‼︎」
衝撃砲から放たれる不可視の砲弾。確かに視認出来ない攻撃は非常に厄介だ。何せ気付いた時には被弾している。だが、名刀はこの短時間で鈴音の衝撃砲を打つ時の癖を見抜いた。
衝撃砲を打つ時は必ず視線を此方に向けていると言う事。距離を取れば着弾までのタイムラグが僅かなりとも生まれる為に何とか躱せている。
その為、今は回避を優先した防戦状態となっている。いや、優先せざるを得ない状況だった。
——パワーアシストもハイパーセンサーも機能低下している……‼︎ 機体自体の反応速度が遅くなってる……躱すのが精一杯……‼︎
打鉄に搭載されているIS用の近接ブレードはパワーアシストが無ければ女子高生の腕力では持ち上げるのが精一杯だ。振り回すなんて以ての外。更にはハイパーセンサーの感度も低下していると言うエラーコードもシステムから吐かれていた。
少なくとも中国の代表候補生の機体の能力では無い筈、いいやそもそも聞いた事が無い。
——となれば十中八九、あの舞台装置のISが何かしていると考えるのが自然、いや、それ以外に考えられない。
件の幼女の搭乗者は舞台装置の様なISの中央で指揮棒を振るい続け公演を続行しており、アリーナ全体にオーケストラの様な音楽が鳴り響いている。
「あー、もう良いわ。蝿みたいに逃げ回るだけならとっとと、擦り潰して終わりにした方が良さそうね‼︎」
衝撃砲で攻めて来た鈴音。だが、逃げ回るだけで攻撃してこない名刀に痺れを切らしたのか、双天牙月を構え直し瞬時加速で間合いを詰めて来た。
——瞬時加速‼︎ 此の儘、接近戦に持ち込まれたら……‼︎
本来の機体同士の性能差もあるが、今の自分が搭乗する打鉄は機体自体、何らかの不具合が出ている状態。この状態で打ち合っては勝ち目は無い。
そして、鈴音は間違いなく『殺す』つもりで来ている。
『死』
その単語が脳裏を過ぎる。
元々は一般家庭の出で偶々、IS適性比較的高かっただけの一般生徒。……明確な『殺意』と言う概念とは隣人では無かった。
パワーアシストも機能が低下している、武装を持って支えるのが限界、受け止められない。
機動力も低下、彼女の接近戦での猛攻を前に躱し切れる自身が無い。
「鈴ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィんッッッッッッッッッッ‼︎」
その時、咆哮の様な声を上げて此方に飛来する機影が名刀の視界に入った。それは、1回戦で対峙した1組のクラス代表である織斑 一夏が自身の専用機である白式を纏いこの場所に殴り込んで来たのだ。
「おい、鈴‼︎ どうしちまったんだよ⁉︎ 何で、IS学園の味方を攻撃するんだ‼︎」
——確か、アリーナにはバリアシールドが展開されていた筈……。と言う事はこの人、零落白夜で破壊して突っ込んで来たって事⁉︎ あ、いやでも……2対1の状況だったから、援軍って形なら助かるけど……。
名刀は困惑しつつも加勢が来たことに関しては感謝はした。流石にあのままだと落とされるのは目に見えて分かっていたからだ。
一夏は様子が可笑しい鈴音に対して何故、IS学園の敵に加勢しているのか咎めて叫んでいる。
「はぁ? 童貞の癖に勃起しても極短小のアンタが何言ってのよ? そんなんじゃ、私のアナルを突いても処女膜にすら達ないでしょうね〜。それなら、ディルドを突っ込んだ方が早いでしょ。男として、結構情けないわね〜?」
「お、お、お前⁉︎ 何言ってんだよ⁉︎」
又しても鈴音は訳の分からない返しを飛ばして来た。……が、結構、卑猥な内容だ。
——……適当かも知れないけど、案外当たってそう。
思えば1組のクラス代表を決める時にも神楽からトンデモない言葉をぶつけられていたんだった。その直後、一夏に向けて衝撃砲を放つ鈴音。卑猥な内容をぶつけられて動揺したのか見事に直撃して、観客席の方へと吹き飛んで観客席室の一部を巻き込んで破壊した。
「……さぁてと、情けないバカが割り込んで来たけど、そろそろアンタも終わり。安心しなさい、殺しはしないわ。
アンタを落として気絶させた後、全身を縛り上げて、公衆便所に晒し首にして公衆肉便器として転生させてやるわ。アンタは顔が良いから口の中もアナルも膣内もたっぷり犯して貰えるでしょうね。どう? IS操縦者なんかよりも魅力的な人生でしょう?」
——ヤバい。負けたら私、死ぬよりも酷い状態にされそう‼︎ 然も肉便器なんて……絶対になりたくない。
段々、鈴音の口調が明らかにヤバい方向に向いている。ますます、負けられない状況となってしまった。
「ウォォォぉぉぉぉおぉおおぉぉぉ‼︎‼︎」
その時、観客席室に吹き飛ばされていた一夏が咆哮を上げ零落白夜を構えながらこの場に復帰して突っ込んで来る。そんな単調な動きに対して鈴音は軽い動作で躱してカウンターの一撃を喰らわせて一旦、離脱した。
「……クソッ‼︎ 鈴音、一体どうしちまったんだよ⁉︎」
何故、この状況で鈴音と戦わなければならないのか一夏も困惑しているのだろう。
「織斑さん‼︎ 凰さんは洗脳とかされているかも知れません‼︎」
「え?何だって?」
「……状況故に簡単に説明します。あの後方上空の舞台装置の様なISを纏った小さな女の子の侵入者。彼女が指揮棒を持って演奏を始めた途端に、凰さんの様子が可笑しくなって突然、私に攻撃して来たんです‼︎」
名刀は手短に状況を説明する。事の始まりは試合中に突然、あの幼女が不法侵入して来た事だ。
「アイツが……鈴に何かしたのか⁉︎」
「推測でしかありませんが……状況的にそれ以外、考えられません……」
一夏は理解した。更に上空で指揮棒を振るいオーケストラの様な音楽を流して演奏し続けている幼女。彼女が鈴に対して何かしらの事をしたと。ならば、彼女を止めなければならない。
——零落白夜ならば或いは……。
彼女と対峙した名刀が少ない情報で考察するにあの幼女の纏うISのシールドバリアは強固に思えるが零落白夜ならば通用する……。あのISさえ止めれば、鈴音が正気に戻る筈である。
「アイツか……子供だからって、許せねぇ……‼︎ 鈴、待ってろ‼︎ すぐに正気に戻してやるからなッ‼︎」
一夏は咆哮と共に零落白夜を起動して、隣に浮遊する
それは完全なる不意打ちに近い上に、機体の不具合が重なり完全に対応が遅れて反応が間に合わなかった。
「えっ……?」
——う、そ…………⁉︎
零落白夜はあらゆるエネルギーを中和させ無効化する。試合中、そして唐突な侵入者により鈴音の攻撃に晒されていた。その為、名刀が搭乗する打鉄の残存シールドエネルギーは半分を切っていた。其処へ一撃必殺の零落白夜が叩き込まれた。
「鈴が可笑しくなったのも、アリーナが滅茶苦茶になったのもテメェが原因かッ‼︎ お前を倒して、皆を守る‼︎」
一夏が完全に可笑しい事を言っている。彼は名刀がこの状況を作った元凶だと考えているらしい。つまり、彼もこの短期間で洗脳された様な状態に陥ったのだ。
全身に襲い掛かる落下する感覚。エネルギーが全損され、機動力を完全に失った打鉄は重力に従って落下して行き、地面に激突した。その衝撃で装甲等が砕け散りパーツ類がバラバラに飛散した打鉄から放り出された名刀はアリーナの地面へと投げ出され、地面に勢い良く転がって行く。
「……ぐっ、うう……ッ‼︎」
——ぜ、絶対防御様様……かな。最終防衛ラインとしね最低レベルの絶対防御用のエネルギーは別途確保されている仕様に助けられた……。でも……。
専用機持ちが2人。洗脳された。
その事実に名刀は絶望する。頼みの綱である打鉄は大破状態。
ISを相手に生身で敵う筈が無い。ISにはISでしか勝てない。それが常識なのだ。
「ISが無ければどんな女も唯の雌豚……キャンキャン喚くしか能力しか残らないって、滑稽よね〜? やーっぱ、IS適性と言うよりも肉便器適性に名称を変えた方が良いんじゃない?」
「俺が皆を守る。俺が皆を守る。俺が皆を守る。俺が皆を守る。俺が皆を守る。俺が皆を守る……」
頭上で鈴音と一夏が名刀を見下ろしている。鈴音も訳の分からない事を宣い、一夏に至っては同じ事を譫言の様に呟いている。……だが、状況は本当の意味で最悪だった。ISの機動力を前に生身では逃げきれない。
万事休すかと、諦めかけたその時。
「衣笠さんッ‼︎ 目と耳を思いっきり閉じて‼︎」
その言葉が聞こえた直後、眩い閃光と大音量の甲高い音がアリーナに轟いた。