午前10時前。IS学園の生徒達を乗せたフェリー群は臨島学校の目的地である五稜遊獄島の埠頭へと到着した。
「「「着いたァァァァァァァァァァァ‼︎‼︎」」」
フェリーから降り立った生徒達が島の風景を外観を眺めている。簡素な構造の埠頭から見えるのは汚れなき澄んだ青の海に真っ白できめ細かな砂粒の砂浜が広がる海岸線。島内の奥の方では起伏に富んだ大自然が広がっているのが見える。日本よりも平均気温が高いのか、此方は少し暑く感じるが、夏の海と言う事で生徒達のテンションは限界突破目前であった。
「綺麗な海岸線‼︎ 旅館とかは何処に建っているのかな⁉︎」
「早く荷物を置いて海で遊びたい‼︎」
「南の島‼︎ 青い空‼︎ 白い砂浜‼︎ 透き通る程の透明な海‼︎」
キャリーケースを引いて降りて来た生徒達は、綺麗な海岸線を見て今か今かと待ち遠しく感じている。確かにIS学園の臨島学校なので学園で出来ない訓練をするって言うのは分かっているが、流石に初日くらいは遊びたい気持ちで一杯一杯であった。
「……うわぁ、暑っ。半袖の方が良かったんちゃうか?」
「いや、やめておけ。素肌を晒して鬱蒼な森林地帯を踏破する場合は推奨しない。擦り傷だらけじゃ済まんかも知れんぞ。ジャングルに入る際も長袖が推奨されるからな」
「……見た感じ、舗装された道は無いかも知れない。あるとすれば獣道かも知れないね」
「此処だけ整備されてて後は無人島って感じがするわ。プライベートビーチとは聞こえは良さそうだけど……」
3組の生徒達は降りて早々に『遊ぶ事』に関しては懐疑的な印象を抱いていた。コレが近くに旅館や道路等の設備があればそれも考えられたが、見える範囲には人の手が加わっている箇所が見受けられないからだ。
「「「…………」」」
可能性を考えて構えておく事にした。拍子抜けならばそれで構わない、と。
「はーい‼︎ 皆さん、遊びたい気持ちは分かりますが整列してくださーい‼︎」
全てのフェリーが埠頭に接岸し、生徒全員が島へと降り立った後、進行役の真耶がメガホンを持って生徒達に整列を呼び掛ける。
その後、人数確認を行い、欠員(フェリーから落ちて海に流されたマヌケ)が無い事を確認した。
「はい。此処が臨島学校の舞台となる島です」
真耶の言葉に食い気味で耳を傾ける大半の生徒達。今直ぐにでも海で遊びたい気持ちで一杯なのだろう。だが、真耶はその期待を覆す言葉を投げ付ける。
「では、早速ですがコレから皆さんには各自、
「「「え?」」」
その言葉に思わず複数人の生徒が聞き返した。一部の者は困惑気味の顔でもある。
「遊獄館はこの島のほぼ中央に位置しています。進むルートの指定はありませんので、どう向かうか各自、お任せします。
他の方と協力して進んでも構いませんし、個人で踏破するのも自由です。此処までで何か質問はありませんか?」
初日は遊べると考えていた生徒達の困惑を尻目に真耶は説明を進めて行く。その言葉に有無は言わせない凄みがあった。
「や、やまぴー⁉︎ それに何の意味があるんですか⁉︎」
1組の生徒がこの行為の意図の説明を求めた。大半の生徒達がそれが気になる事だろう。
「何を惚けた事を言っているんですか? 私達は遊びに来た訳ではありません、コレは訓練の一環です。……本当はフェリーの上から皆さんを突き落として着衣水泳で上陸して貰う予定だったのですが、この近海にはヨゴレが生息しているとの事でその件は却下となりました」
訓練の一環だと切り捨てられた。然も、本来ならばフェリーの上から叩き落とし泳いで島に上陸させるつもりだったらしい。
「キャリーケースあるんですけど……」
「担ぐなり何なりして運んで下さい。この島で舗装されているのはこの埠頭と『遊獄館』周辺だけです。それ以外は畦道等しかありません」
キャリーケースは相応に重い。それを引っ張って位置が曖昧な目的地を目指せと言い切られた。
「あ、あの……お昼ご飯は……?」
「各自、道中で摂って下さい。保存食と言った軽食等を持ち込んではならないとはしおりには記載していません。無いなら現地で調達して下さい」
バッサリ言い切る真耶。持ち合わせて居ない場合は現地調達しろとまで言い切った。何処かの潜入工作員みたいなサバイバルをしろと言う事か。
「山田先生。ISの使用は?」
「ISを展開して空から向かうのも自由です。
専用機持ちならばISを展開して空から向かう事が出来るだろうが、真耶は意味深な言葉で返答した。そう言われるとナニカあると勘繰ってしまうのが人の性と言うモノだろう。
「制限時間は午後7時まで。つまり約9時間。その時刻を迎える前に『遊獄館』へ到達して下さい」
然も制限時間付きと言うオマケまで付いていた。9時間とは長いように見えるが道のりが分からないので悠長には出来そうに無いだろう。
「尚、時間までに到達出来なかった人は此方で回収した後で『遊獄館』前で
「「「そんなッ⁉︎」」」
無慈悲な言葉に生徒達は悲鳴を上げた。完全に浮かれ気分だったが、この現実を突き付けられて受け入れられないのかも知れない。
「野宿者にはテント等をその時に支給しますので其処は安心してください。さて、他にも質問はありませんか?」
「ほ、本気で言っているんですか?」
「ええ、本気ですよ? IS操縦者を目指すのならばこの程度の訓練を踏破して貰わないと……。ISは兵器と言う側面があるのも事実。その為には……基礎体力と言うモノが求められます。それは男性でも女性でも変わりません」
「「「……………」」」
「他に質問は無いようですね。では、解散‼︎ 『遊獄館』で待っていますので、皆さん無事に到着するのを祈っていますね」
その言葉と同時に接岸されていたフェリーが次々と埠頭から出港して行く。その光景を見た多数の生徒達は退路が絶たれた事に恐怖が浮かんでいた。
こうして理不尽にも臨島学校初日の訓練が唐突に始まるのであった。
「いやぁ、予想はしとったけどいざ言われると中々、エグいな……」
埠頭で解散の指示が出された後、生徒達は各々の手段でこの島のほぼ中央にあると言う宿泊施設がある『遊獄館』を目指す事になった。
他のクラスは未だに右往左往の状態だったが、3組の面々はある程度予想が出来ていた為に衝撃は少なく、早々にクラス単位で行動する事を決めていた。
「感想はその辺にしよう。コンパス出してっと、うーん。島の中央って言っていたし、外から見た感じだとこの海岸線はほぼ南に位置している」
名刀が泡の上にコンパスを置き、方角の確認をする。針の方角から現在地は南にあり、目的地はほぼ北へ向かえば辿り着けると思われる。
「でもさぁ、此処から北へ向かうとなると、この斜面は急じゃない? 乗り越えるにしてもキッツイかもよ?」
沙莉が此処から北の方に聳える急斜面を見てそうボヤく。急斜面の傾斜が続いており此処から北へ直行は流石にキツいだろう。
「……となれば西か東から回り込んで起伏が緩やかな場所から内陸部へ向かう事になるな」
黎華が代替案として合理的な案を提示する。
「西か東かは代表が決めちゃって」
「うん、良し……この海岸線を沿って西側から行ってみよう」
少し考え名刀は海岸線を歩いて西側から目指すと答えを出した。
「よっしゃ、決まりやな」
「じゃあ、皆。行こう‼︎」
「「「おーっ‼︎」」」
9時間とは言え大荷物を担いでいる以上、悠長にはして居られない。早めに行動を起こすのが吉だろう。
「どーすんの⁉︎ キャリーケースを持って、舗装もされていない場所を進むなんて無茶よ⁉︎」
「初日で汗だくにならなきゃ行けないなんて……‼︎ こんな時にISがあれば……‼︎」
「と、とにかく早く宿泊施設に行かなきゃ……‼︎ 夕飯も現地調達だなんて絶対ムリ‼︎」
大半の生徒達がキャリーケースを持ち込んでいる為、舗装もされていない場所を通過するだけでも難儀な事だろう。道も分からないのでかなり大変な事になるのは明白だ。
「簪さん、私達と一緒に行きましょう」
「へっへっへ〜、かんちゃーん。一緒に行こ〜」
「あ、神楽に本音。えーと、其方の人は?」
「あ、初めまして1組の夜竹 さゆかです。地味で普通です」
そう言う紹介の人は普通じゃないと思う。
「山田先生は『他のクラスの人と協力してはならない』とは言ってはいませんからね」
「……あの様子だと他の皆は阿鼻叫喚っぽいけど」
簪は未だに嘆きの声を上げている生徒達を見てそう呟く。まぁ、始まったモノは仕方ないのだが。
「私達で目的地へ向かいましょう。……ただ、ISを使って向かうと言うのは危険かも知れませんね。山田先生の意味深な言葉が少し引っ掛かりますし」
「うん……あんな言い方をされると流石に警戒する」
「一先ず、島の内部へ向かうルートを探しましょう。島の中央にある以上、内陸部へ入らなければなりませんから」
簪、神楽、本音、さゆかの4人で『遊獄館』へ目指す事となった。その他の生徒達も文句で毒吐きながらも立ち止まっては居られない事を自覚し始めた為に、重いキャリーケースを引き摺り内陸部へと目指して動き始めた。