唐突に始まった課外訓練。内容は午後7時迄に宿泊施設である『遊獄館』に辿り着く事。出来なければ野宿になってしまう。大荷物を持っての移動の為、時間的に猶予は余り無いと言える。
「ああー、もう‼︎ 雑草が多いじゃない……‼︎ 擦れて痒いったらありゃしないわ……‼︎」
「どうしてこう、草木の茂みが多いんですの⁉︎ 歩き難いったらありゃしませんわ。ああっ‼︎ キャリーケースの車輪が枝に絡まってしまって……、い、一夏さん‼︎ 手伝って下さいまし‼︎」
あーだこーだ文句を文句を言うのは鈴音とセシリアの2人。セシリアは先のクラス代表対抗トーナメントで重傷を負ったが、動ける程に快復した。
「この辺り茂みが深いから足元付近が分かり難いね。泥濘が隠れているかも知れないから、ちょっと厄介かも知れないね」
一夏を中心とし、箒、シャルル、セシリア、鈴音の5人のグループで島の中心部へ目指していた。現在、膝ほどの高さがある雑草が生い茂る区域に差し掛かっていた。キャリーケースを引いて進む場所としてはかなりの悪路と言える。
専用機持ち故に空から向かうと言う手段があったのだが、真耶の意味深な言葉故に『絶対にナニカ起こる』と言う警戒故に陸路で向かう事になった。
「あー、分かった分かった。うわ、この辺、地面を這う蔓で一杯だな……外しても何かの拍子でまた葉っぱとかを巻き込んでしまうぞ」
「迂回するか? 流石に蔓ばかりの場所を強行するのは愚策と思うが……」
「迂回って何処に向かう気⁉︎ 方角は⁉︎」
「……まさか、臨島学校でコンパスが必要になるとは思ってはいませんでしたわ……」
見渡す限り人の手が加えられていない自然の風景。目標なんてモノは何一つ、無い。取り敢えず出発地点から真っ直ぐ向かったつもりなのだが……。
「まぁ、仮に辿り着けなくても山田先生辺りが迎えに来てくれるみたいだからさ……」
開始前に真耶は『到達出来なかった人は此方で回収します』と明言していた。つまり、迷って遭難しても教師陣は見つける事が出来る手段があるとの事だ。
「「絶対に嫌ッ‼︎」」
一夏の楽観的な意見にセシリアと鈴音は同時に拒絶した。
「こんな場所で野宿だなんて……絶対にお断りですわッ‼︎」
「そうよ‼︎ 絶対に虫とか湧いてくるでしょ⁉︎」
セシリアは仮にも貴族階級の人間。鈴音も個人的にそう言う展開は勘弁願いたいのだろう。
「箒もそう思うわよね⁉︎」
「私かッ⁉︎ ま、まぁ、回避出来るのであれば回避はしたいな……。だが、此の儘強行しても直ぐにキャリーケースの車輪が絡まるぞ」
「ならば……‼︎」
「担いで一気に踏破してやろうじゃない……‼︎」
迂回すれば方角を見失う。かと言って此の儘、進もうとも車輪が引っ掛かってしまう。ならば、キャリーケースを担いで無理矢理突破すると言う見事な脳筋作戦に打って出た。
「はぁ、こうなるのか。……仕方ない、それ以外に手が思いつかんのも事実だな」
「そ、そうだな……‼︎」
結局、一夏達は其々キャリーケースを持ち上げて雑草が生い茂る地帯を無理矢理踏破する。何が何でも到達してやると言う意気込みの鈴音とセシリアはどんどん先へと行ってしまう。置き去りにされまいとシャルルや一夏、箒も後を追う。
「あ、一夏‼︎ 川があるわよ‼︎」
「え、マジか⁉︎ あ、でも然程深くは無さそうだな」
暫く真っ直ぐ進むと川が流れている場所に出た。周囲には石が散乱しており川自体の幅は広くは無い。
「皆、そろそろお昼だし、一旦休憩しない?」
シャルルが腕時計を見て時刻が12時頃を差している為、休憩しようと提案する。開始してから2時間、重量物を持って歩き通しだった。その為、疲労もそれなりに溜まっている。
「そ、そうね……少し、休憩しましょうか」
「ええ……流石に疲れましたわ」
流石に鈴音とセシリアも疲労が溜まっていたのか、その提案を受けて休憩する事を選んだ。比較的平坦な場所でキャリーケースを横に倒して皆、座る。
「所で、皆は軽食等は持ち込んでいるのか? 菓子類とか」
「「「…………」」」
その言葉に返す者は居なかった。こうなる事はまるで予想出来なかったので、軽食等の持ち合わせは無かった。
「……だ、だよな」
「然も、山田先生は無ければ現地で調達しろと言っていましたしね。……人が口にして大丈夫なモノが自生しているのでしょうか?」
「いや、仮に木の実とか見つかっても種類が分からないから、食べれるか分かったもんじゃ無いわよ?」
となればサバイバルよろしく現地調達となる。しかし、代表候補生と言えども其処まで博識では無い。見つけた植物を口にして大丈夫かどうかの判断が出来るかと問われると即答は出来ない。
「……川があるのは良いが」
「川の水は濾過しないと危険だと思う。こんな所でお腹を壊すと後が大変だよ」
「なんと言うか現代社会に慣れてていざ、こう言う場面に出会すと大変だな……」
川の水は直ぐには使えない。川底の泥が混ざっていたり動物が利用している場合もあり、真水に変えないととても口にして良いモノでは無い。
「……私は水分補給の為のペットボトルはあるにはあるが、流石に人数分は無い」
「回し飲みって訳には行かないわよね……」
「それに今は川の近くなので涼しいのですが……離れれば蒸し暑くなりますわ」
鬱蒼な場所を通過する時は蒸し暑さにやられかねない。水分補給のタイミングや定期的に汗を拭わないと疲労が倍増しそうである。
夏と言えば海だが……山や森となると暑さが大敵となる。
「なぁ、川を遡って行くか? 少なくとも暑さは凌げると思うぞ」
「それが本当に目的地にまで繋がっているか分からないんですけど?」
方角が分からない為、川を遡ったとしても目的地近くに向かう事が出来る保証は無い。場合によっては遠回りになるかも知れない。
「……あれ?」
「ん?シャルル、どうした?」
「誰か居る……‼︎」
その時、シャルルは川の上流……少し段差が高い場所へ視線を向けていた。それに釣られて一夏達もその方角へ視線を向ける。
「えーと、たしかー、あっちー……!」
川の辺、その場所に1人の女性が遠くを見る様な仕草をしながら立っていた。
長い金髪を靡かせており大人顔負けのボディスタイルを包んでいるのは拘束衣か囚人服を彷彿される服装であり上着の隙間から黒い革ベルトが胴体や胸元を縛る様に巻き付いており、手首にも革ベルトが巻かれているのが見えた。
その人物はある一点を見つめた後、子供のような仕草で垂れた革ベルトをはためかせ、すっ飛んで行くように一直線に駆け出し、一夏達の視界から消えてしまった。
「何、アレ?」
「そんな事、私が聞きたいぞ。鈴」
少なくもIS学園の制服では無い。つまり、この島に住んでいる人、なのだろうか?
「……取り敢えず、追い掛けてみるか? もしかしたら、『遊獄館』って所を知っているかも知れないぜ?」
「……闇雲に進むより、情報が得られるのならば良いかも知れませんわね」
彼女の服装が気になったがそれよりも情報が欲しい。話すだけならタダである。一夏達は急いでその女性の後を追うべく移動を再開した。